夢主が人間性に欠けた言葉や行動をします。
妊婦の方、子供好きの方、中絶を経験・トラウマがある方、不妊治療をされている方、虐待を受けた事がある方は回れ右をお願いします。
フィクションと割り切れない方は引き返してください。
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千景も去った病室は、静かすぎていた。
目を瞑り眠ろうとしてもあまりにも静かすぎて気が散ってしまい目が冴えてしまう。
雪乃は体を横にし、まるで自分を何者かから守るように丸まる。
(妊娠2ヶ月…ついに…妊娠したんだ…)
雪乃は千景の言った言葉を何度も繰り返す。
妊娠二ヶ月と言われても実感はなく、『どちらの子供だろうか』と腹に手を当てても違和感もない。
妊娠していると言うが、まだ赤ん坊は小さすぎるのか触れてもぽっこりどころか平たいお腹だった。
(誰の子なのかしら…あいつの子供?それとも尾形の子供?…ねえ、あなたのお父さんはどっちなの?)
まだ形すら分からない子供にそう問いても答えが返ってくるはずがないのは分かっている。
しかし雪乃もどちらが父親なのか分からなかった。
2人共まるで競うように行為を重ね、雪乃の身体に子種を残していった。
回数だけを見れば吉平が父親であるが、しかし先に子種を仕込んだからと言って父親になれるわけでもない。
要はどちらの精子が強く逞しいかが問題だ。
それとも今まで妊娠しなかった事から雪乃は妊娠しにくい体なのかもしれない。
どちらにせよ雪乃は妊娠した。
それはもう覆されない事実だ。
(ついに赤ちゃんが出来たんだ……誰の子か分からない……音之進以外の…男の、子供が…ここに…)
このお腹は本当なら音之進のものだったはず。
音之進の精子だけがそこにいていいはずだった。
だけど今、そこに我が物顔で宿っているのは音之進ではない、吉平か尾形かどちらかの子供。
(どうして…なんで、来てしまったの…なんで…駄目って言ったのに…宿らないでねって、お母さん、ちゃんと言ったよね…なのにどうして宿っちゃったの?ねえ、なんでなの…どうして…お母さんの言う事を聞けないの…)
雪乃は自覚がなかった子供に―――殺意という感情を抱いた。
なぜ、どうして、それを繰り返す。
しかし、雪乃は次第に…
(殺してやる…あんたなんか殺してやる……言う事を聞かない子なんてお母さん要らないわ…)
雪乃は次第に子供に対して殺意が強くなっていった。
そして雪乃は思った。
自分は丁度いい場所にいるじゃないか、と。
(そうね…ここは戦場だもの…今の内腹にでも怪我を負えばこの子も死んでくれるはず……怪我で妊娠できなくなる体にさえなれば完璧だわ…)
絶望しかなかった気持ちが次第に晴れていくのを雪乃は感じた。
中絶なんかしたらまた妊娠するかもしれない。
でも戦場で腹にでも怪我をすれば子供は死に、もしかしたらそれが原因で子供が出来ない体になるかもしれない。
雪乃は自分のその考えが名案だと思った。
要らない子供は死に、自分の身体は一生子供を宿す事はない。
その際死んだって構わない。
満期除隊したとしても帰りを待つ人なんていない。
これから先真っ暗闇のみの未来しか待っていない。
ならば生きていたって仕方ない。
だから子供諸共死んだって悔いはない。
これほどいい案はないと、本当に思った。
そう、雪乃はそれほど追いつめられていたのだ。
◇◇◇◇◇◇◇
雪乃は早速千景を呼び、出した答えを伝えた。
千景は雪乃の出した答えは意外だったのか驚いた表情を浮かべていた。
「まさか産むことを選ぶなんてね…俺はてっきり流すのかと…いや、本当…驚いた…」
千景から見ても吉平と雪乃の間に愛情はなかった。
どちらかと言えば吉平からの愛情はあれど、雪乃からは愛情の欠片も見当たらなかった。
だから子供を宿す契約を新たに加えたから千景の妹の力を借りたいと吉平から相談を受けた時は『ああ、これ、堕ろすパターンだわ』と内心思った。
その為雪乃の出した決断に口がポカーンと開けても仕方ないだろう。
上半身を起こして座る雪乃は驚く千景にクスクスと笑い、お腹に手を当てる。
「そういう約束だから…一応子供は産むわ…でも産んだ後は好きにさせてもらうけどね」
「あの吉平もついに父親になるのか…子煩悩になるんだろうなぁ、あいつ…」
千景には産むと伝えた。
それは戦場で偶然を装って殺すための嘘である。
お腹に手を当て子供をあやすように撫でるのだって愛情もなければ好意すらないただの親の真似事だ。
雪乃の頭の中は戦場に立ち子供を殺したいという事だけが浮かんでいた。
しかし千景はそれに気づかずまるで母親のような雪乃に感心の息を吐く。
「じゃあ暫くは病院生活か…病名どうしようかな…」
「いや、戦場には立つから」
「は!?おいおい…お前今自分の状況分かってんのか!?お前今妊娠してるんだぞ!?」
まだ目立たないとはいえ妊婦を戦場に立たせるのはいくら変態とはいえ気が引ける。
というよりもむしろそれを許したと妹に知られればどんなお叱りを受けるかという恐怖の方が勝っていた。
しかし雪乃は子供を腹に抱えているというのに戦場に立つという。
その言葉に千景はぎょっと驚いて見せ、そんな千景に雪乃は真っすぐ真剣な強い眼差しで見つめ、力説するようにグッと拳を握ってみせる。
「この子は不死身の血が流れているんだから大丈夫!不死身の血を受け継ぐ子が死ぬわけがない!」
「いやいや!死ぬからな!?お前が不死身なのは知っているけど子供まで不死身とは限らないからな!?」
「大丈夫!」
「その自信どこからくるわけ!?」
コントのような流れだが、雪乃の胸の奥は憎しみと殺意で真っ黒に染まっていた。
確実に子供を殺す事しか考えていない雪乃に気付かず千景は『これだから脳筋は!』と叫ぶ。
雪乃は医師として止める千景を笑いながら流し…
(ちゃんと死んでね)
そうお腹の子供に言葉という刃を突きつけていた。
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