(5 / 10) 転生パロ (4)

記憶の少女そのまま出てきたように、少女は少女のままだった。
少女こと、アシリパは後ろにまたしても見覚えのある顔を侍らせこちらにやってくる。


「水城!どうした!!服が破けているぞ!!」


アシリパが真っ先に水城の元へ駆けつけたのを横目に、見覚えのある顔ことキロランケは隣の個室で尾形達の会話を聞いていたのか、尾形がいることに驚きはなく、ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべこちらに歩み寄って来ていた。


「おー、尾形か…いやぁ、見た目変わってねえなぁ」

「そういうお前はキロランケだな?それを言うならお前もだろ」


『そういえばそうだな』、と明治時代と変わらない髭を撫でながら、キロランケはそう零し、ポケットに入れている煙草を取り出す。
しかし、『こっちは禁煙だ』と告げれば、残念そうにしながらも煙草を戻した。
この店では完全に禁煙と喫煙を完全に別れている。
今どき喫煙エリアを残したまま営業している珍しい店ではあるが、喫煙者からはそこが愛好される要因の一つかもしれない。
そんな呑気な会話をする男連中をよそに、水城は駆け寄ってきてくれたアシリパに縋りつく。


「アシリパさぁん!!わたし、こんやくします!!!」

「尾形とか?」

「ちがう!!!おがたにはかのじょがいるもんっ!!!」


わっと泣いて、少女に縋りつく水城の言葉にアシリパとキロランケが尾形を見る。
点点点、と点線の矢印が尾形に集中したが、尾形はきょとんとした目で水城を見つめていた。


「彼女…?誰の事だ?彼女がいたことはないぞ」


全く心当たりがない尾形は、水城の言葉に首を傾げる。
生まれてこの方、彼女なんていたことはない。
セフレと呼ばれる女はいたが、尾形は心の中で呟く。
しかし水城は尾形の言葉は信じていないようで、キッと尾形を睨んだ後、その後ろにいる女を見る。


「その人、尾形の彼女でしょ?」


そう言われて尾形は目線を伝って後ろを見る。
そこで尾形は女の存在に気づいた。
女は無視されても尾形の傍に居続けたらしく、水城に彼女と勘違いされたのが気をよくしたのか、水城に向けて優越感たっぷりに鼻で笑う。
どうせ相手にされないからって、という定番の言葉などを思い浮かべているのだろう。
アシリパが来たので傍観に徹している白石は、美女の考えていることが手に取る様に分かった。
『尾形ちゃん…見る目なさすぎぃ』と思う。
ある程度小悪魔要素は許せる白石だが、大切な友人を馬鹿にする女は、いくら美女でも魅力を感じなかった。


「こいつか?こいつは部下だ…それ以上でもそれ以下でもない」


しかし、その言葉を聞いて白石は心底女に同情した。
女は尾形の言葉に余裕を感じさせていた笑みが消え、顔を青ざめ尾形を見た。
恐らく、尾形は目の前の水城を逃がさないよう必死なのか、気づいていないのだろう。
逆に水城は困惑した。
『え?…え???』と酔いも流石に醒めたのか、困惑した表情を浮かべながら尾形と女を何度も見合う。
その傍で黙って聞いていたアシリパが、首を傾げながら尾形に問う。


「尾形には今彼女いないのか?」

「いない…そもそも彼女なんざ作った事ない」

「じゃあ今お前はフリーなんだな?」

「まあ、一応な…ずっとお前らを探してたからな…彼女なんざ作る余裕はなかったし、俺は水城以外欲しいと思ったことはない」


白石は『もうやめて!!!その場にいる女達のライフはゼロよ!!!』と叫びたかった。
傍観側になって、周りを見渡す余裕が出来た白石は気づいた。
この個室にいる尾形の同じ会社の社員である女達は全員、尾形に惚れている…と。
彼女を作ったことがないという尾形の言葉に、その場にいた水城とアシリパ以外の女全員がまさに漫画のように『ガーン』と文字を背後に浮かべ、衝撃を受けていた。
その中の数人は、尾形の傍にいる女と同じ表情同じ反応を見せているので、何人かには手を出していたのだろう。
内心、彼女がいたことがないと聞き、白石は尾形も童貞仲間かと喜んでいたが…すぐに喜びを返して…と心底…心の底から…むしろ地獄の底から思う。
純粋なアシリパは、尾形の言葉を聞いてパッと笑みを浮かべ、まだ困惑ぎみの水城に振り返り、天使のような笑顔で言った。


「水城!良かったな!今世でもお前たちは相思相愛のようだぞ!!」

「ちょっ、ま…っア、アシリパさああああん!!!」


アシリパの言葉に水城は、ボンッと爆発したように顔を真っ赤に染めた。
尾形に手を取られているので、自由の利く手で顔を覆ってその場に蹲る。
白石とキロランケは水城に同情めいた目線を向けた。
『アシリパちゃん…そりゃないよ…』と白石は流石に水城を哀れに思った。
尾形は目を瞬かせて水城を見たが、すぐにアシリパの言葉を理解したように、ニタリといやらしそうに笑う。


「へえ…?」


ただそう呟いた。
ただ、そう呟いただけなのだが、付き合いが長い白石達にはそれだけではないのを知っている。


「相思相愛、ねぇ…」

「ちが…っ!ちがう!!!違うから!!!私はあんたのことなんてぜんっっっっっぜん!!!ぜんっぜん!!これっっっぽっっっちも!!ミジンコほども何にも思っていないんだからね!!!」

「ほう…?アシリパ、そうなのか?」

「水城はお前に会えなくて寂しいと言っていたな…再会したら今度こそとちゃんと素直になって玉砕しようと告白するとも言っていた」

「アシリパさんンンンンンン!!!!!」


なぜか、水城の味方であるはずのアシリパが、敵に向かって護衛射撃を撃ってきた。
明治時代には嫌って程聞いたあの渇いた音が背後から聞こえ、水城の背中に無遠慮に当たった気がする。
アシリパのまさかの裏切りに、水城は流石に蹲っていられず、顔を上げる。
その顔は真っ赤に染まっており、羞恥からか前世から継がれている琥珀色の瞳は涙で濡れていた。
『な゙ん゙でい゙ゔの゙!!』と水城の半泣きに迫られもアシリパは、肩を竦めるだけの反応を返す。


「だって本当のことじゃないか…いつも酔うとお前は尾形のことばかりだし、会うたびに尾形を見つけたか私達に確認するだろう?」

「ほう?」


『あ゙ーーーーッッッ!!!』と水城は叫ぶ。
羞恥に耐えられなくなったのと、アシリパの言葉を尾形に聞かせないためだろう。
しかし、尾形は水城を引き寄せ、後ろから口を塞いでそれを遮った。
白石には尾形の目が輝いて見えた。
白石と再会した時、尾形の目は淀んでいた。
むしろ、死んでいたと言っていいだろう。
今世になんの楽しみもなく、生きる望みすらないような目。
いつ死んでもいいような目だった。
働くのも動く体の栄養と安全のために金を稼いでいるためでしかなさそうな目。
それが、今はルンルンと輝いていた。
『ああ、尾形ちゃんだ…』と白石は尾形とアシリパに挟まれた水城への羞恥プレイなど見なかったことにして、尾形が帰ってきたことをしみじみと喜んだ。
尾形の相槌に、アシリパは水城から尾形を見て続ける。
尾形とアシリパはタッグを組んだ。


「水城はずっと尾形の事を探していたぞ?前世で尾形と同じような体型や背丈の男が横切れば必ず振り返るし、ツーブロックの男を見ると声をかけたりもしていた…部屋なんか猫グッズと蝙蝠グッズで埋もれていて、家族にゴスロリファッションが趣味と思われているほどだ…クレーンゲームが得意な白石に会うたびに猫のグッズを取らせているし、猫好きだと思った家族が黒猫をプレゼントしたが、その名前を『百之助』を元に『ひぃくん』と名付けて溺愛しているくらいだ…あと、酔うとそれが拍車がかかるぞ…私をお前と間違えて抱き着いて頬ずりしてくるし、告白もしてくるし、キスもしてくる…時々電話をしていると寂しいと泣いて―――」

「や…やめてあげてよぉ!!アシリパちゃん!やめてあげてぇ!!もう杉元のライフはゼロよ!!!」


つらつらとアシリパは今までの水城を尾形に告げ、水城は羞恥から顔から煙が上がる幻影が見えた。
もう何も言えなくなった水城に、白石は思わずアシリパに駆け寄って尾形が水城にしているように口を塞ぐ。
今の水城は、白石があまりの哀れさに泣いてしまうほどだった。
尾形はアシリパの言葉に目を見張る。
瞬きを何回かした後、自分の腕の中に閉じ込めている水城を見下ろす。
水城は顔を真っ赤にして恥ずかしさから涙がポロポロと流れていた。
うーうー言う水城に、尾形は口を塞いでいた手を放した。
逃げるかと思ったが、水城は逃げる素振りはなく、彼女の腹部に手を回し、指を組む。
グッと引き寄せれば更に水城の体温が感じられた。
今まで尾形は何も感じず生きてきた。
食べる喜びも、眠る喜びも、この体を維持するためにしている行為に過ぎなかった。
しかし、水城と再会した途端、尾形の味覚や体温が正常に戻る様に一気に感じられた。
今まで酔う事が出来なかった尾形だったが、今なら酔っぱらえるだろう。
羞恥心からか、水城の体温は熱く感じられる。


「水城」

「ち、違う!!わ、私は……し、静秋に会いたくて仕方ないだけで…別に…あんたなんか…」


ここまできて水城は素直になれなかった。
白石とキロランケは、ツンデレのテンプレートの言葉に思わず苦笑いしてしまう。
水城の言葉からは、ただの種欲しさに聞こえるだろう。
しかし流石に尾形だってそれは嘘だと気づく。
というよりは、誰だって嘘だと気づくだろう。
顔を真っ赤にさせて必死に言い訳を考えるように目線を泳がせる姿に、誰が惑わされるだろうか。
尾形も思わず苦笑いを浮かんだその時、パシッと音が鳴り、全員そちらに目をやった。
そこには痛い…とても痛い記憶しかない、懐かしい物を手の平にペチペチと叩いているアシリパの姿があった。

5 / 10
| 目次 | 表紙 |
しおりを挟む