(110 / 274) 原作沿い (110)

水城は鯉登の存在に声が出なかった。
そこで水城は白石にバトンタッチすることにした。


「ねえ白石…お願いがあるんだけど…」

「お、お願い?なんだよ、こんな時に…」

「ちょっと、私の代わりに脅してきてくれない?」


せっせとノコギリで床を切っていた白石は水城のお願いに怪訝とさせたが、その内容に『はああ!?』と声を上げた。
その声の大きさに水城は口元に指を持っていく。


「しーッ!静かに!聞こえるでしょ!」

「だってお前…なんで俺が第七師団を脅さなきゃならんのよ!怖いじゃん!お前らゴリラと一緒にしないでくれる!?俺か弱いんだよ!?ゴリラじゃないんだよ!?コアラなんだよ!?俺コアラなんだよ!?」


水城と比べて白石は自分の非力さを自覚している。
戦闘に特化しているゴリラと比べたら天と地ほどの差だ。
とにかく今この場所にいる人間で、第七師団相手に啖呵を切れるのは水城だけだ。
なのに水城は自分に第七師団に喧嘩を売れというではないか。
白石でなくとも嫌がるだろう。
当たり前の反応だと水城も分かってはいるが、水城だって事情があるのだ。


「大体なんで俺が言うんだよ!お前が言う場面だろここは!!」

「だ、だって…………から…」

「え?なに??」


しかしそんな水城の事情など白石は知らない。
そのため、わざわざ自分に言わせる理由が分からなかった。
白石は正しいが、水城はどうしても声を出したくなかった。
それを聞かれポツポツと答えたが、もごもごしすぎて聞き取れず聞き返す。
そんな白石に水城は…


「だって!!音之進がいるんだもん!!」


…と答えた。
幸いなのは声を抑えたおかげで鯉登達には気づかれていないところだろうか。
『うぅ…』と両手が塞がっていなかったら両手で顔を覆っているところだ。
しかし、そんな水城をよそに白石は…


「誰??」


と答えるが、それは当たり前である。
白石は鯉登は知っているが、流石に名前までは知らない。
『オトノシンって誰よ??』と怪訝とさせる白石に水城はそっと目を逸らす。


「……恋人だった人です」


その答えに白石は口をあんぐりと開けた。
呆気に取られポカーンとさせる白石に水城は恥ずかしさに涙をためた目でキッと睨む。


「わ、私に恋人がいて悪いっていうの!?」

「いや、何も言ってねえだろ…えっ、待って…恋人って……もしかして…つるm」

違う


まるで自分に恋人がいたことに驚いているように見えた水城はキッと白石を睨む。
いや、驚いてはいるのだろう。
だが普段水城は自分の事を話さないので驚いただけで文句はない。
白石はオトノシンとやらを鶴見と勘違いし、それを水城が即答で返す。
真顔で返され白石は『あっ…はい…すみません…』と素で謝った。


「え〜??だれだれ〜??オトノシンって誰よ〜〜??見せなさいよ〜〜」

「あっ、やだぁ〜もう〜!や〜め〜て〜よぉ〜!――――って馬鹿!」


水城が恋人と呼んだ男が気になって隙間から見ようとする。
そんな白石に水城も恥ずかしがってやめさせようとした。
それは女子高生のノリだった。
だが、水城の乗り突っ込みという蹴りを受けてしまう。


「いいから!!私が言ったこと言ってくれればいいだけだから!!」

「え〜…そりゃ俺もこの場を逃げ出したいけど…だって相手第七師団じゃん」


コアラな自分的にさっさとここから逃げ出したいとは思う。
だが喧嘩を売る相手が相手である。
もう目をつけられてはいるが、所詮コアラな自分はゴリラとアイヌの少女のオマケ的な存在だ。
相手も生かす程度の認識はあるらしいが、これ以上自分という存在を認識させ恨みを買って殺されてはたまらない。
渋る白石に水城は下手に出る作戦に出た。


「お願い!言う通りに言ってくれればいいから!!」

「だから嫌だって!俺目ェつけられたくねえもん!」

「ね!お願い!一週間売春宿に通っていいから!!」

「えっ……もう一声!」

「(チョロ…)…じゃあ一週間ご飯奢るから!」

「あー…」

「肩!肩揉んであげる!!」

「んー…」

「ええい!もってけ泥棒!!全身マッサージのお酒付き!!」

「よっしゃ任せろ!!」


大特売だ!!と水城は一週間白石が売春宿通いの許可をし、なおかつ一週間も全身マッサージしお酒も奢ることを約束しやっと承諾してくれた。
ありがとー、とお礼を言いながら水城は『ちょれぇ…』と思ったのは否めなかった。
暫く金銭面に苦労するが、第七師団相手にお金で解決するなら安いものだ。
切羽詰まった状況なのを忘れコントじみたことを繰り返しながら承諾した白石は作業をひとまず止め水城の隣に立つ。
勿論第七師団に顔を見られないように気づかれないようにだ。
どうせ声で気づかれるだろうが、顔を見せる勇気はない。


「下がれ!!言っとくがこいつからはまだ金塊のありかを聞けてねえぞ!!」


白石の声に鶴見は一瞬怪訝そうに眉を潜めたが、すぐに表情を戻す。
白石もいるならついでに皮を剥ごうと考えたのだろう。


「外で看守たちと戦っている者を含めて63名の部下を監獄に連れてきた…そんな方法で我々から逃げるつもりかね?」

「試してやろうじゃねえか!!全員武器を置いてここから―――」


水城という後ろ盾もあり、白石がそう啖呵を切ったが、言い終わる前に一発の銃声が放たれた。
水城は替え玉の腕と白石の首根っこを掴んで監房の中に避難する。
閉めた扉の向こうから鶴見の『二階堂!!』という叱責が聞こえた。
どうやら二階堂は水城の存在に気づき撃ってきたらしい。
二階堂は月島達に取り押さえられあがきながら水城がいたであろう方向を睨みつけていた。


「離せッ!!俺が殺す約束だろ!!」


二階堂の声を聞きながら鯉登は二階堂をギロリと前を睨みつける。
彼が尊敬する鶴見の命令に逆らい危うくのっぺら坊を殺しかけたのが許せなかった。
だがそれ以上に…


(不死身の杉元は雪乃の手掛かりになっかもしれん男や…そう簡単に殺されちょったまっか!)


雪乃が死んだと信じ切れない鯉登にとって、不死身の杉元という男はやっと見つけた雪乃の手掛かりになるかもしれない重要人物だ。
鶴見も生かすように考えているため、捕まっても雪乃の事を聴き出す時間は貰えるだろう。
だからその重要な人物を殺そうとする二階堂に腹を立てていた。
しかし坊ちゃんと言えど軍人の家系の出。
感情を抑え鶴見の傍に控えていた。


「バカヤローーッ!!のっぺら坊に当たったらどうすんだ!!」

「あっ、ちょ…白石!!」

「あ!?」


啖呵を切ったノリで白石は第七師団に苦情を述べる。
しかし水城に呼ばれつい勢いで凄んで返事をする。
だが、水城の腕にいるそれを見てギョッとさせた。


「ど、どうしよう……替え玉…死んじゃった…」


替え玉は死んでいた。
頭を撃たれたのか、水城の腕の中で頭部からびちゃびちゃと血を垂らして息絶えており、事切れている囚人を見て白石は顔を引きつらせる。
あわわ、と焦る水城を見下ろしながら白石は顔を引きつらせながら扉へ近づき…


「は、早く全員この建物から出ろ!!のっぺら坊の頭をぶち抜くぞッ!!いいのか!?」


そう啖呵を切った。
もうどうにでもなぁれ☆(AA略)状態だった。
いつにも増して頼もしい白石に水城はついその男らしさにキュンとなったのは秘密である。


「多分あいつらはのっぺら坊の替え玉が死んだことに気づいてねえ!!今のうちに床を切り抜いて脱出するぞ!!」

「う、うん…」


死んでしまった替え玉を置いて水城も手伝う。
いくら不死身でも第七師団を相手に勝てるほど自惚れていないし、今は第七師団を相手にするよりもアシリパと合流したい。
やっと切り終え水城と白石は床下へ潜り、最後に替え玉をその上に横たわらせ脱出口を隠す。
その瞬間、監房全ての鍵と扉が開いたのを水城達は知らない。


「土方の奴が全部仕込んだんだと思う…」

「都丹庵士もグルならアシリパちゃんは今頃ジジイと一緒かもな…」


この騒動は恐らく土方が計画したのだろう。
協力しているとはいえ、所詮は敵同士。
彼らの金塊の使い道には興味はないが、水城には元々土方の仲間になるつもりもない。
所詮は寄せ集めの集団なのだ。
寄せ集めだからこその強さはあるものの、その分、軍隊に比べて集団の連帯は脆い。
恐らく、自分たちを偽のっぺら坊がいる舎房に侵入させて騒ぎを起こさせることによって不安に駆られた犬童が本物ののっぺら坊の隠し場所に向かうと考えたのだろう。
土方はそれを最初から狙ってアシリパと水城と白石を侵入させた。
全くもって食えないジジイである。


「門倉が私達を舎房で釘付けにしている間にアシリパさんを父親に引き合わせ金塊のありかを聴き出して脱出…この機会に私とアシリパさんを引き離すつもりだったんでしょうね……いつか私が邪魔になるはずだから」


温泉旅館での誘いを断ったためかは分からない。
だが、敵対しないまでも仲間にもならないのなら、不死身と名のついた自分は邪魔な存在でしかないはず。
いつか対立するとは水城も思っていたが、あちらの方が上手だったようだ。
舌打ちを打ちたい気分だが…しかし、それならアシリパの見は土方に守られ安全ということになる。
ただそれだけは安堵できた。


「よし!通風口が思ったより狭かったが両肩を外せば出られるぞ!」

「出来るかぁ!!!」


這いずって進み、やっと通風口にたどり着いた。
しかし、その狭さから流石に女性の水城でも頭を出すのが背一杯だった。
自由に関節を外せる白石も苦労したものの何とか通り抜けた。


「何か壊せるものを探してくる!」

「いや!私は自分でなんとかする!!だから白石はアシリパさんを探しに行って!!」


流石に水城も関節は外せず他に出る方法がないかと考え、白石は何か壊せるものがないかと探しに向かおうとした。
そんな白石を水城は引き留め、白石の半纏を掴み引き寄せる。


「アシリパさんを確保出来たら正門で待て!!アシリパさんを頼むわよ!!白石!!」

「…!」


水城の言葉に白石は目を丸くした。
何か言いたそうにする白石を水城は睨むように見つめ、


「行ってッ!!白石ッ!!」


そう声を上げる。
その瞬間、白石は水城に背を向けアシリパを探しに走った。

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