水城はアシリパと共に1件目の味噌の店に着く。
中に入れば味噌の匂いが出迎えてくれた。
「いつものお味噌ないねぇ」
水城はそう呟きながら目の前の味噌を見る。
味噌探しは水城とアシリパが主役なところがあり、白石と鯉登の男性陣は女性陣の後ろについて回っていた。
水城の目の前には多くの味噌が並んでいた。
同じ味噌でも作り方や豆の種類によって味は様々になるのだから面白い。
しかし、水城が購入している味噌はこの店には置いていないようで、水城の頭の中はすでに2軒目の店への道を浮かべる。
「水城!!水城!!これはどうだ!!これ!!味見させてもらったが美味しかったぞ!!」
するとクイクイとアシリパが水城の服を引っ張り、興奮しながらある味噌を指さす。
その味噌は色が少し濃いめの味噌で、並んでいる味噌とそう変わらない見た目をしている。
だが水城は値段を見てぎょっとさせた。
「駄目」
「な、なに!?なぜだ!?美味しかったぞ!?」
「駄目…高すぎる…」
アシリパが大興奮するほどの味噌の値段は、水城の手持ちのお金では買えない値段だった。
水城が即答で首を振られ、アシリパはガーン、とショックを受けたようではあったが、水城の言葉に納得してしまう。
「それが欲しいならその味噌でいいじゃないか…その味噌が欲しいのだろう?」
しょんぼりとさせるアシリパを見てか、鯉登はしょんぼりとさせるアシリパを慰めるように頭を撫でる水城に声をかける。
しかし、鯉登は別に落ち込むアシリパを見たから声を掛けたわけではない。
水城が高いから駄目だという言葉を聞いたからだ。
「水城達は金額の事は考えなくていい」
「駄目よ…それじゃ高い味噌に口が慣れちゃって前の味噌に戻せなくなっちゃうし」
「別にいいじゃないか…その味噌がいいというのなら買い続ければいい事だ…大体見て回ったが多くは本土でも買えるものも多いしな…味噌が切れたからと言って取り寄せることもしなくても済む物を買えばいい」
「そこまで負担をかけさせたくないの…音之進がお金持ってるの知ってるけどそこまで甘えたくないから…」
水城的には高価な味噌は買うつもりは元々ない。
いつもの味噌を購入できれば万々歳だが、それがなければいつもの味噌と同等か、ちょっと値段の上下ある味噌をと考えていた。
だから鯉登が買ってくれるからと言って高い味噌を安易に購入するつもりは全くない。
それにまるで鯉登をサイフ扱いしているみたいで嫌だった。
「音之進だってサイフ呼ばわりは嫌でしょ?」
「私は別に構わん…むしろそれでもいいさ…夫婦になれば夫の物は全て妻の物だからな」
鯉登は得意げに笑いながら言い、鯉登はそっと水城の手を握り、水城を微笑みを浮かべて見つめる。
「雪乃はもっと私に甘えるべきだ…今まで離れてしまっていた分、私は雪乃を甘やかしたい…いや…離れていた分以上に甘やかしたい……それが私をサイフ呼ばわりしようと雪乃が私を頼ってくれるのが嬉しいのだ」
世の男性は妻に尻に敷かれていると愚痴(という名の惚気)を言うが、鯉登はそれが羨ましく思う。
自分ならば金どころか全財産全て水城に差し出しても構わない。
愛する人を妻にしているくせに、たかが金を採取されるだけで文句を言う男達にこそ…鯉登は文句が言いたい。
自分は愛する女性に会えもしないのに、と。
自分が愛した女くらい養えなくてどうするのだ、と。
水城が傍にいて自分だけを愛してくれるなら…金などいくらでも貢げる。
鯉登は本気でそう思っていた。
現代ならば若干引く勢いなのだが、同じ愛を持つ水城は何故か感激していた。
流石バカップルである。
水城は『音之進…』と鯉登の手に己の手を重ね、鯉登を見つめる。
そこまで自分を想ってくれているのだなと目を潤わせて見つめる水城に、鯉登も『雪乃…』とぎゅっと握る力を入れて見つめる。
「はいはい!!そこのバカップル!!そういう面倒臭いのやめていただけませんか!!」
お互い見つめ合い、塩っぽい味噌の空気が砂糖をぶち込んで煮込んだような甘い空気になった。
水城達に接客していた店主は胸やけしたのか、自身の胸元を撫でる。
そんな見つめ合う甘い空気のカップルに白石が割って入って止めた。
パンパンと手を叩いて繋がっている二人の手を手刀でブチリと切ろうとした。
しかしその手を鯉登が掴んで止めた。
「水城!次だ!次の店に向かうぞ!!」
「あっ!待ってアシリパさん!一人で行っちゃ迷子になっちゃうよ!」
手を掴まれても白石は負けじとグググと力を入れて水城と鯉登の繋がっている手を切り離そうとしていた。
それに鯉登も負けじと手の力を入れる。
そんな男達をよそにアシリパは、次の店に向かおうと水城と鯉登の横を横切り店を出た。
ガララと扉を開けて1人外に飛び出すアシリパに水城は慌てて追いかける。
「…………」
「…………」
その際水城は、すぽっ、と繋がっている鯉登の手の中から己の手を抜き、アシリパを追いかけて店を出てしまった。
温もりが消えた手を鯉登を見下ろし、白石は先ほどまで甘い空気だったのに恋人に呆気なく逃げられ流石に同情の視線を送る。
鯉登は店主と白石から送られる同情の視線に耐えるよう、水城の手に触れていた手をグッと握り締めた。
◇◇◇◇◇◇◇
買い物は、無事に終わった。
最後の店である2軒目のお店に、いつも購入している味噌が売ってありそれを鯉登に買ってもらった。
その際鯉登はその味噌の値段を見て『雪乃はいつもこんなやす…しっs…つまし…いや慎ましい生活をしているのか…』と愕然としていた。
そんな気を遣う鯉登の言葉に水城は『……いいんだよ?はっきり貧乏って言ってもいいんだよ?』とちょっぴり涙がちょちょきれた。
貧乏なのは分かっているが、改めて言われると悲しくなる。
上官を半殺しにしたのは後悔はしていないが、恩給が消されたのはやはり痛いなと思う。
その後色々見て回り、喫茶店に入って休憩したら丁度夕飯の時間となり、旅館に戻ろうと喫茶店から出たところだった。
「よかったねぇ、アシリパさん」
「ああ!!これから毎日水城のオソマが食べれるな!!」
『ありがとう!鯉登ニシパ!!』、とお礼を言うアシリパに、鯉登は『ああ』と頷く。
アイヌ語である『オソマ』という言葉が分からないからこそ、『水城のウンコが食べれるな』というパワーワードに気づかない。
白石は洗脳済みなので無反応である。
『んも〜、ウンコじゃないってばぁ』と水城はご機嫌なアシリパに釣られて、ニコニコ自分もご機嫌に笑う。
鯉登も色々パワーワードを聞き逃しながら、恋人が嬉しそうにしている姿に満足げだった。
「あ…」
しかしふと水城は立ち止まる。
何か思い出した様子の水城にアシリパも立ち止まり振り返る。
「どうした?」
「ちょっと買い忘れた物があったんだった…悪いんだけど二人とも先に戻っててくれる?」
「「ふたり…?」」
水城は買い忘れた物を思い出したのか、白石の腕を引っ張り、鯉登とアシリパにそう告げた。
鯉登とアシリパは水城の言葉にお互いの顔を見合わせる。
白石の腕を引っ張り傍に引き寄せた…それを見る限り、水城の言う二人とは自分達の事を指すのだと鯉登とアシリパがたどり着くまでには時間がかかった。
まさか自分達ではなく白石を選ぶとは思っていなかったのだ。
「おい!雪乃!!まさか私を置いていくとは言わないだろうな!!」
「そうだぞ水城!!まさか私ではなく白石を選ぶつもりか!?いや…別に白石がどうとかではなくだな……」
「「(アシリパ / 鯉登ニシパ)と二人きりにするつもりか!!?」」
アシリパと鯉登はお互いを指さす。
二人はお世辞にも仲がいいとは言えない。
それは周囲どころか本人たちも自覚しているし、その原因も分かっている。
水城の取り合いで言い合いをしているのに、水城はそんな二人を残して白石と買い物デート(鯉登視点)に行こうとしているではないか。
反論が出ない方がおかしい。
「杉元!俺やだkむごっ」
白石はジト目で見て来る嫉妬の鬼達の目線に晒された。
水城の事は女とは見えない白石からしたらいい迷惑だ。
水城は仲間であって、女として見たことは一度もない。
温泉の時は水城と思わなければイケると思ったが、どうしても水城だと意識してしまい息子は無反応だった。
それくらい白石は水城を女として見ていない。
もう水城は脳筋ゴリラとしか見えなかった。(失礼ではある)
だから(主に嫉妬魔人に)八つ当たりされる前に断ろうとするものの、その前に水城に口を塞がれて失敗してしまう。
水城は顔の前で手と手を合わせ二人に謝罪する。
「二人ともごめんっ!!先に帰ってて!」
頭を下げる水城にアシリパと鯉登はもう一度お互いを見合った。
「…別に別れる事もないだろ」
「そうだぞ、水城…私達も付き合う…何を買い忘れたんだ?」
せっかくこうして出かけたのだからと、二人は最後まで付き合う気でいた。
水城はそんな二人の言葉に『え゙』とギクリとさせた。
顔を引きつらせる水城の反応に二人は怪訝とさせる。
「水城?言いにくい事か?」
「あ!いや…そのぉ……ほ、ほら!!もうすぐ晩御飯の時間だし!!!月島軍曹が心配していると思うし!!先に帰ってて!!ね!!!」
「買う物が分かっているのならすぐに用も済ませるだろう…それくらい付き合うぞ?」
「い、いやぁ…でも、ほら…つ、付き合わせちゃうの悪いしさ…すぐに買いたいものだから…音之進にはお金も出してくれたんだしこれ以上付き合わせるのは悪いよ…アシリパさんも色々あって疲れただろうしさ…」
「いや、しかしだな…」
「ほんっっとごめん!!先に帰っててね!!」
「お、おい!雪乃!!」
なぜか水城は鯉登とアシリパがついてい来るのを嫌がっている様子だった。
その様子に二人は更に怪訝とさせるが、問い詰めようとしたが逃げられてしまった。
まだ良いとも言っていないのに水城は白石の腕を引っ張り、賑わう人込みに紛れ姿を消してしまった。
「…………」
「…………」
水城を引き留めようと差し出した鯉登の手が行き場をなくし、静かに降ろされる。
残された二人は3度目となる目と目を合わせ、そして静かに逸らした。
二人は、旅館につくまで…いや、月島達と会うまでの間、ずっと無言だったという。
199 / 274
← | 目次 | 表紙 | →
しおりを挟む