(6 / 10) 転生パロ (5)

アシリパの手にある物を見て、水城は顔を真っ赤から青に染める。


「ア…アシリパさん…それ…」

「懐かしいだろう?今の世の中便利になったものだなぁ、水城…ネットにはこんなものまで売っているんだぞ」


アシリパの手にある物は、アイヌ民族が仕置に使う『ストゥ』だった。
明治時代にはアイヌしか所有していなかった仕置き棒に水城は後ずさる。
しかし、後ろから尾形に抱き留められているので、尾形と更に密着するだけだった。
パシパシと手の平をストゥで叩き、水城を見降ろしながら近づいてくるアシリパに、水城は体を捻り尾形に横抱きされるような体勢に変え、尾形の首に抱き着く。
ちゃっかり尾形は、自らくっついてきた水城の腰に手を回していた。
生まれ変わったのに、明治の仕置き棒で叩かれた痛みを思い出すようだった。
頼りの白石はアイヌ版アシリパの後ろで『はわわ…』とあわあわさせているだけで、止める気配がなかった。(というか白石では止めれない)
その場で唯一水城以外で、アシリパを止めることができるであろうキロランケは、ニタニタと終始面白そうにニタついているだけで、こちらも止める気配がない。
もう味方はいなかった。


「お、おちついて…アシリパさん…!話し合おう!!」

「話し合う…?お前が素直になればいいことだけだと思うけどなぁ??」

「すっ…素直になりますっ!!!素直になりますから!!どうかストゥだけは…ッ!!」

「本当だな??」

「はい!!!本当です!!!」


拝むように手を組み何度も頷く。
それを見て信じたのか、アシリパはストゥを先を手の平に当ててシャっという音と共に入れ込む。
『ええ…なにそれ…』と水城は零した。
今の世の中、機械化が進むのと同じく、ストゥも警棒のように収納可能になるのかと感心した。(そんなストゥありません)


「…………」

「…………」


しかし、安心したのもつかの間…水城はさあ話すぞ、と緊張を抱きながら尾形を見る。
水城は自覚がなかったため、何故かお姫様抱っこのように抱きかかえられているのに気づき、今世でも乙女思考の水城はドキンと胸を高まらせた。
百年越しの恋心のお陰か、水城達を探して疲れが顔に出ているというのに、水城にはそれさえもミステリアスとしてかっこよく見えた。
だからこそ、恋は盲目というのだろう。
ただ、百年も水城は尾形と会っていない。
再会した時の事をアシリパと話している時はとても楽しかった。
ああしたい、こうしたい、と想いを馳せるのも楽しかった。
しかし、実際に再会してみると思った言葉が出てこなかった。
久々の尾形との距離が近いのもあるのだろう。
青かった顔が尾形と目が合い、頬があっという間に薔薇のように赤らんだ。
ぱっと俯いて尾形から視線を外す。


「えっと……その…」


言いたい事は沢山あるのだ。
百年ぶりだね、元気だった、今何してるの…ありきたりだけど、色々話がしたいと思っていた。
なのに言葉が出ない。
直視するのも恥ずかしくなるほどの間が経っていた。
もじもじとさせる水城に、尾形は整った眉を顰めた。


(なんだこいつ…なんだ……なんか…百年前より可愛くなってないか?)


眉を顰めているのは、不快に感じたわけでも、中々話さない水城に苛立っていたからではない。
水城が尾形に対してときめいているのと同様に、尾形も百年ぶりの水城との再会に更に輝いて見えた。
可愛い。
とにかく、可愛い。
いや、百年前も可愛いと思っていたが、今はもっと可愛い。
ここが居酒屋でなければ、アシリパ達さえいなければ、即自宅にお持ち帰りの即ハメである。
自宅には女を呼ぶことはないため、当然ゴムはない。
ゴムがない=生OK????、と恋に熱せられてトロけている脳は考えついた。
きっと脳内を覗けたのなら、白石は『いや、全然OKじゃないから…コンビニで買おう???』と突っ込んだに違いない。
『デキ婚か…ありだな…』と明後日の方向に思考を向けていると、尾形の視線に急かされていると思ったのか、水城は更に真っ赤に顔を染めながら『うぅ…』と唸る。
更にはアシリパからシャっとまた音がして、水城は『ひぇ…』と尾形に寄り添うようにくっついた。
尾形は思う…『アシリパ、グッジョブ』と。


「水城〜?」

「ひぃっ!こ、ここじゃやだ!!」

「水城〜〜〜〜???」

「は、恥ずかしいのぉぉ!!こ、こんな大勢の前で告白なんてできないよぉぉ!!アシリパさんのばかぁぁ!!」


『でも好き!!!!』と尾形よりも前に、アシリパに愛の告白をしながら、水城は耐えきれないのか手で顔を覆って首を振った。
その姿はまさに恥じる乙女。
尾形は『可愛い』としか感想が出てこなかった。
色々拗らせすぎて、もう尾形は手遅れである。
アシリパは、イヤイヤと頭を振る水城に溜息をついた。
彼女の気持ちも分かるのだ。
水城は、どんな女性よりも乙女である。
告白だって雰囲気を大事にしたいだろう。
なのに尾形とこんなところで再会したばっかりに、雰囲気もクソもない告白を強要されているのだ。
しかし、アシリパの気持ちも理解してほしい。
酔っぱらう度にアシリパや周りにいる人間を尾形と間違え、甘えて、あまつさえキスをし始める。
アシリパや白石やキロランケはまだいい。
三人は水城に友情以上の感情は持ち合わせていない。
ただ、それ以外の男…例えば牛山や土方や鶴見など…前世でも水城を狙っていた男に甘えるのはマズイ。
土方は紳士なためまだマシだが、鶴見は今世では水城を女として見ており、一見紳士に見えてもあわよくば酔い潰れた水城をお持ち帰りしようと水城に酒を勧めてくる始末。
しかも月島も、水城を妹のように思っているがゆえに、待たせすぎている尾形には水城を任せられん…と最近は鶴見に加担しはじめている。
牛山は…今世でも牛山である。
なので、飲みに行くときは三人が水城を間に挟んで飲むのが碇石となっていた。
まだ酔っ払いなら良かった。
こちらが注意しておけば済むことだ。
だが、時々…水城は尾形がいなくて寂しいと泣くことが増えた。
それだけは、どうしようもない問題である。
寂しく空いた心の穴は、誰でもない、尾形だけが埋めれるものだ。
だからアシリパは無理にでも結ばせようとした。
とはいえ、少し無理強いさせてしまったかと、アシリパは反省する。


「水城…すまない……私はただもうお前の泣く姿は見たくなかったんだ…明治ではお前は静秋を育てる事で尾形のいない日々を誤魔化してきた…だが、私は知っていたんだ…夜…一人になった時…お前はいつも泣いていたな……この時ばかりは私も後悔したのだ…なぜ、もっと水城と尾形の背中を押してやれなかったのだとな…」

「アシリパさん…でも…あの時は仕方なかったんだよ…あの時は…お互い敵同士だったし……私は一人でも静秋を育てようって意固地になってたから…争奪戦が終わってもまだ私の心は戦場に立ってたから…アシリパさんが責任を感じることはないわ…」

「それでもだ…それでも…私はお前達と旅をしている間に何度も背中を押す機会があったのに…それが気がかりだったんだ……そして私は悲しくなった…どうして尾形なんだ、と……どうして…―――どうして私じゃ駄目なんだ!!水城!!!」


今まで真面目だった。
シリアスで、誰も口出しできない空気が出来ていた。
しかし、シリアスではなく、シリアルだった事が判明した。
アシリパはそう叫んで未だ露わになっている水城の谷間に顔を突っ込む。
たわわな胸にGO!をしたアシリパに水城は目が点となって呆気に取られた。
尾形もまさかアシリパが妻(確定事項)にセクハラするのを予想できず、妻(確定事項)のお胸様に触れるのを許してしまった。


「ア、ア、アシ…アシリパさん…?」

「水城ーー!!私だァーーーー!!!結婚してくれぇーーーー!!!」

「ひっ!そ、そこで喋らないで…っ!!ほ、頬ずりもやめてぇ!!く、くすぐったい…っ!」

「水城を20年も待たせる浮気男よりもおおお!!私の方が堅実で尽くす夫になれるぞおおお!!!!静秋の良いパパになれるぞおおお!!!」

「お、おおお、おち、落ち着こう!!アシリパさん!!落ち着こう!!」


水城のお胸様に顔を埋めるだけでは飽き足らず、アシリパは左右に顔を振って頬ずりもし出した。
水城は今世でも柔道をしていても、筋肉も付かず、傷だらけにも関わらず牛山絶賛の柔らかい肌を持って生まれた。
再会したアシリパはよく水城のお胸様を揉ませていただいている。
ちなみに、お胸様に揉ませていただいているのは、アシリパだけの特権である。
尾形はアシリパの様子がおかしい事に気づいた。
今世では知らないが、尾形の記憶にあるアシリパなら、そんなセクハラはしても駄々を捏ねる事はない。
そしてふと香る酒の匂い。
アシリパは酔っていた。


「おい!!誰だ!!アシリパに酒飲ました奴は!!!!」


怒鳴るように尾形は大人たちである白石達を見る…いや、睨む。
キロランケは笑いこけていたが、白石がそっと尾形から目線を逸らし―――尾形は犯人を特定した。


「白石てめぇ…後で覚えていろよ…」


低く唸るような声。
怒りボイスである。
変に声が良すぎるから余計に怖い。
白石は『ひぃ!!』と腹を抱えて笑っているキロランケの陰に隠れた。
大男の陰に隠れる白石に、尾形はチッと舌打ちするが、それよりもまず訂正させなければならない事があった。


「おいアシリパ!誰が浮気男だ!!訂正しろ!!」


それは『浮気男』の部分である。
こちらも待たされたものの、それでも見つけきれなかったのは自分の落ち度だ。
待たせた自覚はあるため、『待たせる』という言葉は訂正しない。
ただ、水城に浮気男という印象を持たせたくはなかった。
酔っていても尾形の言葉は聞こえているのか、水城のたわわなお胸様に顔を埋めていたアシリパはガバリと顔を上げて尾形を睨む。


「浮気だろう!!!私は気づいているぞ!!そこにいる女達の大半をお前は食っているな!!!これだから!!これだから顔と金だけがいいシサムの男は!!!これだから!!!」

「うるせえ!食ってねえよ!!」


食っているのにかかわらず、尾形はすっとぼける。
いや、尾形からしてみれば食ったうちにはならないのかもしれない。


「まあ、落ち着けって二人とも…いくらなんでもお前さんの部下達の前で話すもんでもないだろ…俺らは隣で飲んでたんだが今は全員こっちに来てるしな…だから隣には誰もいないし、そっちで二人っきりで話したらどうだ?」


今まで口を挟まずにいたキロランケが入ってきた。
キィーーー!と猿のように喚くアシリパを羽交い絞めにして水城達から離す。
『ほぉ〜ら、アシリパちゃ〜ん!揚げ豆腐ですよぉ〜』と白石が適当にテーブルにあった揚げ豆腐を箸で一口大にし、ウキウキ言っているアシリパの口に放り込む。
すると口に入った揚げ豆腐に気が逸れたのか、アシリパは『ヒンナヒンナ』と言って大人しくなった。
前世今世共に尾形より長くアシリパと時間を共にしているだけあって、アシリパの扱いが上手かった。
尾形はキロランケの言葉に、ここが部下に無理矢理連れてこられた居酒屋だと気づく。
部下達を見れば、空気だった部下達は尾形と目が合い、ビクリと怯えたそぶりを見せた。
ただそれは尾形の豹変もあるものの、普段の鬼部長ぶりの賜物だろう。


「…水城、お前はそれでいいか?」


尾形はそれで構わないので、水城に確認をとる。
水城もやり取りで我を忘れていたためか、尾形と同じくキロランケの言葉に我に返った。
白石達に見られただけではなく、赤の他人…それも尾形の勤める会社の人間にも見えられたことに羞恥を感じ、頬を赤らめコクコクと頷いた。
水城の了承も取り、尾形は水城を横抱きにしたまま立ち上がる。
前世の腕力を今世にも引き継いでいるわりには、筋肉量や体重は平均だ。
水城は昔からそうだった。
昔と変わらないなと懐かしく思う。
成人女性を横抱きにしながらも、すっとスマートに立ち上がった尾形に、水城は胸の高まりが抑えられない。
漫画なら目にハートを浮かべているであろう乙女思考の水城に、尾形はこの時ばかりは気を逸らすために鍛えた日々は無駄ではなかったなと思った。


「アシリパから目を離すなよ?邪魔されてはかなわん」


キロランケと白石にそう言って、尾形は無人であろう隣接している個室へと姿を消した。

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