※ちょっとエッチ注意。
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寒いので熱燗にしようとお酒を温めた後、鯉登は部屋に戻った。
「雪乃?どうした?」
部屋に入ると、水城が笑顔を浮かべながら何かを見ていた。
そのテーブルには鯉登を待っている間に食べていたのか、空の皿と淹れたばかりで湯気を上げているお茶がある。
何をそんなに機嫌よく笑っているのかと部屋に入りながらそう問えば、水城は持っていた物を鯉登に見せる。
それは今日撮った写真だった。
それも水城が写っている写真ではなく、鯉登とアシリパが写っている写真。
「それがどうした?」
「ふふ、うん、なんかさ…大好きな人達の写真って、いいなって…」
酒を持ちながらアシリパがいた場所…すなわち、水城の隣に座る。
座りながら水城の手元にある写真を覗き込めば、何の変哲もない二人が写っている写真だった。
どこも笑顔になる要素はなく、むしろお互い別の方へ顔を向けムスッとしている姿は、笑顔は笑顔でも苦笑いや困った笑顔が浮かぶだろう。
しかし、水城の言葉に鯉登は目を見張る。
「大好きな人…」
「うん、大好きな人達」
鯉登のオウムのような返しに、水城は頷いて返す。
水城の手にある写真には、鯉登とアシリパが写っていた。
水城の大好きな二人が、写っているのだ。
それを見て笑顔…ニヤニヤとしてしまうのも無理はないだろう。
この二人が揃って写真に写り、水城の手元に残されるなんてちょっと前まではありえない話だったのだ。
いや、むしろ、考えもしなかっただろう。
それが、お互い険悪に写ってはいるものの、この写真は嘘偽りなく、水城の大切な人が写っている写真である。
ニコニコとご機嫌に二人の写真を見ていた水城だったが、隣が静かになったのに気づき、そちらに目をやる。
そこにはブスッとさせる鯉登がそっぽ向いていた。
「え…なに?どうしたの?」
「………大好き、なのか」
「え、うん…大好き…」
「大好き、か」
「????」
明らかに鯉登はご機嫌ナナメだった。
なぜご機嫌ナナメなのか、水城は分からず首を傾げた。
何故か『大好き』を気にしている鯉登に水城はコテンとまた首を傾げた。
しかし、ふと気づく。
「大好きな人と、愛してる人」
写真で口元を隠して上目遣いで見つめながらポツリと呟けば、そっぽを向いていた鯉登がこちらを見た。
まだふてくされている表情ではあったが、その目は明らかに嬉しそうに輝いていた。
鯉登の機嫌を損ねたのは、アシリパとのツーショットを撮ったことを思い出したからでもない。
その写真に水城を取られたようでもなく、アシリパと一括りされた事でもない。
ただ、『大好きな人』という表現が不満だったのだ。
鯉登は『大好き』なんて誰にでも使える言葉を欲しいわけではないのだ。
いや、大好きな人も嬉しい。
嬉しいのだが…自分と水城の関係はそんな誰にでも使える言葉や表現で表せるほど浅くはないだろ、と思っていた。
その思考に水城は気づいたのだ。
(ん"ん"ッ…ん、音之進、可愛い…)
そんな鯉登が水城は可愛く見えた。
事実、微々たるものだが水城は鯉登より年上だし、鯉登は成長していてもその純粋さは変わらない。
軍人として育てられたせいか、成長した体はその辺の男よりも筋肉質で男らしく、見た目は勿論美男子だ。
だが、完璧な人間はいない。
鯉登の不完全な部分と言えば、真っ直ぐすぎる部分と、純粋すぎて疑う事を知らない子供っぽさだろう。
しかし、どこか抜けていたり、完璧でないからこそ、人は魅力を感じる。
水城にとってはその不完全な部分もまた愛すべき部分でもあり、水城は鯉登ならば全て受け入れ…………いや…鶴見の事以外は受け入れる事ができる。
そう誰にでも言うでもなく惚気ていると、水城の顎を鯉登の指が掬い、顔を上げさせた。
「お前はどちらを愛している」
静かな声で問われ、水城は目を細めた。
答えなんて分かっているくせに、目の前の男は言葉にしてほしいのだ。
水城の口で、水城の声で、その答えを聞きたがっている。
それが更に水城の彼への愛おしさを高める。
可愛くて、可愛くて仕方なくて、水城はそっと彼の頬に片手を添え…唇を重ねた。
ただ触れただけのキスだが、それが水城の答えだった。
ゆっくりと離れる水城の顔を鯉登は見つめる。
水城の瞳は楽し気に目を細められ、笑顔を浮かべていた。
その笑みは男心をくすぐり、鯉登を挑発してるようにも見えた。
答えを言葉や音にして水城の口から聞きたがっていた鯉登にとって、水城の反応は普段なら不機嫌になるだろう。
しかし、水城の蠱惑的な笑みに鯉登は魅了された。
離れていく水城を追うように唇を鯉登から重ねる。
「ん…ん、」
逃げられないよう首の後ろに手をやり、水城の柔らかい唇を食らう。
角度を変えて何度も自分の唇を貪るようにキスをする鯉登に、水城も受け入れ、唇を薄く開けた。
その隙間から鯉登の舌が侵入し、侵入し絡める鯉登の舌を水城は自らも彼に応えた。
二人の口づけは深くなっていき、水城は鯉登の首に手を回し、鯉登は水城とのキスに夢中になりながらゆっくりと押し倒した。
布団ではなく、座布団があるが固い畳の上に押し倒すため、ゆっくりと、優しく、水城の体を押し倒し覆い被さった。
キスを繰り返しながら鯉登は水城の体に手を這わす。
浴衣越しに胸を触れる鯉登に、水城はビクリと反応を見せた。
「ん、だ、め……ここ、じゃ…んっ、はっ、ぁ…」
襖で隔たれているとはいえ、アシリパが傍にいる。
アシリパがいるところではしないという約束もあり、水城はイヤイヤと首を振りながら胸に触れている鯉登の手に触れる。
しかし、首を振って嫌だと意思表示することさえ許されず、言葉を発するため開けた口は透かさず塞がれてしまう。
逃げようとしても口の中を我が物顏で侵略してくる鯉登の舌が執拗に絡み取り、水城は手の力が抜けていく。
抵抗らしい抵抗が消えたのを感じた鯉登は、キスをしながら触れている胸を軽く揉んでやると、服越しでも分かるほど突起が立っているのが分かった。
その突起を指の爪で引っ掻く。
服越しなため強い刺激はない。
しかし、弱い刺激が焦らされているように感じ、水城はもどかしくなってしまう。
水城はキスをされながらチラリと寝室に繋がる襖を見る。
襖一枚の向こうには寝ているアシリパがいるのだ。
酒に酔って寝落ちしてしまったが、大切にしている存在の傍で行為をしているという背徳感に水城は無意識にもゾクゾクさせた。
駄目だと思っていても体は正直で、水城はもどかしい快楽にもじもじと太ももをすり寄せる。
そんな水城に気づいた鯉登は、胸に触れていた手を水城の体を撫でるように下へと滑らせ、浴衣越しに太ももを撫でる。
「んっ…ぁ…っ」
太ももとお尻を撫でられ、水城はビクンと反応を鯉登に見せる。
その反応に鯉登は愛し気に目を細め、やっとキスに満足したのか、顔を離す。
しかしその距離は鼻と鼻がくっつくほど近かった。
「雪乃…」
「…っ」
切なそうに、そして、愛おしそうに名前を呼ばれてしまうと、文句を言ってやろうと思ったが出なかった。
水城もアシリパを優遇しすぎていると自覚していたのだ。
こうして離れの延長をしたのだって、水城がアシリパに女を見せたくないという我が儘を鯉登が覚えていて、叶えようとしてくれているからだ。
お金があるからこそだが、それでもお金を使ってまで約束を守ってくれようとしている彼に罪悪感がないわけがない。
水城はそっと鯉登の首に手を回す。
(別の部屋に移動して…って言わなきゃ…)
見つめ合っているだけなのに、相手がとても愛おしく感じる。
お嬢様だった頃も、やはり水城も人間だから鯉登と繋がりたいと思わないわけがない。
しかし、こんなにも強い欲求はなかった。
それに困惑があるものの、強く求めてくれる相手が愛おしくてたまらない。
水城だって欲求というものがあり、せめてまだ理性があるうちに心行くまで触れられるよう別の部屋に移って行為をしたい…そう思い、そう鯉登に告げなければと思うのに、まだこのまま触れ合っていたくて言葉に出来なかった。
鯉登が近づき、キスをするのだと気づいた水城は瞳を閉じ、彼を受け入れようとした。
しかし、その時―――襖が開いた。
その瞬間、水城は鯉登の首に回していた手をガッと浴衣の襟を掴み…―――鯉登を力いっぱい投げ飛ばした。
「い"――――ッ」
それはそれは見事な巴投げだったという。
鯉登は水城を視界に写していたのに、気づけば天井にすり替えられていた。
大きな音と共に背中に痛みが走り、息を詰まらせる。
痛みに瞑っていた目を開き、水城へ視線をやる。
水城はすでに鯉登の手によって暴かれかけた浴衣を整えており、独りでに空いた襖の方へ視線を向けていた。
自分を見ない水城に不満に思いながらも、鯉登もつられてそちらに目をやればそこにはアシリパが立っていた。
「どっ…どうしたの?アシリパさん…」
水城は襖が独りでに開いたのに気づいた瞬間、考える前に本能で鯉登を投げ飛ばしていた。
引きつった笑みを浮かべる水城だったが、対してアシリパは目を擦り眠たいのか目をぱちぱちさせ細めていた。
「
アシンル…」
「え??アシ…?」
ぽそりと呟かれた言葉はアイヌ語だった。
アイヌ語には疎い水城は首を傾げたが、寝ぼけていてもそれに気づいたのか続けられたアシリパの『オソマ』という呟きにやっと何を示しているのか理解した。
「おトイレね…こっちだよ、アシリパさん…」
ふぁあ、と大きな口を開けて欠伸をするアシリパはまだ目が覚めておらず、酔いも醒めていないのもあるのか足元が覚束なかった。
それに不安に感じた水城はアシリパの手を取り、トイレまで案内しようとする。
「ご、ごめんね、音之進…」
部屋を出ようとする際、水城は顔を覗かせて謝った。
しかしアシリパに手を引かれたのか、水城は鯉登が何かを言う前に姿を消してしまう。
「…………」
鯉登は一人取り残され静まり返る部屋の中でぐぬぬと唸った。
『これだから邪魔者は!!!!』と良い所を邪魔され怒りをあらわにするが、チラリと自分の息子を見る。
そこには痛みで萎えたのか、元気をなくした息子がいた。
「………アシリパめ…覚えておけ…」
確信犯だったのか、それとも寝ぼけていただけなのか…それは重要ではない。
どちらにせよ自分と水城の時間を邪魔されたのは変わらない。
発散できない苛立ちを込めて、鯉登は水城を連れ去ったアシリパに向けて恨みの念を送っておいた。
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