屋敷が燃えている。
その知らせが五条に届いたのは、小雛が攫われた数時間後だった。
上の嫌がらせで五条にとっては低級の相手を連日させられ、その間生徒達にも会っていない。
しかもそれだけではない。
「はぁ…雛に会いたい…」
生徒達以上に、五条は小雛の顔を見ていなかった。
五条はその不満を、重いおもーーい溜息をついて吐き出す。
呪術師として任務に赴きながらの未来の呪術師の教育。
それだけなら毎日ではないものの、暇を見つけて小雛に会いに行けた。
だが上の嫌がらせか、それともただの偶然か…小雛に会いに行く暇も与えず任務が与えられる。
小雛に会いたい。
会って抱きしめて頬擦りしてあわよくば小雛吸いしたい。
小雛が無理なら可愛い生徒達に会いたい。
一人以外思春期真っ盛りなので露骨に嫌な顔されるが、それはまあ、彼らの愛故にだろう。(と思いたい)
特に幼い頃から知っている伏黒は、会った時からふてぶてしい顔を崩さないが、最近は思春期も相まってか他の誰よりも嫌そうな顔を崩さない。
教育ッテムズカシイ…と教師になって何度思ったか。
その伏黒も最近は表情も雰囲気も和らいでいるように見えた。
(やっぱり青春って大事だねぇ)
脳裏に五条は一人の生徒を思い浮かべる。
その生徒は最近この世界に足を踏み入れることになった、文字通りこの世界では新一年生の虎杖悠仁だ。
可愛い生徒、と聞かれてまず思い浮かべるのは、彼だ。
勿論、今まで受け持った生徒達は全員可愛い生徒だ。
だが、彼はあの業界では絶滅危惧種並みに明るくノリのいい子である。
誰もがうざったく思える五条のノリについていける子だ。
虎杖の姿を思い浮かべ、五条は小さくため息をつく。
(あんな呪術界じゃ絶滅危惧種の明るい子が…両面宿儺の器になるなんてなぁ…この業界じゃ根明の子って呪われてるのかな…)
過去に一人、虎杖と同じく明るい性格の子がいた。
その子は任務で命を落としてしまったが、あの子も気難しい人間しかいないようなこの呪術界の中では珍しい明るい真っすぐな子だった。
きっと彼が生きて虎杖と会わせたら、すぐに打ち解けて楽しいコンビになっていただろう。
しかし、後輩は死に、虎杖は器として死刑が決定されている。
根明の子達は呪術界には煙たがられる傾向があるのだろうか、と五条は真面目に考えてしまう。
そもそも虎杖は本来ならこんな呪いや生死の分けた戦いなどには程遠い世界側の人間だったのだ。
それが人を助けるために、呪物だった宿儺の指を飲んで器として適応してしまった。
おかげで虎杖は即死刑となり、五条が無理矢理20本全ての指を全て取り込むまでに引き延ばした。
虎杖の命は今のところ免れたが、だが、安心はできない。
宿儺に怯えた馬鹿どもが虎杖を殺そうとしたのだ。
幼い頃の自分のように。
(千年生まれてこなかった逸材、か…)
虎杖を思い出していると、小雛も思い出す。
千年生まれてこなかった逸材は虎杖だけではなかった。
同じく呪物である小町を"食べて"も適応した小雛もその一人である。
千年もの間、生まれてこなかった逸材が同時に二人も現れたことになる。
腰抜けのジジイ達でなくとも、色々と勘繰ってしまうだろう。
(悠仁と雛…宿儺と小町…何の違いがあるのだろうか…)
虎杖と小雛。
この二人の内には呪いの王と、その妹がいる。
二人は呪物であり、呪霊であり、どちらも同じなのに、小雛と虎杖では何もかもが異なっていた。
まず、宿儺は恐れられている存在だが、小町は真逆に求められている存在だ。
宿儺はすぐにでも消滅してほしいが、小町は何としても現世に留めておきたい。
器として、虎杖は死刑が決定しているが、小雛は飼い殺しが決定している。
同じ呪物を飲み込んでここまでの差があるのかと、五条は人間の勝手さに笑ってしまいそうになる。
呪物がどうであれ、飲み込んだ理由が、食べた理由がどうであれ、小雛も虎杖も、それまで普通の一般的な少年少女なのだ。
宿儺を飲み込んだから死刑。
小町を食べたから飼い殺し。
どちらも地獄だ。
しかし、片や死、片や延命。
これほど理不尽で身勝手なことがあるのだろうか。
小雛の事も、虎杖の事も、面倒だとは思っていない。
彼らはある意味被害者だ。
自分から呪物を飲み込み食べたとしても、彼らに罪はない。
問題は上の人間、そしてこの業界の古くさい仕来りだ。
五条は頭の固い老人達を思い浮かべ、またため息をつく。
重すぎる溜息をここ数日で何回ついたか数えるのも面倒だった。
その度に運転席の男がビクリと肩を揺らすのだから苛立ちも追加される。
しかし、ふと五条は虎杖の言葉を思い出す。
それは休日になれば必ず外出届を出す彼が、何度目かの外出届を出した時交わした言葉だった。
『妹を探してるんだ』
最初の頃は分かる。
東京が嫌いでなければ、他県から東京に来たのならはしゃぎもしよう。
だがそれが何週間も何か月も続けば疑問に思うものだ。
同じ他県から来た釘崎も毎週のように出かけているが、彼女はそのたびに勝利品を携えて帰ってくる。
しかし、虎杖はコンビニやスーパーの買い物袋やパのつく場所からの勝利品を携えることはあっても毎回ではないし、どちらかと言えば手ぶらで帰ってくる事が多い。
勿論、休みの日なんだから彼の好きに過ごしたってお咎めはない。
だが、流石に一か月二か月と毎週出かけるのは流石に疑問に思ってしまう。
それが、帰ってくる際の表情が落ち込んでいるように元気がないのなら余計に。
虎杖はその身に呪いの王を宿している。
五条のお蔭で多少命は長らえたが、本来なら気軽に一人で外に出れる人間ではない。
それを許されているのは、五条を味方につけているからだ。
一応建前として彼の監視役として、そして一年の担任として、『毎週土日は必ず外出届出してるけど何してるの?』、と五条が聞いたことがある。
そして返ってきた言葉が『妹』だった。
それを聞いて五条は流石に『は??』と思った。
虎杖には両親はおらず祖父だけの家族構成だったはず。
上層部が勝手に戸籍まで調べたのを強制的に見せられたが、父母祖父という家族構成だった。
父と母は幼い頃に亡くなって、しばらく祖父との二人暮らしだったようだが、伏黒と出会ったその日に祖父が亡くなり、虎杖は天涯孤独となった。
それは本人も言ってたので間違いはないし、例え鬼籍だとしても調べれば分かるはず。
しかも、彼から今まで妹がいるなんて聞いていないため、彼に妹がいたとは誰も考えもしないだろう。
事情を聞けば、行方不明の妹を探しているという。
『小さい頃に行方不明になった妹なんだけどさ…もしかしたら東京にいるかもしれないじゃん?俺、あいつを勝手に殺したくないんだよね…』
『俺の勝手なんだけどね』、と告げる彼の瞳は寂しげだった。
きっと周りには『もう死んだのだから諦めろ』『まだ探しているのか』と言われ続けたのだろう。
ビラを配ったり、行方不明者が載っているサイトに載せてみたり、空いた時間に探したりと、虎杖も色々行動を起こしたりはするが、結果は惨敗。
特に写真が昔ボヤで全て燃えてしまい無くなってしまったため、余計に難航しているのだという。
五条はそれ以上は何も言えず、目頭を押さえながらそっと外出の許可を出した。
決して、年のせいで涙もろくなったとかではない。
悟、ピチピチの28歳。
まだまだオッサンじゃない。
大体感動物で泣けるキャラじゃなかっただろう。
頑張れ僕。
負けるな僕。
五条は『妹』と聞いて、小雛の姿を思い出した。
小雛も家族と引き離された子供である。
その時も五条は『こんなガキを家族から引き離すとかクソかよ』と思っていたが、虎杖の話を聞き『こんないい子から妹を取り上げるとかクソかよ…』と思った。
だからか、余計に小雛に会いたくなった。
「伊地知ぃ〜このまま引き返して」
「む、無茶言わないでください…任務なんですから…」
心の底から小雛に会いたくて仕方なかった。
だが、今まさに仕事に向かう途中であり、乗っている車は小雛のいる屋敷とは真逆に進んでいる。
もうこの車が、強いて言えば運転している伊地知が憎い。
伊地知の場合八つ当たりだが、最近は小雛に会えていないストレスもあって苛立ちが収まらない日もあった。
後輩たちや他の呪術師に任務を回してもドミノ倒しのようにじゃんじゃん任務が降ってくるので、手を抜こうが真面目にやろうが自分の時間はなかなか訪れない。
伊地知に無茶ぶりをするも、まあ、却下された。
分かってはいたが腹が立ったので軽く運転席を蹴っておいた。
『ひぃ』と悲鳴を上げる伊地知の声などシャットアウトする。
融通の利かない男を運転席に乗せた自分の過失なので、五条は諦めて任務を秒で終わらせ小雛に会いに行こうと決めた。
次の任務があろうが決定は決定だ。
例えすぐに帰ることになろうと、一瞬でもいいから小雛の顔を見るともう決めた。
これは決定事項である。
脳裏にも目の奥にも記憶にも小雛を思い浮かべているとまた溜め息がついた。
その時、携帯が鳴った。
着信画面を見ると実家からだった。
その文字を見る度に五条はマスクの下で眉を顰める。
「なに」
無意識に不機嫌さが出て声が低くなってしまう。
そのドスの利いた声で運転している伊地知を怖がらせてしまったが…まあ、伊地知だしいいだろう。(よくない)
実家である五条家にあまり良い思い出はない。
無視してもいいが、無視できるわけもない。
五条家からの連絡の中に、小雛の事も含まれることもあるのだ。
小雛は機密扱いとされている。
呪術師の中ですでに小町の器が現れたことは公表されているが、その器がどこにあるのか、誰が所有しているのかは非公開にされている。
まあ、あの没落一族があっという間に返り咲き、最強を誇る五条悟が関わっていないわけがないので、色々バレバレではあるが、一応は機密扱いである。
そうしないと奪おうとする輩が後を絶たないのだ。
現に数百年前に小町を手に入れた呪術師の家が使用人を含めて何者かに皆殺しにされている。
その犯人は数百年経った今でも見つかっていない。
だから小雛の部屋はやりすぎなくらいに厳重に守られている。
そのため、小雛に関する連絡はあの屋敷からか五条家からのどちらかから連絡が来るようになっている。
とはいえ、小雛は大人しい子だし、屋敷の人間は基本小雛には関わらないため、早々小雛の事で連絡は来ない。
今までだって癇癪を起した最初のころ以外は一切小雛の事で連絡がきたことはなかった。
しかし―――
「屋敷が燃えてる…?」
電話に出れば相手が混乱しているように騒いでいた。
支離滅裂な言葉を並べて全く会話が成り立たない。
相手は使用人だったが、実家が相手なのと、小雛と生徒達に会えない苛立ちも相まって、五条は慌てている電話の相手に向けて凍り付くような低く唸った声を向けた。
それは無関係の伊地知でさえ恐怖に体が震えるような声だった。
そんな感情を向けられた電話の相手は伊地知以上に肌が粟立っただろう。
相手が息を呑んだのが分かったが、今はそれどころではないし、相手が実家というだけで心底どうでもいい。
「どういう事か一から簡潔に説明しろ…無駄な時間を取らせるな」
低い声で唸る言葉に相手はこれ以上機嫌を損ねさせてはいけないと相手も理解し、五条の言う通り一から、簡潔に、説明した。
説明と言ってもあちらも分かっていない事が多すぎる。
五条は相手の説明に『分かった、今すぐに屋敷に向かう』と言って相手の返答も聞かず電話を切る。
「伊地知、この任務は他の人に回して」
「え…は?…あの…」
電話している様子からして何かあったことや、機嫌が更に急降下することがあったということは分かった。
しかし突然五条はそう言い残してその場から文字通り消えた。
「え…ええ…」
どういう事か理由も聞く暇もなく、五条は無下限呪術を使い瞬間移動をした。
残された伊地知は静まり返る車内の中で顔を引きつらせ、これからの事を考えて胃が締め付けられるような痛みに襲われる。
五条は伊地知の胃を犠牲に、一瞬で移動し小雛を囲っている屋敷まで飛んだ。
地面には飛ばず、空中に浮かぶと下では真っ赤に燃え上がる広大の広さの屋敷があった。
屋敷の周囲を見渡せば、野次馬が集まっており、消防署の人間が鎮火を試み動いていた。
しかし、屋敷全体を包むように燃える火は人間にはそう簡単に鎮火できるものではなく、手間取っていた。
「………」
五条はもう一度無下限呪術で屋敷内に中に入る。
消防署の人間が装備を整えてもそれでも命がけになるであろう炎の中でも、五条の無限ならば暑さも怪我もなく、まるで普段のように歩くことができる。
術式で一瞬にして小雛の部屋まで飛ぶ。
本来なら五条の術式であってもショートカットできない。
だが、これほどまで炎が回っているため、小雛の部屋にかけられた術式はすでに切れており、五条の術式で小雛の部屋まで飛ぶことができた。
今なら一般人でも普通に小雛の部屋にたどり着くことができるだろう。
五条は辿り着いた部屋を見渡した。
「いない…」
部屋の主である小雛の姿はなかった。
小雛を閉じ込めていた部屋には、寝室とサニタリールームの二つの個室があるだけである。
それ以外は20畳のだだっ広いだけの一室。
その部屋にぬいぐるみと着物を仕舞うタンス、髪や身なりを整えるための姿見など本当に必要最低限にしか家具は置かれていない。
その為、小雛が隠れる場所は限られていた。
隅に追いやられているぬいぐるみの中に隠れることは可能だが、すでにぬいぐるみは燃え移って山が崩れていた。
サニタリールームにある浴槽とトイレ、そして寝室を見たが小雛の姿はなかった。
一応庭も見てみれば、やはり小雛の姿はなく、庭には熱さと煙で鯉と小鳥が息絶え水面に浮かんでいた。
あれほど小雛が可愛がっていた鯉と小鳥が息絶え水面に浮かんでいるのを五条は感情もなく見つめた後、振り返る。
視線は小雛の寝室。
そこには布団が敷かれていた。
小雛の生活は閉じ込められ運動が満足にできないことを除けば、朝日が昇る時間に目を覚まし、日が落ちる時間に眠る健康的な一日を過ごしている。
孤独に過ごすとはいえ、小雛は万年床にするほどズボラな性格ではないため、必ず布団は押し入れに片づけるはず。
その布団が片付けられておらず、敷きっぱなしで燃えているという事は…
「就寝中に攫われた可能性がある、ということか…?」
五条は小雛の体調不良の事は知らない。
そのため、寝ている時、または片付ける前に攫われた事になると五条は考える。
しかし、それが正しいとは言えないだろう。
何分、証拠がなさすぎる。
五条は寝室を見渡す。
荒らされた痕跡も、争った痕跡もないし、残穢さえもない。
あるのは寝具と、着物用のタンスと、下着やタオルを仕舞うための小さなチェストと、姿見のみ。
残穢さえないことが逆に怪しいが、しかし、目的の人物の姿がないこの部屋に用はなく、五条はその部屋から出ていこうとした。
しかし、ふと立ち止まる。
「おっと…忘れるところだった…」
『燃えてないかな』と呟きながら背を向きかけた五条は振り向きある場所に向かう。
向かったのは小雛が使用していた姿見だった。
熱で割れて今はその体を成していないが、まだ燃え尽きていない。
その姿見は化粧台にもなるもので、姿見の役目の鏡が扉のようになっている。
その扉を開ければ、中にはドレッサーとなっており、鏡やメイクスペースや収納棚や引き出しなどが備わっていた。
まだ中までは燃え尽きていないため、収納棚の物は無事に残っている。
その中には櫛の他に、髪飾りが綺麗に並べられていた。
五条は髪飾りには目もむけず、メイクスペースの下にある引き出しに手を伸ばす。
「あった…よかった、まだ無事だ…」
引き出しの中のソレがまだ燃えていないことに五条はホッと胸を撫でおろす。
ソレ、とは…寄木細工と呼ばれる木材の箱。
そして、それは何も与えられない小雛の唯一の宝物。
鯉や小鳥を含め、この部屋に五条はそれほど思い入れはない。
部屋の主がいないのならば空の鳥籠にはもう用はない。
だが、それでも小雛の宝物を放っておくことは出来ず五条は忘れかけていた自分を反省する。
どうやら冷静そうに見えても、小雛の宝物の存在を忘れるくらいの動揺は残っているらしい。
今度は瞬間移動ではなく、歩いて部屋から出た。
まだ燃え盛る炎に手間取っているのか、消防隊員が乗り込んできた気配はない。
燃え広がって迷路の襖は破けているが、不自然に壊れていたりと戦闘の痕は見受けられない。
しかし、小雛の部屋の入口に一体の焼死体が転がっていた。
「あの男の焼死体か…」
その焼死体を見て、五条はすぐに誰か分かった。
小雛の部屋に足を向けているという事は、部屋から出ようとしていたのだろう。
使用人は専用のカギのような物を使用し、この出入り口とは別の出入り口から小雛の部屋に出入りしていた。
そのカギも術式で作られており、常に持っていることはできず使用する度に作り出されるものだ。
使用する人間も誰でもいいわけではなく、当主の許可がない限り使用は不可能。
偽造するにしても何もない物を偽造しようもなく、使用人に成りすますにしても見破られる仕組みになっている。
そのため五条が出入りしていたこの出入り口を利用するのは、五条か、呪力関係なく出入りが可能なこの屋敷の当主しかない。
だから、この焼死体も当主なのだろう。
屋敷は燃え広がっているが、遺体の燃え方からして直接燃やされたようだった。
そして、
「ただの放火や火事ではないな…」
明らかに呪力を使用した痕跡が見えた。
まだ屋敷を見て回っていないため憶測だが、恐らく屋敷の人間は全て殺されているのだろう。
焼死体を調べていると、焼死体の片手がないのに気づく。
周囲を見渡すとまだ燃え尽きていない男の手が床に転がっていた。
男の手の指はあちこちの方向に折れ曲がっており、それを見て五条は何となく察する。
(小町の壁が発動したということはやはり術式か)
男の手を持ち上げる。
ギロチンに切り落とされたように綺麗な切口を見ながら、当主だったこの焼死体は小雛を連れて逃げようとしていたのだと推測する。
逃げ場はもちろん自分のところだろう。
あの男には何度もそうするよう言い聞かせていたし、あの男は術式も階級も低く使い物にならない男だった。
言い聞かさなくてもあの小心者の男ならば、最強の自分を頼る選択は必然的に選ぶはず。
しかし、その途中に何者かの襲撃にあい、身体は燃え、その危険を察知した壁が発動した。
小町の壁は危険を察知しなければ発動しない。
その危険とは、殺意だけではなく、器である小雛の体を害するもの全てに言える。
そして小雛が拒んでも壁は発動する。
恐らく今回は前者…小雛の危険を察知したのだろう。
ここまで仮定する。
自身の推理が合っているかどうかは今は関係ない。
間違いないのは…小雛が攫われたという事実だけだ。
五条は炎に包まれながらクツクツとした笑みを浮かべた。
いつものつかみどころのない笑みは消えていた。
「誰か知らないが…俺から小雛を奪うなんてなァ……やってくれる…」
五条は冷静を保っていた。
それは間違いないだろう。
だが、しかしその奥には怒りが炎よりも燃え上がり真っ赤に染まっていた。
「絶対見つけ出してぶっ殺す」
感情のまま、五条は持っていた男の手を握りつぶした。
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