撮った活動写真は街にある芝居小屋を借りて上映会を行うことになった。
勿論、鯉登のポケットマネーである。
席は固まってはいたものの、指定ではないので基本バラバラだが、水城の両脇は当然アシリパと鯉登の席に決まっていた。
「では、始めます」
暗い中、稲葉の合図でジュレールがクランクを回し、映像を映していく。
映像はパナンペ・ペナンペ物語のパナンペ役であるロシア人が写っていた。
顔の傷を隠すため頭巾はそのままにアイヌの服を身にまとっていた。
のっけから、パナンペは凍った川に穴を開けてチンポを入れている場面から始まった。
その場面に水城は、アシリパのクッションになりながら『いきなり変だよこの昔話!!』と突っ込んだ記憶を思い出す。
映像は続き、そのパナンペのチンポの周りに魚が集まり、家にどっさり背負って帰った場面に変わる。
すると、奥さん役の女装した鯉登が現れ、大漁の籠を見てパナンペ役のロシア人と喜ぶ演技を見せる。
チラリと鯉登を見ると、むっ、と眉をこれでもかと顰めていた。
「美人だよ、音之進」
「……嫌味か…それは…」
結局、鯉登は水城の説得で、奥さん役を引き受けることになった。
最初はロシア人共々あまりにも棒だったので何度も注意されたが、上映されている姿はとても嬉しそうに演技をしていた。
褒めれば鯉登の眉のシワが更に深くなり、水城はクスクスと笑う。
水城の楽しそうな表情に、鯉登ももう不機嫌になる気にもならなかった。
―――上映は続き、今度はペナンペ役の白石が現れた。
ペナンペは楽しく暮らしているパナンペ達にどうしてそんなにいい暮らしが出来るのかを問い詰める。
その場面から変わり、ペナンペ役の白石がズボンを半分降ろし、パナンペがしていたように川に行きチンポを入れて魚を獲ろうとした。
しかしクズであるペナンペは欲を出し一晩中浸けていると、チンポが凍りつき抜けなくなってしまった。
そこで、次の場面にペナンペの奥さん役である月島が女装姿で現れた。
鯉登といい月島といい、詰めている胸が妙にでかい。
奥さん役の月島は、マサカリで氷を割ろうとしたのだが、チンポを切り落としてしまい……ペナンペはつまらない死に方を迎えた。
昔話はまだまだあった。
第二話が続き、第二話はチンポを伸ばし、その伸びたチンポは松前にまで達した。
そのチンポを松前藩の女達が良い物干し竿だと喜び、上等な着物を沢山かけ、チンポを引くとパナンペは上等な着物を沢山手に入れた。
そして、一話同様、ペナンペも同じことをしようとするが、パナンペで着物を盗む竿だと分かっていたので、松前藩の女達にペナンペのチンポは切り落とされてしまった。
そして、ペナンペはつまらない死に方を迎える。
本来ならそこで終わりだった。
しかし、アシリパは納得できなかった。
こんな芝居では何も伝わらず、何も残らない…と。
そこで、水城が真面目な話をやってみてはどうかと提案する。
パナンペ・ペナンペ昔話は、ほぼ下ネタであった。
「チカパシ!私達が写ってる!」
次の物語が映し出され、エノノカとチカパシの子供達が喜びの声を上げる。
次の物語は、『
斑文鳥の身の上話』というものだった。
これは三人の兄弟の話で、下ネタしかないパナンペ・ペナンペ物語とは違い、真面目な話だった。
主演はチカパシ。
二人の兄弟には谷垣とロシア人が選ばれた。
その三人はある日遠くへ狩りに行くと家があり、その中に三人の娘がいた。
その娘役にはエノノカが選ばれ、当然のごとく女装した月島と鯉登がいた。
弟は持っていた魚でみんなで食事をしユカラというリズムで語る口承文芸を謳った。
そこに白石が演ずる怪しい男が一人入ってきた。
その男を兄の合図でチカパシ役の弟がユカラで拍子をとっていた棒で殴ると、白石演ずる怪しい男は大きな熊になった。
男…熊は人間に化けていたのだ。
娘たちは女だけだったので熊の肉が獲れる者がおらず、とても感謝した。
それから兄達三人で沼で化物を倒したりと、長い旅をした。
もう一度娘たちの家によると、父親が娘たちを嫁に貰ってくれと言ってきた。
シカパシ演ずる弟は、その家の息子となり幸せに暮らした。
ここで終わりではなく、大きい兄を演じていた谷垣が、自分は実は人間ではなく『ケソラプ』という鳥のカムイだったことを明かし、大きい兄は綺麗な鳥の姿(の着ぐるみ)となり天際高く飛んで行った。
弟との別れに、大きな兄だった鳥が落とす涙は雨となり、弟たちの頭上に落ちてきた。
チカパシは鳥のぬいぐるみを着る谷垣を見上げ、ぽろっりと涙を流した。
その涙は演技ではなく、本物だった。
その涙は本当に別れを悲しんでいるように見え、水城は胸が締め付けられる思いで映像を見ていた。
しかし、谷垣の重さに耐え切れず吊られていた着ぐるみが壊れ、褌姿の谷垣がドサリと地面に落ちて全てを台無しにした。
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