(24 / 29) 少女時代 (24)

※若干性的描写+暴力注意

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雪乃は深く潜っていた意識を浮上させるように目が覚める。
寝起きのように頭がうまく働かず、呆けていると聞き覚えのある声が耳に届く。


「よう、孤児」


その声に雪乃は呆けていた意識がはっきりとし目を開いた。
声の方へ視線をやればそこには数年前に勘当された長兄、菊之丞がいた。
目が覚めこちらに気付いた雪乃に菊之丞はニタリと笑い、雪乃は『どうしてここに!?』と声に出そうとしたがうーうーと唸り声しか出なかった。
そこで雪乃は己の現状に気付く。


(拘束されている…?)


雪乃は体を起こそうにも縄で縛られて体を起こす事はできなかった。
それも腕を後ろへ回され手首にも縛られており、先ほどからうーうー唸っていたのも布で塞がれていた。
現状把握のため目線を辺りへ巡らせると明らかに人が住み着いていないボロボロの廃屋だった。
間取りは分からないがこの部屋は中側にあるのか四方壁か襖しかなく、窓は見当たらなかった。
そのため部屋は暗く、唯一の光は二つの蝋燭がむき出しの燭台だけだった。
雪乃は最初なぜこんなことになったのか思い出そうとするも中々上手くいかなかった。
しかし意識もはっきりしはじめたのか少しだけ思い出す。
あの時、カナと一緒に鯉登との待ち合わせに向かう途中に後ろから何かを嗅がされ気を失ったのだ。
目の前には菊之丞がおり、その後ろには数人の男がいるのだから、目の前の菊之丞達が雪乃を襲ったのだろう。
雪乃は何故か焦る事はなく冷静だった。
冷静にさてどうやって逃げようかと思っていたところ、自分以外の唸り声と男達の隙間から見慣れた着物の柄が見え、雪乃はハッとさせる。


(!――カナ!!)


雪乃はカナに気付くも男達は気にもせずただニタニタと雪乃を見下ろしていた。
その目は明らかに見下し、そして熱が籠っていた。
男達のその目に雪乃は嫌な予感を過らせる。
そんな雪乃など気にも留めず、菊之丞は雪乃の髪を掴み顔を上げさせる。


「久しぶりだなぁ雪乃…あれから3年か…随分といい女になったもんだ」


髪を掴まれた痛みに顔が歪んだが、菊之丞は気にもしない。
むしろいい気味だと思った。
自分が勘当されてから3年経った。
当時16歳だった女は今は19歳となり、体つきもきっと以前よりも良く熟しているのだろう。
早く薄い布を引っぺがしてその成熟する前の身体を抱きつぶしたくてたまらなかった。
だが、雪乃を攫ったのは強姦するためではない。
それも目的の一つだが、何より犯罪を犯してでも行動に移したのは…全て雪乃への復讐するためである。
菊之丞の言葉に雪乃はギロリと睨むように見つめる。
女の睨みなど痛くもかゆくもない菊之丞は嘲笑うように鼻で笑う。


「なんだよ…何か言いたげだなぁ?まあ、そうだろうな…てめえは卑しい身分のくせして親父達を騙し令嬢の立場を手に入れたんだもんなぁ…庶民に堕ちた俺なんかに攫われて縛られるなんてお嬢様にはさぞかし屈辱だろうなぁ」


菊之丞はあれから何度も家に尋ねたが、当然門前払いされた。
東京にいる父に会いに行くも勘当の事はすでに知らされたのか、こちらも会うどころか門前払いをされてしまった。
それから菊之丞は転落の一方だった。
坊ちゃんではなくなった菊之丞に金が沸いて出てくるわけがなく、女には見捨てられ住む場所もなく廃屋や廃寺を転々とする日々。
食う物も困っていたがその容姿を利用しなんとか駄目男を好む女を捕まえてヒモ生活をしている。
その女の金で売春宿を経営し今はやっと落ち着いた生活をしている。
安定はしていないが、以前の根無し草の生活よりはマシだ。
以前なら高級娼婦に面倒を見てもらっていたのに、高級娼婦は全て菊之丞を見捨てた。
我が儘も贅沢も満足にできないこの今の状況を生み出した雪乃に菊之丞は恨んでいた。
これは復讐だ。


「はよしもんそや!おい我慢できもはん!」

「まあ、待て…言ったはずだぞ、最初は俺がやるって」


静かに睨み続ける雪乃の顔が愉快でならなかった。
この顔がずっと見たかったのだ。
川畑家に居た頃いつも雪乃は自分と話している時澄ました顔をし、その目には軽蔑の眼差しがあった。
当たり障りのない言葉や笑みで周りを騙せても自分だけは騙せないと菊之丞は声を大にして言いたい。
だが、実際はそうではない。
確かに菊之丞の女や金にだらしないところはあまり好きではなかったが、軽蔑というよりは同情をしていた。
菊之丞は嫡男のプレッシャーに負けてしまったのだ。
雪乃は跡継ぎではないため全ては理解できないが、鯉登を見ていて嫡男というのは周囲に期待される目で見られる事を知っていた。
何をやるにしても嫡男だから当たり前、さすが嫡男だと周りは言う。
褒めないくせに少しの失敗をすればこんな嫡男でこの家は大丈夫なのかとボロクソに言う。
その期待に負けた菊之丞に雪乃は同情していた。
とは言えプライドだけが大きい菊之丞にとって、同情も軽蔑とさして変わりはしないだろう。
雪乃はハアハアと息を荒くする男達を見た後チラリとカナを見た。
カナの傍には一人の男がおり、カナが逃げ出さないように見張っていた。
とはいえ、見張りの男も雪乃を凝視しているため見張りの意味がないように見える。
カナは必死にもがいて雪乃を助けようとしてくれるが床に押さえつけられ身動きできずにいた。
涙目でこちらを見る姿が痛々しくて雪乃はカナのために一刻も早くどうにかしなければとどこか冷静に思う。


「さて…あれからどう成長したか…お兄様が見てやるよ」


待ちきれないと言わんばかりに興奮している手下の男たちを落ち着かせ、菊之丞は雪乃の胸元を力任せに開く。
力任せに開くと豊満な胸が露わになった。
16歳の時も思ったが、雪乃は胸が大きい体質らしく、雪乃の露わになった胸に菊之丞は勿論、後ろにいる男達も唾を飲み込んだ。
菊之丞は胸に目を奪われながら露わになった胸に触れる。
むに、と柔らかと若さからくる弾力が気持ちがいい。
それに豊満だから男の大きな手が掴んでも溢れるのもまたそそる。
雪乃を見れば嫌そうに顔を逸らし目を瞑っていた。


「…っ」


感じてはいない。
今はただ胸を揉んでいるだけで感じてはいなかった。
しかし好きでもない男に裸を見られ羞恥や屈辱はあった。
カリ、と突起を引っ掻けば雪乃がビクリと反応した。
ビクリと肩を揺らす雪乃に菊之丞は鼻を鳴らす。


「ハッ!なんだよ、嫌がっているわりには感じてるのか」


己の立場が優位だと思うと人間は強気になる。
だから隙が生まれる。
更に相手が乗り気ならばなおの事だ。
雪乃は菊之丞の言葉に目を細め、そっと菊之丞の股間へと足を滑らせた。
足の指で上下に擦ってやれば少し硬かったそれが更に硬くなり大きさも変化した。
雪乃の足にそれを擦られ気持ちよさに菊之丞は『っ』と息を呑んだ、その時――――雪乃は思いっきり菊之丞の股間を蹴った。


「――――ッ!!!」

「菊之丞さん!?」


油断していたのもあったし、何より興奮していたのもあった。
丁度いい硬さになっていた男根を容赦なく蹴られ、痛みは普通の時より強い。
蹴られた衝撃で後ろへ吹き飛ばされた菊之丞は股間を抑えてそのまま蹲って痛みに体を震わせていた。
悲鳴すら上げる事さえできない菊之丞に数人の男達は慌てて駆け寄った。
その間に雪乃は起き上がり冷めた目で蹲る菊之丞を見下ろし、彼に駆け寄った男達の頭を蹴って退かす。


「てめえ!何しやがる!」


菊之丞を足で仰向けにした雪乃は再び股間を蹴ろうと足を上げたが、それに気付いた男の一人が雪乃を後ろから抱きつき止めた。
女と男、しかも年齢差もあり、体の作りが違う。
雪乃は男に抱きつかれ菊之丞と離されたが、男の顔面に自分の後頭部を打ち付ける。


「ぅぐ―――ッ!」


痛みで手を離した男の腹部を蹴りつけ、男は仰向けに倒れた。
その仰向けに倒れ腹部を抑えて痛がる男の顔を雪乃は思いっきり踏みつける。
何度も、何度も。
見た目から華奢に見える雪乃が血が出るほど男の顔を踏みつける姿に男達は顔を青ざめていた。


「て、てめええ!!!弥七から離れろやァァ!!!」


しかし"たかが女"に怯み、仲間を蹴られて男達のプライドが黙っていられなかった。
叫んだ男は懐から懐刀を取り出し鞘を抜いて雪乃に切りかかった。
カナがそれに気づいて声を出した事で雪乃は気付き咄嗟に避けたが、思いっきり振りかぶったその刀は雪乃の顔に一本の横線を作った。
小さな傷のチリチリした痛みとは違いズキリと来る重い痛み、そして頬に伝うドロリとした液体の不快感を雪乃は感じながら気にも留めず切りかかった男の腹に膝を入れる。
その腹部に膝を思いっきり入れた男はそのまま尻もちをついてしまい、ドサリと尻もちをつく男の喉仏を雪乃は足で突くように叩きつける。
男は人間の急所を突かれ一瞬息が出来なかった。
前のめりに咳き込んで身動きできない男を雪乃は止めと言わんばかりに足を上げ頭を踏んで顔を地面に叩きつけようとした。
しかしそんな雪乃に次の男が襲って来たため雪乃は回避し蹴りだけで沈める。


「ッ、お、い!!雪乃!!!止まれ!!このガキが死んでもいいのか!!」

「…!」


雪乃は護身用にと父と母から柔道を習わされていたが、柔道は基本手を使う。
だが今は足しか自由に動かす事が出来ず、先ほどの動きは全て本能だ。
怒りで爆発しそうなのにどこか雪乃は冷静で次の動きを考えていた。
だが、それも終わりを告げる。
痛みが和らぎ我に返った菊之丞が見た光景は予想外のものだった。
菊之丞は力自慢を集めたつもりだったのだ。
だがその男達は一人の少女に反撃されそれぞれ蹲っている。
残っている男達も距離を置き隙を狙っていた。
菊之丞は咄嗟に転がっている懐刀を拾いカナを抱き寄せ、カナに向けて刀を突きつけた。
そこでやっと雪乃は動きを止める。


「お、大人しくしろ!!!でないとこいつを殺す!!!」

「―――――」


雪乃はそれまで冷静だった頭が沸騰するかのように熱くなるのを感じた。
怒りで我を忘れているように雪乃は菊之丞に歩き出す。
足を止めない雪乃に菊之丞は『止まれ止まれ!!』と叫びながら雪乃に向けて刀を振り回す。
しかし足を止めない雪乃に菊之丞はカナの首筋に刀の先を当てる。
刃先はカナの肌に食い込み、プツリと肌から血が垂れた。
痛いのかカナが顔を顰め、それを見た雪乃はやっと立ち止まった。


「ほ、本気だ!!俺が出来ねえと思ってんじゃねえぞ!!!もう俺には守る地位も金もねえんだ!!人一人殺したって怖くねえからな!!」


やっと立ち止まった雪乃に息を絶え絶えにそう叫ぶが、全く気迫がない。
元々ヘタレなところがあった菊之丞の脅しは怖くはなかった。
だが、カナを人質にされてしまえば従わなければならない。
雪乃は体の力を抜く。
それを見た菊之丞は近くにいた仲間にカナと刀を渡し、雪乃の顔を…女の顔を拳で殴りつけた。


「このクソアマァ!!!よくもやりやがったな…!!!遊んで終わらせてやるつもいだったがもう容赦はしねえ!!!てめえは売春宿に売ってやる!!!一生男どもの慰めもんにでもなってろや!!」


衝撃で倒れた雪乃を菊之丞は草履のまま何度も蹴りつけ、雪乃は身を守るように体を丸めるがそれでも菊之丞は蹴るのをやめなかった。
主人が蹴られるのをカナは涙を流して何かを叫んで止めようとしたが、首元の刀や男に押さえつけられ雪乃を助けには行けなかった。
そんなカナを気にもとめず菊之丞は息を荒げながら気が済んだのか雪乃の細い首を絞める様に片手で掴み持ち上げ、雪乃を睨みつける。
重い頭をだらりと垂らしながら雪乃も負けじと菊之丞を睨みつけた。
その睨みにすでに見下した少女はおらず、ただただ冷めた殺意だけが残っていた。
首を絞められ苦しいはずなのに表情をピクリとも動かさず菊之丞だけを睨むその目に怯みそうになるが、菊之丞にはカナという人質がおり強きに出れた。


「おい…抵抗すんなよ…こっちにはガキがいるんだからな!!僅かな抵抗でもしてみろ…!その瞬間お前の目の前でガキの喉を掻っ切ってお前を全身血みどろにしてやる!!!」


菊之丞にそんな度胸はないと雪乃もカナも知っている。
知っているが、それを無視するのも危険であった。
追い詰められ興奮している人間こそ何をしでかすか分からない。
雪乃は承諾したように睨んだその目を閉じ、一切の抵抗を止め体の力を抜いた。
力を抜き重くなった雪乃の身体を菊之丞は放り捨てる様に手を離した。
放り捨てられた雪乃はドサリと鈍い音を立て床に叩きつけられる。
それでも雪乃からは痛みを感じる表情は見えなかった。
ただ、自分のせいで抵抗もできない主人にカナが泣きじゃくるのを見て雪乃は安心させるように目を細めた。
その顔は先ほどとはうっと変わって穏やかで、だからこそカナの目からは涙が止まらなかった。


「おい、お前ら…存分に可愛がってやれ」


菊之丞は雪乃から離れた。
雪乃に股間を蹴られすでに萎えていた。
まだズキズキと痛みがあり興奮するにもしきれない微妙な反応である。
犯すのは他の男達に任せ菊之丞は男と交代しカナを見張る。
男達は菊之丞の言葉に一斉に雪乃に群がる。
蹴られた腹いせもあったが、何より雪乃は美しい。
男の刀によって傷があり血だらけだが、それでも…それを含んでも雪乃の美しさは衰えなかった。
10代だから体はいつも相手にしている娼婦よりも張りがあり若々しく、そのうえ豊満だ。
体さえあれば欲情するこの場の男達にとって美しく若い体の雪乃はいい餌だった。


(ピクリとも感情を動かしやしねえ…なんて気味の悪い女だ…)


まるで餌に群がる家畜のように男達は雪乃の身体を貪る。
挿入のため足の間に入り込む男の身体から見えるすらりとした白い足は男が動くたびに揺れ、男の欲情を駆り立てる。
菊之丞もジンジンと痛むそれが次第に蹴られた痛みとは別物になっていくのを感じる。
だが、今は雪乃を抱く気はなかった。
あのどんなに殴っても蹴っても顔色一つ買えない雪乃が恐ろしく見えた。
顔に出来た横一線の傷からジクジクと痛みがあるはずなのに痛みを感じさせない顔。
口を塞いでいる布と胸元までが真っ赤に染まっているその様も、男達を殺さんばかりのその目も菊之丞には恐ろしかった。


(一番安い宿に売ってやる…!俺を馬鹿にした罪をその身で知らしめてやる…!!)


傷物になったからもう雪乃はいい宿では売れないだろう。
売れるとしたらせいぜい数で勝負している安い宿だろう。
だが逆にそっちの方がいい。
そちらの方が雪乃は屈辱の中で生きることになるのだ。

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