(26 / 29) 少女時代 (26)

※若干性的描写+暴力注意

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薄汚れた宿の一室。
赤で統一されているその部屋には大きな布団が一枚敷かれていた。
その布団には二人の男女が横たわっており、女性の上に男性が覆いかぶさり腰を動かしていた。
しかしそれだけならば娼婦を買った男、または恋人同士だと思うだろう。
だが、女性は身動き一つせず男ばかりが動いていた。
達したのか男が動きを止める。
部屋には男の荒い息しか響かず、その中、男は舌打ちを一つした後体を起こす。


「…ったく…早く起きろよ…俺は意識のねえ女を抱く趣味ねえっつーの」


汗をかき顔にくっつく髪をかき上げ、男はそうぼやく。
男の下には女性が…雪乃が横たわっていた。
あの後気を失うまで抱かれた雪乃はそのまま男、菊之丞が経営するこの売春宿に連れてこられ気を失ったまま菊之丞に抱かれ続けていた。
意識のない女を抱く趣味はないと言っておきながらも菊之丞は我慢が出来ず雪乃を抱き続けていた。
拘束していた縄はすでに解かれ雪乃の両腕は布団の上にだらりと放り出され、雪乃は目を瞑り顔を逸らすように横を向いていた。
布団まで赤く統一しているから分かりにくいが、雪乃の血で布団は汚れており、やっと流れる血の量も減ってきていた。
それでも好き勝手動くため、その度に傷が開き血は止まらない。
顔以外は無傷なので顔さえ見なければ出したばかりなのにまた男根に熱がこもる。
下半身が熱くなるのを感じ、菊之丞は雪乃の豊満な胸に手を伸ばしながらまた腰を動かす。


「お前のせいだからな…!お前が…!お前なんかが出しゃばらなきゃこんな事にはなってなかったんだ!!庶民なら庶民らしく大人しくしとけばよかったんだ!!!なんでお前なんかが父さん達に気に入られて血の繋がった息子の俺が!!嫡男の俺がだぞ!!なんで俺が勘当されなきゃならなかったんだ!!!」


意識を失っているため雪乃からの言葉はない。
しかし不満を全て雪乃にぶつけるように男の腰は激しくなっていく。
男の荒い息と肌と肌がぶつかる音だけが大きく響く。
今日で何度目かの精の排出を済ませ、また僅かの休憩をする。
仰向けの雪乃の中に入れたまま菊之丞はすっきりしたように息をつく。
その間にまた胸を揉み、疲れを癒す。


(やってやったぞ…父さんも母さんも俺を捨てた事を後悔すればいいんだ…)


全て雪乃への復讐だった。
嫡男として絶対に家を追い出されない自信があった。
次男の出来が良かろうが自分は川畑家の嫡男なのには変わらないから、どんな事でも最悪家は追い出されないだろうと。
だが、たかが養女に手を出しかけただけで勘当されてしまい、菊之丞は今も信じられない気持ちであった。
全て雪乃が悪いと思い込んでいた。
雪乃さえいなければ自分は今頃苦労などせず女を渡り歩き楽な人生を送っていたはずなのに、と。
全て自分の自業自得だとは思ってない菊之丞は義理の妹の身体を堪能していた。


「あー…なんかこいつ売るの勿体ないなぁ…俺の妾にでもするか…」


顔に傷があるとはいえ、顔は悪くない。
体つきもまだ線が細いが菊之丞の好みだし、なんて言ってもこの胸だ。
菊之丞は顔は勿論だが、特に胸の大きい女を好んでいた。
胸や体つきが好みであればどんなに性悪でもブサイクでも抱けたし愛せた。
顔に傷があるだけで商品として使えないからもしかしたらどこも買ってくれないかもしれない。
しかし容姿はいいし、体も自分好み。
妹ではあるが血が繋がっていない赤の他人。
自分が囲ってやるのもいいかもしれない…菊之丞は雪乃を気味の悪い女と思った事を忘れ、そう思いながら雪乃の顔に近づき血だらけの唇に口づけをしようとした時…


「菊之丞さん…!!大変です!!」


襖が開かれ従業員の男が入って来た。
ノックも声かけもなく無遠慮に入って来た男に菊之丞は腹を立てる。


「何度言ったら分かる!!声くらいかけねえか!!」

「す、すみません…!―――ってそれどころじゃないですよ!!大変なんです!!変な奴らが乗り込んできたんです!!」


顔が整っている分怒らせると怖い。
男は菊之丞の怒鳴り声に肩をすくめたが、慌てて駆けこんできた用件を告げる。
菊之丞は『乗り込んできた変な奴ら』という言葉に怪訝とさせた。
この商売はヤクザ者とは切っても切れず、後ろ盾にしているヤクザと対抗している奴らが乗り込んできたのかと思った。


「どこの組のもんだ」

「い、いえ!ヤクザ者ではな――――」


――く、と続くはずの言葉は不自然に切れた。
それに怪訝そうにしていると男はゆっくりと前に倒れ…代わりに現れた人物に菊之丞はギョッとさせた。


「お、お前…ッ!ど、どうしてここに…!?」


現れたのは――…鯉登だった。
その後ろにはカナがおり、鯉登の姿を見て菊之丞は目を丸くし絶句した。


(なんでこいつがここにいるんだよ!!!)


鯉登と雪乃が恋仲になったのは知っている。
そして東京にいる鯉登が戻ってきてお祭りデートしようとしていたのも知っている。
雪乃に使用人がつくのも知っていた。
雪乃が頼んだ浴衣の発注が遅れたのも知っているし、出来上がるのが今日なのも知っていた。
だから雪乃を攫ったのだ。
だからこそ鯉登とのデートで浮かれている隙を狙ったのだ。
菊之丞は鯉登が来るのはもっとあとか、諦めるかと予想していた。
だがその予想は外れてしまう。
更に鯉登の鬼の形相とピリピリとした冷たい雰囲気を見て、菊之丞は顔を青ざめる。
そんな菊之丞を無視し、鯉登は…雪乃を見つめていた。


「雪乃様!!」


後ろから顔を覗かせたカナが悲痛な声で叫ぶ。
その声すら鯉登には聞こえなかった。
鯉登の目の前にいる愛しい人は…裸にされていた。
布団に仰向けに横たわり力なく両手足を放り出しカナの声にもピクリとも動かさない。
その両足の間には着崩れしている菊之丞が入り込んでいる。
鯉登達から見ても挿入している事は伺える。
雪乃は幼い頃無理矢理犯されたと話してくれた。
だから大切にしていたのだ。
自分もその男達と同じだと思われたくなくて、性欲が強い盛りだというのに我慢していた。
他の女に走らず雪乃一筋に想い、愛していた。
雪乃もそれに答え遠距離恋愛だというのに浮気もせず鯉登だけを求めてくれた。
2人の間には体の繋がりでは得られない絆で深く強く繋がっていたのだ。
それなのに…
それなのに雪乃は再び複数の男に暴かれ、そして兄だった男にも…
ぐったりと身動き一つしない雪乃を見て鯉登の中で何かが切れた。


「――――ッ貴様あああ!!!」


立ち尽くすように絶句していた鯉登は突然声を張り上げ叫ぶ。
雪乃を見ていたその瞳を憎しみに染め上げギロリと菊之丞を睨みつけた。
その顔はカナが見た鬼の形相どころではなく、まさに人を殺しそうなほど恐ろしいものだった。
鯉登の怒りの叫びにカナはビクリと肩を揺らし、その怒りと殺意を一身に向けられた菊之丞は『ひい』と悲鳴を上げる。


「ひいっ!!ま、待ってくれ!!!俺じゃない!!俺じゃないんだ!!」


あきらかに主犯は菊之丞。
雪乃をレイプしていたのも菊之丞だというのに菊之丞は自分はやっていないと叫ぶ。
足音を立て近づいてくる鯉登が恐ろしくて菊之丞は雪乃から離れる。
しかし腰を抜かしたのか尻もちをつきながら後退していくその様は情けなく、そして無様である。
菊之丞は自分以外を見下していた。
あれほど頼っていた両親でさえ、出来の良い弟でさえ。
自分は本気を出していないだけで、本気を出せば誰にも負けないと思い込んでいた。
そして、今は背後にヤクザもいる事が気を大きくさせる一つの理由でもあった。
しかし、所詮坊ちゃんだと馬鹿にしていた鯉登の怒りに触れ、菊之丞は情けない姿を晒す。
だが、それは当たり前である。
所詮坊ちゃんと馬鹿にされるのは、鯉登ではなく菊之丞の方であるのだ。
鯉登は鯉登家の嫡男として、跡継ぎとして、向き合い、父の様な軍人になるべく全力を尽くしてきた。
菊之丞の様に逃げ出した事は一度としてない。
そんな鯉登に、努力さえもしなかった菊之丞が勝つことなどあり得ないのだ。


「貴様の道楽に興味はなか!!だがないごて雪乃を巻き込んだ!!!ないごて雪乃を!妹じゃった(おなご)()ごか仕打ちがでくっ!!!」

「お、俺は…!俺は川畑家の嫡男なんだ!それなのにこいつが余計な事をしなければ…!」

「それと雪乃とないの関係がある!!!雪乃と嫡男は無関係じゃろうが!!!貴様はどこまで手前勝手なんじゃ!!!」


菊之丞の上にまたがり鯉登は胸倉をつかみ拳で顔を殴り続ける。
最初こそ抵抗していた菊之丞だったが、軍人を目指し体作りをしている鯉登と、運動は性行為しかせず体を作らずにいた元坊ちゃんとでは体力も力も忍耐力も違った。
顔を殴り続ける鯉登の拳は菊之丞の血がべっとりと付いており、辺りにも菊之丞の血が飛び散り汚していく。
菊之丞はもう抵抗さえ出来なかった。
何も言わなくなった事さえも気づかず鯉登は菊之丞を殴り続ける。
そんな我を忘れている鯉登に見てられなくなったカナが後ろから抱きつき止めた。


「音之進様!もうやめたもんせ!!これ以上やっと死んでしまう!!これ以上雪乃様を待たせっつもりと!!!」

「――――ッ」


カナの言葉で鯉登はピタリと動きを止めた。
カナは言った。
これ以上雪乃を待たせるつもりかと。
九州で健気に鯉登を一人待つ雪乃を本当に一人にさせる気かと。
軍人の息子といえど殺人を犯せば重い罰は免れない。
雪乃が鯉登を見捨てることはないとはいえ、慕う主人をこれ以上待たせるのはカナも許せなかった。
その言葉に我に返った鯉登は胸倉をつかんだまま菊之丞を見下ろす。
見下ろせば、叔母に似た美しい容姿がぐちゃぐちゃとなり血だらけになっていた。
動かないのを見ると気を失っているようで、鯉登が手を離せばがくりと力尽きたように倒れた。
動きを止めた事で我に返ったのだとカナは鯉登から離れ、鯉登の前に移り鯉登の目を真っすぐ見つめる。


「今、あて達がやるべきことはこの男に制裁をかたす(加える)事じゃありもはん…早く雪乃様をお医者様に見せっ事じゃ…ちごっと…」

「………」

「こん騒ぎで警察も動くでしょう…後は警察の方々に任せもんそ…」


鯉登の顔を見れば顔には返り血が付き、我に返ったと言っても目は鋭く、ただの使用人であるカナからしたら『ひい』と引きつった声が出るほど恐ろしかった。
しかしこれが鯉登家の血かとどこか興奮していた。
こんなにも強い人に愛され嫁ぐ主人に仕えている事への優越感が場違いながらもカナの中にはあった。
カナの言葉に冷静さを取り戻したのか、鯉登は菊之丞から退き雪乃の元へと歩み寄る。
カナは鯉登が菊之丞から離れた事にホッと安堵しながら、人間以下の菊之丞を冷たく見下ろした後鯉登を追うように雪乃の元へと戻る。


「雪乃…」


カナが掛けてくれたのだろう…裸の雪乃の身体には布団が掛けられていた。
部屋の隅には雪乃が着ていたらしい浴衣が落ちていた。
確かに鯉登の好みの柄と色で、きっと雪乃が着ていれば浴衣も雪乃も輝いていただろう。
だが、もうこの浴衣を雪乃に着させる気は起きない。
壊れ物のように優しく雪乃に触れる。
顔を見ようと逸らされている顔を自分の方へ向ければ鯉登は息を呑んだ。


「…ッないごて…!ないごて雪乃がこげん目に合わんないけんのじゃ!!」


雪乃の美しい顔に一本の横線の傷が描かれていた。
そこは丁度顔の中央にあり、髪で隠す事も何かで隠す事もできなかった。
傷の深さからこの傷は残ってしまうだろう。
嫁の貰い手は自分がいるから問題はないが、それでも世間から好奇の目を向けられるのは避けられない。
きっと雪乃の事だから乗り越えるだろう。
だが女としてこれはあんまりだ。
二度もレイプされた挙句に傷を作られた。
一体雪乃が何をしたのかと鯉登は叫んだ。


「音之進様…」


カナは雪乃を抱きしめ涙する鯉登に何も言えず、ただ傍に寄り添うしか出来なかった。

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