(85 / 274) 原作沿い (85)

ホウホウとフクロウが鳴くなか、水城は目を覚ます。
横を向いて眠っていたらしく、体を仰向けにしようとしたが、それを壁のような何かに阻まれた。
振り向けば男の胸元が視界に入る。
顔を上げれば尾形がいた。
尾形の腕を腕枕にして彼に後ろから抱き着かれるように水城は寝ていた。
尾形の寝顔を見つめながら水城は思い出す。


(ああ、そういえば今回も抱き込まれたんだっけ…)


『外ではしない』宣言はまだ続いているようで、今回も連れ込まれて尾形に抱かれた。
尾形は周りにどう思われようがどうでもいいのか、水城は男だと思われているのに堂々と水城を連れて別のチセに移り水城と一夜を共にした。
このコタンでは日本語が通じるものが多く、何か言いくるめて村長に人の住んでいないチセを借りることができたらしい。
その言いくるめた部分を聞くと『聞きたいのか?』とニタリと悪い笑みを向けられたのでやめた。
この時ばかりは聞かなくてもいいものは聞かない主義になった。


(……結局抵抗しても無駄だった…)


水城は眠る尾形が起きないように溜息をつく。
アシリパにもう触れさせないと断言し、抱こうとする尾形に抵抗した。
しかし結局尾形に抵抗ごと喰われた。
尾形は知っているのだろう。
懐に入れた人間に対して水城は本気で抵抗しないことを。
谷垣やアシリパのように全てを預けるような信頼はないが、疑いながらも谷垣を預けて離れる程度の信頼はある。
それを尾形は気づき、付け込んでいるのだ。


(この関係…いつまで続くんだろう…)


森の中を進んでいるため、屋根がある場所で眠ることは少ない。
身体の関係が始まってまだ二回ほどしか身体を重ねていないが、それでも尾形がもしずっとこの一行にいるのならずっと続くか、尾形が飽きるまで続くことになる。


(避妊してるって言ってもなぁ…外に出してるだけだし…)


身体を重ねることに抵抗はない。
抵抗がなくなるほど水城の体や精神は慣れてしまった。
その中で水城が恐れているのは、やはり妊娠だ。
尾形も水城が抜ければ戦力がガクッと落ちると分かっているからか、約束は守ってくれている。
外に出してくれてはいるが、だからと妊娠しないわけではないらしい。
再会したのも突然で、しかも水城達は街に出ることはあまりない。
こんな旅で避妊道具なんて買う暇はなく、どうしても外で出すしか方法はない。
水城はそっとお腹に触れる。


(もう一人尾形との子供できちゃったらどうしようかな…流石にこの旅を続けられなくなっちゃうのはやだな…ただでさえ寅次を帰らせたのも一年遅くなっちゃったし…)


水城は中絶するという考えはなかった。
静秋を宿らせた時には吉平の子供かも分からず散々息子を否定し、人間であることさえ否定し続けたのに、今はそんな事考えもしない。
静秋を自分の子供だと認めたことで、水城も変わったのだろう。
ただ、旅が続けられなくなるのは嫌だった。


(でも…妊娠したら…次は、女の子が欲しいかな…)


全ては子供ではなく、避妊せず行為をしている大人が悪い。
だからこそ生まれてくる子供に対して水城は溢れんばかりの愛情を与えたかった。
出来てしまうのは仕方ないと水城は簡単に思う。
そこまで水城は吉平に塗り替えられていた。
尾形に対して愛も情もないが、本心はもう一人、子供が欲しいと思っていた。
そう思うようになったのは、アシリパとフチを見ていて女の子もいいなと思った時からである。
夫を迎えるつもりはないが、子供は欲しいと思っていた。
もしも、尾形との子供を宿ったとしても旅が続けられなくなる残念さはあるが、妊娠したことに対して悔いはない。
生まれたら静秋と共に目一杯の愛情を与えてあげよう…水城は何もない腹を愛し気に撫でた。

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