※小町さんの性格がものすっっごく悪いです。
※小町さん、滅茶苦茶口悪いですし、罵ります。
※キャラを見下しているし、キャラに向かってクソとかカスとか言ってます。
※弱い者イジメしてます。
※キャラが罵られるのに抵抗がある方はお引き取り下さい。
※領域とか術式とか色々突っ込み所あるけど気にしない☆
※自衛大事!!!
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その場は一瞬にして静まり返った。
波の音さえ聞こえないと思うほどその場は緊張に包まれる。
小雛から送られるプレッシャーに誰もが動けない。
俯いていた小雛はゆっくりと顔をあげ、辺りを見渡す。
「ふむ…ここは領域か……なんとも見窄らしいちんけな領域よ」
小雛は陀艮の領域を鼻で笑い、澄んだ美しいその声には似合わない誹謗が吐き出された。
顔は小雛だった。
だが、丸まると愛らしい目を持つ小雛とは違い、目じりは吊り上がり、その漆黒の目には全てを見下し見捨てるような冷たい目をしていた。
小雛の体なのに、顔も体も何もかも違っていた。
「……君は…小雛、ではないな……小町か…」
姿は小雛だ。
だが、気配が違った。
声も小雛の声は鈴を震わすような声。
しかし小町は澄んだ声をしている。
表情も顔つきも、小雛は愛らしいのに、小町はまさに人をゴミとしか思っていないような軽蔑した表情を浮かべていた。
小雛は…小町は夏油の問いを鼻を鳴らす。
あからさまに悪意のある態度に腹は立つが、夏油はそれ以上に自身の失態に溜め息をつく。
「あらら…雛と入れ替わっちゃったんだ…ちょっと良い人間を与えすぎたかな?」
「…真人…私に黙って上級等の呪術師を与えたね?」
腕を壁に切断された真人は、ケロッとさせながら反省の言葉を述べるが、その顔は全く反省の色はない。
そこで夏油は気づく。
この呪霊、夏油の言葉を無視して小雛に2級以上の呪術師の血肉を与えていたのだ。
計画を進めるにあたってまだ問題を起こすなと注意したのに聞き入れなかった真人に、夏油はジト目で見るが真人はにこっと笑って誤魔化した。
誤魔化せてはいないが、叱る気力もわかない。
まあ、起こってしまったのは仕方ないと開き直るしかない。
「雛〜雛〜」
はあ、と溜め息をついていると陀艮が目をうるうるとさせながら小雛を…小町を見ていた。
小町と小雛が入れ替わったのは陀艮でも分かるが、優しい小雛とはかけ離れた小町に寂しくなって泣いているのだろう。
ぶぶと泣く陀艮に、小町は歩み寄る。
小雛なら陀艮の頭を撫でながら『陀艮様、どうしました?』と言って優しくて暖かい笑みを向けてくれるのだが…
「クソごときが気安く妾の雛の名を呼ぶでないわ」
そう言って陀艮を横から蹴り、コロンと仰向けに倒れた陀艮の上に乗り、片膝を立てて崩して座る。
上に乗られただけなため、身体を動かせば小雛を落とすことが出来るはずなのだ。
しかし、なぜか重しが乗っているように重く感じ、身体も動かない。
陀艮が小雛を気にして動かないのかと思った夏油だが、陀艮は嫌がり抵抗しているので、恐らく小町が何かしているのだろう。
小町は仰向けになった陀艮の腹に乗り、ゲシゲシと膝を立てている足で軽く蹴る。
ぐっと押し付けるように足で踏みつければ、ぷぎ、と苦しそうな陀艮の声が漏れた。
その声と必死に逃げようとする姿に、小町は今まで不機嫌そうだった表情を意地の悪い笑みへと変え、陀艮を見下す。
「ほれほれ、どうしたどうした…妾はまだ本来の力の半分さえ戻っておらぬぞ?そんな妾の足から逃げ出せぬとは…クソもここまで極めれば哀れなものじゃ…」
『クソどもに同情などせぬが』笑う小雛の目は冷たい。
陀艮は『なんで』と思う。
小雛ではないのは理解している。
ただ、どうして抵抗できないのかが不思議だった。
陀艮は上に乗られ踏まれる苦しさや屈辱から我を忘れた。
小町の体は小雛の体と頭から抜けてしまい、式神である死累累湧軍を小町に向ける。
しかし―――式神達は小町と接触するまであと数センチというところでピタリと止まった。
「ちんけな領域に似合うちんけなゴミじゃのう…つまらん、退屈じゃ」
夏油は目を丸くする。
本来なら領域のメリットの中に必中がある。
無限で攻撃を防ぐことが出来る五条でさえ、領域内では術式は当たる。
なのに式神達は小町に攻撃を当てることができず、まるで握りつぶされたように崩れていった。
(壁、ではないな……領域対策の術式か…?)
呪詛師・呪術師の中には、領域対策の術式を有している人間もいる。
極めて珍しい呪術のため実物を見られるのは稀だが、小町の今のもその術式の一つだろうか。
小町は陀艮の上に足を乗せたまま、ふう、と溜め息をつき、己の手を見る。
「ふむ…表に出るだけでも疲れを感じるとは…まだまだ回復していないということか…」
3週間ほど食事抜き状態が続いたせいもあるのだろうが、血しか与えられないのもあるのだろう。
小町はまだ体調が戻らず、こうして表に出てくるのも体が重く感じた。
(いっそのこと領域を展開するか……いや、それは得策ではないな…このクソ程度の領域ならば妾の領域が勝るが…あの二人は恐らく特級…もしも領域を得ているとなれば今の妾では妾の領域の方が負ける…振り出しどころか事態が悪化するだろう…賭けをするほど妾は酔狂でもなければ手段がないわけではない)
小町も領域を会得している。
だからこそ、壁は持続的に発動させている。
必中がメリットの領域だが、それでも壁は役に立つ。
小町は兄とは違い、強力な術式を所有していない。
そこが同じ特級での違いだろう。
小町の術式は攻撃に特化したものではなく、防御に長けていた。
それも皆を守るようなものではなく、本人のみの防御だ。
小町自身、攻撃に特化した術式を必要としなかったのもあったのだろう。
小町の壁は絶対だ。
それが例え最強と言われている五条悟でも、そして呪いの王と恐れられている兄であっても、小町の壁は崩せない。
それが小町の強みであり、唯一兄に対する反抗でもある。
だが、今の小町は本調子ではない。
もしもこの場で小町の領域を展開したとしても、そして戦闘になったとしても、今の小町では負ける。
勿論、領域を会得できる人間は限られている。
だから二人が領域を会得していないという点も考えられる。
だが、領域を会得している場合、小町は確実に逃げられなくなるだろう。
領域展開は必要とする呪力の量が大きい。
その分、メリットが美味しいが、逃げれない場合、小町は呪力が尽き眠りについてしまう。
そうなると小雛を置き去りにしてしまい、今回の事で呪霊と呪詛師達は小町を起こさないよう本当に最低限の食事しか小雛に与えなくなるだろう。
そうなればもう小町が小雛と共に逃げるチャンスはなくなる。
それが分かっているから安易に領域に逃げ込むことはできずにいた。
(忌々しい…愚兄の足元にも及ばぬクソ共が)
小町は内心顔を顰め毒づく。
特級の中でも兄である宿儺は特別だ。
愚兄だなんだと言ってもそこは認めている。
その愚兄にも勝てないような者たちにすら自分は勝つことはできない…それが苛立たせる。
その苛立ちをそのままに、足に力を入れると足元のソレが鳴いた。
足元へ視線をやれば、陀艮が苦しそうに、悔しそうに、悲しそうに…ぶふぅー、と鳴く。
そんな陀艮に小町は更にぐぐぐと力を入れながら八つ当たりをする。
「どうしたどうした…逃げぬのか?妾は4級程度なのだろう?そんなカスのような妾にも劣るクソが……貴様はカス以下の自分が存在していることに恥はないのか?カス以下ならばさっさと潔く死ね」
抗う陀艮に小町はまるで羽を毟られうごめく虫を見て楽しむかのように笑う。
愛らしい小雛の顔が、意地の悪く冷たく歪んだ笑みに変わっていた。
いつも自分の名前を呼んでくれる愛らしい声が、棘のある冷たい声に変わっていた。
優しく撫でてくれたのに、今では自分を踏みつぶそうと力を入れている。
小雛の姿じゃなければここまで悲しくはなかった。
陀艮の目にまた涙が溜まる。
そんな陀艮の涙を見て小町は高笑いを上げた。
「なんじゃなんじゃ!!この程度で泣きおるわ!!なんとも無様な姿の事か!!だから貴様らクソ共は―――」
小町は言葉を切る。
いや、言葉を遮られたと言っていいだろうか。
陀艮を見下し馬鹿にする小町に真人が攻撃を仕掛けてきた。
ストックしている人間を小町に向けた。
だが、それに気づいた小町が真人に姿形を変えた改造人間を手で触れ人間に戻して回避する。
小町は真人よりも己の手で戻した人間を見下ろす。
その瞳には陀艮を見ていた冷たい瞳とは違い、憐れんでいた。
「なんと哀れなことか…妾の仔よ、せめて最後は苦しまず逝くがよい…」
柔らかい声に慈悲が見えた。
仰向けで倒れる人間は小町を見る。
小町は真人の術式で姿を変えられた人間を助けることはできない。
だが、数秒は息があるらしい。
人間は小町に慈母を重ねた。
ゆっくりと、静かに…まるで水に沈んでいくように命の灯が消えていく人間の瞳から涙が零れた。
その涙を流しながら死んでいく人間を見つめていると、真人が一瞬にして詰め寄る。
「貴様、脳がないのか?」
小町の言葉通り、真人の攻撃は無駄に終わる。
真人は見えない何かに前方から衝撃を与えられたように吹き飛んだ。
すぐに着地し顔をあげるも、そこには小町と陀艮以外に何もない。
夏油も先ほどと同じ術式だろうと思うものの、情報がなさ過ぎて憶測もできなかった。
ただ、壁以外の何かに守られているというのは理解した。
(必中も小町には無効ということか…)
領域の主である陀艮の式神達も死骸となって転がっている。
なんの術式かは不明だが、攻撃は無意味だと夏油は呪霊を出しかけたが止めた。
真人は鋭い視線を小町に向け、小町はその視線にクツクツと顔を歪めて笑う。
「クソごときが仲間意識を持ち呪詛師とも手を組むか…ふむ…つまらんな…」
つまらんと言いつつも小町は笑う。
クツクツと笑う小町に真人は嫌悪したような目で見た。
「笑うのは勝手だけどさ…陀艮の上から降りろよ」
「なぜ?」
「そんなことも分からないなんてお笑い種だなぁ?兄と違って妹は出来が悪いのかな?」
いつものヘラヘラした笑いをピクリとも浮かべず、真人はギロリと小町を睨む。
真人は軽薄そうではあるが、案外仲間思いの呪霊だ。
特に陀艮はまだ呪胎だ。
自分達に比べて幼いし弱い。
それでもその辺の呪術師に負けるような弱さはもっていない。
真人だけではなく、漏瑚達呪霊達は仲間思いだ。
それこそ、人間よりも。
だからこそ、小町に腹を立てているのだろう。
(4級程度と話には聞いていたが…誤りだったか…)
夏油は殺気しか放たない真人を止めるでもなく、陀艮を助けようとする素振りもなく、ただただ小町を冷静に観察していた。
観察していて分かったのは、今まで集めていた小町の情報に偽りがあるということだ。
確実に小町は4級以上の力の持ち主だ。
しかし実際は本気ではないとはいえ、真人の攻撃を触れずに跳ね除け、呪胎とはいえ陀艮を押さえつけている。
少なくとも弱く見積もっても1級はある。
ただ、小町も本気ではないので分からないが、恐らくは防御以外は特級ほどの力はない。
それに、どうやら小町は呪霊でありながら同じ呪霊を毛嫌いしているようで、先ほどからクソだのカスだの言葉汚く罵っている。
こちらを見る目も冷たく凍り付いてしまうようだ。
だが、それ以上の地雷が小町にはあったらしい。
「もう一度言ってみせよ痴れ者が…貴様を切り刻み豚の餌にしてやる」
「やってみろよ」
今までは相手を嘲笑し、見下し、馬鹿にしていた。
だが、今は嘲笑も消え無表情ながらも、その瞳には怒りを浮かべていた。
流石に兄との関係までは調べられなかったが、どうやら兄との関係は最悪らしい。
無駄だと分かっていても陀艮を踏む相手に真人は引くことはない。
小町も愚兄とまで言っていた兄よりも劣ると言われ腹を立てている。
このままではどちらかが祓われるまで戦うことになると思い、夏油が間に入る。
「二人とも落ち着いてくれ」
これで落ち着く二人ではないのは分かっているが、間に入ったことで気がそれる事を期待した。
その期待通り、真人も小町も間に入り込んだ夏油の姿に、お互いに向ける視線から夏油へと反らすことに成功した。
鋭い視線はそのままだが、祓い合う事は今のところなんとか免れて夏油はホッと安堵する。
これから計画している中で、最強とも自他共に認める五条と、呪いの王とも言われ呪物になっても恐れられている宿儺を相手にするのだ。
それまでの間、できるだけ被害は少なくいたい。
「小町、突然こんな場所に移されて混乱しているだろうが落ち着いてほしい…真人もだ…陀艮を踏まれて頭に来ているのは分かるが小町の体は小雛なんだ…あまり乱暴なことはしないでやってくれ」
先ほどまでの小町の態度で、小町が混乱なんかする愛らしい呪霊だとは思わない。
だが、とにかく二人の殺意が和らげばなんでもよかった。
案の定小町からは『阿呆か貴様は』と毒づかれてしまったが、見た目が小雛なので怖くはない。
真人も夏油の言葉に、小雛は小町の器だと思い出し殺意を少しだが和らげる。
とりあえず戦いは避けられた事に夏油は話を続ける。
「とりあえず話を聞いてほしい……が、その前に陀艮から降りてくれないか?」
「イヤじゃ、妾はコレを気に入った…よい弾力よい反応…弄りがいのあるクソは愛い…妾はコレを飼うと決めた…まあ木偶の坊であるが肉壁程度の役割くらいは果たせよう…ペットが増えて雛もさぞ喜ぶであろうのう」
そう言って小町は薄ら笑いを浮かべ、嫌がる陀艮を見下した目で見つめながら踏んでいる足の力を更に入れる。
ほれほれ、と楽しそうに陀艮を苛める小町に、夏油の背後からまた殺意が強まった。
小町はそれも含めて陀艮をいじって遊んでいるのだろう。
夏油は内心溜め息をつきながら、制する意味で真人に手を向けた。
「小雛は喜ばないと思うけどね…あの子は"友達"を踏んでオモチャにして喜ぶ子じゃない」
小町が本気なのか揶揄っているだけなのか…それを判断するには、小町との関りが浅すぎる。
憶測が正しければ小町の言う妾の子とは小雛や人間の事を指している。
小雛と接していて、二人の関係は良好と判断し、夏油は小雛の名前を出した。
小雛を使えば小町が引いてくれる保証はないため別の案を考えていたが…
「ふむ…確かにそうだな……妾の子は貴様らみたいなクソ共とも親しくしてやり友達とやらになってやっているのだから優しく慈悲深い」
小町は夏油の言葉に納得し、陀艮から降りる。
小町から解放された陀艮は急いで真人の後ろに隠れた。
それすら愉快なのか、クスクスと笑う声を漏らすが、その中には嘲笑も含まれているのが隠されていない。
トラウマほどではないが、十分小町に怯える素材を与えられた陀艮は、ぴゃっと鳴いて真人を壁に小町の視界から消える。
真人も小町の愉快そうな目に不快感をあらわにし、陀艮の前に出て壁になってやる。
小町にはそれもまた面白おかしい出来事なのか、目を細め笑う。
ここまで小町が気難しい呪霊とは思っていなかったが、今は機嫌がいいだけ良しとしよう。
「それで?わざわざ妾の器を攫ってまでなんの用じゃ?……いや、聞くまでもないな…―――愚兄のご機嫌取りになれというのだろう?」
小町はずっと眠っていた。
小町のための食事が断たれ、小町は眠ることによって力を極力温存していた。
小町"は"、呪力に底がある。
今は力を抑えられているというのもあり、制御し温存をしなければすぐに呪力が切れてしまう。
でなければ今頃領域を展開してとっとと逃げているだろう。
夏油は小町の言葉に『説明する手間が省けて助かったよ』と笑う。
にこりと人好きのする笑みを浮かべる夏油を小町は鼻を鳴らした。
「じゃが…愚兄は器と共に死んだのだろう?ならば妾には用はないはずじゃ」
夏油は『やっぱりあの会話を聞いていたか』と思い目を細める。
血肉によって小町は少しずつ回復に向かっていた。
誤算なのは真人が小雛に上級の人間の血を与えてしまい、小町が夏油の予想以上の速さで回復してしまったことだろうか。
ニタリと笑う小町に、夏油はすぐに気づいた。
「君が本当にそう思っているのなら必要ないだろうね」
小町は知っているのだ。
宿儺も、宿儺の器も、生きていることを。
身体は死んでいるのだろう。
だが、中にいる宿儺はまだ死んでいないのを小町は知っている。
それは夏油とは違い、兄への信頼なのだろう。
含む言葉に小町は不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「ずいぶんと厭味ったらしく遠回りな言い方をする…素直に『小町様、愚兄のご機嫌取りになってくださいお願いします』と頼めんのか」
厭味ったらしい言い方は小町の方だ。
いや、むしろ厭味ったらしいよりも不快な言葉で攻撃、と言った方がいいだろうか。
完全にこの場にいる三人を見下している。
『これだから呪霊は…』と心の中で毒づきながら、夏油は今にも飛び出しそうな真人を抑えながら笑顔を張り付ける。
「そうお願いすれば引き受けてくれるのかな?」
小首をかしげ問う。
小町の言葉通り、小町とその器をここに攫ったのは宿儺の生贄として連れてきた。
それと同時に、五条対策。
五条と小町の関係性は知らないが、あの五条が足繁く通いキャンパスのように白く純粋に育てたくらい執着を持たれている小雛を使わない理由がない。
夏油の問いに、小町はまるで虫を見るような冷たい瞳で夏油達を見つめ…
「地べたに這いつくばり額を地面にこすりつけて平伏しろ…家畜は家畜らしく四つ這いに歩き床に散らばる豚餌を食し妾に貴様らの全てを尽くせ…そして羽虫のように無様に滑稽な死を迎えその命を妾に捧げよ…そうすれば考えてやらなくもない」
口の悪さも相まって、夏油は口端がヒクリと痙攣するのを感じた。
傍にいる真人から殺気が強まるのも感じ、夏油はふつふつと湧く怒りを抑えながら必死に笑顔を貼り付ける。
これは考えるまでもない完全なる拒絶だ。
絶対に夏油達が実行するとは思っていないからこその言葉。
実行したならしたで、彼女が素直に考えてくれるわけがない。
挑発に乗る男達を小町は見下すように顔を上げて彼らを睨み、鼻を鳴らす。
「そもそも妾は愚兄の所有物でもペットでもない…あの愚兄が妾の身一つで大人しく貴様の手中に収まるほど愛らしい性格はしておらんわ」
愚兄…宿儺が大人しく人のいう事を聞くイメージが湧かない。
あの兄は自分の機嫌一つで人の命も呪霊の命も刈り取る。
しかし、絶対に妹である自分だけは殺しはしない。
だから小町はあの兄に対して不躾ともいえる態度を取れる。
「あれは王だ…王以外の何ものでもない…貴様らに手綱を握れるのであればとっくの昔に妾が手綱を握っておるわ」
夏油は何も言わない。
小町に言われなくても十分に理解しているからだ。
笑みを浮かべるだけの夏油に、小町は不快そうに眉を顰める。
この男は兄とは別に癪に障る男だと小町は認識した。
(やはり断られるか…まあ、小町も長い時間表には出れないようだし…小雛を手懐けるのは長期戦を覚悟しなければならないな…)
断られることは分かっていた。
小雛がいい子だった分、小町がここまで気難しいとは予想外ではあったが。
だが、それでも小町はずっと小雛の体を借りて動けるわけではないのは知っている。
小町は宿儺同様、主導権は体の持ち主である小雛にある。
どうやら囲われていた場所とは違う場所、そして知らない者たちに囲まれているのを見て出てきたようだ。
真人にこれからは等級もない非術師の血肉しか与えないように注意させれば…と夏油は考えながら思う。
そんな夏油をよそに、小町は目を配らせる。
「まあ、妾は貴様らが愚兄で何をしようかなど興味もない…じゃが雛をいつまでもこんなちんけな場所にいさせるつもりもない…妾達は帰らせてもらう」
「帰る?どこに帰るっていうのかな?君たちを囲っていた屋敷は燃えてなくなった…君たちは頼れる人間はいないはずだ…それにここは陀艮の領域で私と真人は特級だ…君が帰る方法はないだろう?」
上に乗られていた陀艮が抵抗らしい抵抗が出来なかった事から、呪胎である陀艮よりは格上だろう。
だが、ここには自分もいるし、真人もいる。
特級に位置づけされているが特級ほどの強さはないようだし、時間切れの小雛と交代するまで時間を稼げばいい。
小町が4級以上の呪力を持っているというのは予想外ではあるが、対処法がないわけではない。
そう思い余裕を見せる夏油に、小町は嘲笑を送る。
嘲笑を送られるのも、馬鹿にした言い方も、気には留めない。
腹は立つことは立つが、相手は人間…それも14歳の少女を御せない呪物だ。
一々気にする必要はない。
だが、そんな夏油の視界に映る小町の横に、黒い物があるのに気づいた。
(なんだあれは…黒い犬の…呪霊か?)
それは犬の姿の呪霊だった。
いつの間に小町の隣に現れたのか分からないが、行儀よくちょこんとお座りをして小町を見上げていた。
姿は異形だが、仕草は本物の犬のようだった。
嬉しそうに4本のしっぽを振り、はっはっと呼吸を繰り返し、開けられた口からはダランと蛇のように長い舌が垂れている。
その犬の呪霊…クロを見て夏油は蠅頭程度の呪力しかないと分かった。
だからそれほど警戒はしていなかったのだが…
「阿呆か貴様…帰る算段なく言うほど妾はまだ呆けておらんわ」
そう言って小町はパチンと指を鳴らす。
それを合図に、隣にいたクロがワンと鳴く。
「―――!」
クロが鳴いたその瞬間、小町とクロの体中に円状の穴が開いていく。
その穴は少しずつ増えていく。
開いた場所は向こう側が見えており、逃げる気だと分かる。
「小雛!!」
夏油に引き留められていた真人が動く。
手を伸ばして小雛に触れようとしたが、その手は小町とクロの体をすり抜けてしまう。
悔しそうにする真人に嘲笑を浮かべながら、小町は夏油へ視線を向ける。
「安心するがよい…貴様らがどんな策略を立てようが妾は興味ないのでな…妾の仔らには貴様らの事は黙っておいてやろう」
そちらの方が面白うそうじゃ、と言葉を残し―――小町は器と共に消えた。
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