インカラマッとアシリパはあんまさんからの話に慌てて弓を持って旅館を出る。
(私たちはずっと見張られていた…!水城達が危ない!!)
アシリパが森で聞いた、聞いたことのない音とは、人間の舌の音だった。
盲目であるあんまさんも聞いたことがあるというその舌の音の意味は、音を鳴らし反響を見るもので、だからこそ盲目でありながら盗賊ができるのだ。
それを聞きアシリパは屈斜路湖からその盗賊につけられていたことを知り、慌てて水城達のもとへ向かおうとした。
あんまさんの話を聞き、インカラマッも心配だと一緒に旅館を出て走っていると暗闇から聞こえる音にハッと立ち止まる。
「銃声だ…!」
「谷垣ニシパ達でしょうか…」
「分からない…でも風呂に入っていたんなら銃は持っていないはず…恐らく盗賊のものだろう…!」
「急ぎましょう!谷垣ニシパ達が危ないです!」
インカラマッの言葉に頷き、アシリパは銃声がした方へ向かった。
銃声は森の中で聞こえ、インカラマッと二手に分かれてそれぞれ谷垣や水城を探しに入る。
インカラマッは持ってきていたランプを、アシリパは樹皮を松明に水城と白石を探す。
暫く森の中を歩いているとパキッと枝が折れるような音が聞こえ、そちらに振り向き松明を向けた。
松明の明るさがそれを照らす。
「灯りを消せ」
「…!」
目の前に現れたのは黒い服で統一し、目を黒い布で覆い、狂暴そうな棒をその手に持つ一人の男だった。
男は目が見えないのに灯りがついていることは分かるのか、消すようアシリパに告げた。
アシリパは目の前に現れた黒ずくめの男に目を丸くした――――その瞬間、男の頭が撃ち抜かれた。
飛び散ったその血が松明にかかり、松明の火が消えてしまう。
アシリパは銃声が乱射される音を聞き血だらけになった松明を捨てその場から逃げるように後にする。
後を気にして走っていると、ぬっと暗闇から手が現れ抱き上げられた。
「離…―――」
「アシリパさん、私よ」
「水城…!」
声を上げようとした口も手で塞がれてしまった。
敵に捕まったと焦ったアシリパだったが、耳元で聞こえる小声に安堵し体の力を抜く。
声の主は水城だった。
水城が無事だったことにアシリパは安堵する。
「!?…これは血か?水城のか?怪我したのか?」
アシリパを後ろから抱きかかえるように水城は木の影に隠れる。
盗賊は盲目で意味がないが、それでも木を壁代わりに身を潜めることはできる。
水城の無事に安堵していたアシリパだったが、ぬるっとした物が手に付きギョッとさせる。
水城は怪我を負っていた。
心配そうにするアシリパに水城は安心させるよう平気だという。
「大丈夫、致命傷じゃないから平気…暗くなきゃあんな奴ら私の相手じゃないんだけどな…」
水城達はあの時、囲まれた挙句銃を向けられ動けなかったところをリュウが飛び込んで助けられた。
犬の足音に気づいたのか、都丹はリュウが噛みつく前に上着を腕に巻いて怪我を防いだが、水城達を散らす隙を作ってしまった。
水城達はそれぞれ暗闇に紛れ森の中に散った。
水城は武器を持った男に胸元を突かれ、捕まった。
『捕まえた!』という男の声に次々他の男達が水城を囲み、一人の男がさすまたを水城の首にかけ抑え込もうとする。
水城の胸元に刺さった棒は殺傷能力に長けているというよりは、捕まえる事に長けていた。
タヌキを捕まえるための棒のように皮膚に刺さると先にある返しで簡単に抜けないようになっていた。
しかし水城には無意味だった。
刺さった棒をもろともせず無理矢理引き抜き、ついでに棒ごと男を引き寄せさすまたを首にかけたまま頭を蹴る。
蹴り倒した男から棒を奪い取り、棒を振り回して周りの男達と対峙する。
だが、水城の耳に、カンッ、と高い音が聞こえたと思うと銃声がし、わき腹に痛みが走った。
銃で撃たれたと気づいた水城は隙を見て水城は逃げ出し、今に至っている。
アシリパから水城はあんまさんの話を聞き、なるほどと納得する。
「なるほど…あの音は舌の音か…その音であいつらは相手を見ているってわけね…」
水城も温泉に入っているときや戦っているときに何度も聞いた音の意味を知り、内心舌打ちを打つ。
盲目でどうやって盗賊をしているかという疑問はあったが、舌の音を利用するというのは頭にはなかった。
しかし、目が見えない分、その欠けた部分を補うのは大抵耳だ。
ありえない話ではないだろう。
(このまま朝までやり過ごせたらいいんだけど…)
暗闇ではこちらの分が悪い。
このまま全員隠れ切れればあとは反撃するだけで終わる。
そう思い空を見上げようとしたとき―――カサリと葉の音が聞こえ水城とアシリパは息を呑む。
「血の匂いがプンプンする」
息を呑み気配も殺したその時、木影から銃を持つ盲目の男…都丹庵士が現れた。
注意しなければ分からない程度の足音を立てながら都丹はスンスンと辺りの匂いを嗅ぐ。
どうやら目が見えなくなり嗅覚もよくなっているようで、水城の血の匂いを敏感に気づきこちらに来たらしい。
水城とアシリパは音を立てないよう静かに息を殺し彼が過ぎるのを待つ。
その間は長く感じた。
緊迫した状態でいつ都丹が自分たちに気づくか分からない。
水城は都丹を睨むように見上げ、いつでも動けるようにする。
しかし、都丹は水城達に気づかず暗闇へ消えてしまった。
都丹の後ろ姿を見送れば、暗闇に浮かぶ光が見えた。
恐らくそこには白石達の誰かがおり、都丹は光というよりは音に反応したのだろう。
水城達には聞こえない程度の小声を聞き分けそちらに向かったらしい都丹に水城とアシリパはある程度都丹と距離が離れてから安堵の息をつく。
暫くしてまた銃声が響く。
「あっちにいるのは誰だろう…大丈夫かな…」
「光が見えたからきっとインカラマッだ…多分誰かと鉢合ったんだろう…きっと大丈夫だ」
このまま移動してまた都丹やその手下たちと鉢合うのは危険だと判断し水城とアシリパはこのまま動かず時を見ることにした。
その間にも銃声が響き、水城はバラバラになった仲間たちを心配するが、アシリパの言葉に『だといいけど』と少しだけ不安を拭う。
「あ…」
一発の銃声が聞こえ水城は視線をそちらに向けた。
その時、空がうっすらと明るんでいるのに気づく。
「アシリパさん…夜が明ける」
水城の言葉にアシリパも空を見上げた。
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