(193 / 274) 原作沿い (193)

水城はアシリパのために味噌を買い足しをしていた。
黙っていたのは、驚く姿を見たいと思ってちょっとしたサプライズをしようと思ったからだった。
しかし、購入し店から出てみれば遠くから銃声が聞こえ水城もまた相手が尾形だと思い、狙撃手のいる場所を突き止めてその建物に入っていった。
その腕には購入したばかりの味噌の入っている器を抱えており、水城はもし尾形なら頭をカチ割ってこの味噌を詰め込んでやると決めた。
下から音を立てず静かに上がり、気配のある二階の部屋へと向かう。
部屋の側に立ち水城は静かに腰に差してある剣を抜き、銃に取り付けた。
そこにはすでに普段の水城ではなく、軍人の不死身の杉元の顔をしていた。


(向こうに一発撃たせる…次弾を装填して引き金に指をかける僅かな時間に…懐へ飛び込む…この銃では一発当てたとしても倒せず撃ち返される…確実に動きを止めたかったら白兵戦だ…)


白兵戦に持ち込めばこちらのものだ。
相手は男で軍人だが、体術に関しては水城の方が一歩上だ。
剣を装着した後、ゆっくりと弾を入れる。
金属音がしてしまうが、どうせ気配で気づかれているのだ。
音を気にしても仕方がない。
水城は息を吸って吐き、ドクドクと高まる心臓を落ち着かせる。
スッと表情を消した水城の頭の中にはもう尾形を殺すことしか考えられなかった。


(尾形…私の手でカタをつけてやる…!!)


水城は殺してやりたいと思っている尾形を相手なのに不思議と冷静だった。
否、相手が尾形だからこそ、気持ちが無意識に蓋をして殺意しか残らないのだろう。


(よし…)


あちらも自分に気づいているはず。
先ほど自身の行動をもう一度確認した後―――水城は行動に移した。
シャッ、と襖を少し開ける。
その瞬間乾いた音が部屋に響いた。
狙撃手は開いた隙間に入ってくる人間を確認せず素早く撃った。
相手は傷のある日本兵だった。
自分の撃った弾が顔に当たり、狙撃手は相手が死んだと思った。
しかし何故かその顔にはピシッとひび割れる。


(鏡!?)


それで狙撃手は気づいた。
相手を撃ったのではなく…相手が写っている鏡を撃ったのだと。
水城は鏡を使って自分を写し、その写した自分を相手に撃たせることによって一発目を回避させた。
水城はそのまま勢いをつけて狙撃手の部屋に突撃する。


(当然接近戦への備えはある!)


鏡で驚いた狙撃手だったが、呆ける暇もなく、懐に忍ばせていた拳銃を取り出し日本兵に向けた。
しかし、撃たれる前にそれに気づいた水城が持っていた味噌を投げつけ、味噌は狙撃手の顔面に当たり狙撃手の体勢を崩す。


「アンタ、誰よ」


水城は体勢が崩れた狙撃手の手にある拳銃を自分の手に収まっている剣銃で払い落し、倒れる狙撃手を見る。
その顔は尾形とは似ても似つかない別人だった。
部屋に入った時から尾形ではないと気づいてはいたが、そこで立ち止まっては殺される。
あちらが先に攻撃してきたということはこちらを殺すつもりだと判断し、水城は尾形ではなかった事への八つ当たりも兼ねてアシリパを危険な目に合わそうとしたマスクで隠れている男の喉に向けて剣を突き付けるように降ろす。


「…ッ」


男は命の危機を覚え咄嗟に転がっていた味噌を手に取ってガードした。
幸い味噌がクッションとなり剣は男の喉ギリギリに止まった。
味噌ごと銃剣を払い、男は冷や汗をかきながら水城から逃げようと部屋を出て一階へと降りていく。


(距離だ!!距離さえあれば私は負けない…!!)


男は狙撃手である。
接近戦よりも長距離戦を得意としており、なおかつ体術よりも待ち伏せを得意としている。
見事に水城とは正反対のタイプだった。
距離を取り身を隠して狙えばあの軍人に勝てると思っていた。
それは当たり前の考えで、どの狙撃手でもそう思うだろう。
距離さえあれば後は己の領域だと。
だが、それは水城を知らないからこその思考であった。
一階に降りて廊下を走る男の胸元を…軍人の手が掴んだ。


(!!?)


男は目を丸くした。
あの軍人がこんなに早く追ってきたのもそうだが、何よりあの軍人は襖を貫いて手だけを出して自分の胸元を掴んだのだ。
襖は障子と違って姿が見えないはずなのに。
本能なのか、あの軍人は、水城は狙撃手がどこにいるのか分かっているようにピンポイントに襖を貫いた。
水城と遭遇してから感じていたゾワゾワしていた感覚が、一気にゾクリと背筋に冷たい何かが走るような恐怖に変わる。
しかし、ぞっとさせる暇なく、襖の向こう側にいるであろう水城は剣をザッザッと刺して来た。
恐らく胸元を掴んでそこにいるのは分かっているのだが、水城も正確に把握しておらず、とりあえず適当に刺しておけば当たるだろうという判断だったのだろう。
だが幸運にも狙撃手は剣に刺されることはなく全て避けることが出来た。
刺さった感覚がない事から水城は次の手段に出た。


「〜〜〜〜〜〜!!」


水城は掴んでいる腕をそのまま己の方へ引きはじめた。
すると狙撃手の体がメキメキと襖に埋まるようにめり込み、そのまま襖をぶち抜き水城は狙撃手を己のいる室内へと連れ込む。
背負い投げのように背中から倒され、狙撃手は痛みに息を呑む。
水城は受け身も取れず仰向けに倒れた狙撃手に向けて銃から外した剣で刺し殺そうとした。
しかし…


「なに、これ…」


掴んでいる胸元からチラリと紙のようなものが見えた。
それだけなら別段水城が気に留める事もなかったのだが、その紙に気になるものが描かれており水城は手を止め、その紙を取る。


「これ…あなたが描いたの?」


水城の手の中にある紙には―――尾形の似顔絵が描かれていた。

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