(251 / 274) 原作沿い (251)

平太に教えてもらった通り、水城と白石は流し掘りの作業をしていた。
この方法のお陰で無駄に水に触れずにすみ、無駄な動きが減り水城達の負担も同時に軽減された。


「あれ?ねえ、平太師匠は?」


水城は金という欲まみれで目が眩んでいたため、平太の姿がないことに今更に気づく。
白石も目の前の金に目が眩んでいたからか、水城の問いに『あれ?』と白石も今気づいた様子を見せる。


「え…一人でどこか行っちゃったの?危なくない?人食いクマがいるかもしれないのに…」


クマ騒動もあったが、結局探しても見つからなかったため作業を開始した。
お湯担当のアシリパが周囲を見張っていたため、水城達は気にせず作業をしていたが、かと言って油断はしていない。
クマと何度も戦ってきた身として、姿がないからこその怖さもある。
姿や気配もないが、はっきりとクマの姿を確認している平太が一人でどこかに行ってしまったと水城は心配する。


「アシリパちゃん!平太師匠がいなくなった!!探して見張ってて!!あいつがクマに食われたら俺らの砂金掘りが台無しなんだから!!」


今白石も水城も欲に溺れて手が離せない。
平太に教えてもらった方法で手がそれほどかじかむことがないというのもあってアシリパに平太捜索と捕縛と、ついでに見張りも頼む。
手伝いもしないロシア人はいつの間にか姿がなく、頼れるのはアシリパしかいなかった。


「…本当に熊がいるんならな……」


ポツリとアシリパは呟く。
どうも平太の言動にアシリパは信じられなかった。
確かにあの怖がりようは演技ではなさそうではあるが、それにしてはクマの痕跡がなさすぎるのもひっかかる。
『え!?なんだって!?』と小さすぎたのか、アシリパが何か言ったのは分かったがその内容まで聞き取れなかった白石が耳に手をやりながら聞き返す。
そんな白石に『なんでもない』と言い、アシリパは信じきれずにいるとはいえクマがいないという証拠もないため、一応平太を探しにその場を離れた。



◇◇◇◇◇◇◇



欲に目がくらんだ駄目な大人達を放ってアシリパは仕方なく平太を探しに向かう。
雪深い道は慣れているが、歩いている理由が理由なためその足取りは重い。


「ん?あれは頭巾ちゃんか…?」


ふと人の影が見えてそちらに目をやれば、ヴァシリの後ろ姿が見えた。
遠くで水城を描いていたが、満足したのか先ほどミソザサイという小鳥を描いていたのを見たので、次の描くものを探しているのかと思った。
しかし足元にあるものを見てアシリパは慌ててヴァシリを追いかける。
そして、アシリパは勢いよくヴァシリの背中を蹴り飛ばす。


「アマッポだ…危なかった…」


アシリパがヴァシリを蹴り飛ばした瞬間、ヴァシリがいたはずの場所に向かって矢が飛んできた。
その矢は木に向かって飛んでいき、木には刺さらずポキリと折れてしまった。


「アマッポがある場所には木の幹を削り上げたり色々と印があるから頭巾ちゃんも覚えておけよ」


アシリパの注意の全ては理解はできないが、状況を把握し、何かを注意すべきかは理解したのか、頷いた。
アシリパは頷いたヴァシリを見た後、仕掛けているであろう場所に向かう。
そこにはやはり罠が仕掛けられていた。
しかし、それは明らかにクマ用の罠ではなかった。


「鹿を獲るために誰かが仕掛けたんだろう…熊の物より少しだけ高く『さわり糸』を貼ってるから分かる…熊を狙ったアマッポは多分ない…まだヒグマはみんな巣穴に籠っているからな…」


それはクマではなく、鹿を獲るための罠だった。
アシリパが平太のクマがいるという言葉に疑問を感じた一つに、クマはこの時期には冬眠しているという知識があったからだ。
勿論穴ごもりしそこなったクマ、というのも存在する。
しかし、アシリパはそんなクマの存在はいないと知っていた。
それにヴァシリが描いていた『ミソサザイ』の存在もある。
ミソサザイはアイヌでは『チャクチャクカムイ』と呼ばれ、もしクマが近くにいればチャクチャク鳴いてクマのところに案内しようとするため、その名前が付けられた。
しかしヴァシリが描いていた時、チャクチャクカムイはクマがいると大騒ぎしていた人間をよそに大人しく枝にとまっていたのだ。
それにもアシリパは疑問を持ち、平太が見た場所から更に広い範囲を探した。
だが、穴ごもりできなかったクマの痕跡はひとつも見当たらなかった。


「平太はどうして『ヒグマがいる』なんて嘘をつくんだろう…」


存在しないクマがいると騒いで水城達を怖がらせて楽しんでいるのなら迷惑ではあるが、危険なクマがいない事に関しては良かったと笑える話だ。
だが、そもそも、なぜ平太はそんな嘘を言ってまでクマがいると騒いだのかがどうしても気になった。
揶揄っているにしては怖がりようが異常だった。
まさにそこにクマがいるかのように平太の気迫は本物だった。
役者ではない彼がそんな演技できるのだろうか。


(相手の思考が読めるわけでもなし…考えても仕方ないか…)


そう思い、ヴァシリにあまり山に登らない方がいいと伝え、とりあえず水城達のいる川の方へ戻ろうとした。
もしかしたら戻っているかもしれないと思ったのだ。


「アシリパさん!!あっちにヒグマいた!!私達も見たよ!!」

「…!!」


すると水城から報告が上がった。
アシリパは痕跡が一つもない事から平太が嘘をついていると思っていた。
だから水城達の言葉も半分聞いている状態だった。
しかし今度は水城達もヒグマを見たと報告があり、アシリパは目を丸くする。


「平太師匠の言う通り近くにいるッ!!ウェンカムイから平太師匠を守らないと!!」


水城の言葉にアシリパはグッと弓を握る手を強くした。

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