(192 / 274) 原作沿い (192)

樺太のアイヌにお世話になった後、水城達は静香に立ち寄った。
ここで少なくなった日用品を購入するためである。
その中に水城のサラシも含まれていた。
主に鯉登とアシリパがもう男装する意味ないだろうと反対していたが、水城は軍人の姿の方が色々便利だからと反対を押し切った。
以前までは女である事を隠すためであるが、今は願掛けの意味もあった。
金塊が見つかるまで水城は男装を解く気はない。
3人の軍人に子供3人、老人に坊主頭一人、男装女性…と異色の集団に多少目立つものの、日用品の購入に支障をきたすことはなかった。


「………」


しかし、そんな目立つ集団故か…望遠鏡を使い水城達を見張るように見つめる者が1人―――…


見張られると知らず、月島達は必要な分を買い足して店を出る。
月島は医師の治療もあって誰かに支えられてやっと立てるほどだが回復した。
後は無理をしなければ歩けるほど回復できるだろう。


「よし、出発だ…明るい内に出来るだけ距離を稼ぐぞ」


買った物を犬橇に乗せ固定したのを見て月島は休まず次の街へ向かおうと全員に声をかける。
しかし、1人足りないことをアシリパが気づいた。


「ちょっと待て…水城はどこ行った?」


その1人とは水城だった。
水城の姿が見えないというアシリパの言葉に鯉登は辺りを見渡す。
しかし、どれほど探しても鯉登の目にも水城の姿は写らなかった。


「迷子にでもなったか?」


『仕方のない奴だ』と言うが、その表情は微笑んでいた。
月島はそんな上司の言葉に、『可愛い奴め』と副音声が聞こえた。
それはもうバッチリと。
『あ、これ戻ってくる前にイチャつく気だな』と死んだ目で水城を探しに行こうとする上官の姿を見つめていると―――シュパッ、と銃声が当たりに響いた。


「伏せろ!!」


咄嗟に水城を探そうと離れようとしていた上官の腕を引っ張り姿勢を低くさせ、荷物の陰に隠れる。
谷垣も咄嗟に子供達を庇い荷物を壁にする。


「シライシ!!!」


アシリパは白石の名を叫ぶ。
あの銃声は標的に当たっていた。
その標的が白石だった。
白石は少し離れている開けた十字路で水城を探していたが、銃声と共に痛みが走りその場に倒れる。


「シライシ!!動けるか!?建物の陰に隠れろッ!!」

「脚を撃たれた!!」


倒れたのは伏せたのではなく、足を撃たれたせいだった。
二発目がなく、一発目で頭を狙わなかった所からすぐに殺すつもりはないようである。


「店の中へ!!アシリパも来い!!」


まずは子供達を安全な場所へ移すのが先だと思ったのか、谷垣は先ほど買い物をした店の中に避難しようと、店の扉へ手を伸ばす。
しかし、店の扉に触れる寸前で二発目が扉に当たり、谷垣は手を引っ込め子供達を銃弾から守るように己の身体を壁代わりとする。
その後三発目が鯉登達が隠れている場所の少しズレた地面へと撃たれた。


「そこから動くな!!シライシの脚を撃ったのは助けに物陰から出てくるものを狙うため…狙撃手の常套手段だ!!」

「狙撃手…」


谷垣の言葉の中にあった狙撃手と聞きアシリパの頭には1人の男が思い浮かんだ。
まだ顔を見ていないので分からないが、その男の可能性は大いにある。
その間に、鯉登が手鏡で相手を見ようとしたが、その前に手鏡を撃たれ失敗する。


「かなりの距離から撃っている…こんな射撃が出来るのはアイツしかいない…―――尾形百之助だ!尾形が戻って来た!!」

「…ッ」


アシリパが思い描いた男は月島達の頭にもよぎったようで、全員が射撃した人物が尾形だと疑う事はなかった。
誰もが尾形の腕前を知っているからこそなのだろう。


「我々は一歩も動けんぞ!どうするんだ月島ァ!!」


鯉登も尾形の腕前は知っている。
憎い相手ではあるが腕だけは認めはする。(嫌だけど、すごく嫌だけど、ものすごく認めたくないけれど)
月島は鯉登の問いに考える。
開けた場所、そして荷物以外に障害物はない。
はっきり言って動きに制限があるこちらが不利だ。
それに誰もが認める腕前の狙撃手が相手である。
どうするべきか…と考えているとふと視界にある人物が通り過ぎたのを収めた。
その姿を見た瞬間、月島の不安は一気に晴れた。


「今のは…杉元だ!建物の隙間を走っていくのが見えた!!」

「雪乃だと…ッ!?」


鯉登は月島の言葉に体を起こし水城のもとに向かおうとした。
そんな上官の腕を掴んで月島は引き留めた。


「離せ月島!!雪乃を尾形の元へ行かせるわけにはいかん!!」

「心配は分かりますが今動けば尾形の恰好の的です!!生きて杉元を腕に抱きたいのならここで大人しくしててください!!」

「…ッ」


月島の言葉に鯉登は言い返せなかった。
今感情的になって動けば必ずミスが起こる。
それに相手は尾形だ。
鯉登が気に入らないと思っているのと同じく、相手も自分の事を気に入らないと心底思っている。
そんな相手の頭を貫くなどあの男は決して躊躇しない。
ましてや今はもう兵士でも何でもないのだ。
そんなしがらみあの男にあるわけがない。
だが、かといって恋敵の元へ黙って恋人を送るのも癪に触る。
尾形は水城に対して強い執着を持っているのだ。
水城が自分の意思で尾形についていく心配はないが、尾形が水城を攫う心配はあった。
黙って待機するしかない事に苛立ちが積もる。
だが月島の言葉は間違いではない。
深呼吸して気持ちを落ち着かせた鯉登はふと疑問に思う。


(しかし…尾形が雪乃を見落とすとは思えんが…気づいていないのか…?)


そう疑問に思うがすぐに水城と会うためかと思う。
真実がどうであれ、動けないため確かめようがない。
水城が離れた事すら気づかなかった自分の落ち度に責任がある。


「おいシライシッ!なんとか自分でこっちに来い!手当しないと失血死するぞッ!!」

「うるせぇ!はなから助けなんか借りるつもりはねぇよッ!!」


背中に背負っていた荷物を壁にするが、正直心もとない。
あるだけマシかと不安を残しながらそう思う。
軍人だからか、月島の言葉に突っぱねて返しながら白石は撃たれた足の治療をする。
治療と言っても裂いた布で巻くだけの簡単なものしかできないが。
動けない白石にアシリパが助けに行こうとするが、それを白石が止める。
もしも本当に狙撃手が尾形なら、アシリパが助けに来るのは危険だと判断したのだろう。
その代わりロシアのお菓子で犬を誘って代わりに壁となって移動しようとしたが、白石よりも犬が大事なエノノカとヘンケに防がれて失敗。
口噛み団子が忘れられず行く先々でお婆ちゃんに噛んで貰おうと思い購入した米をばら撒き、その米に寄って来たカラスに紛れて逃げようとしても失敗した。
来た事には来たが、カラスではなく…スズメが来た。
伏せた白石よりもはるかに小さいスズメでは紛れて逃げるなと到底無理だった。
そんなコントのような白石などよそに、月島は己の帽子を銃に引っ掛けて荷物から少しはみ出させる。
その帽子の天井をギリギリに狙撃手は撃った。


「からかって遊んでるのか?」

「こちらに注意を向けさせ続ける…連携作戦のためにな」

「誰との…?」


谷垣は先ほどから遊んでいるような月島の行動に首を傾げる。
月島の言葉にアシリパも疑問に思い、その問いに月島はチラリと狙撃手がいるであろう場所を見ながら答える。


「狙撃手の優位な点は相手の射程範囲外から攻撃できることだ…気が付かない間に距離を詰められるのは怖いだろう…ましてやそれが…―――不死身の杉元なら悪夢だ」


月島の言葉と同時に、水城は狙撃手がいるであろう室内に入り込んだ。

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