カンカンカン、と警鐘の音が鳴り響く。
水城は門倉に騙され罠にはまってしまった。
「つまりこいつがインカラマッちゃんの言っていたキロランケの仲間ってことなのか?」
キロランケがアシリパの父を殺したとインカラマッが言った通り、この顔のない囚人はキロランケの仲間なのか。
それを問おうにも囚人は『ああああああああ!!!』と叫ぶばかりで答えない。
そんな囚人に水城は苛立ち『いい加減黙れ!!』と一発叩いた。
門倉にはめられた腹立たしさもあり八つ当たりも兼ねていたためその一発はその辺の女より強く、やっと囚人は黙る。
そんな囚人の口に水城は首を掴んで口に銃口を突っ込む。
「お前キロランケの仲間か!?どうなんだ!!」
水城の言葉に囚人は首を振った。
それはすなわちキロランケの仲間ではないという事。
それはすなわち、替え玉ということだ。
「マジかよ…そこまでする!?」
「分からない…分からないけどとにかく…私達がハメられたのは確かよ」
土方を慕っていたのは演技なのか、それとも土方もグルなのか。
考えられるのはグルだ。
所詮自分たちは金塊を奪い合い、敵対していた人間だ。
敵の敵は味方という言葉があるようにただ協力しているだけの間柄だ。
あの時尾形が言った通り、お互いの信頼はない。
そのため、恐らく土方達の救援は当てにはできない。
もっと慎重にすべきだった、と思ったその時…何かが爆発したような大きな音が水城と白石の耳にも届いた。
「な、なんだ!?」
替え玉の囚人が叫んだ時から警鐘が鳴り周りの囚人たちも起き、困惑しざわめいでいたが、爆発音に更にそのざわめきは大きくなる。
しかし、それだけではない。
「オイ看守ッ!第七師団が攻めてきたのか!?」
「俺達殺されるぞ!!」
「ここを開けろォ!!」
喚く囚人たちの言葉に水城はギョッとさせた。
「第七師団!?うそでしょ…!そんな…!ああもう!!次から次へと…!!なんなの!!」
自分たちはただアシリパにのっぺら坊を合わせてあげたかっただけなのにとんだ騒動に巻き込まれてしまった。
いや、鶴見の事だから自分たちがいるのも含め攻め時だと思ったのかもしれない。
運が良ければ一網打尽にできると思って。
「杉元!どうすんだよ!!」
「逃げるしかないでしょ!!ここから脱出を考えて!!脱獄王!!」
一瞬鯉登の姿が浮かんだが、頭を振って奥へとしまい込む。
鯉登がいるかもしれないと恐れるときではないのだ。
白石と言い合っていると門倉が銃を放つ。
この騒動を利用し攻め込んでこないという事はどうやら門倉はここで水城達を足止めするつもりらしい。
それで余計に土方とのグルだという事が強くなった。
「門倉…!!絶対あいつの尻の穴に銃突っ込んで脳天をぶち抜いてやる!!!」
とにかく今は脱出をしアシリパと合流しなければならない。
脱出方法は専門である白石に任せ、水城は門倉をはじめとする看守がこちらに攻めてこないようにしていた。
とはいえ、どうやら第七師団が攻めてきたようなのでほとんどの看守はそちらに持っていかれこちらもあちらも手一杯らしいが。
門倉に恨み言を零していると後ろからゴリゴリと音がし、振り返る。
「白石何やってるの!?」
「全ての監房の床下には通気のために狭い空間があるんだ!!」
白石を見ればなぜか床をノコギリで切り始めた。
どうやら脱出方法を思い浮かんだらしい。
なるほど、と思っていると替え玉がまた『あーッ!あーッ!』とうるさく叫び始め、水城と白石は同時に替え玉に怒鳴りつける。
だが替え玉はそれでも叫びながらある場所を指さした。
そこを見れば毛布が煙を立てて燃えていた。
それを見た水城と白石は替え玉と共に『あーッ!あーッ!』と叫んだが、しかし煙を消す暇は与えられなかった。
無数の足音がこちらに近づいているのに水城は気づく。
「くそ…!第七師団がもう来た…!!」
「ど、どうするんだよ!杉元!!俺達二人じゃ第七師団相手は到底無理だ!!」
「分かってる!!…とにかく、落ち着いて……あんたは床を切ってて」
すう、と深呼吸し水城は焦る気持ちを抑える。
水城の指示に頷いた白石は作業に取り掛かった。
「あんたにも協力してもらうわよ」
水城は強制的に替え玉にも参加してもらうことにした。
あの鶴見がどこまで掴んでいるかは分からないが、もしこの囚人が替え玉だと知られていないとすればまだ勝機はある。
替え玉は首を振るが、腕を掴んで強制参加させる。
扉を開け、開けられた扉を盾に水城は身を隠れるが、鶴見達に替え玉が見えるよう、囚人を立たせ、替え玉に銃を向ける。
すると足音が止まり、水城は隙間から様子を見る。
そこには水城の予想通りの第七師団が団体様で現れた。
「不死身の杉元…」
先頭に立つ鶴見は水城の姿にニタリと笑った。
目と鼻の先に飼いたくて飼いたくて仕方ない男がいる。
その事実に誰が高揚していく気持ちを止められようか。
しかし水城達にはその姿はまるで自分たちに死を与える死神のように見えたが、水城はその姿にゾッとする暇すら与えられない。
(げッ…!やっぱり音之進いる…!!うう…もう、なんなの今日は…!!)
チラッと見えたが、鶴見の傍に見慣れた顔に気づいた。
それが鯉登である。
予想はしてはいたが、それは現実になってほしくはなかった。
(やばい…何か言わないと攻めてくる…でも声出すと音之進にバレる…)
無理に進んでこないという事は、恐らく替え玉だとはあちらも知らないのだろう。
銃を突き付けているため動かない第七師団に水城は安堵する。
水城は第七師団との戦闘をどうしても避けたかった。
いや、第七師団相手というよりは水城は鯉登と顔を合わすのを避けたがっていた。
今は姿も見えない、出たとしても軍帽を深く被れば気づかれることはない。
だが、恐らく声で気づかれる。
ああ、でも…
(でも…流石に何年も経ってるんだし…もう私の事なんて忘れてるかもしれない…)
水城は鯉登を忘れない。
だが鯉登はどうだろうか。
鯉登は他に別の好きな女が出来てるかもしれない。
鯉登はもう21歳だし軍人の家系で将校の父を持っているのだからすでに所帯を持っていても可笑しくはない。
鯉登が別の女と結婚していることを考えるだけでモヤモヤするが、水城は叫ぼうとした。
…だが、やはり怖くて声が出なかった。
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