アシリパ監修の上映は…まあ、成功した。
はっきり成功したと言えないのは、所々コントが入っていたからだ。
チカパシ達が演じた『
斑文鳥の身の上話』が完結した後、新しい映像が映し出された。
それは稲葉達と初めて出会った時の映像だった。
アシリパが二匹のクズリを矢で射止めた姿が映っていた。
勿論、カメラを回し続けていたため、水城が銃で仕留めた姿も映っていた。
水城はその映像を見て後ろにいる白石を振り返る。
「見て!白石!見て!!ほら当たった!!当たった!!」
「本当だったんだなぁ……杉元が撃った弾が当たったの人生で初めてじゃないか??」
バシバシと白石を叩く水城に、白石は『ゴリラの力で叩くのやめよぉ??』と文句を言う前に、驚いた。
ものすごく、驚いた。
役者として呼ばれたときに、水城が興奮しながら銃が当たった事を報告していたが、全く1ミリたりとも信じてなかった。
しかし、白石を責めるべからず。
『可哀想に…幻影を見たんだなぁ』と可哀想な子を見る目で見てしまうほど、水城はノーコンだったのだ。
しかし、映像が証拠となり、関心したように零す白石に、水城はドヤッとドヤ顔を見せた。
褒められた事が嬉しかったのか、『えへ〜』とふにゃりと笑う水城に、つい頭を撫でてしまった。
しかしハッと我に返る。
そういえば水城の隣に、嫉妬深い薩摩の鬼の存在を思い出した。
流石に軍刀を抜くほど、以前よりは疑われてはいないが、人を殺さんばかりの睨みは心臓に悪い。
『やべぇ』と青い顔をしながら薩摩の鬼を見ると、薩摩の鬼は『ン"ン"ッ』と悶えていた。
どうやら恋人の不器用さんぶり+当たったと嬉しそうにはしゃぐ姿に萌えているらしい。
(駄目だこいつ…)
もう遠い目をするしかなかった。
白石の言葉や水城の反応に、白石の低い仕切りの隣にいる月島から呆れたような…哀れんだような目線をいただいた。
「杉元お前…まだ銃が苦手なのか…」
水城の銃の駄目さは、別師団だった月島も知っていた。
あの鶴見と反りが合わない吉平が、鶴見に頼み尾形に水城の特訓を頼んだほどである。
月島も水城の銃の腕前を見たことがあるが、ほぼ全て弾を外す腕前に、控えめにいって呆れてものも言えなかった。
水城は哀れんだ目で見て来る月島に、慌てて弁解する。
「ち、ちが…違うし!!熊を撃ち殺した事あるし!!」
「そうだな…目と鼻の先にいて口に銃を突っ込んで固定して仕留めたもんな〜?」
「んもぉ〜〜っ!!アシリパさん!!バラさないでよぉ〜〜!仕留めたには仕留めたんだから数に入りますぅ〜!」
一応、水城だって銃で熊を仕留めたことがある。
方法はどうであれ、あれは水城では仕留めた中に含まれるらしい。
アシリパに生暖かい笑顔で見つめられ、水城は顔を手で覆って叫んだ。
「熊だと…?雪乃…お前そんな危ない目に合っていたのか…!?」
水城達の会話に面倒臭い男がログインした。
熊と言えば、人間をも食らう猛獣である。
人間をも食らう熊と出会ったどころか、目と鼻の先という表現をするほどの距離で対峙したと鯉登は初めて聞き、驚いた。
水城は鯉登の言葉に、『あっ…やば…』と口を手で塞ぐ。
口を手で塞ぎダラダラと汗を流す水城の肩を、鯉登はガシリと掴んで迫る。
「私と離れている間にそんな危険な目にあっていたとは…!!やはり全てが終わるまで待てん!!雪乃!!今すぐ薩摩に帰るぞ!!」
水城はこれまで熊と対峙した事は言っていなかった。
勿論、自分に過保護な彼氏が心配してしまうからだ。
案の定、連れ戻そうとし、水城は肩を掴まれながら『だから言わなかったのに〜〜』と自分の不手際とはいえ、鯉登の前で言ってしまった事を後悔した。
とはいえ、出てしまった言葉を撤回できるわけでもなく…肩を掴んで揺さぶる鯉登に、どう言いくるめるか考える。
「お、落ち着いて…音之進…」
「落ち着いてられるか!!大丈夫だったか!?怪我はなかったか!?」
ガクガクと揺さぶられながら、水城は『いや散々人の体を隅々見ているじゃん???』と思いながら、青い顔をして心配そうにする鯉登を宥める。
「怪我は…まあ、多少はしたけど治ったから大丈夫…それに大分前の事だし」
「…怪我を…したんだな?」
水城は言葉の選択肢を間違えたことに気づく。
鯉登は恋人を大切にしすぎているため、ちょっとの事でも鬼のように心配したり、怒ったりするのだ。
鯉登から零れる低い声、不機嫌さを表すような黒いオーラ…水城は脂汗をかきながら、鯉登から視線を逸らす。
「エッ???シテナイヨ??ムキズダヨ???」
「嘘をつけ!今したと言っただろう!!治ったとか言っただろう!!」
流石に騙されず、鯉登の追求に水城は『うぅ…』と観念したのか、逸らしていた視線を鯉登に戻した。
「でも…傷だってアシリパさんのお陰で痕も残らず治ったし…それに音之進と再会するずっと前の事だもの…言わなくてもいいかなって思って…その…隠しててごめんなさい…」
熊の他にも、寅次と梅子のこととか、寅次が初恋だったとか、尾形達と混浴したとか、裸で殺し合いをしたとか、変態との命の取り合いとか、まだ話していない事が色々あるが、ややこしくなるので言わないでおいた。
特に寅次の事なんて話した途端面倒臭い事になるのは目に見えている。
もう寅次に対して恋心はないとはいえ、やはり恋人として元カレ…もとい恋人の初恋の彼の存在は、良い気分にはならないだろう。
もう口を滑らせないぞ〜!、と気合を入れるも、同じことを繰り返すのが、水城である。
ただ、申し訳ないと思うのは本心で、心配させてしまったと、しょんぼりとさせながら囁くように謝る。
鯉登とせっかく和解したのに、またすれ違うのは嫌だった。
そう思って謝ると…
「許すッッッ!!!!」
即答で許しが出た。
『むぜ…』と小さい声で続けて零すも、幸い水城には届いていなかった。
まあ、届いていたらいたで、『もう…音之進ったら…』と照れてバカップルのピンクオーラが芝居小屋に充満していただろう。(そして月島が遠い目をするまでがデフォである)
ちなみに、ライバルのアシリパが大人しいのは、火に油を注ぐのを防ぐために白石が後ろから口を手で覆っていたためだった。
229 / 274
← | 目次 | 表紙 | →
しおりを挟む