(77 / 274) 原作沿い (77)

水城達は大雪山を抜け、再び山を進んでいた。
途中昼時になり、休憩がてら罠を張り獲物がかかるのを待つ。
大量のオオウバユリの中を進むとアシリパが何かに気づき水城を呼ぶ。


「!、水城…ちょっとこれ見てみろ」

「え?なになに〜??今度はなんのウンコ見つけたの〜〜??」


道中水城を呼ぶのは大体ウンチが多いので今回もそうなんだろうと思い母親のように『はいはい』と言いながらアシリパに歩み寄る。
だが、水城はアシリパのそばにあるそれを見て微かに目を丸くした。
そこにあったのはエゾシカの死体だった。


「このエゾシカ…ヒグマにやられたのかしら…」

「いや、ヒグマの傷じゃない……人の足跡がある…メッタ刺しに殺してそのまんまにしたんだ…」


その鹿は若いオスらしく、見る限り死んで何時間か経っているらしい。
周りにはその肉を狙ってカラスが何羽も周りを飛んでいたり、こちらを真っ黒な目で見つめていた。


「猟師かな?」

「猟師なら獲物の毛皮をズタズタにして夏なのに肉の処理もせず何時間も離れない」


確かに、と水城は納得するように頷く。
猟師なら獲物を放置する行動はしないだろう。
なら、この鹿を殺した人間は殺すだけ殺して去っていったのだろう。


「この肉どうする?白石達に持って帰る?」


水城もそうだが、待っている白石と尾形もお腹を空いているだろうと肉を持って帰るか聞く。
だが、水城の言葉にアシリパは首を振った。


「いや…なんか嫌な感じがする……お祈りだけして立ち去ろう」


このシカの死体はどこか不気味さをアシリパは感じていた。
食べるでもなく、売るでもなく、ただ殺すだけ殺して放置するこのシカを殺した人間にアシリパはあまり好意を感じない。
殺したのなら責任を取って処理をし、殺した獲物に感謝すべきだ。


(快楽を得るために殺したのだろうか…なら、あまりこの辺にはいたくないな…)


水城もその辺は賛成なのか、アシリパの言葉に頷き殺されたシカに対して祈る。
殺すことで快楽を得る人間は案外多くいる。
戦争の時、楽しそうに人間を殺す同僚を見たことがあった。
その人間は普段は普通の男なのだが、戦場に立てば獲物を狩る猟師のように露西亜兵を殺していった。
自分も大概だが、水城はそういう人間にはあまり近づかないように気を付けていた。
対象が動物でも人間でも同じだ。
何時間も経っている死体とはいえ、殺した人間が近くにいないとは断言できない。
食事がすんだら早くこの場から立ち去ろうと、アシリパの小さな背中を見つめながら水城はそう思う。



◇◇◇◇◇◇◇



一方、待ちぼうけをくらっている白石と尾形は…


「…………」

「…………」


まっっったく会話もなく、その静けさでは鳥の声しかしなかった。
白石と尾形は水城とアシリパを待つ間なぜかちょっと距離を置いて並んで体育座りしていた。


「お腹すいたね」


ぐーっとお腹を鳴らす白石が気まずい空気の中気遣いでそう尾形に話しかけるも尾形は微動だにせず口を閉ざしていた。
『ええぇ…黙るんだ…』とこちらを見向きもしない尾形への気遣いが粉々に砕かれた白石は内心『早く二人帰ってこないかなぁ…気まずいなぁ…空気も薄くなってる気がするなぁ』と心の底から水城とアシリパの帰還を願う。


「白石ー!尾形ー!」

「あ!!良かった…!!帰ってきた…!」


その言葉は心からの言葉だった。
ホッと安堵した笑みを浮かべ白石はこの気まずい世界からおさらばだい!と水城とアシリパに駆け寄る。
そんな白石を見送りながら尾形は静かに立ち上がり、後に続く。


「お!鶴を獲ってきたんだ」


水城の腕の中にある一羽の鶴に白石は顔を明るくさせる。
しかしそれに対してアシリパは珍しく反応が薄かった。
そんなアシリパに気づかず一行は鶴を調理し鍋にした。


「鶴って江戸時代は関東の方にも飛んできたらしいな…将軍様もこうやって鶴の汁を食べたって…」

「だいぶ減ったみたいでもう関東じゃ見ないけどね」


将軍も食べたのなら、美味しいのだろうと白石はお腹を鳴らしながら期待をした。
出来上がった鍋からは美味しそうな匂いが漂ってきてはいたのだが…


「うーん…」


水城は一口鶴の肉を食べ、唸る。
そんな水城にアシリパは『な?』と声をかける。


「肉が硬いし魚臭くて美味しくないだろ?」

「んもー!なんで丹頂鶴なんか獲ったんだ!!」


美味しくない肉に白石はプンプンと怒る。
怒る白石に水城はムッと尾形を指さす。
美味しくないと怒る白石に対して、尾形は黙って食べていた。


「そんな事言ったって罠に掛かってたし白石達がお腹減ってるだろうからって獲ってきたのよ!ほら!尾形を見てよ!!文句ひとつ言わず食べてくれるじゃない!!」


そう言う水城につられて白石とアシリパは尾形を見る。
確かに尾形は先ほどから何も言わず黙々と箸を口に運んでいた。
一見無表情無反応で食べるので美味しくないのかと思うが、元々彼は輪に入らず黙々食べるタイプの人間らしいので美味しいのか不味いのか分からない。
二人の目線に気づいた尾形はおかわりをしながら二人の疑問を込められた目線に答える。


「戦地では肉は贅沢品だからな」


ポツリと呟かれたその言葉に白石とアシリパは尾形から水城へ目線をやる。
水城は『ン"ン"』と何とも言えない表情を浮かべ、天を仰ぐように顔を上げた。
確かに考えれば肉は贅沢品だった。
それが例え魚臭くて美味しくない肉でもまだ肉が食べれるだけマシだと思えば何でもいけるだろう。
むしろ暖かい食べ物が食べられるだけで贅沢でもある。
水城も戦争を経験しており、戦場での食事がどれだけ酷いのか経験済みだった。
水城は全員から鶴を全否定され完敗した。


「鶴は…普段は獲らないけどたまにはいいかもしれないな…」

「そ、そうだな!たまに鶴もいいな!!杉元!!全然美味しいよ!」

「……全然心こもってない慰めありがとうね」


美味しいと言っておいて全く肉を食べようとしない白石とそっと目をそらすアシリパのフォローに水城は涙が出そうだった。

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