北海道に到着した水城達は、北海道の地に戻り、あるアイヌのコタンにお世話になりつつ、暫くここで路銀を稼ぐことにした。
既に世話になって数日経っており、アイヌの男の猟についていくと、アイヌの男が飼っている犬二匹が何か見つけたらしく、何か吠えていた。
「見てみろ、この小さくて黄色いシミ…犬たちはこれを見つけるのがうまい」
男はそう言って犬たちが騒いでいた場所を指さして雪乃とアシリパに見せる。
そこには黄色いシミが出来ており、雪乃がそれが何かと問うと続けて答えてくれた。
「ヒグマの息で出来たものだ…この下には必ずキムンカムイの家がある」
キムンカムイ…山の神という意味であり、ヒグマでもある。
アイヌ曰く、そこにはヒグマの家があるという。
それを聞いて水城は一人の男を思い浮かべる。
それは、アシリパと手を組んで間もない頃に出会った二瓶の姿だった。
(二瓶が連れていたリュウもクマの場所を見つけることができたっけ…)
今はもう別れて間もないリュウの姿も思い浮かべる。
リュウは二瓶と共に猟をしてきた経験豊富な犬だ。
人間と犬を一緒にはしていけないが、熊を見つけたり立ち向かう姿はまさに勇敢な犬だった。
あのモフモフにはもう触れないと思うと寂しく思いながら、アイヌの説明を耳に傾ける。
犬が熊の巣穴を見つけ、アイヌの男が入り口に積もっている雪を取り除き、木の柵を立てて入り口を塞ぐ。
それは入り口を塞いで閉じ込めるものではなく、熊というのは抱き込む動きをしてしまうとアシリパが説明してくれた。
犬に吠えられて出てきた熊は柵を掴んで自分の巣穴の入口近くに閉じ込められるのだ。
その動きを利用して、あとは熊を銃で撃ち殺すのだという。
アイヌの男が撃って殺した熊は巣穴から出し、その場で解体を始めた。
体が大きく、アイヌの男のチセに世話になっているのでアシリパと水城も手伝った。
成獣なので毛皮はそれなりに獲れたのか、アイヌの男は満足げだった。
しかし、流石に三人いても肉は全て持ち帰れず、皮も残し明日みんなで獲りに来ることになった。
「それは?」
ふむふむ、と聞いていると、アシリパが一本の木を熊のそばに立てた。
それに気づいて水城は不思議そうに首を傾げ、アシリパに聞く。
「これはネウサラカムイというやつだ」
「ねうさらかむい?」
アイヌの言葉は和人には聞き慣れない言葉が多い。
特にまるで外国語のような言葉が多く、水城は復唱するものの、言い慣れていないためつい舌足らずになってしまう。
コテンと首を傾げるのも加わり、アシリパは見慣れているはずなのにその仕草の愛らしさに『ン゙ン゙ッッ』と思わず声を零してしまう。
そんなアシリパに水城は『アシリパさん…?』、と不安そうに名前を呼ぶ。
初めて聞いた言葉だったから何か間違えてしまったのだろうかと不安になったらしい。
そんな不安そうな表情もアシリパにダイレクトアタックを与えたらしく、苦しそうに『ン゙ッ』と更に唸る。
心配そうな水城の視線から目を逸らしながら、何とか気を持ち直したアシリパは『なんでもない、大丈夫だ』と平然を装い、本当に何でもないように説明を続けた。
「ン゙ン゙ッ……ゴホン!…ネウサラカムイは、『話し相手の霊』という意味でこうして熊のそばに立てておく…一緒に村へ連れて帰れないので寂しくないようにネウサラカムイに一晩中話し相手になってもらうんだ」
「そうなんだ…やさしい…」
優しいアイヌの神様に水城はほっこりとさせた。
そのほんわかとした表情をアシリパは直視してしまい、また『ン゙ン゙ッ』と声を零す。
『かわいいな!!!チクショウ!!』と叫びそうになるのをなんとか堪えた。
「熊は山奥の神様で心の良い人の飼っている猟犬に自分から捕まえられに来たり矢に当たりに来ると考えられている…だから熊を獲ったらとても丁重に扱う…そうすればその人の所に熊の毛皮を着たカムイがどっさり肉を持って何度でも遊びに来るんだ」
「へえ…お土産を持って遊びにくるんだぁ」
ほわんほわん、と水城の脳裏には大きなおててにお土産を持った可愛い可愛いクマちゃんが浮かんでいた。
熊の恐ろしさを何度も身をもって経験しているくせに、変に乙女心を持っているせいで想像の中の熊は愛らしかった。
現実とはかけ離れたその愛らしさに、水城は思わず頬が緩んでしまう。
『可愛いね、アシリパさん』と緩んだ顔をそのままにアシリパに話しかけた水城は…
「だから!!!その顔やめろ!!!!」
「えっ」
「だから鯉登ニシパや尾形のような輩が寄ってくるんだぞ!!!」
「えっ」
何故か怒られてしまった。
怒鳴られた水城は『えっ』と目を瞬かせる。
その顔と言われても水城は自分がどんな顔をしていたのか自覚はない。
更に言えばなぜそこに鯉登と尾形が出てくるのかも分かっていない。
白石がいれば『出た〜!天然記念物乙女ゴリラ〜〜!』とでも言われていただろう。
だが、残念ながら白石はお世話になっている男のチセでまったりゆったりとしている。
(わ、私そんなひどい顔してた…?)
怒られるほどひどい顔をしていたのかと、水城はガーンと背景に文字を浮かべながら両頬に手を当て、フニフニと固くなっている(と思っている)表情筋を柔らかく揉んだ。
その仕草にアシリパがまたダイレクトアタックされ、顔を手で覆っていたのに水城は気づいていなかった。
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