※花沢家のその後について捏造してます。
※原作でその後の花沢家の事が描写されても話が可笑しくならない以上書き直しません。
※鯉登君がちょっと執着系ヤンデレ(?)化してます。
※鯉登君に夢見ている人は引き返してください。
※
ちょっと接吻&露骨な表現注意。
※夢主が悪女(風味)です。
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鯉登の言葉に水城は周囲の雑音が全て消えた。
目を丸くさせ鯉登を驚いた表情で見上げる。
鯉登も真剣な表情で水城を見つめており、驚きで言葉を失いながらも水城は『冗談ではなさそうだ』と冷静に思う。
「それって…」
「養子という形になるが雪乃さえよければ鯉登家にお前の息子を迎え入れるつもりだ…父もそれを承諾してくださっている…母にはまだ話していないが雪乃の子供ならば問題はないだろう」
「そんな…だって…あの子は…尾形の子で……私の血は流れてるけど…川畑家の血なんて流れてないのに…」
「血を重視するのならそもそも私達の両親はお前との関係を許してはいない…こう言ってはお前に悪いが…雪乃だって川畑家との血の繋がりはないじゃないか…そんなお前を嫁に迎え入れようとしていたのだぞ…血が繋がらないからと雪乃の息子だけを拒む理由にはなるまい」
血の繋がりを重視しているのなら、そもそも、父も母も雪乃との仲を認めたりはしない。
流石に一人で決めていい事ではないので、父に相談したら承諾してくれた。
元々父は雪乃を可愛がっていたのもあったし、何より女性を遠ざけていた跡継ぎが結婚を望む女がやっと現れたのだ…異性関係を拒んできた息子に頭を悩ませていた父親としてはコブ付きだろうと大歓迎なのだろう。
問題は母だが、母も雪乃を娘のように可愛がっていたし父同様どんなに縁談を勧めても拒み続けた息子が落ち着くのなら血の繋がらない孫だろうと受け入れてくれるはず。
水城は鯉登を見上げていたが、目頭が熱くなるのを感じて鯉登の肩に頭を寄せてもたれる。
鯉登の言葉は勿論嬉しい。
いや、嬉しいなんて言葉じゃ足りないくらい鯉登の気持ちが嬉しかった。
だけど簡単にはいかない問題もいつくかある。
「…あの子ね…尾形とそっくりなの…瓜二つで……きっと大きくなっても尾形の面影は消えないわ…旭川ではあなたと尾形の仲ってあまり良くないように見えたんだけど…そんな尾形とそっくりなあの子をちゃんと息子として認めて愛してくれるの?」
それを言われてしまうと鯉登もすぐに返事はできなかった。
旭川で見た通り、鯉登と尾形の仲は最悪だ。
お互い水と油の関係で、決して交わらない存在だと思っている。
そんな男の顔に雪乃の子供はそっくりなのだという。
鯉登はグッと何か言葉を飲み込んだそぶりを見せ、空を仰ぎ、水城へ向き合う。
「大丈夫だ!!お前の息子ならばあの男の顔そのままだろうと愛せる!!」
断言できるまで少し間があった。
しかしその言葉に嘘偽りはないように水城は聞こえた。
一世一代の事を決意したような鯉登に水城は目を瞬かせて呆けていたが、次の瞬間、吹き出し笑い出す。
「な、なぜ笑う…!?」
「だって!音之進ったら嫌そうな顔しながら言うんだもの!隠せてないわよ!」
あはは、と声を出して笑う水城に鯉登はむすっとさせた。
こちらは真剣に考えて出した答えだというのに、当の本人に笑われてしまえばへそを曲げてしまうというもの。
「茶化すな雪乃!私はちゃんと考えて答えたのだぞ!」
「ふふ…うん、ごめんね…嬉しかったから、つい…」
そう言って水城は鯉登にそっと寄り添うように体を寄せる。
顔を埋めるように寄り添い、鯉登の背中に腕を回しながらお礼を言った。
「ありがとう、音之進…尾形の事嫌いなのにあの子を受け入れてくれようとしてくれて…あなたのその気持ちがとても嬉しいわ…」
嫌いな男との子供。
それもその容姿はその男と瓜二つ。
赤ん坊の時でさえ尾形にそっくりなのだから、きっと成長しても父親に瓜二つに育つのだろう。
その男と水と油の関係の鯉登が、その子供を好きになれる要素はない。
なのに鯉登はそんな子供を息子として鯉登家に迎え入れようとしてくれている。
否定せず、考えて考えて…ちゃんと向かい合おうとしてくれている。
それが嬉しかった。
例え息子を拒むことで水城からも拒まれると恐れたからとしても、考えてくれることが嬉しかった。
水城の言葉にそっとその体を抱きしめる。
「でもね、一つだけ心配事があるの…考えてたのはその事…」
「心配事?」
「そう…あなたも尾形の出処を知ってるでしょ?」
水城の言葉に鯉登は頷く。
尾形の血筋は公になっているわけではないが、知っている者は知っている。
それは尾形の異母弟である勇作が隠しもせず堂々と腹違いの兄を兄様と呼んでいたためだろう。
鯉登は勇作と知り合いだったからその時によく聞いていた。
その時は尾形という男になんら興味もなく、妾だ情人だ愛人だというのはよくある話だと少年ながらに流していた。
しかしはっきり言って本心は少なからず失礼であるが勇作の父を軽蔑していた。
それは雪乃を一途に思い続けた純粋さからだろう。
鯉登も男だから性のはけ口に遊郭を使用したり、好きでもない女と子供を作ったなどというのには嫌悪はなかった。
それこそ立場が上になる男達には愛人だ不義の子だとはよくある話だからだ。
ただ、子供を作っておきながら見捨てた事に嫌悪をしていた。
中将ともあろう男が例え芸者との子供であろうと、せめて子供だけは男としての責任をとるべきだと鯉登は思う。
そう思うのは周りの環境なのだろう。
両親も叔父夫婦も、お互い恋愛ではなくお家結婚だった。
しかし彼らは一度として妻を裏切ったことはない。
そんな彼らを見て育ち、雪乃を一途に想っているから妾とその息子を切り捨てた花沢幸次郎の行動が理解できないのだろう。
しかし、話が逸れたがそれのどこに心配があるのだろうかと鯉登は首を傾げる。
そんな鯉登に気づいたのか水城は鯉登のぬくもりを感じながら呟くように続ける。
「あの子は妾の子でも花沢家の血を継いでる…今花沢家がどうなっているかは分からないけど…復興したいのなら花沢家はあの子を喉から手が出るほど欲しがるんじゃないかと思うの……尾形がどんな立場なのか分からないんだけど…あの人が花沢家の人間になるとは思えないから……」
――ねえ、今花沢家ってどうなってるの?
と、問う水城に鯉登は言うのを戸惑う。
水城の不安が表すように鯉登の服をきゅっと握り、その手は震えていた。
きっと水城は子供と引き離されることが恐ろしいのだろう。
実際水城の読みは当たっていると言える。
だから言うのを戸惑った。
水城の不安を拭ってやることはまだできないが、包み込み守ることは出来る。
鯉登は苦しくないよう気を使いながら水城を抱きしめる力を強くして答える。
「花沢家は当主と跡取りを亡くし衰退している…今は奥方や両家の親戚たちで何とか保てている状態だがいつ崩れるか分からない立ち位置にいる…あの男だけが花沢家の血を引くたった一人の人間になってしまったからな…誘われはしたらしいが断ったと聞く…だが脱走兵になる前までは見合いなどしつこく勧められているとも聞く…恐らく血の引いた子供だけよこせという事だろう」
「じゃあ…」
「…お前と尾形の間に子供がいると知られれば花沢家は何がなんでも子供をお前から取り上げようとするだろうな…尾形はともかく今のお前はただの一般人なのだ…後ろ盾がない以上無理矢理でも取り上げようとしても可笑しくはない」
鯉登の言葉に水城は顔を上げる。
その顔色は悪く見えた。
息を呑み、『そう…やっぱり…』とだけこぼれたその声色は震えていた。
鯉登の服を握る手は力を入れすぎて白くなっていた。
(隠した方がよかっただろうか…大丈夫だと言ってやって抱きしめてやればよかっただろうか…)
隠したくなかったわけではなかった。
ただ…隠したとして、もしも隠したことによって無警戒に過ごし尾形との子供を花沢家に盗られたとなったら…きっと今以上に水城は悲しみ苦しむはず。
だから隠さなかった。
だが、かと言って悲しむ姿を見たいわけではない。
肩にもたれる水城に鯉登も寄り添う。
「安心…しろとは断言できないが……私達が息子を出来る限り守ってやる」
「…私達?」
安心できるならいくらでも嘘を言おう。
だがその結果が水城を傷つけるなら、嘘はつけない。
水城は鯉登の言葉に首を傾げた。
鯉登が守るならば『私』で十分なはず。
だが鯉登は『私"達"』と言っていた。
水城と鯉登だけなら『守ってやる』ではなく『守ってやろう』で済むはず。
首を傾げる水城に鯉登は頷く。
「そうだ…川畑家と鯉登家が子供の後ろ盾になればいくら花沢家でもそう簡単には手を出せまい」
鯉登の言葉に水城は目を見張り、恐る恐る鯉登を見上げた。
目を瞬かせて見上げる信じられないと顔にデカデカと書いてある水城に鯉登はふと笑みを浮かべる。
「水城には悪いが子供は鯉登家を継ぐことはできまい…私とお前との間に子供が生まれなかったら鯉登家を継ぐこともできるだろうが…すまない、きっと難しいだろう…だが…川畑家を継ぐことは恐らく出来る…お前と川畑家は血の繋がりはないが叔母上にとって…川畑家にとってお前はもう川畑家の一族なのだ…その血を継いでいるという事は子供は川畑家の血を継いでいるという事になる…いくら花沢家でも川畑家を継ぐ子供に手を出し両家の怒りを買う愚行はしないはずだ…」
花沢幸次郎と鯉登平二 、川畑秋彦は同郷の出であり、友人関係だった。
そのためその息子達は付き合いもあったし、三家は良好な関係を築いてきた。
今だって鯉登家は両家を気にしているし、要望があれば無理難題以外は手助けだってしている。
水城には言えないが実は遠縁の花沢家の娘とお見合いを通り越して婚約騒動があったが、なんとか阻止した事もあった。
それからも父・平二が本気で怒りを見せるまで鯉登に見合い話を持ってくるという過去がある。
傍から見たら花沢家が強引なだけだと思うだろう。
友人関係を築いてきた家に父である平二が『縁を切るぞ』と切れるほど、花沢家は跡取りを強く望んでいるということだ。
鯉登は『潔く諦めればいいのに』と思ったが、自分も雪乃を諦めきれていなかったのもあって思うだけにとどまった。
そんな過去から花沢家は手段を選ばないのを鯉登は知った。
だからこそ水城の予想は全て否定できなかった。
「でも…あなたが認めてくれても…」
鯉登がちゃんと考えてくれているのは分かった。
浮気のような事をしたのにそれでも愛してくれるのが嬉しい。
嫌いな男の血を継いだ子供でも息子として受け入れようとしてくれるのが嬉しい。
でも鯉登との結婚は、ただ普通の結婚ではないのだ。
千景や鯉登が言う通り母は血の繋がらない鯉登との子供ではない静秋も受け入れてくれるだろう。
初孫として可愛がってくれるだろう。
平二は息子と話し合い、受け入れてくれている。
心配なのはまだ水城や静秋の事を聞かされていない鯉登の母であるユキだ。
それでも色々あるかもしれないが、いずれは受け入れてくれるはず。
だけど周りはどうだろうか。
結局身内だけ認めてもらっても周りを蔑ろには出来ない。
水城はそれを懸念していた。
「ならば家を出るか」
つい俯いてしまう水城だが、鯉登の言葉に息を呑む。
驚き言葉さえ忘れ水城は恐る恐る鯉登を見上げた。
「私はずっと雪乃を思い続けてきた…それこそ私にもいくつもの見合い話や出会いは当然あったが、それでも私は断り続けた…私が欲しいのは都合のいい妻でもなく雪乃を忘れたくて恋をするための女でもない…私は雪乃だけが欲しかったのだ…雪乃の全てが手に入れば他などどうでもいい…子供だってそうだ…あの男と瓜二つといえど雪乃の子供だ…愛さない理由がない……二人を周囲が傷つけるというのなら、私は鯉登家を出てもいいと思っている」
頭を殴られたような感覚に襲われた。
思ってもみなかった事だった。
鯉登が家を捨てると言うなんて。
兄を亡くし、その責任を感じ、それでも鯉登は必死に鯉登家を継ぐために勉強をしてきた。
ボンボンだ坊ちゃんだと陰口を言われても前だけを見てきた。
そんな今までの努力を全て捨てるようなことを、今、鯉登は、言ったのだ。
「なに、いってるの…だって…音之進がいなくなったら…音之進までいなくなったら…鯉登家は…」
「父達には申し訳ない事をしたと後悔をして生きていくことになるだろう…しかし…家に齧りつき雪乃を失うならば私は家を捨てる事も厭わない…私が欲しいのは地位や名誉や金ではない…雪乃なのだ…」
鯉登の言葉に水城は、きゅ、と唇を噛み、顔を見られないように俯く。
そんな水城を見下ろしながら鯉登は水城を閉じ込めるように更に抱く力を強くした。
「家を出てどうやって生活をしていくっていうの」
「どうとでもなる…下働きだってするし雑用だって構わない…雪乃さえいてくれれば辛くはない」
「貧乏は嫌だって言ったら?」
「む…最初は苦労させてしまうかもしれんな…しかし、必ず金の事で雪乃に苦労はさせんつもりだ…子供にもひもじい思いはさせたりはせん」
水城は鯉登の服を握る自分の手が震えているのが分かる。
怖い、と思った。
一件無計画で都合のいい妄想だと思えるだろう。
しかし鯉登はきっとそれが出来るほどの実力を持っている。
坊ちゃんよろしくその道での経験は浅いため世間知らずなところも相まって最初は上手くはいかないだろう。
だが、彼は波に乗るのではなく、彼が波を作りそれに乗るのだ。
鯉登は単純ではあるが、馬鹿ではない。
不器用であり、器用なのだ。
だから、怖い。
簡単に背負ってきたものを捨てることが。
兄の分まで頑張ってきた努力を水城のために全て捨てることが出来るのが。
ドシン、と鯉登の期待や気持ち…全てが自分の肩に乗った気がした。
だが一番怖いのは…
(それが嬉しいと心から思ってしまった自分だわ…)
きっと鯉登は本気だ。
その場のノリで言うほど愚かではないのは水城が一番知っている。
その未来は固くしっかりした道になるかもしれない。
だけど一つでも間違えれば泥…いや、底なし沼になる。
簡単に輝かしい未来を捨て、底なし沼に足を突っ込む恐怖さえ厭わない彼の重い愛情が…水城は心底嬉しいと思った。
(家を出たらお金もないもの…きっと長屋に三人で住む事になるわ…坊が大きくなったら私も働いて…どこがいいかしら…残りを貰える定食屋さんがいいかしら…ああでもきっとこの顔だもの…表に出る仕事は出来ないわね…でもなんとか仕事を見つけて音之進を支えて…ちゃんと坊には学校に行かせて…ああ、どうしましょう…考えるだけでもとても楽しいわ…)
誰だって貧乏は嫌だ。
だけど貧乏でも愛する人たちと暮らせるのだ。
三人で暮らす。
きっと北海道で静秋と住んでいた家のようにボロボロで狭いのだろう。
鯉登ばかりに負担をかけさせたくないから静秋が手のかからない時期になったら自分も働こう。
この顔だから体力を生かして裏方の仕事を探そう。
それか、以前のように教師を目指していたのを生かして塾を開こうか。
貧乏でもやはり静秋にはちゃんと学校に行かせたい。
細々とした食事でも三人で囲って食べればきっとどんな高級食材にも負けないくらい美味しく感じるのだろう。
夜は三人ボロボロでペチャンコな布団で川の字になって眠るのだ。
そして水城は毎晩夫と子供の寝顔を見つめて思うのだ『ああ、なんて幸せなのだろうか』と。
勿論理想は金持ちとまでいかなくていいから金に困らない程度の稼ぎがいい。
でも、貧乏な自分達を想像すると水城はたまらない気持ちになる。
(きっとお母様は悲しんでしまうわ…伯父様も伯母様も私を恨むでしょうね…音之進だって自分が家を出たらどうなるかくらい分かってるはず…だけど、この人は家を出ると言ってくれた…安息や安定を捨てると言ってくれた…一歩間違えたら三人で首を括らなきゃいけないかもしれない道を歩もうとしてくれた…そう…―――)
――全て私のため。
水城はその言葉にゾクゾクした。
その感情は恐怖ではなく、喜びだった。
目の前のこの男は自分のために全てを捨てると言ったのだ。
金持ち特有の夢見がちだと誰もが笑うかもしれない。
でも、それでも、この男はたった一人の女のために全てを捨てるのだ。
令嬢を妻に迎え入れ、水城を愛人として囲う安定した選択だってあったはずなのに。
それなのにこの男は地位も金も全てを捨てようとしている。
よくある金持ちの道楽だと思わないか。
傷だらけでコブ付きの女なのに世間知らずな人の良い坊ちゃんはその女に夢中になって入れ揚げて。
周りがどれほど止めても坊ちゃんは女に貢ぐのをやめない。
そして気づいた時には女は消え、金も地位も名誉も人望さえ全て消え失せ…坊ちゃんには何も残されていなかった。
よくある話だ。
好いた男が自分のために全てを捨てると言われ優越感を感じない女などいるだろうか。
少なくとも水城は優越感を感じている。
誰かと勝負しているわけではないのだが、地位も名誉も金も人望もある鯉登がこんな傷だらけで子供がいて男装して暴れて女として失格の自分のために全てを捨てると言った。
水城はたまらなく気持ちが高揚し…―――鯉登の頬に手を添えてその唇に己の唇を重ねた。
「雪乃…っ?」
押し付けるだけのキスであったが、離れがたくて長くキスをする。
身長差からつま先立ちをしてキスをする水城に鯉登は目を丸くした。
驚きながらも鯉登は水城を無理に剥がそうとはしなかった。
リップ音をも意識する余裕は水城にはなく、静かに離れる。
瞑っていた瞳をゆっくりと開けば、鯉登のビックリとした顔が写り目を細める。
「愛してる」
「…っ!」
「愛してるわ、音之進…」
頬を撫でるように触れながら水城は囁く。
その言葉に鯉登は目を丸くさせ息を呑んだ。
固まった鯉登を愛し気に見つめながら水城はもう一度キスをした。
「あなたが好き…あなたがいなくなったら私はきっと狂ってしまうほどあなたが愛おしいわ…ねえ、音之進…あなたは?私のことを愛してくれる?あなたに家を地位をお金も全て捨てさせようとしてる女だけど…あなたは愛してくれるかしら…」
艶めかしい視線に鯉登はゴクリと喉を鳴らす。
――愛してる。
水城の口からその言葉を聞いた瞬間、鯉登は身も心も震えた。
ずっと水城から聞きたいと思った言葉だった。
その言葉に鯉登は己の感情の高まりを感じ、考えるよりも本能で動く。
寒くないようにとコートの前を閉めるように気を配っていたのにそんな余裕はなくなり、鯉登は腕を逃がさないと言わんばかりに水城の腰に回し水城を引き寄せ、その口を己の口で塞ぐ。
水城がした軽いキスではなく、あっと驚き軽く開かれた水城の口内に己の舌を入れ、水城の舌と絡ませる。
「っ!、ん、っ、んぅ…ンっ」
水城は驚いたように目を丸くしたが、すぐに鯉登を受け入れ瞳を閉じ自分も鯉登に答えて舌を絡ませる。
角度を変え呼吸さえ忘れるほど激しい口づけを鯉登から送られた。
水城も鯉登の首に腕を回して好いた男との深い口づけに夢中になる。
暫くお互いキスに夢中になっていたが、鯉登の気が済んだのかやっと長く深い口づけを終わらせた。
その時にはすでにお互い息が荒れ、水城の口と鯉登の口を銀の糸が繋ぎ、そしてプツリと切れる。
長く激しい口づけに半分呆けている水城を鯉登はお互いの唾液で塗れている己の唇を舐めながら見つめる。
水城の唇も濡れており、水城の口端からは飲み込め切れず溢れた唾液が垂れていた。
その光景が煽情的で、誘われるままに鯉登はその垂れている唾液を舌で下から拭い取ってやり、唇も舐めとってやる。
期待しているように開かれている口内に鯉登は再び舌を入れる。
今度は先ほどより抑えめに舌と舌を絡ませて水城との口づけを交わす。
二度目の激しい口づけに水城は力が抜けてしまい、必死に鯉登に抱き着く。
そんな水城に腰に回した腕の力を強めながら支えてやりながら、離れがたいように啄むようにキスをした後、鯉登は水城の額に己の額をくっつけ、水城の熱っぽく艶やかな琥珀色の瞳を見つめた。
「愛してる…その気持ちは今も変わらない…いや、今の方がより深くなっている…今すぐ誰にも見られないように閉じ込めたくて仕方ないくらいだ」
その言葉に水城は嬉しそうに笑みを浮かべた。
気づかれないよう内心は鯉登の言葉に満足げに笑っており、鯉登の隠すことのない独占欲にゾクゾクさせた。
それがまたたまらなかった。
しかし同時に純粋な嬉しさもあった。
水城は嬉しそうに微笑み、軽いキスを送った。
「全てを捨ててまで私やあの子の事を考えて思って愛してくれようとしてくれてありがとう…私もあなたを愛してるわ」
水城の言葉に鯉登は水城を抱きしめる。
気持ちを表すように力いっぱい抱きしめられ水城は『音之進ってば…苦しいわ』とクスクスと笑った。
その水城の笑みに鯉登は更に抱きしめる力を強くし、水城にすり寄った。
甘えん坊になった鯉登に水城はクスクスと笑みを零しながら背中に手を回した。
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