(104 / 274) 原作沿い (104)

白石の指示のもと、水城達は網走監獄に侵入すべく策を練った。


「網走監獄は周囲を山に囲まれていて数十カ所で武装した看守が見張っている」


山に入り視察してきた水城は報告する。
網走監獄は周囲三方に囲まれており、およそ20箇所の見張り小屋が立てられ看守が見張っていた。
しかも見張りの看守は全員ロシア製のモシン・ナガラという銃を持っており、小屋にはマキシム機関銃まであった。
まるで戦争をするかのような武装だと水城は伝える。


「山側は囚人の舎房があるため特に厳重なんだ」

「脱走だけではなく、のっぺら坊を奪いにくる連中も警戒しているということだ…」


犬童も金塊を求めているかは分からないが、少なくとも興味はあるのかもしれない。
でなければ死刑ののっぺら坊を生かす理由がない。
永倉の言葉に白石は『とすれば…』と続ける。


「侵入経路は警備の手薄な網走川に面した塀しかねえ」


三方山に囲まれており囚人の舎房があるため、その分警戒も厳重だ。
看守もそれを分かっているから恐らくすぐに気づかれる。
そのため、唯一侵入できるであろう場所は、川に面して警戒が薄い場所しかなかった。


「手薄といっても誰も身に来ないわけじゃないだろう?」


牛山の問いに白石は困るどころかニヤリと笑う。


「この計画はいまの時期しか出来ねえぜ…鮭が獲れる今だからこそな…」

「今の時期?」

「そうだ…トンネルの入り口をアイヌの小屋で偽装する」


あっ、と水城は思う。
確かに、あの川にも鮭はいる。
聞けばアイヌは鮭を神の魚とも呼ぶほど大切にしていたから、よく獲れる場所を探してここに来たと言っても怪しまれはしないだろう。
話が通じるかは分からないが。
しかし、まだ問題はあった。


「トンネルを掘るのはいいけど…その出た土はどうするの?アイヌの小屋を作るって言ったってそんなに大きくは作れないでしょ?」

「掘り出した土は一箇所に捨てず船に積んで川のあちこちに少しずつ流す」


水城の問いに白石はすぐに答えた。
トンネル掘りも、経験者である工兵だったキロランケに任せれば水城達でも間違えて看守達のど真ん中に出ることはないだろう。


「いいか…この作戦で気を付けるのは土を捨てる時だ…絶対に誰かに見られるなよ?見られたら終わりだと思え!」


侵入は簡単だ。
だがその前の準備や作業で気づかれれば全て台無しとなりのっぺら坊に会いに行くことすらできなくなる。
このメンバーの中で顔を見られても支障がないのは、キロランケと谷垣、インカラマッ、アシリパ、チカパシ、家永だろう。
その中で出稼ぎに来ても不自然ではないメンバーを選ぶ。
インカラマッやアシリパ、チカパシは女性で子供だからアイヌでも除外された。
家永は女装し化粧で若返っているので気づかれはしないがどう見てもアイヌには見えない。
選ばれたのはキロランケと谷垣だった。
それら全てを考え指示をする白石に水城は言葉を失くし、軍帽を取った。


「シライシ…やっぱりあなたすごいわ…脱獄王と呼ばれるだけあるわね…脱帽だわ」


普段戦闘にも狩りにも全くクソの役に立たない白石だが、得意分野になるとやはり人間は輝くものらしい。
軍帽を脱ぎ脱帽する水城の言葉に白石はフッと笑い…


「ッピュウ☆」


と親指と人差し指と中指を立てて銃を撃つような仕草を向けた。
その白石の仕草に水城は脱帽していたのに白けた顔を浮かべ、速攻帽子を被った。


「脱獄王…やっぱりお前を網走まで連れてきて正解だった…!」


アシリパもあのクソ役にも立たない白石の輝きを見て驚いていた。
そんなアシリパにも白石は『ピュウ☆』と手で銃に見せかけ撃った。


「ピュウ☆ピュウ☆ピュピュピュウ☆」

「…………」


更に白石は調子に乗り、二人の傍に座っていた尾形に向かって何度も撃つ。
褒められ調子に乗り始めた白石を尾形は絶対零度のような目で見つめていた。

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