(22 / 274) 原作沿い (22)

―――夜。
既に三人だけの宴も終わり、皆ほろ酔い気分で眠りについた。
ただ水城だけは目が冴えてしまい、一定のリズムで叩きながら息子の寝顔を見下ろしていた。


(二瓶鉄造…また一歩、金塊に近づいた…)


宴の際、白石がこの仮小屋に寄った理由を話してくれた。
白石は街に出て情報を得たためこの仮小屋を訪れたという。
その情報とは…新たな囚人の情報である。
その男の名は、二瓶鉄造といい、山で得物を狩る猟師だったらしい。
そんな二瓶の罪は殺人。
昔、猟師を殺し得物を奪う酷い男達がいたという。
アシリパやアシリパの父も被害にあい、アシリパの父の機転によって一人の男は捕まったが、まだ仲間が三人野放しになっていた。
しかしその三人は狙ってはいけない得物を狙ってしまい、死んだ。
三人は二瓶の得物を狙い、二瓶を殺そうとしたのだ。
二瓶はその男達を三日かけ銃ではなく木の棒で撲殺した。
捕まったきっかけは、山狩りの警察に捕まっていた最後の男を二瓶は警察の目の前で首の骨を折って殺したからだった。


(まさかあそこにいた男がそうだったなんて…分かっていたら逃さなかったのに…)


知るのが少し遅かった。
ただそれだけだが悔しい気持ちになる。
水城は焦っていた。
汚い欲の塊に邪魔されてしまい満期を迎える寸前に除隊になった。
その後息子を産んだが、子供は未熟児に生まれ一年春子達の所でお世話になった。
あれからもう二年も経つのだ。
軍を辞め、寅次が死んでから二年。
息子を産まなければ良かったとは言わないし思わないが、少し、悔む。


「かぁ…」

「なぁに、坊…(かか)はここにいるよ」

「ん〜っ」


考え事をしていると息子が愚図り始めた。
怖い夢でも見たのか、泣かないまでも手足をジタバタさせる息子に水城は起き上がって抱っこをする。
水城は名前を付けたものの、癖なのか名前ではなく『坊』と呼んでしまう。
せっかく名前をつけたのだからこれは直さなきゃなと意識はするが、やはり言い慣れているのもあるし、少し気恥ずかしさもあって中々治らない。
もうあだ名的に呼ぶのも悪くないかもしれないと開き直りながら向かい合うように抱っこをし、揺り籠のように体を揺らしてお尻を一定のリズムを刻みながら優しく叩く。
白石とアシリパが寝ているから大きな声で歌えないが、子守唄を口ずさむと暫く愚図っていた息子が眠そうにうとうとしはじめた。


「それ、お前の故郷(くに)の子守歌か?」


眠りかける息子にホッとしていると、アシリパが声を掛けてきた。
アシリパの方へ目をやれば丸々とした青い目がこちらに向けられているのが見え、アシリパと目と目が合った水城は申し訳なさそうに謝る。


「起こしちゃった?ごめんね」

「いや…眠れなかったから起きてたんだ…」

「大丈夫だよ…レタラはアシリパさんと同じで強くて賢いもの…二人に捕まったりなんかしないよ」


アシリパは水城の慰めの言葉に頷く。
白石の情報はまだ続きがあった。
その二瓶は白石が情報を聞いた毛皮商人に聞いたのだそうだ…―――『もし白い狼の毛皮が手に入ったらいくらで買う?』と。
それを聞いてアシリパは二瓶が連れている兵士が狙っているのは自分ではなく、レタラの方だと気づく。
水城は忘れているようだが、その兵士も一度は水城も見たことはある。
その兵士は、以前アシリパと別れて逃げた時、アシリパを迎えに行った際側で伸びていた兵士だった。
だからアシリパはレタラではなく自分を狙っているのだと思い込んでいた。
大切な家族であるレタラが狙われていると知ってぐっすりと眠れるわけもなかった。
アシリパは目も冴え、横になっていた体を起こし座る。


「それでその子守歌、お前の故郷(くに)のものか?」


逸れた話を戻し、問うアシリパに水城は曖昧な反応をする。


故郷(くに)…なのかな…この子守歌はね、養母(はは)が寝かしつけてくれた時に歌ってくれたものなの」


歌っていた子守歌は産んでくれた母ではなく、育ててくれた母から聞いて覚えたものだった。
産んでくれた母も子守歌を歌い寝かしつけてくれたが、その時は水城も幼かったというのもあるが…家族が結核になる前まで優しく親しかった村人に追い出された事や山賊の事もありショックで幼い頃の記憶は曖昧となっていた。
世間でいう幼い頃の思い出というのは、川畑家の頃からの記憶しかない。
だから魘され寝付けなかった自分を母である静子が子守歌を歌って寝かしつけてくれたのが、母との記憶となっている。
だからこれを故郷(くに)と言っていいのか水城には分からなかった。
アシリパは養子という水城の立場も色々あるのだな、と思い『そうか』とだけ答え水城を見る。

その目は、思い出のない母の姿を水城に重ねる様にも見え……そして、母の愛を与えられている静秋を羨んでもいた。

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