(98 / 274) 原作沿い (98)

チカパシを洗ってあげた後、水城はチカパシと共に温泉に体を入れた。


「はぁ〜…やっぱり温泉っていいわねー」


水城の心からの言葉に白石達は『そ、そうっすね』と返すのが精一杯だった。
しかし、ここの温泉は濁り湯で温泉に入れば水城のわがままボディが隠れ何とか自我は保てている。
白石は混浴と聞いて『やっほう!美人の裸見放題だぜ!!』と思った数十分前の自分を殴りたい気分になった。
美人は美人だが、中身がゴリラでは意味がない。


「でもまだ混浴風呂って残ってたのね…もう無くなってると思ってたけど…」

「ここみたいな地方の温泉地では混浴が当たり前だと女将が言っていたな…流石に戦争を終えたばかりだし政府も混浴ごときで地方まで目を光らせる暇ないんだろう」


混浴は江戸時代の前からあったが、西洋文化が入ると混浴は禁じられた。
政府が欧米への体裁を気にし禁止令を出したが、ここのような地方の旅館ではまだ混浴風呂が多いらしい。
混浴が当たり前という時代は昭和30年代まで続いた。
キロランケの言葉に水城は『ふーん』と返しながら零れたチカパシの髪を耳にかけてやる。


「…さっきも思ったんだが…2人ともいつの間に仲良くなったんだ?」


チカパシは水城に触れられてビクリと肩を揺らしたが、そのイケナイお姉さんの体が隠れていれば多少は正気でいられるのか、気恥ずかしそう笑った。
水城も笑い返し、そんな二人を見て谷垣はふとポツリと問う。
水城は海辺でバッタの襲来に会った時一緒に避難したのを話し、『それに』とチカパシを見る。


「チカパシみたいな男の子見てるとコタンに置いてきた坊を思い出しちゃってつい構っちゃうんだよね…」


そう言って頭を撫でる水城は母の顔をしていた。
もうあれから2か月以上も顔を見ていない。
静秋とチカパシは年齢が全く異なるが、男の子という共通点につい構ってしまうらしい。
『アシリパさんは子供扱いすると怒っちゃうし』と言ってチカパシをギュッと抱きしめる。


「お、俺だってもう正式な名前をもらった立派なアイヌなんだ!子供扱いはやめてよ!」

「え〜?私から見たらまだまだ子供だよ〜?」


ぎゅっと抱きしめると濁り湯で隠れていた豊満な胸が腕に当たり、ボンッと顔を赤らめる。
抜けようと暴れるチカパシが余計に可愛く見えて水城はツンツンと頬を突っつく。
まだ10代前半のチカパシの頬はふっくらとしており、触り心地がよかった。
余りに恥ずかしがって嫌がるので水城は放してあげたが、白石はそんなやり取りを見て『おねしょたか…ありだな…』とポツリと小さく呟いた。
その言葉を聞く者はいなかった。


「あ、そういえば…」


水城はチカパシを可愛がった後、何かを思い出し、『ちょっと』と言って内緒話をするように白石達を呼び寄せる。


「さっきね、あんまさんから聞いたんだけど…昔は屈斜路湖周辺にもっと温泉宿があって硫黄山で働く鉱夫のたまり場になってたそうよ…明治29年に閉山で客が激変して廃屋になってる旅館が森の中に点在してるらしいわ」


先程マッサージをしてくれたあんまさんからその話を聞き頭に入れていた水城はあの場所にいなかった尾形達にそれを伝える。
この辺りには廃屋が多くあると聞き、誰もが白石と同じことを考えた。


「盗賊の隠家にはもってこいだな…夜が明けたら探しに行くか」

「あと2日で新月だ…今夜はゆっくり英気を養おうぜ」


タイミングよく、丁度新月もすぐだった。
キロランケの言葉に全員が頷き、今日は行動せずゆっくり休むことにした。
しかし水城の耳に自然の音以外の甲高い音が聞こえ振り返る。


「何の音?」


そう呟き振り返ったその時―――温泉の周りに黒い服を着た男たちが突然現れ囲み始めた。
その男たちは何故か目を黒い布で覆い、その手には棘やら尖った先やらが施されたえげつない棒が握られていた。


「何だお前ら!!」

「その恐ろしい形の棒をどう使う気!?」


水城達は突然の襲撃に立ち上がる。
声を上げても相手はピクリとも動きもせず静かだった。
後からも黒ずくめの男達が現れたと思えば、今度はある一人の銃を持つ男が現れた。
その男は黒ずくめの男達とは違い普通の衣服を身に着け、なぜか耳には左右で向きが違う集音用の覆いを付けていた。
白石はその男を見て目を丸くする。


「こいつだ!!こいつが都丹庵士だッ!!」


白石の言葉と共に都丹は手に持っていた銃で灯りを消した。
その瞬間光を失い暗闇に包まれる。

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