(18 / 274) 原作沿い (18)

部下の報告に鶴見は速足でそちらに向かう。
そこには数人の部下と、二人の部下に取り押さえられている双子の片割れがいた。


「扉を開けた時にはすでに中はあの有様で…」


そっと半開きになっている扉を押して開けて中に入れば双子の片割れの死体が転がっており、その傍には壁を背もたれに座る水城がいた。
だが水城は腹を抑えており、その周りは真っ赤に染まり、手の隙間からは腸らしきものが飛び出ていた。


「まさに風口の蝋燭だな、杉元…」


水城はどう見ても瀕死の状態で、後ろから部下が『長くは持たん』と言うようにもう助からないだろう。
だが鶴見は知っている。
このような怪我を負っていようと水城は生き残るから不死身なのだと。


「助けろ…刺青人皮でもなんでもくれてやる…」


―――その言葉を待っていた。
そう言うように鶴見は部下に振り返り命じる。


「街で一番の病院へ連れて行け!!医者の頭に銃を突き付けてでも叩き起こして治療させるんだ!!」


その命令に部下達は忙しく動く。
水城を担架に乗せて運ぶ部下を止め、水城に顔を近づかせる。


「最善は尽くす…お前もそれに報いろ…今際の際を悟ったら必ず刺青人皮の隠し場所を伝えろ…いいな?」

「ッ、私は絶対死なん!!」


鶴見はお気に入りが死にそうだというのにうっとりと見つめた。
今、水城は死にかけだ。
だがそれでも水城が死ぬイメージは湧かず、死にかけの怪我など最初から負っていないように平然と自分の前に現れるのだろう。
不死身の名にふさわしい回復力と強運を間近で見れると思うとたまらなかった。
水城の息絶え絶えの言葉に『ああ、分かっているとも』と頬を撫でながら返し、部下に『私も後で追うから杉元に声をかけ続け死ぬ前に在り処を聞き出せ』と耳打ちを打つ。
それに部下は頷き、鶴見はその場で水城を見送った後部屋に入る。
どうやら馬が何かに怯え鞍を乗せるのに手こずっているためその間現場検証をしようと部下の遺体を見下ろす。


「この死体…妙だな…」


すると少し気になる事があった。
右手には深い傷があり、その手にはギュッと握りしめる様に剣が握られていた。
その怪我では普通はここまで強く握りしめる事はできない。
しかし反対の左手は傷一つない。


「この帯革(ベルト)……裏側にまで血濡れた指紋が付いている…なぜ殺した後絞め直した?」


あんな瀕死な姿でなぜベルトを締め直したのか。
それは見た方が早いと鶴見もベルトを解いて見てみる。
そこには―――なにもなかった。


「腸を盗みおった!!」


そう、何もなかったのだ。
――内臓が。
その瞬間鶴見は全てを理解した。
水城は瀕死でもなければ今際の際でもない。
水城は腹に傷など負ってもいない。
自分は水城に出し抜かれたのだ。


「馬はまだか!!」


鶴見は水城を追いかけるため声を上げて馬の用意を促す。
その気迫に押されながら部下達はなんとか馬を用意することができ、その馬を乗って水城を追いかける。
途中、水城に落とされたのだろう…部下二人が座り込んでいるのが見えた。


「杉元は!!」


部下は殴られたのか怪我をしていたが、上官の問いに水城が去っていった方を指さし止めていた馬を再び走らせる。
鶴見は水城にすぐに追いついた。
小さいが水城の背を見つけ銃を取り出す。
皆寝静まっている夜だからか水城も馬の足音に気付き、緊迫した空気が流れた。


「――!」


あちらは橇と人間を運んでおり、こちらは人間一人。
このまま行けば橇の重さがない分鶴見が水城に追いつくのも時間の問題だった。
だがあと少しだと思ったその時、突然馬が倒れ鶴見も馬から落馬した――――が、そのまま走り出した。
水城はそれを見てギョッとさせ更に馬を速める。
鶴見は立ち止まり銃を構え水城に狙いを定めるが……


「今日はやめておこう」


そう言って追うのをやめた。


「流石というべきか…川畑吉平の傍にいただけはある…まさか私があんな猿芝居に騙されるとはなぁ」


普段ならあの程度の芝居見抜けたはず。
だが、今日は刺青人皮欲しさに焦り冷静ではなかった自分の負けだ。
鶴見は一本取られた、と愉快そうに目を細め、暗闇に消える水城を見送った。


(やっぱり、欲しいなぁ…)


そう思う自分に『まるで駄々っ子の子供だな』と呟き、兵舎へと戻っていった。

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