(140 / 274) 原作沿い (140)

ふと水城は深い眠りから目を覚ます。
シーツに包まって眠っていたようで、寒さはないが起きたばかりだからか呆けていた。
のそりと体を起こせば冷気が肌を刺すように触れる。
『あれ、なんで私裸なの?』と寝ぼけてそう思った時、声を掛けられた。


「雪乃、起きたか」


呆けたままそちらに目をやれば鯉登がおり、水城はなぜここに鯉登がいるのかと考える。
どうやら寝ぼけて記憶がないようで、しかし、その記憶はすぐに蘇る。


「お、音之進…」


水城は昨夜の事を思い出しのか、顔をこれでもかと赤く染める。
裸のままなのを思い出し水城は慌ててシーツで顔半分を隠すように潜り込み目線をあちこちに泳がせた。
まるで生娘が意中の男と初めて一夜を明かしたような様子に鯉登は目を瞬かせた後笑う。


「何を今更恥ずかしがっているんだ?お互いの裸を見た仲だろう?」

「そ、そうだけど…それとこれは違うじゃん…」


笑われて不満顔を見せる水城に鯉登は目を細めて笑い、ベッドに座りシーツで体を隠している水城の頭を優しく撫でる。


「体は大丈夫か?」

「え?体?」

「ああ…その、昨夜は無理をさせてしまったからな…心配していたのだ」


体調を聞かれ首を傾げたが、鯉登の言葉に再び水城の顔が真っ赤に変わった。
昨日は最初こそ鯉登が水城に付き合って行為をしていたのに、いつの間にか水城が鯉登に付き合うハメになっていた。
水城は最後あたり記憶が曖昧で必死だったためか、あまり覚えていない。
ただ『もう許して』と何度も鯉登に許しを請うたのは覚えている。
自分のあられもない姿を鯉登に晒してしまったという恥ずかしさから顔が茹蛸のように赤くなっているのが分かり、シーツで隠れた。


「…だ、大丈夫…丈夫だけが取り柄だから…」


少し間を置いて水城からの返答が返ってきた。
それにほっと安堵しながら『そうか』と返した。
顔が見れないが、隠れる前に顔が真っ赤になったのを目撃しており、何よりその声色は色事に疎い鯉登にも照れが交じっていると分かるほどだった。
しかしそれがまたくすぐったくて気持ちがいい。
鯉登が柔らかい気持ちで見てるのを気配で感じ、更に気恥ずかしく思う。


「着替えたいから…服、頂戴…」


鯉登は着替えたが、鯉登も月島に起こされるまでは裸だった。
どうやらお互いの服はベッドから放り捨てられて床に散りばめられていたようで、水城が起きるまで食事を終えて手持無沙汰だった鯉登がまとめておいた。
まとめていた軍服を水城に渡すと、水城はおずおずと手を出して受け取る。
あっち向いてて、と言われたので仕方なく背を向け水城が着替え終わるまで待っててやる。
今更裸を見られて恥ずかしがることはないだろう、とは思ったが口には出さなかった。
再会したばかりのように『出て行って』と言われないだけマシだろう。
水城には言えないが、『出て行け』と言われたのを鯉登は若干トラウマ化していた。
衣擦れの音が余計に意識してしまい、鯉登は別の事を考えて気を逸らそうとしたが、無理だった。
やっと愛した女性と再会し、一線を越えることができたのだ。
意識するなという方が無理である。


(一度手に入れたらまた味わいたくなる…厄介だな…)


最後あたりはもうはっきりとした記憶がなかった。
お互い熱に溺れ、水城は薬が切れてへとへとだっただろうにまだ欲が尽きない鯉登に付き合って最後には気絶同然に終わった。
本当は今だって水城を抱きたいと思っているし、こうして水城に背を向けていたが、あの時の水城のぬくもりや肌の柔らかさなどを思い出してたまらない気持ちになる。
だが昨夜であれだけひいひい言っていたのにまた無理をさせ嫌われたくはないと思い、鯉登は我慢をしていた。


「ありがとう、もういいよ」


ボタンを掛けながら水城は着替え終えた事を教える。
その声掛けに振り替えれば水城は雪乃の姿から軍服姿の水城へ戻っていた。
鯉登と向かい合い目と目が合うと水城は照れたように笑った。


「音之進、後始末してくれたんだね」


水城は起きてすぐに身体に違和感を感じた。
その違和感は、下半身にあった。
尾形や吉平で散々感じたあの嫌な感じ…中からどろりと出てくるそれがないことに気づいた。
ずっとお互いを想い合い愛し合う行為なんて経験がない水城は鯉登の優しさに照れてしまった。


「そのままにしていいか分からずとりあえずはと…その…すまん…」


水城が気絶同然に力尽きてしまった後、鯉登がその後の後始末をしてくれたらしい。
媚薬は中に出せばいいと月島に言われ(騙され)たが、その後は教えてもらっていない。
月島もまさか相手を気絶に追い込むほどの性欲を鯉登が持っているとは思っていなかったのだろう。
どうしようかと迷った鯉登は水城の中から己の出した精を出すことにした。
水城の中に出さなければならない理由があったものの、それはすなわち、妊娠してもいいというわけではない。
中出しと妊娠はこの場合は別の問題で、鯉登は媚薬が原因で我が子を授かりたくはなかった。
ちゃんと水城と想いが通じ合い、結婚を経て、子を授かりたかった。
きちんと順を踏んで子供を授かりたいのだ。
世の出来ちゃった結婚を否定するわけではない。
鯉登も場合によっては尾形のように既成事実をも辞さないが、水城の気持ちを無視するほど今は切羽詰まっていない。


「余計な事をしてしまっただろうか…」


妊娠は水城も望んでいないと思ったから中の精を出したが、それを水城が望んでいないのなら余計な事をしたことになる。
それはそれで嬉しいが、余計な事をしてしまったのかと鯉登はしょんぼりとさせて見せる。
それに水城は首を振って笑った。


「ううん、嬉しい…私の事を考えてくれてありがとう」

「そ、そうか!ならばよかった…」


首を振る水城の言葉に鯉登は自分の判断が間違っていなかったことに安堵した。
水城は鯉登が自分の事をちゃんと考えてくれていることが嬉しかった。
吉平との行為も尾形との行為も主に妊娠するための行為だったから、その気遣いが嬉しかった。
鯉登とて既成事実が欲しくないわけがないだろうに…それでも水城を想い考えて中から精を出してくれた。
それだけでも水城は彼の優しさを感じた。


「しかし…出したからといって妊娠しないわけではないのだろう?」

「まあね…避妊道具使ってなかったし…」


女の中に中出ししすぐに中からと言っても妊娠しないわけではない。
ほんの少しでも女の中に精が入れば着床し妊娠する事も可能なのだ。
鯉登はそっと水城の手を取り、真っ直ぐ彼女の琥珀色の目を見つめる。


「もし子供が出来たら責任を取る…だから、もう私から離れようとしないでくれ…」


媚薬のせいで中出ししなければならなかった(と月島に言いくるまれた)とはいえ、出したのは鯉登だ。
水城と別れるつもりも、これきりにするつもりもないとはいえ、責任を取らなければならない。
鯉登の言葉に水城は目を瞬かせ鯉登を見る。
その声色からもその表情からも彼が真剣なのだという事が伺えた。


「…音之進…その事、なんだけど……私…まだあなたとはいられない…」

「!…それは…私とは一緒にならないということか…?」


本当は水城も頷きたい。
再会しただけでも奇跡なのに、鯉登はまだ自分を愛してくれている。
裏切ったのも同然の自分を。
それだけでも彼には感謝してもしきれないのだが、それでも水城はまだ鯉登と一緒になれない。
その言葉に鯉登は目を丸くさせ、その表情をまるでこの世の絶望とばかりに青くさせた。
それに勘違いさせてしまったと気づいた水城は慌てて意味を否定する。


「そうじゃないわ!そうじゃないの…私はもうあなたから逃げる気はないわ…だけど…一緒になるのは…元の関係に戻るのは…全てが終わった後じゃ駄目かしら…」


全て、という言葉に怪訝とさせる。
何に対して全てなのか、と。
この旅が終わったらなのか、それとも水城の気が済んだ時なのか。


「全て…?」

「この争奪戦が終わった時…私はアシリパさんの相棒だもの…あなたと再会して前の生活に戻りたいからこの争奪戦を抜けるなんて無責任な事できないわ…」

「………」


鯉登は不服そうに表情を作る。
いや、不服だし、不満だらけだ。
自分が知らないうちにあのアイヌの少女と深い絆で結ばれてしまっているらしいが、鯉登からしたらだから何だという話だ。
せっかく再会し水城と復縁できたというのに、また待たなければならないのか、と。
それもこの争奪戦はいつ終わるか分からないのだ。
一年未満で終わるかもしれない。
でも逆に言えば数十年、十数年で終わるかもしれない。
下手をすれば一生終わらない可能性も高い。
その感情を隠さず鯉登は眉間にしわをよせた。
そんな鯉登から水城は視線を逸らして更に続ける。
その様子はどこか言いにくそうにしていた。


「それで…あの……とても言いにくい事なんだけど…」

「なんだ?」

「…もし…もしよ?もし…私とあなた…第七師団が敵に戻ったら…ごめんなさい、私は例えあなたでも容赦はしないわ」


水城の言葉に鯉登は自分の息が止まったように感じた。
突然の水城の言葉に鯉登の思考は停止し、水城を凝視する。
それでも水城は続けた。


「鶴見中尉には感謝しているわ…私だけだったら樺太になんて渡るのも難しかっただろうしこんなに早く進むことはできなかったでしょうね…だから鶴見中尉には感謝しています……でも…私はアシリパさんを第一に考えて行動するわ…第七師団があの子に危害を加えないというのなら大人しくしているけれど…だけどあの子を傷つけるというのなら容赦はしない」


そう言って水城は逸らしていた視線を鯉登へと向ける。
鯉登は驚いたように目を丸くした。
強い意志を持ち確かな敵視も感じるその瞳に鯉登は驚いた。
そして、疑問に思う。


(どうしてそこまであの少女を想う…そこまでする理由があるというのか…)


鯉登には分らなかった。
なぜそこまであの少女を深く思い、それを行動に移すのか…が。
それは鯉登が少女と関りが薄いからというのもあるのかもしれない。
水城にとってアシリパが自分の鶴見だというのに気づいていないのかもしれない。
もやっとしたものが鯉登の胸の内に浮かぶ。
醜い男の嫉妬だ。
2人の間にある絆に鯉登は雪乃の傍に自分がいない空白の月日を強く感じさせ嫉妬してしまう。
しかし、水城の表情からして本気なのだろう。


「お前の気持ちは分かった…だがこれだけは答えてほしい」

「なに?」


容赦をしない、という言葉を軽く受け止めてはいない。
鶴見や月島から『不死身の杉元』の話を聞く限りでは言葉通り容赦はないのだろう。
元々敵対関係にあったのだ。
和解し身体を重ねたからと言って根本にある警戒心をそうやすやすと解けるわけがないのは理解していた。
分かってくれたことに水城は安堵したが、条件のように問う鯉登に首を傾げた。
条件のように、と言ったが、これは条件なのだろう。
詳しくは聞かないからこれだけは答えろ、という。
首を傾げる水城に鯉登は真っ直ぐ見つめ…


「私はお前が知りたい」


そう問いかけた。
鯉登の問いを予想していなかった水城は彼の言葉に目を瞬かせた。
彼は真剣な表情で水城を見つめており、水城は鯉登の言っている意味が分からなくて首を傾げる。


「知りたいって…?」

「全てだ…お前がどうして私から離れたのかは分かった…あの男(吉平)や尾形との関係も分かった…尾形との間に息子を産み育てているのも分かった…しかし、それ以外は分からない」

「それ以外…」


知りたいと言われても何を知りたいのかが分からなかった。
知りたいも何も昔からの仲なのに?と水城は思うが、鯉登の言葉に納得する。
鯉登は言葉通り全てを知りたいのだろう。
なぜ金塊を必要としているのか、なぜ北海道に来たのか、なぜ命を賭してまでアイヌの少女に肩入れするのか…
全てを知りたいのだろう。
それを聞いて水城はそういえばと思う。


(そういえば…お兄様達の事は伝えたけど…たったそれだけだったわ…)


兄や尾形や体の傷ばかり気にしすぎて鯉登にはあまり自分の事を伝えていなかった。
鯉登は色々話してくれたのに、水城は固く口を閉ざし彼を拒んでいた。
しかし、と水城は思う。
しかし、全て話していいのだろうか、と。


(音之進を信用していないわけではないわ…でも…音之進の後ろには鶴見中尉がいる……鶴見中尉が音之進を利用しないとは限らない…アイヌを利用しないとは限らない……あの子を…静秋を利用しないとは限らない…)


鯉登を疑っているわけではないし、信用していないわけではない。
彼は確かに敵対している第七師団の一員ではあるが、鯉登音之進としての人間は信頼している。
きっと彼は言わないでと言えば約束は守ってくれるだろう。
だけど彼が守ってくれていても情報というものは人に話せば話すほど流れる。
特に鶴見は情報将校としての実力は本物だ。
今になって水城は息子がいることを隠さなかったことを後悔した。


(静秋だけは守らなきゃ…静秋だけは…)


静秋は水城の宝だ。
アシリパも当然大切ではあるが、それと同等に大切に思っているのだ。
鯉登の事は愛している。
けれど例え鯉登でも静秋を傷つけるならば、対立し決別しても構わない。
それほど水城は静秋を愛していた。
あれほど拒み人間ですらないと思い込んでいた息子を。


「実は…」


考えた末、水城は話した。
ただし、真実は決して話さなかった。
金塊を探すのは、色々と大金が必要だから。
アシリパを必要以上に守ろうとするのは、今は相棒で、以前路頭に迷いかけた時に救ってくれた恩があるから。
北海道に来たのは、金塊の噂と鯉登達から離れたかったから。
水城は嘘と真実を入り混じって話した。


「そうか…」


鯉登はその全てが真実ではないことは気づいていた。
水城の様子がおかしいとかではなく、勘というべきだろうか。
ただ水城が話したくなければいつか話してくれる日まで我慢強く待とうと思う。
死んだと言われ続けてきた恋人を今まで待ち続けたのだ。
それに比べればどうってことない。


「雪乃、頼みがあるのだ」

「頼み?」


水城も全て信じて貰おうとは思っておらず、信じてくれるなら信じてくれた方がいいが、信じなくてもそれはそれでいいと思っている。
水城は全てが終われば真実を鯉登に話すつもりだった。
深く突っ込んでこないことに安堵していると鯉登の言葉に首を傾げた。
頼み、と聞き少し緊張した面持ちで鯉登を見上げる。


「アイヌの少女を取り返した後でいいんだ…叔母上に会ってくれないか」

「…っ!」


頼み、とは鯉登の叔母であり水城の養母である静子に会いに行ってやってほしいというものだった。
その鯉登の頼みに水城は顔を強張らせ息を呑む。
それに気づきながらも気づかないふりをし、鯉登は水城を見つめる。
鯉登の表情から真剣だというのが伺えて、水城は一瞬口を開くのを迷う。


「それは…」


――会いたい。
水城の心はそう囁いた。
もうあれから何年経っていると思ってるの?吉平ももういないのだからいい加減会ってもいいじゃない、と。
母は一人になってしまったのだから娘の自分が傍にいてあげたっていいじゃないか、と。
水城は揺らいでいた。
母に会いたい。
会いたくないわけがない。
あんなにも愛情をくれた人なのに。
実の娘のように愛してくれた母なのに。
会いたいのに会えないのが辛い。
だけど吉平との契約がまだ水城の体を、心を縛り付けていた。
水城は俯き首に触れる。
そこは何もないのに、水城には首輪が存在しているかのような無機質の物を触れているように感じた。


「…会えない……会えるはずがない…」


囁くような水城の言葉に鯉登は怪訝とさせた。
俯いているため水城の表情は分からないが、なぜそこまで母を拒むのか分からなかった。
顔の傷が原因だろうか。
それとも結婚もせず1人で息子を産み育てている事に負い目を感じているのだろうか。


「理由を聞かせてくれ…雪乃が一番辛いのは分かっている…叔母上に会うのを拒むがお前が一番叔母上に会いたがっているのも…だが私も叔母上を助けたいのだ……叔母上も叔父上も…拾い子のお前との婚約を許してくださった…その恩に報いたい…だから…理由を教えてくれ、雪乃…なぜそうまでして叔母上を拒む…」


静子は日に日に体調を崩していると聞く。
鯉登は第七師団の少尉として北海道に住んでいたため便りでしかそれを知る術はない。
正月の集まりも雪乃が死んだと聞かされてから行かなくなり、家どころか部屋から出なくなったと聞く。
今はまだ母やカナ達周りのおかげで崩れかけている心は保たれている状態であるようだが、それもいつまでもつか分からない。
年々痩せ細り、美人だと言われ羨まれてきたあの美貌が失われていく。
鯉登も何度か叔母に会いに行ったりと気に掛けてはいるが、母でさえ滅多に会えないほど静子は部屋にこもっているため鯉登が来たからと言って会えるわけではなかった。
そもそも静子にとって鯉登は会いたくない人間なのだろう。
鯉登と会うと死んだ娘を思い出してしまう。
そのためか、あれから鯉登は叔母の姿を一度として目にしたことはなかった。
鯉登は懇願した。
本当に叔母を想い、心配し、会ってほしいと思っていた。
しかしそれでも…情に訴えても水城は首を縦には振らなかった。
鯉登の問いに水城は俯いたまま暫く黙り込んだが、震える声で答える。


「お母様の記憶の中の私と今の私はあまりにも違いすぎるわ…」

「確かに叔母上の知る雪乃は昔の姿だ…だから今の姿を見て最初は驚かれるだろうが、最初だけだ…叔母上はお前を愛しているのだ…外見が異なっていようと娘には変わるまい」

「…お兄様達を奪ったのは私のようなものだもの…お母様が元気を失くされた原因は私…会う資格はないわ…」

「吉平達は自業自得だ…あの二人は雪乃がいなくともああなる運命だった…雪乃のせいではない…事実、叔母上は一度として雪乃を責めるようなことは言っていない」


鯉登は何を言っても言い返してくる。
水城は思い付く理由を述べるがその度に論破されてしまった。
水城はもう出せる理由がなくなり、困ったように眉を下げ口を閉じる。


「音之進…お願いよ…分かって……私はお母様に会う資格がないの…」


まるで聞き分けのない子供に言い聞かすように呟く水城に鯉登は口を開きかける。
『資格がなんだ』と言ってやりたいが、水城の決意は固い事に気づく。
こうなればきっと梃でも動かないだろう。
鯉登は今すぐ答えを出させるのは諦めた。


「分かった…今は諦めよう…だが、この事は頭の端でもいいから入れておいてほしい…いつでもいいのだ…もしも会ってもいいと思えるようになったらでいい…言ってくれ…私がいつでも叔母上に会わせてやる」


そう言って鯉登は抱きしめてくれた。
我が儘を沢山言ったのに鯉登は許してくれた。
それさえ今の水城には罪悪感となって変換されるが、同時に心が暖かくなる。
鯉登の優しさに甘えてしまう自分が腹立たしいけれど、こればかりは折れるわけにはいかなかった。
ただ鯉登の言葉通り、水城はいつか『会いたい』と言える日が来ると望みながら頷いた。

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