(171 / 274) 原作沿い (171)

アシリパは尾形と共に流木を探しに行っていた。
そしてキロランケから離れた場所まで進むと、尾形が『何か重要な事を思い出したのではないか?』と問われ、彼に振り返って見上げる。


「刺青の暗号を解く鍵が分かったんじゃないか?」


『アシリパ、俺に教えてくれないか』と尾形はアシリパに近づき彼女の前にしゃがんで目線を合わせる。
出来るだけ怖がらないように、穏やかに、優しく問う。
しかし彼の目は相変わらず無感情であった。


「ここまで命をはって戦った分の報酬が欲しいだけだ…白石や…水城と同じようにな…」

「…………」


水城という言葉に微かにアシリパが反応した。
しかしアシリパはだんまりを貫き、何も言わない。


「国を作れるほどのカネなんて俺はいらん…独り占めしたところでのんびり暮らせるどころか自分が新たな争奪戦の中心になりかねん…ならば……息子と…静秋と二人で暮らせるだけの報酬が欲しいんだ…あいつの母親を守れなかった罪滅ぼしに…」


尾形はそれでも続ける。
黄金に興味はない。
だが、ここまで命を賭けて付いてきた報酬が欲しいと願った。
一度熱で死にかけた、その分を。
勝手についてきたと言えばそうなのだが、少なくともアシリパを守ってきたのは偽りにはなるまい。
それに母を守れなかった罪滅ぼしとして、水城と自分の息子である静秋を引き取って暮らそうと思っている。
そう言えばアシリパの目に揺らぎが見えた。


「暗号の解き方を教えてくれればアシリパもこの殺し合いから『上がり』だ…コタンに帰って婆ちゃんに元気な顔を見せてやれ…故郷の山で鹿を獲って自由に生きていけばいい…そうだろアシリパ!」


脳裏に故郷と祖母や従妹が思い浮かぶ。
鹿を獲って食べたり和人に売ったりしていた日々。
様々な動物を狩って食べて感謝して、ただそれだけの日常だ。
しかしその日常が今は恋しかろう。
祖母にも会いたいだろうに会いに行くことさえできない。
こんな大人たちの汚い争奪戦なんて巻き込まれたくなかったはずだ。


「アイヌのことはキロランケやソフィアに任せたらいい…お前がそんな重荷を背負うことはない―――教えてくれ、アシリパ」


アイヌは川の砂金を取ることを嫌っていた。
ならその砂金で得られた金塊などもっとも嫌うものではないだろうか。
アイヌに誇りを持っているのなら撤退すべきだ。
アイヌの事を思うのならキロランケ達がいるではないか。
何もアシリパが父の起こした騒動に巻き込まれる必要はないのではないか。
尾形の言葉に今まで黙り込んでいたアシリパが口を開く。


「じゃあどうしてキロランケニシパから離れたところで聞き出そうとするんだ?」


その言葉に尾形の表情が静かに消えた。
しかし強い風の音と共に先ほど聞いた古い銃に使われる黒色火薬の間延びした銃声が尾形の耳に届き、弾かれたように後ろを振り向く。
すぐに双眼鏡で音の方へ覗き込むと…


「―――――」


尾形は双眼鏡に写り込んだ光景に息が止まった。


―――不死身の杉元!!


強い風に吹かれる雪の隙間から…水城の姿が見えた。
それを見た瞬間尾形は目を見張り、呼吸さえ忘れるほど驚く。
双眼鏡を静かに下げ、愛銃を鳴らした。


(やっぱり生きてたか)


尾形は確かに殺したはずだった。
止めを刺せなかったが、あの怪我で生きているのはまさに奇跡…まさに不死身だ。


(いや…不死身だったな、あいつは…)


自分の思考に突っ込みながら尾形は銃を構える。
あれほど殺したいほどの熱情を感じていたのに、不思議と水城が生きていると知っても冷静でいられた。


「追っ手か?」


突然銃を構える尾形にアシリパは怪訝とさせる。
双眼鏡でギリギリ水城と分かったのだ。
肉眼では相棒と呼ぶ女が来ていることは分からないのだろう。


「アシリパ!!」


少し離れた場所でソフィアがアシリパを呼んでいた。
その声にアシリパは振り返る。


「ソフィア達が心配してる…戻らないと…」


尾形が警戒し、ソフィアの声もどこか焦りを見せていた。
アシリパはこのままバラバラでいるよりもソフィアと合流しようと足をそちらに向ける。
それを見た尾形はアシリパに向けて言った。


「網走監獄で水城とのっぺら坊が撃たれた時…キロランケがどこかに合図していた」


尾形のその言葉にソフィアの方へ振り向いていたアシリパが尾形へと目線を向ける。
尾形は見上げる青い目を見つめ返しながら銃を降ろし、細いアシリパの腕を掴んでソフィア達とは逆方向へと歩きだした。




―――一方、そんなアシリパの危機に気づかない水城達は…


「ホパラタだぁ!!」

「いっけええ!!」


流氷に乗って流されていた。
ちなみに進んではいるが、後ろに進んでいる事に水城達は気づいていない。

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