病院に着くとすぐに手術となった。
看護婦を一人連れて医師は尾形に麻酔をした後手術室へと消えた。
水城達は外で手術が終わるのを待つ。
日が暮れかかった時、手術室から医師が出てきた。
『出来るだけの事はした…しかし呼吸も血圧も弱くなっている……明日の朝まで持たないだろう』
医師の言葉をエノノカが訳す。
エノノカを通したの言葉にアシリパは沈んだ表情を浮かべ顔を俯かせた。
そんな彼女を後ろに立つ水城は何も言わず、ただ見つめる。
「どうする?」
「待つ」
医師はすでに病院内に帰ってしまった。
尾形が朝まで持たないと言われ谷垣が水城達を見た。
その問いに応えたのは地位的に上の鯉登が答えた。
しかし、水城は医者が消えた病院へと足を向ける。
「杉元?どうした?」
それに気づいたのは白石だった。
水城が何も言わず病院へ向かうのに気づき、声を掛ける。
水城は扉に手をかけながら白石に振り向かず答える。
「…なんとか助けられないか頼んでみる」
そう静かに答えるものだから白石も『そ、そう』としか返せず見送った。
水城が尾形とそういう関係だったのはみんな知っている。
アシリパが水城と尾形は夫婦に戻れるのだと思ったのと同じく白石以外は同じように思っていたのだろう。
だが白石は水城と尾形の間に惚れた腫れたなどない事を気づいており、そして、尾形の気持ちも気づいている。
ただ水城の気持ちが読めなかった。
尾形に対して警戒しているように見えて、傍にいる事も触れる事も許している。
だけど、心から彼に対して信用はない。
身体を重ね身を委ねているくせに、本心では尾形を警戒しているのだ。
それが分からなかった。
情に流されているようにも見えると言えば見えるが、水城が何を考えているのか全く読めない。
今だってそうだ。
尾形を死なせないのはアシリパに人を殺させないためなのか、それとも…
(まさか人生初の修羅場が杉元だったとは…)
素人童貞よろしく、白石は命の修羅場はいくつも経験しているが、男女関係での修羅場は経験したことはない。
してみたいなどとは一度も思ったことはないが、まさか人生初の修羅場の経験がゴリラだなんだと女扱いしていない水城になるとは思ってもみなかった。
そう思いながら白石はチラリと鯉登を見る。
…が、すぐに目線を逸らした。
(うわぁ…鬼だ…鬼がいる…)
鯉登は明らかに不機嫌そうな表情で水城の後ろ姿を見送っていた。
自分の女がいけ好かない男を気に留めるのが許せないのだろう。
この坊ちゃんはある程度は融通が利く男であるが、恋仲の女の事になるとガッチガチに縛り付けるタイプらしい。
『束縛する男は嫌われるぞ〜〜』と言いたいが、由竹、怖くて言えない。
白石だって男だ。
モテたいと思うがこんな修羅場が待っているのならしばらくは素人童貞でいいかな、と呑気に考えていると――――
「尾形が逃げた!!!」
水城の声が耳に届く。
大きな声で叫ぶ水城の言葉に一瞬でその場が緊迫した空気に変わる。
水城は慌てた様子で扉を開け、アシリパの元へと駆け寄る。
「裏へ回れ!!白石と谷垣は向こうへ!!まだ遠くへ行っていないはず!!アシリパさんは私から離れないで!!」
慌ただしく指示を出し、水城は銃を取りだしてアシリパを守るように傍により、すれ違いに鯉登が中に入っていった。
医師に何とか助けられないか頼みに行った水城は手術室に入ったが、そこにいたのは寝ている尾形ではなく…血を流し倒れている医師だけだった。
窓は開けられ風でカーテンが靡いていたので窓から外に出たと水城は推測する。
尾形が逃げたとなれば、真っ先に狙われるのはアシリパか自分だ。
尾形はアシリパを穢したがっていたし、尾形と自分は因縁で結ばれている。
この場で尾形が狙う獲物はこの二人しか考えられなかった。
白石と谷垣が行動したのを見送りながら水城もアシリパと共に尾形を探しに行動に移す。
しかし、逃げたわりには尾形の足取りが発見できないでいた。
辺りは薄暗くなってきており、早くしないと捜索は困難となるだろう。
気だけが焦っていた時、アシリパの耳に馬の足音が聞こえそちらに目をやる。
「水城!!尾形が逃げる!!」
「!」
そこには白いシーツを被り馬にまたがって逃げる尾形の姿があった。
自分達から遠ざかる姿にアシリパは慌てて水城に声をかける。
水城は尾形へと向かって走り銃を構える。
「撃つのか!?」
「馬を狙う!」
せっかく生きるために手術させたのに撃とうとする水城にアシリパがそう問う。
しかし水城は尾形ではなく馬を狙う気でいた。
だが、水城は銃が下手だ。
案の定的、馬にも尾形にも当たることなく…尾形は水城達から逃げてしまった。
水城は構えを解き、
(元気になって戻ってこい!ぶっ殺してやるから!!)
声にせず尾形に向けてそう言葉を送った。
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