(6 / 274) 原作沿い (06)

北海道は広い。
大きな町の他に集落がちらほらとあり、囚人を探すにしてもどこを探せばいいのか分からない。
だが、囚人も馬鹿ではないはず。
集落などで余所者が歓迎されたとしても色々興味を持たれ注目の的だ。
下手をすれば入れ墨を見られ、そこから噂が広まってしまう可能性もある。
木を隠すなら森の中、という言葉がある様に隠れたいのなら人が多い町に隠れるべきだろう。
北海道で人口が多いのは、『旭川』、『札幌』、『函館』…そして水城が寝床にしている『小樽』だ。


「どうやって入れ墨を探す?熊に食われた男だってずっと隠して暮らしていたんだろう?」


とりあえず小樽へ下り、入れ墨のある囚人を探そうとした。
アシリパの問いも確かで、熊に食われたあの男も砂金が少しでも手に入れば酒を飲みに町に降りていた。
昨日まで生き延びていた事が水城の読みが当たっている証拠だろう。


「とりあえず銭湯か蕎麦屋で聞き込みだな…私は蕎麦屋で聞き込みをするからアシリパさんは銭湯の前で出てくる男の人とかに聞き込みをしてほしい」

「いや、それなら私が蕎麦屋に行こう…店の前で聞き込みは目立つ…だったら杉元が銭湯に入り中で聞き込みをした方が確実だ」

「…それは…別にいいけど……アシリパさん、蕎麦屋の意味…分かってる?」


どちらかと言えば銭湯の聞き込みは水城が行った方がいいだろう。
アシリパは水城を男だと思っているし、アシリパの言葉通り中に入った方が素直に教えてくれそうだ。
水城は中に入れないが銭湯を担当するならそれはそれで外で聞けばいいから別に構わないが…蕎麦屋の意味を知っていて言っているのかと顔を引きつらせる。
蕎麦屋は現代では飲食店を指す。
だが、この時代の小樽には多くの私娼窟がいくつも存在しており、蕎麦屋の暖簾をかけた売春宿が何件も続き、本物の蕎麦屋を見つけるのが難しくもあった。
そんな場所に少女一人で聞き込みさせるなど、一人の親として簡単に頭を縦には振れなかった。


「私はもう子供じゃない…何かあれば逃げるから大丈夫だ」


そう言ってアシリパは弓や腰に差している小刀を見せる。
殺しはしないだろうが、怪我くらいはさせて痛がる隙に逃げる事はできる。
そう言いたいのだろう。
水城はそれでも売春宿が並ぶ場所を少女一人で聞き込みをさせるのは心配であったが…売春婦もこんな傷だらけの軍人よりも可愛い子供なら素直に話してくれそうだという打算も浮かんでしまったのも確かだ。


「分かった…だけど無茶だけはしないでくれ…いいね?」


母として、親として、そして大人として、子供を危険な目に合わせたくはない。
その言葉にアシリパは顔を顰めて見せたが、何も言わず頷いた。


―――それが数時間前のやり取りだ。
水城は流石に肌を見せる場所までは入れず、入り口で出てくる男に入れ墨の事を聞いた。
だが結果は惨敗である。


「やっぱり肌を見せるところには寄りつかないか…」


半分当たったらラッキーだな程度しか思っていない。
水城だって性別を偽っているため、女を装った男だとしても銭湯や売春宿には寄りつかない。
だが人が集まるところには情報もそれなりに多く、地道に聞き込みするよりはいいだろうと思ったのだ。
水城はどちらかと言えば考えるよりも体が先に動く脳筋タイプだからか、その辺りは上手く調節出来ていない。
それは自分も十分分かっており、『この分だとアシリパさんの方も難しいかな』と考えながらアシリパのいる蕎麦屋へと向かう。
すると水城が危惧していた事が発生したらしい。
水城の目の前には大柄な男の方に担がれたアシリパが見えた。


(あの男…アシリパさんを売るつもりか)


すっと水城は気持ちが冷えていくのが分かった。
水城の中であの男は敵認定された瞬間で、静かに男の元へと歩み寄る。


「ちょっとやめなよ!可哀想じゃないか!」


そばにいた二人の女性が止めてくれてはいるが、男は聞く耳持たずアシリパを連れて行こうとしていた。
しかしアシリパもあの年で一人で狩りをしているだけはあり、水城に言った言葉通り小刀を抜き、その柄の部分を思いっきり男の目に叩きつけて脱出した。
それを見て水城はホッと安堵しながらもその歩みを止めず、男に近づくと肩を叩く。


「おい、私の親指を見ろ」

「あ?何だお前―――、ッぐ!?」


水城が肩を叩けば邪魔された腹いせか声を荒げる。
だがそんな男の喉に水城は親指を突き立てた。
流石に喉は潰さなかったが、急所の一つである男の喉仏を強く押した事で男は息がしずらくなり唸る。
膝を折りかけた男の首に腕を回して水城はアシリパが持っている紙を男に無理矢理見せる。


「この入れ墨に見覚えは?」


まだ喋れないのか苦し気にしながら男は首を振る。
水城とアシリパが聞き込みの為持っている紙には、昨日熊に食べられた男の入れ墨を一部書き写していた。
水城も銭湯の前でそれを見せて回っていた。
しかし銭湯の時も情報は欠片もなく、やはり思った通り肌を見せるところには寄りつかないようだった。
そう思い無駄足だったか?と認めたくなかった事実を認めかけたその時…


「でも…同じことを前に聞いてきた男がいた」


その言葉に水城は沈みかけた気持ちが浮上したのを感じ、思わずニヤついてしまった。
同じ目的からか、考える事は皆同じらしい。

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