(13 / 274) 原作沿い (13)

マカナックルに案内されコタンに戻った水城は早速小刀や剣を持って教えられた道を使いアシリパの元へと急いだ。
途中から水城も手伝い、予定より早く帰る事が出来た。


「お婆ちゃん、こんなに魚が捕れましたよ」


水城は捕れた魚が入っている籠を家の中にいたフチに見せる。
どうも水城は祖母…母に弱いようだ。
水城も息子を産み、息子は本当なら静子の初めての孫というのもあり、静子に出来ない事をフチにやってあげたかった。
まあフチにとったら有難迷惑かもしれないが…
フチは駆け寄って見せてくるシサムに笑顔を浮かべ、一匹魚を取って頭を一周させる。


「何をしているんです?」


その行動はシサムである水城には理由が分からず、つい声が漏れてしまう。
それをアシリパが教えてくれた。


「自分の守り神にお供えしてる…人に何か貰ったら憑神にお裾分けするんだ」


それはアイヌの風習らしく、その憑神は『トゥレンペ』と言い、人間の首の後ろから出たり入ったりしているのだとか。
人間は誰でも生まれた瞬間に守り神が付くと考えられており、トゥレンペは火や水や雷、狼や熊などの神さまで人によって能力も姿も異なっているのだと言う。


「アイヌの中にはそれが見える人もいて、フチはちょっと見える…杉元はとても強いトゥレンペが憑いているってフチが言っている」


トゥレンペはシサムである水城にもいるらしく、アシリパを通したフチの言葉に水城はどこか納得した。


(そっか…私が不死身と呼ばれるのも守り神のおかげなんだ…)


何度も死ぬほどの怪我を負った。
味方からの銃弾もあったし、敵からの銃弾もあったが、今やこうして何の障害もなく生きていられるのもフチのいう強い憑神のおかげなのだろう。
その憑神は運命も左右するというので、こうしてアシリパに会い金塊に一歩近づいたのも憑神のおかげなのだろう。
ただ…


(まあ…文句は言えないけど……兄の時はもうちょっとどうにかならなかったんだろうか……いや、驚異的な回復力もアシリパさんや坊と出会えた事も十分ありがたいんだけどさ…)


運命も左右するのなら、兄である吉平に目を付けられ鯉登と別れてしまった事は流石に苦情を言ってもいいだろうか。
だが驚異的な回復力や生命力を与えてくれる神様だからそういうのは専門外なのかもしれない。
そう思っているとふとある事に気付き、アシリパを見る。


「そういえばアシリパさんが首の後ろにお供えするの見た事ないけど…」

「この村じゃ年寄りしかやってないし」

「全く最近の若い奴は…」


フチがやっているのを見て始めて知った水城はアシリパと何度も食卓を囲んだのにその風習をしていないのに気づく。
理由を聞けばやはり今どきの若者らしい答えが帰って来た。
まだ水城も十分若いが、10代のアシリパからしたら水城はおばちゃんになるのだろう。
そんな2人の会話をフチはニコニコ顔で聞きながら料理を完成し、二人に振る舞う。
今日は捕れたてのカジカで出汁をとったキナオハウ(野菜が沢山入った汁者)だった。
美味しそうな匂いが水城やアシリパの鼻を楽しませ、二人はぐううとお腹を鳴らした。


「美味しそう…いただきます」


フチがよそってくれたお椀を受け取りると更に匂いが濃くなり、水城は自然と口の中の唾液が溢れてくるのを感じた。
早速食べようと思ったとき、先ほどの話を思い出し水城はフチに強いと言われた憑神にお供えする。
そんな水城をフチは嬉しそうにしながら何度も頷く。


「ん〜っ!美味しい!カジカの出汁がまた…こんなたっぷりの野菜も何年ぶりだろう…」


現代のように豊富とは言えない時代だからこそ、食事は限られていた。
野菜も市場に行けば買えるが、ギリギリな生活をしている水城ではそれほど多くは代えず、ここまで多くの野菜を味わえたのはお嬢様時代か、吉平の傍にいた時くらいだろうか。
流石にカツカツなチヨ達も妊婦の為に栄養を考えて食事を与えてはいるが、ここまで多くの野菜は味わえなかった。
自給自足の部族だからこその鍋である。


(坊にも食べさせてあげたいなぁ)


まだ1歳だからそのままというわけにはいかないが、息子の栄養を考えれば野菜も与えてあげたいと思った。


(こんなにも離れたの初めてじゃないかしら…帰ったら思いっきり甘えさせてあげて、食事もお乳をあげましょう)


いつ離れてもいいように離乳食を与えてはいるが、水城の本心は出るまで、そして本人が飲みたがらないまで上げたいというのが本音だ。
だからか、水城は更に栄養のある物を入れようとある容器を取り出す。


「アシリパさん、このままでも十分美味しいんだが味噌を入れたらもっと美味しいんじゃないか?」

ふざけるなよ杉元…うんこを出すな!


その容器にはオソマ…ではなく味噌が入れられていた。
まだ味噌をウンコだと思っているアシリパは即答で否定されてしまい、水城は『じゃあ』とフチに差し出す。


「ほうらお婆さん、これが味噌ですよ〜」

「ヤメローーッ!!」


標的は自分から祖母に向けられ、この瞬間アシリパは水城を敵認定する。
そんな孫娘をよそにフチは差し出された物を憑神にお供えした。


「フチの憑神様にウンコをお供えさせやがって…」

「いやだからウンコじゃ…ってヤダなにその変な棒!!」


パチンパチンと音が鳴るから何だと思いアシリパの方へ振り向けばそこには何やら変な形をした棒を手に凄むアシリパがいた。
音からしてとても痛そうである。
この坊は『ストゥ』と言い、主に村人の中に窃盗や殺人など悪い行いがあった場合に制裁を加えるための物であり…決して乱用は許されない。
ぎゃあぎゃあ騒がしい二人に…楽しそうに水城に接する孫娘を見てフチはほっこりと笑った。

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