次の日、水城はアシリパ、白石、土方、キロランケを連れて再び看守の男…門倉の宿舎へ訪れ、計画を練る。
「次の新月の晩にのっぺら坊がいる房はここ…第四舎・第六六房だ」
のっぺら坊の移動のパターンは長年犬童を欺き続けた門倉が読む。
門倉の指さす場所を全員が覗き込み覚える。
「俺の脱獄の鉄則としては新月に拘らず全ての音をかき消す嵐の夜なんだが…トンネルが川のすぐ側だ…雨とか川の増水で塞がる危険がある…今回はオレ一人じゃねえしな…」
白石は脱獄を数えきれないほど成功してきた。
だがそれは一人だったからだ。
土方達と一度脱獄しているとはいえ、今回は侵入した後のっぺら坊を確認すればすぐに脱獄しなければならない。
その間何もないとは言い切れないだろう。
多少の不安はあるものの、つわもの揃いに囲まれ安心感もあると言えばある。
白石曰く、誰にも気づかれないよう侵入し、アシリパをのっぺら坊に引き合わせた後、何事も起きなかったかのように静かに立ち去れば大成功だ。
「失敗すればここのトンネルはすぐに見つかり、その瞬間に門倉はお尋ね者だな」
脱獄や侵入はすぐに調べれば分かり、トンネルも見つけるのは簡単だろう。
そうなったらその瞬間、門倉はここにはもういられなくなる。
そう土方が言えば門倉は困った顔ではなく、笑った。
「この仕事に執着はありません…その時は土方さんにお供します……死んだ父親も喜ぶ」
そう答えた門倉に土方は静かに笑った。
門倉の父親は土方と共に戦った旧幕府軍だった。
そのため門倉は土方と共に行くことをもう決めていた。
「土方の爺さんと通じてる看守は門倉さんだけ?」
「そうだ…集団脱獄事件をきっかけにほとんど看守は入れ替わった」
キロランケの問いに門倉は頷く。
土方達が脱獄したあの後、この監獄は一度入れ替えが行われている。
多くは制服を着ているだけで、門倉のように看守として学んだ者たちではない裏金で雇われたモグリの看守だ。
夜中でも看守は樺戸監獄の二倍の看守が見張っているらしく、もし侵入が見つかれば容赦なく撃ってくるというオマケ付きである。
「もしのっぺら坊がアシリパさんの父親だとして…連れ出すのは難しいの?」
水城の問いに門倉は少し考えこみ首を振る。
「片足の腱を切られているのでいつも看守に支えられている…連れて逃げるのはかなり困難だが、不可能ではない」
白石からも足を切られたことは知っていたため驚きはないが、聞いていて気持ちのいい話ではない。
足の腱を切られたという事はもう一人で立てなくなったという事だ。
両足ではないため松葉杖でならなんとか生活は出来るだろうが…もうアシリパと狩りをするのは難しいだろう。
それを思うと水城はアシリパが父の教えを楽しそうに教えてくれる姿を思い出し、悲しくなってしまう。
「危険を冒してまで連れ出す必要はない…父が本当にのっぺら坊なら―――」
しかし、アシリパは本当に強い少女だった。
父かもしれない男にそう言ってのけるのは心が強い証拠だ。
息子の事でああだこうだとうだうだ悩み父親を拒む水城には到底真似できないだろう。
しかし、アシリパの言葉を土方が止め、後ろ…トンネルの方へ振り返る。
「そこで盗み聞きしとらんで上がってこい」
その言葉に全員がトンネルの方へ見る。
そこから静かに尾形が顔を出した。
どうやら盗み聞きされていたようである。
「キロランケと谷垣からお前の事を聴き出したぞ…尾形百之助は自刃した第七師団長の妾の息子であるというのは師団内で公然の事実であったそうだな?…ただの金塊目当てで軍を脱走したにしては出自が厄介だ」
土方はこの短時間でキロランケと谷垣から尾形の事を聴き出した。
その聴き出した情報は少し厄介なものである。
水城は第一師団だったが、尾形の異母弟である勇作と仲が良かったからある程度尾形の事を聞いていた。
勇作はご親切に名前まで教えてくれたから、すでに尾形と知り合っていた水城は『えっ、あいつそんな面倒くさい人生送ってるの』と素直に失礼なことを思いつつ同情した。
勇作と話しているところを偶然見かけたことがあり、あの尾形にしては珍しく嫌そうな態度をあからさまに出していたので仲が良いわけではないのも知っていた。(そしてそれに気づかない勇作の心臓は鉄で出来ているんだろうなとも思った)
だから尾形といるときは勇作の話題は極力避けた。
あちらが自分の出自を水城が知っている事に気づいているかは分からないが、今まで話題にもしないということは本当に触れてほしくないのだろう。
勝手に調べた土方に尾形は怒るでもなく鼻で笑う。
「俺が何か軍をどうこうするために動いているとでも?冗談じゃねえよ面倒くせえ…テメエらだてお互い信頼があるとでもいうのかよ」
そう言って尾形はその場に参加はせず、トンネルの中へ消えていった。
107 / 274
← | 目次 | 表紙 | →
しおりを挟む