(189 / 274) 原作沿い (189)

※ちょっとエッチ注意。

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水城は家を飛び出して少し離れた林へと身を潜めた。
木の陰に隠れ膝を抱えて蹲る。
室内だったためコートと軍服のジャケットは脱いでおり、感情のまま出て行ったので着物とシャツという寒さ対策などしていない姿だった。
外は太陽が沈んだのもあり、凍えるような寒さだった。
そのまま家に戻らなければ凍死するだろうというのは目に見えている。
だが、戻るに戻れない事情があった。
水城は悩みを抱えるように頭を抱えた。



「ああああ…やばいやばい…!アシリパさんに見られた!!」


白石や月島達に見られるのはまあいい。
本当はよくはないが、彼らは大人だ…見て見ぬふりをしてくれるだろう。
ただ、アシリパには見られたくなかった。
アシリパは水城を姉のように懐いてくれているが、それは水城だって同じだ。
水城はアシリパを無垢な妹のように可愛がっている。
そんな妹に彼氏との熱烈なキスを見られてしまったのだ。
彼女に失望されたらどうしよう、ゴミを見る目で見られたら泣く自信ある…と水城は沈みに沈んでいた。


「うぅ…音之進の馬鹿…」

「馬鹿とはなんだ、馬鹿とは」

「…!」


顔を手で覆って恥ずかしさに地面に埋まりたい水城はポツリと恋人へ愚痴をこぼした。
すると頭上から恋人の声がし、水城は顔を上げる。
そこには案の定追いかけてきた恋人が立っており、水城は鯉登と目が合いムスッと頬を膨らませ睨む。
しかし恋人への盲目さを持つ鯉登にしたら可愛いとしか思えず、効果はない。
ニヤニヤとしながら水城の隣に鯉登も腰を降ろした。


「馬鹿は馬鹿でしょ…アシリパさんの前であんなことして…」

「フン…分かっていないようだったからな…分からせてやったまでの事だ…それに月島達の前で散々しておいて今更じゃないか?」

「軍曹達はいいの!でもアシリパさんはダメなの!」


もーーっ!!、と頬を膨らませ怒った声を上げる水城が可愛い。
鯉登は『なんだその理屈は…』と零しながらも顏が緩んでいた。
恋人の怒りさえ今の鯉登には可愛く見えてしかたなかった。


「…それで…その…アシリパさん、どんな反応してた?」


ぷんすかと怒っていたが、水城の怒りはそれほど強くなかったのか、すぐに落ち着いた。
チラリと鯉登を上目遣いで見上げ、気になる事を問う。
そんな可愛い恋人の様子を見つつ、鯉登は『ふむ』と考えるそぶりを見せる。


「跪き頭を垂れていたな」


その言葉を聞き水城もアシリパと同じく跪き頭を垂れたくなった。
その代わりに顔を手で覆って俯いた。
そんな水城を鯉登は首を傾げる。


「何をそれほど気に病むことがある?私達は恋仲なのだから堂々としていればいいだろ」

「そうだけど…そうじゃないんだよぉ…」


鯉登としては恋人を愛しすぎて周りを牽制しているつもりだった。
まあ水城とイチャイチャしたいのが本音ではあるが。
尾形が逃亡し水城の傍からいなくなったという安心感もあったのだろう。
尾形が居なくなり、唯一のライバルとしたらアシリパしかいない。
はっきり言って、鯉登としてはアシリパに認められなくとも構わなかった。
結局どんなに否定しようとも最終的には水城は自分の腕の中に戻るのだから…、と鯉登はそう思って油断しているが、まだまだ水城のアシリパ愛の重さに気づいていなかった。
アシリパが駄目だと言ったのなら、やる。
ヤツは、やる。


「アシリパさんにそんな大人の汚いところ見せたくなかった…」


あまりにもしょんぼりとさせ、『汚い』とまで言われた鯉登は流石にムッとさせ機嫌を損ねた。


「…お前は私との関係が汚れていると思っていたのか」


機嫌を損ねる鯉登の言葉に水城は自分の発言に気づく。
水城はアシリパを清く見すぎているためか、愛し合う行為すら汚れて思えていた。
だが、それも本心だが、全て本心というわけではない。
眉を顰める鯉登の手に宥めるようにそっと触れる。


「ごめんね、そういう意味じゃないの…ただ…音之進も鶴見中尉を敬愛しているんだもの…分かるでしょ?」


触れている手を撫でると、鯉登の空気が和らぐのを感じる。
まだ表情は険しいので完全に機嫌が直ったわけではないのだろう。
今は怒っているわけではなく拗ねているだけだ。
同じ1人の人間を敬愛している仲間として、自分の気持ちを理解してくれると思った。


「分からん…鶴見中尉殿ならばお前との仲を知れば喜んでくれるだろう…私達の関係を心から応援してくれるはずだ」


鯉登は理解できなかった。
水城を飼いたがっていたのを隠さなかったほど水城を気に入っていたのだ。
お気に入りの二人が恋仲になれたことを親を除けば彼は誰よりも手放しで喜んでくれたはず。
アシリパのようにキス一つで大騒ぎすることもないだろう。
むしろ『アツアツだな』とお気に入りの犬たちの仲睦まじい姿に上機嫌になるはず。
それは水城も安易に想像できた。


「でもアシリパさんはまだ子供なの…大人顔負けの知識を持っていても心はまだ少女なの…だから…あまりアシリパさんの前であんなことしないで…」


鯉登は水城の言葉に納得がいかなかった。
子供だからと、少女だからと言うならエノノカとチカパシはどうなのだ、と。
2人だってアシリパとそう変わらない年齢じゃないか。
だけどそういう事ではないのだろうとも分かった。
水城はただ単にアシリパの前で女を見せたくはないのだ。
ずっと男として通してきた分、今更女として男と愛し合う姿を見せるのが恥ずかしいのだろう。


「だから…その……こ、この間みたいなのも…やめて、ね?」


水城は顔を赤くしながら鯉登に弱弱しい口調で頼む。
気恥ずかしくて顔を赤くしながらチラッと見上げてくる水城が可愛い。
鯉登は可愛い恋人の何気ない仕草に『ン゙ッッ』、と何とか堪え、男の威厳を壊さないよう表情には出さなかった。
鯉登は自分に触れている水城の手を掴み…


「アシリパがいなければいいんだな?」


強い口調でそう問いかけた。
水城はその問いに頭がついていけてないのか、目を瞬かせて鯉登を見る。


「…え?」


ハッと我に返ってもただそう声を零すしかできず、水城は嫌な予感がしつつも逃げるという選択肢を浮かべる思考までは浮かべなかった。


「アシリパがいなければ、いいんだな」


水城の零れた声に鯉登は律義にもう一度答えてくれた。
それでも水城は目を瞬かせるだけで思考がまだ追いついていなかった。


(アシリパさんがいなければって…宿の部屋を別にするってこと?)


アシリパがいなければ、という言葉でまず思い浮かべたのは宿の部屋をアシリパと別室にするというものだった。


「ま、まあ…それなら…アシリパさんが見てなければ別に…」


水城だってイチャイチャしたいのは鯉登と変わらない。
2人っきりになりたいし、触れ合いたい気持ちだってある。
アシリパに見られなければいいかと水城は頷いた。
頷いた水城を鯉登は嬉しそうに笑みを浮かべ、コートを脱ぎなぜか水城の後ろの地面に敷き始めた。
それに首を傾げていると…敷いたコートの上に押し倒された。


「…へ?」


ゆっくりと水城を気遣って静かに押し倒す鯉登が自分を上から見下ろす姿に水城は目が点となった。


「え、なに…」


いきなり押し倒され水城は再び頭が追いつかなかった。
戸惑う水城を気にもせず鯉登は水城に口づけをする。


「ちょ、っと…まって…な、に…ん、ン…っ」


水城は全くついていけない。
なぜ押し倒されるのか、なぜキスされるのか、完全に鯉登の説明不足だった。


「ん、ん…」


水城が『待って』と言いかけて開いた口を鯉登が己の口で塞いだ。
優しいキスに身を委ねそうになったが、着物の前を解かれシャツのボタンを外され水城は慌てて止めた。


「ま、待って!待ってってば!」


水城は我に返り慌てて鯉登の口を手で覆って止める。
その気だったのに止められ鯉登は不機嫌そうに目を細め水城を見下ろした。
その訴える目線を無視して水城も負けじとふてくされた表情で対抗する。


「そういうのやめてって言ってるの!しかも外だし!!言ってる事とやってる事が違う!」


ふてくされた表情を向けられても鯉登にしたらただただ『可愛い』としか受け取られない。
そんな明後日の方向へと思考をやっている恋人の考えている事など知らない水城は言っている事と行動が全く真逆だと怒る。
しかし当の本人である鯉登は、水城の言葉に何故か怪訝とした表情を浮かべ首を傾げた。


「違くはないだろ…アシリパがいなければいいと言ったのは雪乃だ」

「えっ…あ……え???どういうこと??だって…それって宿の部屋を別にするってことでしょ?」


そこで鯉登はお互いすれ違っていた事に気づく。
組み敷くんだまま鯉登は水城の鈍さに溜息を吐く。


「言葉通りの意味だったんだが…」

「言葉通りの意味……」


水城は呆れたような溜息を吐けられムッとさせたが、鯉登の言葉を口にして意味を理解しようとした。
ポクポクと木魚の音が聞こえるほど考えた末…


「ばっ…馬鹿っ!!なんでそうなるの!?」


水城はやっと理解した。
水城はアシリパがいない゙部屋゙でイチャイチャするのだと思い許可をした。
だが、鯉登はまさに言葉通り…アシリパがいない"場所"でなら襲ってもいいという許可を得たと思ったらしい。
見事に食い違いが発生し(大半の原因は水城の鈍さであるが)、水城は理解した瞬間、顔を赤く染めて鯉登の下から逃げようとした。
今、まさに、この瞬間…鯉登とイチャイチャ(暈し)しようとしているのだとやっと気づいた。
しかしそれを鯉登が許すはずもなく、両手首を呆気なく取られ再び押し倒されてしまう。


「か、勘違い!!勘違いでした!!アシリパさんが居ても居なくても外じゃしません!!お部屋で二人っきりだったらします!!!」

「もう遅い!私はしかと聞いたからな!『アシリパさんが見てなければ』とお前は言っただろう!!約束は守るものだぞ雪乃!!」

「それ違う意味だからぁ!」


足をばたつかせても鯉登の拘束は解けない。
本気になれば不死身と呼ばれた水城が男である鯉登でも簡単に投げ飛ばすことはできるが、尾形の時もそうだが水城は懐に入れた相手に対してデロンデロンに甘くなる。
無意識に力をセーブしており、更には相手が恋仲だというのもあって抵抗はするが女性らしく抵抗らしい抵抗しかできなかった。
完全に動きを封じられ、水城はうーうー言いながら半泣き状態で鯉登を睨んでいた。
しかし普段の鯉登なら半泣きでも大混乱となるが、今はそれが興奮材料にしかならないのを水城は気づかない。


「そんなに嫌がるな…流石に傷つくぞ…」


とは言え、平気というわけではない。
むすっと頬を膨らませ半泣き状態の恋仲を見て傷つかないわけがなかった。
宥めるように鯉登は涙が浮かぶ水城の瞳に口づけをし、涙を唇で拭ってやる。
ちゅ、ちゅ、とご機嫌伺いのようにキスをする鯉登に少しずつ絆され涙は止まり、膨らんだ頬も少しずつしぼんでいく。
空気が和らいでいくのを感じ、鯉登はそのまま唇にキスを送った。


「ん、ぁ……ん、ン…っ、ん…」


入れてくれ、と言いたげについばむように何度もキスをすると、機嫌を直してくれたのか水城が薄っすらと唇を開けてくれた。
その中に舌を入れ、いつも通り水城と深い口づけを交わす。


「っは…ん…、……本当に……ぁ、ん…外で…す、するの?」


深い口づけを交わしながら鯉登はここ最近慣れた手つきで水城の胸に触れた。
サラシを巻いていないので水城の胸はすぐに鯉登の手を歓迎した。
その柔らかい胸に、鯉登は優しく触れる。
鯉登は水城の突起も含め胸に触れる際、優しく触れてくれる。
初めて身体を重ねた時、母乳が出るから優しくと言ったのを覚えてくれていたらしい。
それが嬉しくて、水城は止めなきゃいけないのに止める事ができなかった。
しかし、不安がないわけではない。
優しく触れながらも愛撫に立っている突起をクリクリと捏ねられ、その度に水城はピクピクと反応させる。
反応させながら水城は鯉登に恐る恐る問う。
不安そうな目線に鯉登は頷いて返し、水城の瞼にキスを送る。


「最近は宿がなく雑魚寝が続いている…雪乃が欲しくて欲しくてたまらないんだ…」


そう甘く囁きながら、ちゅ、ちゅ、とご機嫌取りのような可愛いキスをする。


「駄目か…?」


眉を下げ寂し気に見つめる鯉登に水城は『うぐっ』と言葉を飲み込んだ。


「駄目って言っても、するんでしょ…」


己の武器と、水城の気持ちを分かってて聞く鯉登に水城は間を開けな憎まれ口で返し、受け入れる意思を鯉登の首に手を回して示した。
自分のチョロさに呆れつつ、『絆されてしまったのだ、仕方ない』、と水城は思う事にした。

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