(139 / 274) 原作沿い (139)

月島に運んでもらった食事をテーブルに置いた後、ベッドに歩み寄る。
ベッドには水城が横向きになって眠っており、鯉登は水城を見下ろすようにベッドの端に座る。
出ていく前はただ横向きで寝ていたのだが、鯉登がいないことで冷気が布団の中に入ってきたせいかシーツに包まれるように丸まって眠っていた。
眠りは深いらしくギシリと軋む音がしても水城は身じろぎ一つしない。
顔に掛かっている髪を梳くように払えば水城の顔があらわになる。
くうくうと眠る水城の寝顔はつい前まで敵対していたとは思えないほど無防備だった。


(やっと、雪乃を取り戻すことができた…やっと…)


正確に言えば取り戻したとは言えないが、少なくとも拒絶は消えたはず。
相変わらず頑固な女だと思いながらもその頑固さも鯉登には愛おしく感じるものだから恋とは不思議なものだ。
その彼女の"一部"が鯉登の手に戻ってきた。
これは大きな一歩だろう。
水城は吉平の事や尾形との関係を理由に鯉登を拒んできた。
否、鯉登だけではなく、養母である静子さえ水城は拒んだ。
父から養母の様子は聞いているらしいが、養母でさえ水城を動かすことはできなかった。


(しかし…なぜそこまでして金塊を欲しがる?あのアイヌの少女に恩があるのだろうか…そもそもなぜわざわざ東京から遠い北海道にいたのだ?)


水城からこれまでの事は聞かされていない。
吉平に命じられて軍人として生きていた事、吉平と尾形と関係を持ち、尾形との子供を産んだ事、そして鯉登を拒む理由…それらは話してくれたが、なぜ東京にいたはずの水城が北海道にいたのか、なぜ世間から言わせれば眉唾物だとしか思えない話を信じてまで金塊が必要なのか、なぜ命を懸けてまでアイヌの少女を守ろうとするのか…水城は鯉登に全てを話していない。
冷静になってやっと気づく疑問点に鯉登は怪訝と水城を見つめた。
金塊が欲しがる理由はただ単に金が欲しいからだろうか。
アイヌの少女を守ろうとするのはただの恩返しだろうか。
東京から北海道に渡ったのはいつ鯉登と再会するか分からないから東京や鹿児島から遠い北海道へと渡ったのだろうか。
水城の事は再会してから分からない事だらけだった。
一瞬、男の影が脳裏に浮かんだ。
しかしすぐに首を振ってその影を追い出す。


(いや…考えすぎだ……そうだ…いくら雪乃の金塊探しの影に男がいたとしてもだ…雪乃は私の物だ…今も昔も…例え他の男と子を成そうとも…)


水城の事が分からなくなってきた。
鯉登ははたと水城から好きだと言われたことはない事に気づく。
態度からして好かれてはいるのだろう。
まだ愛してくれているのだろう。
だけど言葉にはしてくれなかった。
それに気づけば鯉登の心に暗い影が落ち、グッと拳を握り締めた。

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