ぐぬぬ、と水城は隙間から顔を出すことは出来るがそこから先は進まなかった。
「ふぬぬ…!あ、あいつ…どうやって関節を外してるのよ!」
白石の真似をしてみるが、不死身と言えど白石のように関節は外せなかった。
やはりそこは天性の才能というべきだろうか。
「杉元!!」
「キロランケ!」
「馬鹿かよオマエ!!出られるわけねえだろ!!」
はあはあ、と息が切れてきたその時、キロランケが駆けつけてくれた。
駆けつけたキロランケの手には手投げ弾が握られており、通風口の下を穴を掘りだした。
「どうするの?」
「壁と土の隙間に手投げ弾を埋め込む!」
「えっ」
「どこか身を隠せ!!」
「ええ!?ちょ、まっ…」
急いで穴を掘り壁に沿って5つの手投げ弾を埋め込み火をつけた。
それを見て水城は慌てて頭を引っ込め急いで離れる。
顔を腕に埋めると手投げ弾に引火し爆発が起こった。
「教誨堂に?」
「アシリパがこれをのっぺら坊に見せろって」
キロランケのおかげで脱出に成功し、煙で咳き込みながらキロランケから白石がアシリパと合流し白石と共に正門に向かったと聞き安堵の息をつく。
そんな水城にキロランケはアシリパから預かっている物があると水城に差し出す。
水城はキロランケの手の中にあるそれに目を見張った。
「それはアシリパさんのマキリ…父親が作ったマキリね…」
それは以前父から貰ったと言っていたマキリだった。
それは父親が彫ったもので、世界で一つしかない物だ。
恐らくそれを見せて信用させるようアシリパが水城に渡すよう言ったのだろう。
「キロランケは正門で待ってて…白石だけじゃ心配だわ……私がのっぺら坊を連れてくる!必ず会わせるとアシリパさんに伝えて!」
キロランケからマキリと受け取り、グッと握り締めキロランケを見つめる。
強い瞳にキロランケは頷き、アシリパの元へと走っていった。
水城はキロランケの後ろ姿を見送った後、教誨堂へと向かった。
(多分第七師団…鶴見中尉達はまだ舎房にいるはず…その隙にのっぺら坊を探してアシリパさんのところに連れて行かないと…)
水城は囚人たちと乱闘しているとは知らないため、まだ舎房に第七師団がいてくれることを願う。
鶴見の事だからのっぺら坊が偽物だと気づき、そして脱出口に気づくのも時間はかからないだろうと急いでいた。
駆逐艦から日露戦争でも使われた照明弾が放たれ、辺りは一気に明るくなる。
水城はふと建物に写る自分の影が見え…水城は後ろへ手を振る。
その瞬間、手に硬い物が当たり、辺りに銃声が響く。
横目で後ろを見ればそこには二階堂がいた。
二階堂はあの後騒動に紛れ水城達を追って第六六房へと駆け込んだ。
しかし中に入れば水城はおらず探し回っているときキロランケの爆発で起こった爆風が部屋まで届き水城達が逃げた穴を見つけ、追いかけてきたのだ。
音もなく後ろについたのに、照明弾の光で作られた影によって水城に銃を突き付けていたのを気づかれた。
銃で殺すのは失敗した。
そのため二階堂は剣を取り出し水城に向けて突き付けた。
「――――」
その剣は水城の口へ突っ込み頬を貫く。
普通なら痛みに動きを鈍らせるだろう。
だが水城は口の中に入り込んだ剣を二階堂が剣を抜けないように力いっぱい噛みついた。
その隙に水城は二階堂を拳で顔を殴りつける。
続いて銃の底でも顔を殴り、その衝撃で二階堂は剣から手を放した。
その口にある剣を抜き、二階堂に向けて突き刺した。
手でガードしたため、その剣は二階堂の手に刺さっただけで顔には刺さらなかった。
水城は二階堂を蹴って転倒させ銃口を向けた。
だが、二階堂は転倒させられながらなぜか右足を水城に向ける。
――――なに…?
水城はなぜ銃ではなく剣でもなく避けるでもなく、足を向けるのか怪訝とさせた。
だがそれも一瞬で、怪しんだ水城は自分に向けられたその足を銃の底を叩きつけて下へ反らせた。
その瞬間、二階堂の足から銃弾が放たれ、水城の足を貫通する。
江渡貝邸で土方との交戦にて右足を失った二階堂は義足をつけていた。
その義足は有坂という武器開発の中将によって改造されており、威力は低いが銃弾が装備されていた。
水城はその銃弾を足に受けてしまい、立っていられず倒れる。
そんな水城の上に二階堂は乗り、まだ銃弾が残っている義足を水城の顔面を踏みつけるように向ける。
「洋平ッ!!杉元がそっちに行くぜぇ!!!」
あの夜。
水城が鶴見に捕まったあの日。
水城は二階堂の双子の片割れを殺しはらわたを盗んだ。
いつも一緒だった片割れを突然失った悲しみに二階堂は水城への復讐を誓った。
だから執拗に水城を追いかけ殺そうとする。
二階堂は洋平の復讐のためだけに鶴見側にいるのだ。
水城を殺させてくれると約束してどれほどの月日が経ったか…夢にまで見た憎い相手を殺す瞬間が今、訪れた――――と思った。
しかし、水城は自分の顔を踏む二階堂の足を折った。
義足部分が折れただけなため痛みはない。
だがその瞬間、放たれた銃弾は水城ではなく二階堂の手に向けられ、二階堂の手は粉々に吹き飛ばされた。
水城は義足を力づくで二階堂から抜き取り、思いっきり二階堂の顔を義足で殴った。
倒れた二階堂に今度は水城が上に乗り義足で何度も何度も二階堂の顔を殴りつける。
「――――!」
だが、後ろから足音がし水城はハッとさせ義足を投げ捨てその場を逃げるように去る。
とはいえ足が使えないため這いずって建物の下に潜り込んで進む。
水城が建物の下に潜り込んだ時、第七師団の兵士が通りかかり倒れる二階堂を発見した。
水城は二階堂に声をかける兵士達の声を聞きながら隠れてよかったと安堵し、息を吐く。
そして、水城は前を向く。
「のっぺら坊を…アシリパさんに会わせる…アシリパさんに…!」
ジクジクした痛みが頬と足に響くが、今は構っていられない。
水城の頭の中にはアシリパにのっぺら坊を合わせることで一杯だった。
ぜえぜえと息を上げながら水城は何とか建物から抜け出した。
「…!」
しかし目の前にいる人影に気づき顔を上げる。
人影は何か棒のようなものを持って水城のように体を引きずっていることだけは分かった。
水城が人影に気づいたとき、何発目かの照明弾が上がる。
その瞬間、辺りは照らされ水城は目の前の人影に目を丸くした。
(!―――青い目…!!)
水城の目の前には青い目をした男がいた。
111 / 274
← | 目次 | 表紙 | →
しおりを挟む