(250 / 274) 原作沿い (250)

平太が怯えるので、砂金掘りの事を色々教えてもらった恩もあり、水城達も熊を放っておけず、様子を見に川から離れ崖の上へと向かった。


「アシリパさん、どう?足跡見つけた?」


水城が熊を警戒し、アシリパが熊の足跡などを確認する。
水城が声をかければアシリパは少し間を開けながら首を振った。


「いや…ない…」

「笹の上を上手く逃げられたかもしれないわね…」


不思議な事に、足跡はひとつも見つからなかった。
崖の下にいる平太から見えたということは、木の上からこちらを見ていたのかもしれない。
しかし、それにしては痕跡がなさすぎるのだ。
そこに引っかかりながらアシリパは更に足跡や痕跡がないか見る。


「あの白いクマをちゃんと送ってあげる前に流されちゃったから山の神様に嫌われちゃったのかな…」


水城は尻の穴に銃を突っ込んで仕留めたシロクマを思い出す。
あのシロクマは仕方ないとはいえ送る前に流され消えてしまった。
もしかしたら山の神はそれに怒って意地悪をしているのだろうかと思ってしまう。


「……どうだろう…」


水城のその思考はアイヌに染まっているが、不思議とアシリパはそれに同意はしなかった。
まだ確信はないのもそうだが、何となく違和感を感じていた。
結局、探しても足跡どころか痕跡すら見つけることはできなかった。
しかし――――


人気のない場所に黒い影があり…―――その影は平太の父親を貪り食っていた。



◇◇◇◇◇◇◇



戻った水城は早速平太に砂金の極意を教えてもらっていた。


「これが『ネコ板』という道具です!こちら非常〜に便利!!」


平太も純粋に(?)慕って(?)くれる二人に色々な道具を紹介していた。
その一つが『ネコ板』。
ネコ板は川底に沈めて上から砂礫を流すと比重の重い『アカ(砂金)』と『ハク(砂白金)』が隙間に溜まるようになっている。
まずは変わ底の玉石を掘り起こし、石垣状に『堰』を作り、川の流れを弱める。
最下流の出口にネコ板を鎮め砂礫を流す。
それを『流し掘り』と言い、この方法は砂金採りの主流であり、一番少人数で作業するのに効率がいい方法だった。
しかし、そこまで説明して『ただし』と付け加える。


「ただし、やはり場所選びが何より大事ですね…経験がものをいいます」


効率がいいとはいえ、素人では難しい方法らしい。
しかし、そこは我らが平太である。
なんたって平太は経験者。
子供のころから砂金を掘っているのだ。


「う〜〜ん…ここだッ!!」


平太は川を見渡し、ビシッとポイントを定めた。


「並の砂金掘り師は試し掘りが必要ですが私はもう川の雰囲気を見れば分かります!」

「マジかよ平太師匠…すげえ…」


嘘か実か…。
平太ほどになれば試し掘りせずとも雰囲気で分かるらしく、その言葉を聞いた白石は尊敬のまなざしで平太の小さくも広い背中を見つめていた。
すでにいつの間にか平太を師として仰いでいた。


「この辺りなら砂白金が寄り集まってそうです…一日の作業で10匁以上は採れるでしょう」


平太の言葉に白石だけではなく、水城もゴクリと唾を飲み込んだ。
平太は水城達と協力して一緒に掘ることにしたのか、掘る場所を決めた後は取り分の相談に移る。


「あなた達との取り分は折半にしましょうね」


手際や経験の勘や体力からして平太の方が上手のはずなのだ。
だが、平太は平等に半分ずつの取り分を申し出てくれた。
それは命の恩人というのもあるが、何より純粋に(?)慕ってくれる(?)二人に情が湧いたのだろう。


「折半…一日15円以上の儲け…」

「命がけでヒグマを狩るより遥かに割に合うんじゃない?」


こういう時の計算は早い。
白石と水城は近すぎる距離で会話をするが、その内容にアシリパはキッと二人を睨むように見る。


「そうやってみんな猟をやめて砂金を掘ったから川が汚れたんだ」


争奪戦のきっかけを作った父を持つからこそ、砂金を掘る事に反対だった。
川を汚れる事を嫌がり風呂も入らない民族としては、仲間が欲に負けて川を汚すなど見てられなかった。
しかし…


「「平太師匠よろしくお願いいたします!!!」」

「………」


大人は汚かった。
大人二人は見事目先の欲に溺れ、ついに水城までもが平太を師と仰ぎ、深々と頭を下げはじめた。
頭を下げる二人にアシリパは無言でこちらに向けられている尻をペチンと叩いた。
しかし、ふと、アシリパは平太の腰に下げられている物に気づく。


「その煙草入れ…アイヌのものだな?」


気になってはいたそれはアイヌの煙草入れだった。
和人がアイヌの物を持っていることはそれほど珍しくはない。
物々交換としてアイヌの所有物を所有している和人は少ないが、いないわけではない。
だが、何となく気になったのだ。


「ああ、これ…昔アイヌの方達と砂金を採った事もありましてね…仲良くなって頂いたんです」


やはり思った通り、昔に貰った物らしい。
アシリパはそれを聞いて先ほど平太が呟いた『ウェンカムイ』に納得した。
和人でウェンカムイを知っている事に違和感を感じてはいたが、その仲良くなったアイヌに教えてもらったのだろう。
腑に落ちたアシリパをよそに、平太は苦笑を浮かべた。


「子供のころにアイヌからウェンカムイの話を聞かされてそれがホントに恐ろしくて…眠れませんでしたよ…」


大人ならそういう話がある程度で流せただろう。
しかし、平太は幼い頃に聞かされたため大人になっても鮮明に覚えていた。
そんな平太に、白石は『平太少年可哀想』と同情し、子供の頃の可愛い話にほっこりとしていた。
水城は平太の言葉に世話になったアイヌの男の話を思い出す。


「ご安心ください!こちらにはヒグマ狩りの専門家がついてますので!師匠は砂金掘りに集中してください!」


白石はバッとアシリパを手で指す。
アシリパは確かに熊に詳しいが、専門家ではない。
アシリパは勝手に専門家にされ不服そうにしながらも、熊がいるのなら無視もできない。
白石も水城もその場から離れる気も砂金を採るのをやめる気もないため、熊に襲撃されないよう欲にまみれた大人たちを渋々守ることにした。


「どんどん近づいていると言っていたな?その熊は何日前から近くをうろついている?」


『まあ水城が楽しそうだしいいか』と思う事にして、ひとまず、熊が何日前からいるのか平太に聞く。
しかし、返ってきた平太の言葉にアシリパは耳を疑った。


「もう何年もです」


平太の言葉にアシリパは思わず平太を見た。
しかし、平太はにっこりと笑みを浮かべるだけで、何も言わない。
その笑みにアシリパは気味の悪さを感じた。


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