脈略のない話(と水城は思っている)をする白石に怪訝とさせ『何言ってんのあんた』と呟いた水城に白石は思った。
『なんて固いATフィールドなんだ…』と。
強敵どころか全てを出し切ってやっとラスボスを倒したら更にラスボスが出現しそのラスボスも倒したら再びラスボスが現れたようなもう誰がラスボスなのか分からないような絶望に苛まれながら白石は遠い目をしていた。
するとふと視界に何かが映る。
「ん?なんだ、ありゃ…」
水城の向こう側に映るソレを収め思わずそう呟いた。
水城も白石の視線に気づきそちらに向こうとしたとき、肩に何かが乗ったのに気づきそちらを見る。
「ひっ!」
水城は小さな声で悲鳴を上げ、立ち上がり肩を叩く。
水城の手で払われたそれはピョンと砂の上に落ちた。
それはバッタだった。
「やだ!もう!!私バッタ嫌いなんだよね!」
「ええ?不死身のくせに?」
「バッタと不死身は関係ありません!」
水城は虫は平気だが、バッタは苦手だった。
肩に乗った時のあの距離感…水城は脳裏にバッタの顔が鮮明に浮かぶ。
「ところでさっき何か言いかけなかった?」
バッタの登場で聞きそびれたが、白石が何かに気づき何か言いかけた。
それを問うと『ああ』と頷きながらそちらに再び目を向け指をさす。
「それなら、あそこ…なんか黒い雲が勢いよくこっち来てないか?」
「あれ、本当だ…雨雲……にしては動きが変だよね…」
指さした方へ目をやればなにか空に黒い雲のようなものがこっちに向かって流れているのに気づく。
それに目を凝らして見てみると、その正体が明らかになった。
その雲のようなものはあっという間に水城と白石のところに到着し、2人…特に水城はそれに悲鳴を上げる。
「ッ!―――ひいッ!バッタの大群!?」
「いっぱい飛んでくる!!気持ち悪い!!」
それはバッタの大群だった。
苦手なバッタが次々に襲い掛かってくる恐怖に水城は涙目となっていた。
しかもそのバッタは水城達の服にしがみつき、齧って食べ始めた。
服を齧るバッタたちを払いながら水城と白石は逃げるようにその場を後にする。
「あっ!アシリパさんがまだ海に…!」
「ほっとけよ!!アシリパちゃんなら大丈夫だって!!」
「でも放っておけないわ!!白石は先にあの番屋に避難してて!私探してくるから!!」
漁師たちが泊まる番屋が見えたのでそちらに避難しようとした。
だが水城はアシリパがまだ海にいるのを思い出し引き開けして探そうとした。
そんな水城を白石が手を取り引き留めるが、その手を払われてしまう。
「暫く探して見つからなかったら私は私で別に避難するから!!だから心配しないで!!」
そう言って止める白石を振り切り水城はアシリパを探しに向かった。
◇◇◇◇◇◇◇
水城はひいひい言いながら苦手なバッタが飛び交う中アシリパを探していた。
しかし、アシリパの姿はなく、水城はどこかに避難したかと思い自分も避難するため避難場所を探した。
「杉元ニシパ!!」
「!――チカパシ!」
白石がいるであろう番屋に戻ろうかと思った水城にチカパシが声をかけてきた。
そちらに目をやれば小さいが小屋が一軒立っており、その小窓からチカパシが水城に手を振って『こっち!』と誘導してくれた。
水城はバッタを振り払いながらその小屋へ向かう。
「杉元ニシパ、大丈夫?」
「気持ち悪かったけど、大丈夫…どこか逃げ込めるところ探してたから助かったよ…ありがとう、チカパシ」
小屋に入り、助けてくれたチカパシにお礼を言って頭を撫でる。
傍にはリュウもおり、水城はリュウも撫でようかと思ったが、また噛まれたら嫌なので撫でるのをやめる。
アシリパは子供扱いを嫌うが、チカパシは嬉しいのかはにかんだ。
しかし少年でも男として恥ずかしいのか照れ臭そうに笑うチカパシを見て水城は表情が和らぐ。
水城が女だとチカパシは知っている。
というのも昨日尾形に引きずられる形で別のチセに引きこもったとき、アシリパが説明したのだ。
水城を男だと思っていたインカラマッとチカパシは驚いていたが、しかし、よくよく見れば確かに男にしては女性的だったなとすぐに受け入れた。
しかし外では男装しているためニシパと呼ぶよう頼んでいる。
小屋にはチカパシの他にも二三人の地元の漁師がいた。
とりあえず頭だけ下げ、チカパシとリュウと三人で適当な場所に固まって座る。
窓を見ればガラスに群がるバッタが見え、ガラスなのでバッタの腹が丸見えで水城は気分が悪くなりバッタから目を反らす。
「2人はどうした?一緒だったろ?」
「俺はリュウと遊んでたから2人がどこにいるのか分からない…」
チカパシの言葉にリュウが返事をするように『ワフッ』と鳴く。
1人と1匹はもう仲が良くなったのか、遊んでいた時にバッタが襲来しこの小屋に逃げ込んだという。
心配そうに外を見るチカパシに水城は優しく頭を撫でる。
「谷垣がインカラマッを守ってくれるさ」
2人を心配するチカパシを微笑ましく見つめる。
まるで両親を心配する子供のようだった。
自分の頭を撫でる水城の手が優しくてチカパシは目を瞬き水城を見上げる。
そんなチカパシに水城は首を傾げた。
「どうした?」
「俺…杉元ニシパはもっと怖い人かと思った…」
どうやら優しくされたことに驚いたらしい。
水城は白石がよく自分に言う『脳筋ゴリラ』という言葉を思い出し、苦笑いを浮かべた。
自分が怖がられているのは慣れている。
この見た目だし、普段が普段だから子供にはまず初対面で怖がられることも多い。
塾を開いたときも無名だったのもあるが、大半はこの見た目で怖がられていた。
子供たちが懐き始めてからは塾生も増えたが、やはり傷だらけ+軍人というのは威圧感を与えるらしい。
もうこの生き方を変える事も出来ず、どうしようもないと諦めていた。
チカパシは怖い人という認識はあったようだが、言うほど怖がっていないように見える。
以前、アシリパはアイヌは好奇心旺盛だというのを聞いていたためチカパシもそうなのだろう。
水城は否定せず苦笑いを浮かべてチカパシの頭を撫でた。
「やっぱり、男の人の恰好をしていても静秋のお母さんなんだね」
漁師の人に聞こえないように小声でチカパシは水城に言った。
その言葉に水城は目を丸くしてチカパシを見る。
「坊を知ってるの?」
「うん…アイヌは子供を皆で育てるから」
聞けばチカパシは両親を幼くして亡くした後、コタンの大人たちに食べさせてもらっていたらしい。
アシリパのフチにも食べさせてもらい色々世話になっているらしく、同年の子供と遊ぶより狩りに興味あったがフチに食べさせてもらった時静秋と遊んであげたらしい。
「ねえ、チカパシ…もっと坊の…静秋の話を聞かせてくれないかな…」
「え?いいよ」
チカパシをはじめとするアイヌの子供たちは静秋の事を可愛がってくれているようだった。
それに安堵しながら、離れている間の息子の話を聞きたくてチカパシにお願いした。
チカパシは頷き、自分の知る限りの静秋の話を水城にしてあげた。
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