(5 / 274) 原作沿い (05)

朝。
もう川で砂金を探す事もなくなったため前よりは息子との時間は増えたが、皆が動く少し前の時間に水城は息子を近所の女性に預けていく。


「じゃあ、坊…ちゃんという事を聞いて、迷惑かけちゃだめだからな?」

「あい」


1歳でも母との別れは分かるが、それでも不安がったり泣き叫ぶことはない。
息子の元気のいい返事が『頑張れ』と聞こえた気がしたが、それは自分がそう言ってほしいと思ったからかもしれない。


「坊をよろしくお願いします」


まだ小さな手を握り上下に振ってお別れをし、世話になる女性に声をかけ水城はその場を去っていった。
水城は名残惜しくなってしまうから息子の方へ振り返らなかったが、塾を開いていた時も、そして今も…息子は女性の腕の中で母親の姿が消えるまでじっといつまでも見つめていた。


―――昨日、別れる際2人は森の中で待ち合わせ場所を決めた。
そこは昨日熊を倒したところだ。
いつも通っていた川から近く森に不慣れな水城も迷わずこれるという理由である。


「アシリパさん!ごめんな、待った?」

「いや、私も今来たところだ」


そちらに向かえばすでに少女の影が映り、水城は慌てて駆け寄った。
嘘か本当かは分からないが、水城はアシリパの言葉にホッと胸をなでおろす。


「今日はどうする?町に出て聞き込みをするという事だが…」

「あの…アシリパさん…その前に相談があるんだけど、いいかな?」


昨日の内にある程度の予定を二人で話し合って決めた。
明日は上場収集で町に降りる事になっていた。
しかしその前に水城は相談したい事があり、アシリパにおずおずと問いかけた。


「なんだ?」

「実はこれまで塾を開いて生計を立ててたんだけど…今は塾の講師をしていたら動きにくいから閉じたんだ…だけど家賃とか生活費とかあるし…その、勝手なお願いなんだけど狩りを教えてくれないかな?」

「……」

「あっ!でも乱獲はしないから!一日に必要な分だけを獲れればそれでいいし…駄目、かな?」


塾を閉じたのは水城の勝手だ。
生活費が途切れたのも水城の勝手だ。
それなのに狩りを教えろと言うのは勝手というよりは、横暴すぎる。
熊を狩りたいとは思わないが、鹿や他の動物でもなんでもいいから狩りをして一日の生活費や息子を預ける際の謝礼だけでも得たいと思った。
勿論、アシリパにも少ないがお礼をしたいとも思っている。
水城だけならこんなお願いする事はなかったが、水城には養わなければならない息子がいるのだ。
せめて息子だけでもひもじい思いはさせたくなかった。
アシリパは水城の不安そうな表情を見ながら考える。
その姿を見て水城はやはり駄目かと肩を落とした。
だが…


「ならリスを獲りに行こう」

「え…?リスって…狩りを教えてくれるの?」

「生活に困っているのだろう?私と杉元は相棒としてこれから過ごす事になるんだ…その相棒が困っていたのなら協力しないわけにはいかない…それに杉元なら乱獲をしないと信じているからな」

「アシリパさぁん…っ!」


アシリパの言葉に水城はジーンと感激した。
涙目で見つめてくる(見た目は)男にアシリパは軽く水城の腕を叩いた。(本当は肩を叩きたかったが身長的な意味で駄目だった)


「だが杉元は素人同然だ…昨日の銃の腕前でお前に銃での狩りは無理だと分かったからな…まずは針金で獲れるリスから始めよう…それからウサギやキツネなどに変えてく」

「……」


水城はそっとアシリパから目線を逸らしながら『そ、それほど悪くなかったじゃん?』とぽそぽそと囁いた。
昨日、熊を倒そうと銃を放ったが、体には命中したが、外れていた。
結局水城は銃ではなく銃に付いている剣で覆い被る熊の体重を利用して刺し殺したのだった。
アシリパでさえも見捨てる銃の腕前に水城は一瞬鬼上等兵を思い出し、辛辣さに身震いをした。
しかしとりあえず狩りを教えてくれるという事で水城は安心し、町に降りる前に罠を掛けておこうとアシリパと共に森の中を歩いた。
そこでアシリパはある物を見つける。


「見ろ杉元、松ぼっくりを齧った残りの芯だ」


そう言われて見てみれば水城の知っている松ぼっくりとは異なる形の物が落ちていた。
アシリパ曰く、これはリスが松ぼっくりを齧って出来た物なのだそうだ。
その松ぼっくりの芯が沢山落ちていた。


「このエゾマツはリスの餌場だ」


傍には巨大な木が聳え立っており、冬だからか葉は一枚もない。
寂し気ではあるが、リスにとったらいい餌場なのだろう。
水城は落ちている芯を手に取り『まるでエビフライのようだ』と思う。


「幹にこうやって棒を立てかけておくとリスは横着して楽な通り道を選ぶからここを通る」


仕掛けは簡単で、アシリパが掛けた棒に針金で作った『くくり罠』というものを仕掛け、その輪の中にリスが頭を入れて進むと首が締る仕掛けとなっている。
一瞬水城は『私リス好きなんだけど』と思ったが、すぐにその考えを捨てる。
全ては息子の為だと犠牲になるであろうリスに手を合わせた。


「この方法で杉元も他の木で罠を仕掛けろ…その罠にかかったリスが今日のお前の取り分だ」


水城はアシリパの言葉にぐんっとやる気が出てきた。
動物は好きだが最愛の息子が飢え死にするのを考えれば申し訳ないが犠牲になってもらうしかない。
アシリパに教えられた通りに罠を仕掛けた水城はリスが罠にかかるまでの間、アシリパと共に町に行く事にした。

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