(224 / 274) 原作沿い (224)

――夜。
結局、写真館を出たのは夕方だった。
どうも話が盛り上がってしまい、気づけば予約客が来る数分前になっていた。
話し込んでいた間にも写真は出来上がり、出来上がった写真を手に水城達は旅館に戻ってきた。
夕方からでも遊べる場所はあまりなく、あっても賭博などの健全ではないものばかりだった。
夕方なので夕食を食べにいくのも考えたが、鯉登も水城も、鶴見と合流したらゆっくりとした時間を与えられないかもしれないからと旅館で食事と時間を取る事にした。
オマケという邪魔者がいるが、オマケに水城を独り占めされることを考えれば、オマケ付きでも我慢できなくもない。
お風呂も入り、食事を済ませるとアシリパが鯉登の頼んだ酒を飲んでしまい、酔っぱらってしまった。
鯉登も酒を飲む相手がいるというのもあってか、酒が進む。
薩摩の出身ということで酒には強く、アシリパほど顔は赤くないが、ほんのりと赤くなっている。
水城は息子の事もあってか、酒は相変わらず飲まず、美味しい旅館の食事に舌鼓を打っていた。
鯉登とアシリパが酒を飲み暫くした時、コテンと隣にいたアシリパが水城の肩に頭を預けてきた。
お茶を飲んでいた水城は、肩に重みに気づき、そちらに目をやる。


「アシリパさん、寝ちゃった…」


『アシリパさん?』と、肩に頭を預けるアシリパの顔を覗き込めば、アシリパの青く丸々とした愛らしい瞳が瞼で閉ざされているのが見えた。
どうやら酔っぱらった末に寝落ちしてしまったらしく、くうくうと可愛い寝息を立てて水城の肩を枕に寝てしまった。


「む…アシリパめ…雪乃を枕にするとは…」

「慣れないことをしたから、気疲れしちゃったのかな?」


写真撮影が二度目の体験とはいえ、写真はまだこの時代では浸透していない。
特に和人と違い自然と共に生活をしているアイヌであるアシリパにとって、最先端の技術は驚くことばかりだっただろう。
自分の言葉に『こいつがそんなタマか?』と憎まれ口を零す鯉登に、水城はクスクスと愉快そうに笑みをこぼす。


「寝かせてくるね」

「ああ…どうせなら布団を隅に寄せて寝かせておけ」


鯉登の言葉に水城は笑って返した。
アシリパが泊る事になった時、激しい攻防戦がこの部屋で行われた。
二人とも水城の隣を譲らなかったからだ。
鯉登はアシリパが寝たのを見計らってエッチな事がしたい。
そんな鯉登の邪念を感じ取った相棒と言う名のセコムはそれを阻止したい。
二人の意見は割れた。
結局アシリパに滅法弱い水城がアシリパを取ってしまい、アシリパを挟んで三人で並んで寝ることになった。
鯉登は泣く泣く同室なのに一人寝を余儀なくされたのである。
と、いうことなので、鯉登はアシリパを酔っぱらわせることにした。
立ち寄った村でアシリパが酒を飲み、酔っ払いやすいと観察して気づいたからだ。
酔っぱらって潰れてしまえば後はこっちのものだと鯉登は見越し、わざとアシリパに酒を飲むよう仕向けた。
読み通り酔っぱらって寝落ちしたアシリパを連れて水城が寝室へ消えるのを見送りながら、鯉登は酒を仰ぐ仕草で隠しながらニタリと笑った。
某漫画で例えれば『計画通り』だろうか。


(後は事に雪崩れ込ませればこちらのものだ)


ぐいっと酒を煽り飲み込みながら、鯉登は密かにそう零しほくそ笑む。
アシリパは酒を飲めば余程の音を立てない限りは起きない。
これも確認済みだ。
ならば、水城を夫婦の営みに雪崩れ込ませれば鯉登の勝利である。
アシリパの前で女を見せたくない水城は抵抗するだろう。
しかし案外水城は流されやすいため、事さえ始めれば最終的には乗ってくれるはず。
それでも嫌がるなら、別の部屋に移ればいい。
この離れには無駄に部屋数だけは有り余っているのだから。
そんな計画を立てていると、水城が戻ってきた。


「お酒、足りる?」


アシリパを決めた位置…すなわち、自分と鯉登の間にある布団に寝かせて戻ると、鯉登がもう一杯注いでいた。
それを見て水城はお酒の量を心配する。
結構なペースでアシリパと飲んでいたのを見ており、確か今鯉登が持っている酒が最後だったと記憶していた。
鯉登もアシリパも飲兵衛なので、水城が事前に女将に酒を大量に注文しており、まだ台所に行けばある。
鯉登は少し考え、頷いた。


「そうだな、もう一杯くらい飲むとするか」


せっかく邪魔者が眠ってくれたので、深酒をして貴重な夜を無駄には出来ない。
一杯ほど飲んで後は最中で酔い潰れないようにお水かお茶に切り替えようと考える。
鯉登が頷いたので水城が持ってこようと台所に向かおうとする。


「じゃあ、持ってくるよ…何が良い?」

「いや、私が行こう…酔いも覚ましたい」


取りに行くのは酒だが、アシリパを酔わせるためにいつもより早いペースで酒を飲んでいたのもあり、少し酔いを醒ましたいとも思っていた。
この離れでは台所はこの旅館の従業員が使用する方が多い。
基本離れには近寄らないよう教育されているが、食事やお風呂やアメニティなどは旅館側が用意することになっている。
あくまでここは旅館なのだ。
人目を避けてこの旅館を利用するが、客は客。
極力従業員は客に触れず、しかし、サービスは怠らない。
その方針のため、寝室のあるこの部屋までの距離は遠くはないがある程度距離がある。
恐らくお客に作業の音を聞かれないようにするためなのと、お客からの音を聞かないようにするためだろう。
酒の強い体だがほろ酔い気分で水城を抱きたくはなく、歩いているとある程度は酒も抜けていくだろうと考え、自分が酒を取りに向かった。

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