(248 / 274) 原作沿い (248)

アイヌの男から得た情報を頼りに、水城達は雨竜川という場所を目指して歩いていた。


「本当に砂金なんかあるのかねぇ」


白石も水城とアシリパの後に続き、最後尾にヴァシリが続いていた。
それぞれ荷物を背負いながらポツリと呟いた。


「さあねぇ…まあ、ないと思って大金を逃すよりはいいんじゃない?」


嘘か本当かは分からない。
だけど、行かないで大金を逃すよりは、行って後悔する方がいいだろう。
労力や時間の無駄と言われればそれまでだが…では、噂である証拠はあるかと言われると、体験した人間以外誰もはっきり答えられないだろう。
『んー、そうかねえ』と水城の言葉に白石が呟いた時―――


「誰か!!助けてくれッ!!!誰かああ!!」


どこからか、男性の悲鳴が聞こえた。
助けを求める声に水城達は驚いたものの、走ってその声の元へと向かう。
水城達がたどり着くまでも何度も何度もその声は助けを求める。
だからこそ余計に焦ってしまい、足も速くなっていく。


「は、早く…!誰か助けてッ!!」


その声の主の方へ水城達は駆けつけた。
そこには崖にぶら下がっている男性がいた。
細い木の根っこを掴んでぶら下がっており、その細い木の根っこが唯一の命綱だった。


「ダメだ!!落ちる!!もう…!ダメだ…!!」


ズリズリと体重に耐え切れず、重力に従って男性が落ちていく。
それを見て水城とアシリパは慌てて足を速め、急いだ。
少しずつ落ちていき、焦る声で叫ぶ男に向かって二人は手を伸ばす。
アシリパは男の左手を。
水城はアシリパも落ちないように毛皮を掴みながら、男の右手を掴んだ。


「間に合った…!」


アシリパは男が落ちる前に手を掴めたことに安堵した。
男は助けを求めた物の、自分達以外にこんな山奥に人がいた事に驚いていた。
男は水城達に引っ張り上げられ、何とか命拾いし胸を撫でおろす。


「ありがとうございます…助かりました…」


落下から助けられ、ドッドッと鼓動を激しくさせる胸に手を当て安堵の息をつく。
顔を上げて恩人を見て見れば、ちぐはぐな顔ぶれだった。
やけに整った顔にデカデカと残る傷跡の軍人に、アイヌ姿の少女、坊主頭の和人に、異国の男。
助けられたものの、異色の組み合わせに男は警戒心を持つ。
そんな男に気づかず、水城がそっと男の帽子のツバを指で優しく少しあげた。
そこには落ちた時か、額に一本線の傷があった。


「傷出来てるけど大丈夫?」

「あっ…これはちょっと前のものなので…」


傷が見えて心配したが、どうやら昔についた傷痕だったらしい。
そんな傷でも心配してくれる水城に男は『やさしい』と心の中で呟いた。


「平太!無事で良かった…」


その時、男が現れた。
崖から落ちそうになっていた男は平太と呼ばれ後に振り向けば、兄の嵩が慌てて駆け寄ってきていた。
身内の姿に平太はやっと安心できた。


「もしかして砂金掘り師?」


すると坊主頭の男、白石が平太を指さして声をかけてきた。
平太は白石の言葉に目をパチクリと瞬かせ、頷く。


「え?はい…道具も下に置いてきたのによくお分かりで…」

「だってその舶来のゴム長靴、かなりの高価だろ?猟師が山で履くもんじゃないよな」


平太は驚いた。
道具は下にあり、姿もそれほど高価な物は着ていない。
なのに白石は平太の仕事をピタリと当てたのだ。
目を瞬かせる平太だったが、白石の言葉に納得したように頷く。
それは平太だけではなく、白石の種明かしに水城も納得したように感心した声を零した。


「確かに…ここまで何人か砂金掘り師に会ったけど僅かに採れたら酒とバクチに消える貧乏人ばっかだったね…」

「金の匂いがするぞ、あんた…」


アシリパと会う前は後藤という囚人が砂金を採っていたし、それ以降も何人か砂金掘り師に会ったことがある。
だが、ほとんど砂金が採れないというのもあって、採れたら換金し、その金はほぼ酒とバクチで消えていた。
多く採れないからか、身の回りの物は無頓着だった。
しかし、それに対して平太は服こそ高そうではないものの、当時珍しく高価なゴム製の長靴を履いていた。
それが金儲けしている人間の証拠でもあった。
水城達の会話を聞き、嵩は訝しんだ目で二人を見ていた。
そんな嵩に気づかず、水城は平太に話しかける。


「実は私達も砂金を掘りに来たんだよ…この雨竜川で砂金が採れるって聞いてね」

「ああ、そうなんですか…探せばまだ結構ありますよ」


平太の言葉に水城達の顔が明るくなる。
アイヌの男の言っていた噂はとりあえず嘘ではなかったのだと水城は安堵した。
水城はアシリパと出会ってから、アイヌという民族をあまり疑いたくはなかった。
それが50円相当の砂金が採れるかは分からないが、とりあえず砂金自体は採れると聞いて安心した。
同じ目的で雨竜川に来たという水城達に、恩人というものあり一緒に砂金を採ることになり、平太は家族がいる川に戻ってきた。


「皆さんどういうご関係で?」


家族と合流すると、もう一人の兄である次郎は水城とヴァシリの持つ銃を見て怯えていたが、父は息子の命の恩人ということで歓迎していた。
平太は兄の嫁である義姉のノリ子が、後ろから変わった組み合わせの集まりである水城達に興味を持ったような呟きを聞き、自身も興味があったというのもあり水城達に問いかける。


「まあ…『仲間』ってやつ?」

「いや、『烏合の衆』でしょ」


その問いに白石が片目を瞑って気取ったように答えたが、水城にかっこつけを無駄にされた。


「ノリ子!小屋に戻ってろ!」


ノリ子は特に外国人であるヴァシリに興味を持っているらしく、視線はヴァシリに注がれていた。
平太もそれに気づいており、ついヴァシリへと視線をやると、後ろから嵩がノリ子に向かって小屋に戻るように言った。
嵩が何やらイラついたような様子に平太は振り向くと、頬を膨らませて小屋に戻るノリ子が見えた。
その姿が愛らしくて思わず笑みを浮かべていると、不思議そうな目で自分を見つめるアシリパと目が合う。
少女と目が合い、平太はニコリと愛想笑いを浮かべた。

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