次の日、水城達は都丹庵士の情報を得るため近くの温泉旅館にいた。
そこで一泊することにし、日も落ちたのでお風呂にも入ることにした。
男連中はすでに入りに向かい、水城は先ほどまであんまさんにマッサーシしてもらっていたところだった。
「じゃあお風呂入ろっか」
「私たちはあまりお風呂は好きではない…だから先に入っててくれ」
「えっ」
アシリパとお風呂に入れると楽しみにしていた水城はアシリパのまさかの裏切り(?)に目を見張った。
しかし悲し気に眉を下げアシリパを見つめる。
「一緒には入らないの?」
断られた水城は、しょぼんとさせながらアシリパを見る。
その姿がアシリパにはまるで子犬のように耳を垂らし目をウルウルさせているように見え、『うぐぅっ』とよくわからない言葉を零し目をギュッと瞑り唇を噛んで耐える。
「わ、私はあまり風呂は好きではないからな…」
「それでもお風呂に入るんでしょ?じゃあアシリパさんも一緒に入ろうよ」
くーん…と犬の悲しそうな鳴き声の幻聴まで聞こえはじめ、心が折れそうになった。
白石も時々犬のように鳴くがアシリパは1ミリたりとも心が動かないのに、心が揺らぐほどの破壊力を水城は持っていた。
それに今の水城は男装を解いて女性らしい姿になっているのもある。
お風呂に入るのに男装では通報されかねないということでサラシを解き旅館の浴衣を身に包んでいる水城は傷があるものの和服美人だった。
屈むと余計に胸が強調され、普段見ない豊満な胸が目の前にあるのに気づいたアシリパはサッと目を反らす。
「お、おお、お、お前は長風呂だろ?一緒に入れば私はのぼせてしまうだろ?だから時間を見て入るからその時一緒に入ろう」
いつも見ない女性的な水城にアシリパはどもりながらも答える。
水城は『おおおおお前??』と首を傾げると軍帽も取り押さえるものがない髪がサラリと顔に掛かり、その髪を耳に掛ける。
「どうしても?」
コテンと傾げ眉を下げて困った顔を作り甘える声を零す水城はまさに年下の男の子を誘惑するイケナイお姉さまだった。
同姓で、そんな趣味がないのにアシリパは胸を高まらせ、何度も頷いた。
その頷きの速さが半端なく、真っ赤に顔を染めるアシリパが可哀想だと思ったのかインカラマッが助け船を出してくれた。
「杉元ニシパ、私達アイヌはあまりお風呂に入る習慣がないのです…それに露天風呂や大浴場も慣れていなくて…アシリパちゃんも私も心の準備が必要なのです…どうか分かってあげてください」
アシリパにとってインカラマッは色々な意味で敵ではあるが、この時ばかりは彼女が女神に見えた。
後からアシリパの肩に手を置いて水城にアイヌがお風呂に慣れていないことを説明していると下から『インカラマッ様…!』と感激したような声が聞こえた。
それに苦笑いを浮かべていると水城は『習慣がないならしょうがないかぁ』と納得してくれた。
「そっか…ならしょうがないね…先行ってるから早く来てね」
「あ、ああ!」
手をひらひらと振って客室を出る水城にアシリパは力強く頷く。
水城の姿がなくなりまだ赤い顔を手で仰ぐ。
「……か…」
「アシリパちゃん?」
「…インカラマッ…胸というものは……あんなにも変化するものなのか…」
インカラマッも水城を見送っていたが、何やらアシリパが呟き、もう一度聞くとなんとも返しにくい言葉をもらった。
インカラマッは『えっと…』と言い淀む。
インカラマッも女性の一人旅をしているが、水城のように男装したことはなかったためなんて答えたらいいか分からなかった。
とりあえず『はわわわ…』と何の感情からかは分からないが体を震わせ両手を見るアシリパが何度もインカラマッの胸を見ては己の胸を見るのを繰り返すので、インカラマッはそっとアシリパから目を反らす。
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