(190 / 274) 原作沿い (190)

気だるげな体を起こし、水城は肌蹴た服を整える。
その傍で鯉登も服を整えており、水城より肌蹴ていなかったのもあり水城よりも早く服を整えることができた。


「…大丈夫か?」


水城の様子を見れば、水城はゆっくりとした動きで服を整えており、傍から見て呆けているようにも見える。
いや、呆けているのだろう。
心配になって声を掛けてみれば水城はゆっくりと頷く。


「うん…」


ぼうっとさせながら頷く水城に鯉登は『無茶をさせただろうか』と気遣わし気に見つめる。
どこか心ここにあらずな姿に心配になり着替えを手伝う事にした。
ボタンをかけてやれば水城は鯉登に着替えを任せるつもりなのか大人しく鯉登に身を委ねる。


(男と女では感じ方が違うと聞いたことがあるが…そのせいだろうか…)


絶頂は女の方が長いと聞くが、どれほど長く続くかは男である鯉登には分からない。
確かに今まで抱いてきた中で情事後は呆ける事もあったが、しかしここまでぼうっと呆けるのは初めてだ。


(しかし…今回はそこまでしつこくもなかったし…外だったから激しくもしていなかったが…)


むしろ鯉登には足りないくらいだ。
外というのもあってゆっくりとした動きにしたし、長引かせる事もしなかった。
ただどんなに抱いても足りないと思ってしまう気持ちもある。
それは想いが通じ合ったばかりだからだろうか、それとも我慢し続けたせいだろうか。
水城に触れても触れても触れ足りなかった。
それこそずっと性的な意味でなくてもイチャイチャとしていたいくらいに。
しかし、アシリパを奪還してから…アシリパと白石と再会してから水城の雰囲気は変わった。
女を見せないように隠しており、だからこそ鯉登は焦っていたのかもしれない。
行為は一度しかしていないが、水城の許可なく鯉登は中に出した。
水城はもう出された後で諦めたのか、何か言いたげに鯉登を見るだけに留めた。
それに罪悪感がないと言えば嘘になるが、水城に子種を残せた男の満足感が強かった。
鯉登としては毎日したってし足りない。
仕事がない日は一日中繋がっていたいと思うほど水城への気持ちが溢れていた。


(とはいえ…頻繁に求めすぎるのも駄目だな…身体だけが目的だと思われたくはない…)


友人の1人に自分と同じく性欲旺盛な時期に相手を想いすぎて会う度に体を繋げていたせいで、相手に愛想を尽かされ別れた男がいた。
その当時は大して興味はなく、ありきたりの言葉で慰めたが…今になってその男の気持ちが理解できた。
好きだから大切にしてきて自分にセーブできていたが、一線を越えるとそのセーブできた気持ちが抑えられなくなる。
あの友人もそうだったのだろうか。
それならばあの友人と同じ轍を踏まないよう我慢しなければ。
水城を失う代わりに性欲に従順になるか、性欲を制限し水城を繋ぎとめるか…選ぶ選択は決まっている。
好きだという気持ちを抑えるのに必死だった鯉登だったが、ふと視線を感じて水城を見る。
水城は鯉登を見つめており、その瞳は熱っぽく濡れている。
先ほどまで性行為をしていたせいか表情も色っぽく、気持ちを抑えると決めたのに体は素直に反応してしまいそうだった。


「っ、…どうした?」


鯉登が足りないと思っているせいなのかは分からない。
だが、なんだか水城の様子は誘っているようにも見える。
本当は押し倒して滅茶苦茶に抱き潰したいと思っていたが、ここで押し倒してしまえば我慢が無駄になるため色々と我慢する。
水城に身体だけが目的だと思われたくなくて鯉登は水城の熱っぽい視線に気づかないフリをした。
そんな鯉登に水城は一瞬ムッとさせたが、フイっと顔を背け俯いた。


「……なんでもない…」


そうポツリと呟くが、鯉登の耳には拗ねているような…寂しそうに聞こえた。
それとも鯉登自身がそう思ってほしいと思ったからだろうか。
その後、何だか気まずくて二人の間に会話はなかった。


「立てるか?」

「…うん」


一度、それもゆっくりと体を重ねたとはいえ水城だって身体の負担がないわけではない。
服を着せ直し、コートを家に置いてきた水城に寒くないようにと己のコートを着させてやれば終わりだ。
最後のボタンをかけた後、気遣うように声をかければ小さい声で頷いた。
水城の両手を握り、立たせば素直に立つ。


「なあ、雪乃…」

「…なに」


立たせたが手を放さず水城と向かい合うように立つ。
拗ねているのか、ただ単に疲れているからか…水城の顔は俯いたまま顔を見せてはくれなかった。
それが寂しいと思いながらも顔を上げろとは言えなかった。
無理を言ったのは自分だし、水城が嫌がることをしたのも自分だ、という自覚があったからだ。
水城が嫌がるのを無視して体を重ねた。
それに拗ねているのかもしれないと鯉登は思った。
声をかけても水城の顔は鯉登の視界に映ることはなかった。
ただ、返事をしてくれたことに嬉しさを覚える。


「戻る前に…キスがしたい」


鯉登の言葉に水城はゆっくりと顔を上げた。
やっと顔を上げてくれた水城の表情は目を丸くさせ驚いていた。
それでも水城の琥珀色の瞳に自分が写っていることに満足感が生まれる。
鯉登は手から腕へ撫でるように手を滑らせ、そのまま腰を抱き引き寄せる。
密着し水城の匂いがし、鯉登の抱きしめる力が強くなった。
約束は守る気ではいる。
アシリパがいる場所では手を出さない事を約束したが、それでも寂しさがないわけではない。
もうアシリパと白石に構う事に関しては諦めた。
水城という女となって、アシリパと白石は水城にとってなくてはならない存在なのだろう。
それが自分でないのが悔しいが、過ぎた過去は取り戻せないのも嫌って程理解している。


「…………」


水城は鯉登の言葉に動揺したように瞳が揺れた。
考えるように視線を鯉登から外したが、水城は『ん』と瞳を閉じ彼を受け入れる。
それが合図となり、鯉登は水城の唇に触れるだけの口づけを落とす。
すぐに外したが、欲張ってもう一度触れるだけの口づけをした。
水城に触れる度にこの気持ちが強くなるのを感じるが、いつまでもここに居ては心配になったアシリパが探しに来てしまうかもしれない。
アシリパに女を見せたくない水城の気持ちを尊重し、これ以上の口づけはやめた。
しかし…


「音之進、もっと、して」

「雪乃…っ」


こんな時に限って水城が求めてきた。
せっかくセーブしていたのに鯉登の決意が揺らいでしまう。
首に手を回し顔を近づけ、今度は水城から口づけを送る。
はむっ、と啄むように鯉登に口づけをし、水城は驚き開けられた鯉登の口内に舌を入れようとした。


「ま、待て!雪乃ッ!!」


水城の舌が口内に入って来たのに気づき鯉登は慌てて水城の肩を掴んで離れさせる。
抵抗もなく離れた水城は目を瞬かせて鯉登を見つめており、せっかく水城に誘われたのだがこれ以上触れると行為をしかねないと鯉登は水城から顔を背け必要に見ないようにすることで自身の制御をした。


「…アシリパ達が探しにくるかもしれん…戻るぞ…」


そう言って水城を見ないようにしながら鯉登は水城の手を掴んで歩き出す。
水城を意識しすぎて逆に意識しないように必死になっていたせいだろう。
手を引く水城の寂し気な表情には気づかなかった。

190 / 274
| 目次 | 表紙 |
しおりを挟む