アシリパの目の前で、己の放った矢が真っ直ぐ尾形の右目へと刺さった。
「―――ッ!!」
右目に矢が当たり尾形はガクリと膝をつき倒れかける。
倒れる時、尾形はアシリパに痛みに顔をしかめるのではなく、ニタリと笑って見せた。
その顔はまるでアシリパが人を殺した事に喜んでいるようだった。
いや、嬉しいのだろう。
清らかな少女が自分を殺すことで穢れたのだ。
これで自分と同じになる、と。
しかし…それを拒む者がいた。
―――水城だ。
水城は静かに尾形の背後に歩み寄り怒号を浴びせた。
アシリパの弓が彼の目を刺さったのを見て駆け寄り、まず膝をついて体勢を崩す尾形の頭を鷲掴み仰向けにさせ、持っていた折り畳みナイフで右目をえぐる。
痛みの信号か無抵抗のはずの尾形の足や手がビクンと跳ねる。
右目が抉られると毒の付いた目玉はその辺に捨てられる。
そして水城は抉り目玉が取られた目に口をつけ血と共に毒素を吸い込む。
飲み込まず口いっぱいに入った毒と血を雪の上に吐き捨て、また口をつけて血と毒を吸い込む。
『じゅぅ〜〜〜』と音を立ててそれを何度か繰り返した後布を引き裂いて簡易の包帯を作った。
「この流れでは死なせない!!あの子を人殺しにはさせない!!お前の『死』にこれっぽっちも関わらせるものか!!!」
作った包帯を両目ごと頭に巻き付け、尾形の血で口元を赤く染めながらそう叫んだ。
尾形がそれを聞いているかは分からない。
だがアシリパに人を殺させないし、穢さない。
尾形なんかの死にあの子を関わらせる気など一切ない。
ならば汚いもの全て自分が引き受ける。
水城は彼女と相棒となってからそうしようと決めた。
戦争で散々人を殺してきたのだ。
今更この手や身体が血で染まっても分かりはしない。
尾形は気を失う直前、耳に届く水城の声に気づかれないよう薄っすらと口角を上げた。
それに気づかず水城は尾形の血を拭おうとした時、バガッと氷が割れる音が聞こえ振り返る。
そこには呆然と座り込むアシリパの姿があった。
しかしアシリパの目の前の氷が割れ、海流に流されようとしていた。
「アシリパさん!!!」
「―――!」
初めて人に向けた。
弓を、矢を、自分の作った矢が初めて人間の肉を刺した。
アシリパは倒れるときに見せた尾形のニヤリとした笑みが忘れられなかった。
呆然としていたが、水城の声にハッと我に返る。
水城の方へ目をやれば水城は手を差し出していた。
「私の手を…!!」
あの時。
あの、網走の時に差し出されたが結局は見送った手。
アシリパはその差し出された手に戸惑いなく伸ばし触れた。
「水城ッ!!」
触れた小さな手を水城は掴み引っ張って己の胸に抱き込む。
アシリパも水城の胸に飛び込みギュッと力強く抱き着いた。
「やっぱり生きてた…!」
「言ったでしょ?不死身だって…」
水城の胸に飛び込みアシリパは息を吸う。
嗅ぎなれた水城の匂いがした。
血や硝煙の匂いに交じってる優しくも強い母の匂い。
その匂いがアシリパは好きだった。
抱き着くアシリパの頭を水城は優しく撫でる。
「元気そうでよかった…ちょっと重くなった?」
「…………」
ちょっと意地悪な事を言うとアシリパは無言を返す。
無言で返すアシリパに水城は『ふふ、ごめん、冗談だよ』と微笑んだ。
「立てる?アシリパさん…さあ、行こうか」
白石がこっちに来たがるリュウを引き留めてくれていた。
白石の気遣いを感謝したいがしかし、再会を噛みしめたいがそうもいかない。
キロランケの事もあるため動かなければならない。
再会の感動は後に取っておこうと水城はアシリパに立つよう言う。
しかし…
「離れない…!」
アシリパは立とうとしなかった。
微かに首を振るアシリパに水城は嬉しく思いながらも困ったように表情を浮かべる。
ぎゅっと抱きしめ離れようとしないアシリパを宥める。
「うん…でもキロランケを追わないと…ね?」
離れたがらないアシリパに水城は、きゅぅん、と母性本能が擽られる。
水城もアシリパとの再会を噛みしめたいのは同じだが、心を鬼にしなければならない。
しかし、そうではないのだ。
「なんか…瞼がくっついて離れないッ!!」
アシリパの言葉に『えッ』と零す。
よく見てみれば水城のコートの金属製のボタンが丁度アシリパの右目の瞼にくっついて離れなかった。
「しかしなんだこの柔らかいふくらみは…!!なんだ水城!!なにを詰めている!?なにこれめちゃくちゃ柔らかいッッ!!」
「それただのおっぱい」
ぐぐぐと引っ張って取ろうとするアシリパは手に触れるむにっとさせる柔らかいモノに混乱していた。
それは水城のお胸様で、水城は結局豊原では時間がなくてサラシが買えずここまで来てしまった。
丁度抱き着き瞼がついた場所がお胸様だった。
無理矢理引っ張って取ろうとするに水城は慌てて止める。
「待ってアシリパさん!動いちゃ駄目ッ!!無理に剥がすと瞼が破けちゃうわ!!」
水城の言葉にアシリパは『そ、そうか!』と抵抗をやめた。
そして、お胸様におててを当てさり気なく揉む。
服が邪魔で分かりにくいが、しかしとても柔らかい感触にアシリパの手は止まるところを知らなかった。
そんなアシリパにセクハラされているが相手がアシリパだから無抵抗の水城が言っていたのは、鯉登が手の平にカナヅチをくっつけた時月島が言っていた言葉だった。
そして、それはすなわち…
水城は遠慮していた白石を呼ぶ。
「シライシッ!ちょっと来て!!」
「どうかした?」
リュウを押さえてくれていた白石は呼ばれて水城の傍に歩み寄る。
なぜ呼ばれたのか分からない白石に水城は…
「オシッコかけて!!」
「え?」
「え!?」
水城の言葉にその場が静まり返った。
オシッコ…え…オシッコ???と白石も流石に首を傾げる。
『何をかけるって!?ちょ…待て!水城!ちょっと待て!!!』と叫ぶアシリパを無視し水城はキリリとした顔で白石を見上げる。
「オシッコ出る!?白石!!」
水城の言葉にアシリパは抵抗する。
しかし瞼が破けないようにと水城に胸に押し付けられて抵抗も無駄に終わる。
柔らかい胸に顔を埋めアシリパは幸せ者だが、これから起こる未来に不幸となるだろう。
キリリとさせる水城のふざけたような言葉に白石もつられてキリリとさせ…
「膀胱が破裂しそうなほどパンパンだぜ!!」
そう告げた。
それはアシリパにとって死刑宣告と同等と言える。
「ちょっ…やめ…ヤメロォ!!おいッ!!やめろおおおお!!!」
嗚呼…アシリパ哀れなり…
アシリパの抵抗も虚しく、白石はズボンのファスナーを下げ一物を取り出し―――膀胱に溜め込んだオシッコを水城とアシリパにぶっかける。
2人は女性、白石は男性。
どこの色物AVだ、と誰かが思う。
誰かが。
「もういいゾ〜〜白石もういいゾ〜〜」
瞼はオシッコの暖かさで無事に剥がすことが出来た。
ジョボボボボと勢いよく向けられる水鉄砲(意訳)に顔面をべっちゃべちゃにしながらアシリパは十分だと告げた。
「オイ杉元!泣いてんのかよ!」
ジョボボボボと水鉄砲(意訳)の標的がアシリパから水城に向けられた。
からかう白石に水城は…
「お前のオシッコだ」
そう言ってオシッコを瞳から零した。
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