ステェンカのルールが滅茶苦茶になってます。
無理矢理ぶち込んだ感が否めません。
なんでもござれの方のみどうぞ。
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試合も終わり、次の試合が始まろうとしていた。
店主は水城達にルール説明をする。
ルールと言っても難しい物ではない。
ただ相手がダウンするまで殴るだけ。
ただし、倒れた人を蹴らない、集団で一人を攻撃しないなどの違反を犯さなければいいだけだ。
先ほど試合をしていた男達もそうだったが、やはりこの試合では上半身は脱ぐことになっているらしい。
「雪乃…やはり考えなおさないか」
軍帽と上着のコートを脱いだ時、鯉登に声をかけられ水城は眉を潜める。
やる気になってくれたが、まだ水城が参加することに納得はいっていないらしい。
「ここまで来てまだ言ってるんですか?」
「しかし…お前は女だ…女が男の試合に出るものではない…ロシア人たちの顰蹙を買うのではないか?」
『そうなれば囚人の情報も入らないだろう』と続けられ、水城は言い返す言葉が見つからなかった。
ただの殴り合い、されど殴り合い。
確かに観客の反応からして、男同士の殴り合いに女が乱入すれば興ざめだろう。
そうは言っているが、鯉登の本音は好いた女が殴られるところを見たくはなかったし、何より上半身裸になるのを許すのも嫌だった。
だから諦めきれず水城の参加に苦い顔をしていた。
「鯉登少尉殿…ここまで来て後には引けません…諦めてください」
「しかしだな…」
「もうこうなればなるようになるだけです…それに杉元が抜けた穴を埋める人間がいないのも事実です」
「………」
月島は悟った。
水城の暴走を止められないと。
女である水城が出場することで囚人の情報もおびき出す事も無駄に終わってしまうのは勿体ないが、何を言っても無駄だと諦めた。
それに女とは言え、水城ほどの戦力が抜けた穴を埋める人間がそうそう見つかるわけがないのも事実だ。
鯉登は水城を恋人として見ているし、雪乃だった頃の水城を知っているから心配になるのも分かる。
だが、杉元水城しか知らない月島と谷垣にとって、水城は雪乃ではなく『不死身の杉元』なのだ。
女と分かってもやはり不死身という言葉が月島達を鯉登のように案じさせてはくれなかった。
『何してるんだ、早くしてくれ』
審判がもたもたしている日本人達に急かすよう声をかけてきた。
その声もあって鯉登はモヤモヤしたものを抱えながら渋々引き下がるしかなかった。
あちらからしたら参加したのはいいものの、直前になって尻込みしていると捉えられているのか『別にリタイヤしてもいいんだぜ坊や』と言ってきた。
その挑発を月島が訳せば、鯉登達のやる気は更に上がる。
水城は話が逸れたのを『ラッキー』と思いながら来ている服を脱ぐ。
しかし水城が上半身の服を全て脱ぎ終えると周りのざわめきが強くなる。
水城を見て店主が慌てて水城達の近くのフェンスまで駆け寄ってきた。
『おい!女じゃないか!!聞いてないぞ!!』
やはり女はこの賭けには参加資格はないらしい。
店主はサラシで潰しているとはいえ、水城の胸を見て青い顔して慌てる。
『女は参加できない…悪いが一人メンバーを変更するか、棄権するか、どちらか選んでくれ』
審判らしき男が声をかけ、月島が訳す。
勿論鯉登は『棄権』を選んだが、水城は『続行』を選んだ。
月島は水城の方を訳すと、審判はそれに首を振って『それは認められない』と零す。
何とか説得しようと月島が交渉していると相手側のロシア人達が横槍を入れてきた。
『お前ら日本人は女に頼らなきゃ俺達ロシア人に勝てねえのかよ!』
『ママに泣き寝入りか!!子供みたいに小さい日本人にはお似合いだな!』
月島がロシア語でどうにか水城の参加を認めさせようとしているのを見て、女に頼る情けない男と見られていた。
いや、そこは否定はしない。
女であるが水城の攻撃力はその辺の男とそう変わらない、またはそれ以上であるのだ。
水城が抜けても勝つ自信は月島達にはあるが、水城も戦力の一人なのだ。
女を頼るヘタレだと言われれば月島も腹が立つ。
訳さなくてもニュアンスで感じ取った鯉登と谷垣だってそうだ。
しかしここで手を上げれば不戦勝となり、情報どころか犬も帰ってこない。
『なんだと貴様』と凄む鯉登を月島も腹を立てながらも止めた。
だがそんな月島をよそに水城は日本人の観客を連れ出し、一歩前に出てニタニタと馬鹿にした笑いを向けるロシア人に近づく。
「あんた達こそ女に負けるのが怖くて駄々を捏ねているのかしら?あんた達こそ負けたらママに『まけちゃったよ〜!』って泣きつくくせにママ以外の女には強気に出て…そんなにママが怖いの?」
観客から日本人を連れ出したのは、訳させるためだった。
水城は逃がさないために日本人の観客の腕を組む。
観客は男性で、上半身裸の女に密着している日本人の男は水城の柔らかい肌に触れ、ほんのりと頬を染めていた。
それを鯉登は目ざとく見つけ、何か言いかけたのを月島と谷垣に口を塞がれ止められてしまう。
2人としてはこれ以上揉め事は回避したかった。
本音を言えばもう色々バカップルが面倒くさかった。
観客は訳すよう言われたのか、素直に水城の言葉をロシア語に訳す。
挑発し返され、ロシア人達は簡単に乗った。
ニタニタとした笑いを浮かべていたが、水城の挑発に顔を険しくさせ月島達から水城へと視線を向け睨む。
屈強なロシア人の睨みに通訳してくれている日本人はビクリと肩を揺らし顔を強張らせ青く染めたが、水城は嘲笑めいた笑みを絶やさずロシア人の睨みを受け流していた。
『調子に乗るなよ…女のくせしてスチェンカに参加する度胸は認めてやる…だがな、ステェンカは神聖な男の祭りだ…弱い女風情がしゃしゃり出て恥をかかせないよう俺達なりの気遣いだったんだが、気づかないニブチンチャンだったとはなぁ?…鈍いお前に教えてやるよ……女が参加して勝てるほどスチェンカは甘くねえんだよ…とっととおうちに帰って編み物でもママに教えてもらいな』
水城と向かい合わせに立っていたロシア人が水城に近づき見下すように睨む。
見下されるのは文字通りもあるが、外国人と日本人では背の高さが違う。
特に水城は女というのもあって見下してくるロシア人よりも背が低かった。
そんなロシア人の言葉を日本人の観客が訳してくれた。
その言葉に水城は鼻で笑う。
「ハッ!何が神聖な男の祭りなのかしら?ただあんた達は女に負かされるのを観客達に見られたくないだけでしょう?か弱いか弱い貧弱な女なんかに負けるなんて男じゃないものねぇ?そのチンポ、本物なのかしら?」
日本人の観客が訳したその言葉を聞き、相手側のロシア人だけではなく、観客にいるロシア人さえも水城の言葉に青筋を立てていた。
水城の挑発はこの場にいる全てのロシア人を敵に回した。
ロシア人は水城の前に歩みよりまるで殺さんばかりの鋭く冷たい目で睨みつけるように水城を見下ろす。
『そこまで言うのなら参加を認めてやる…顔に新しい傷がつけられたと訴えたって誰も相手にしないからな…今から負けた悔し涙を拭くハンカチでも用意しておくんだな』
「あら、ご忠告ありがとう…でも傷が残っても今更だもの、無駄な気遣いだったわね…それにハンカチを用意するのはあんた達じゃない?ああ、ごめんなさいね…用意するのはハンカチじゃなくて泣きつくためのママだったかしら?」
長身のロシア人に見下ろされ睨まれれば男でも足がすくむだろう。
しかし水城は腰に手をやり胸を張って挑発めいた笑みを浮かべ、自身もロシア人を睨みつける。
谷垣は挑発しまくる水城にハラハラと見つめ、鯉登は不機嫌そうに顔を顰めていた。
月島は軍人時代の水城を知っているため勝気な水城に驚きはなかったが呆れていた。
『参加していいってさ〜』と戻ってきた水城を真っ先に鯉登が問い詰める。
「この馬鹿者!!何を考えてるんだ!!」
案の定鯉登の怒号に水城は顔を顰め耳の穴に指を突っ込んだ。
「試合に出してもらったんだからいいじゃないですか!」
「そういう問題ではない!!なぜそこまでして試合に出たがる!!何度も言うようだがお前は女なんだぞ!これ以上傷が残ったらどうするんだ!!」
水城は鯉登の言葉にムッとした。
今まで流してきたが、やはり腹を立てていた。
雪乃は、杉元水城となってから女として意識されたことはあまりない。
吉平と尾形と寝てはいたが、軍人に扮していたため2人から女扱いされたことはなかった。
再会した時も尾形は変わらない態度だったし、アシリパ達も男装している水城を受け入れて普通に接してくれていた。
白石は女と知ってもゴリラだなんだと元々女扱いはしていなかった。
杉元水城である今、水城は昔のように女であることを諦めていた。
男として生きるつもりはないが、水城は川畑雪乃に戻らない限りは男同様の行動はやめないだろう。
それを鯉登は分かっていない。
いや…分かるわけがないのだ。
鯉登にとって雪乃は杉元水城と名を変えようとも、男として道を歩もうとも、雪乃は雪乃なのだ。
どんなに姿が変わろうと愛した女には変わらない。
だから心配し、怒っているのだ。
鯉登は水城の気持ちを分かっていないが、それは水城も同じである。
鯉登の心配や不安を水城は分かっていなかった。
水城は鯉登から顔を逸らすようにそっぽを向く。
「傷が残ろうと鯉登少尉殿には無関係です」
そう言って水城は鯉登から離れ谷垣の後ろに隠れる。
水城を目で追っていれば自然と鯉登の視線は谷垣に向けられ、恋人に避けられた悲しさと頼られる谷垣への八つ当たりに鯉登はギロリと谷垣を睨みつける。
トバッチリを受けた谷垣は必死に鯉登と目を合わせないよう逸らしていた。
『話し合いはもう済んだのか?』
試合は水城達待ちだったため、審判が不機嫌そうに声を掛けてきた。
月島はチラリと鯉登を見た。
鯉登はまだ言い足りないと言わんばかりに不機嫌そうにしていたが、この際無視することにした。
鯉登のご機嫌伺いをしていると時間がいくらあっても足りないし、せっかく試合に出れることになったのにこれ以上グダグダしていると追い出されるだろう。
月島は色々無視し審判に頷いて返した。
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