(19 / 53) 本編 (19)
その日は、夏の暑い日だった。


「おじいちゃんっ!ゆうくんっ!はやくいこ!」


テーブルに手をついてぴょんぴょんと幼い少女が飛び跳ねていた。
今日は可愛い金魚の浴衣を着てお祭りに行く予定で、祭りに行くこともだが、何より大好きな祖父と兄と一緒に行ける事が嬉しかった。
その足元には『キーキー』鳴く目が一つ前足が三本後ろ脚が一本の小さな何かと、頭が大きくミノムシのような何かが一緒になって飛び跳ねていた。
この二匹は呪霊である。
小雛の術式で作られた呪霊。
しかし等級はなく、4級にも満たない蠅頭だ。
それも一人で遊んでいた時寂しかったから作った呪霊であるため、殺傷能力はなく、ただの愛玩動物扱いだ。
主人の行動を遊んでいると思っているのか楽しそうに真似をしている。
『分かった分かった』と言いながらも可愛い孫の催促に祖父は顔がデレデレに緩んでいた。
祖父の準備も終えたのを見て、小雛は一目散に玄関に向かった。
そんな小雛に幼い少年が慌てて追いかけて止める。


「雛ちゃん!手!お外行く時はお兄ちゃんと手を繋がなきゃダメなんだよ!」


少年は慌てて妹である小雛の手を掴んだ。
手を取られ小雛は少年に振り返る。
一歳差の兄だ。
少年は明るい髪色をしていた。
小雛は黒髪だが、血の繋がった兄妹である。


「ゆうくんっ!あのね、あのね、雛ね、わたあめね、たべたいの!」

「いいよ、でも雛ちゃんがちゃんとおうちに帰るまでお兄ちゃんと手を繋いでくれたら一緒に食べるよ」

「はーい!雛、ゆうくんとおててつないでる!!それでね、ゆうくんとおじいちゃんとね、わたあめたべてね!ヨーヨーやってね!かき氷もたべてね!それでね、それでね!」

「分かった分かった!そんなにはしゃいだら着いた頃には疲れてしまうぞ?」


お祭りと言っても立派なものではない。
出店もあるにはあるが、数は少ない。
小さな神社でのお祭りだが、それでも人は多く、特に子供は毎年楽しみにしていた。
小雛もそのうちの一人で、可愛い服(浴衣)も着られるので女の子として嬉しかった。
流石に3歳には綿あめやかき氷などは食べきれないので、いつもお祭りで食べる時は三人で分けあって食べている。
この家は末っ子の小雛を中心に回っていると言っても過言ではない。
一歳差であるはずの兄も小雛を優先してくれる。
勿論、彼にも我が儘を言う権利はあり、小雛も我が儘ばかり言う子ではなかったため、無理してお兄ちゃんぶっているわけではなかった。
祖父は仲が良い孫達を不器用ながらも温かく優しく見守っていた。


「はやくいこ!ゆうくん!おじいちゃん!」


小雛は兄の手を引っ張ってお祭りへ向かった。
兄も妹に引っ張られながらも、年に一度しかない祭りを楽しみにしていたのかその足取りは軽い。
そんな孫達の後ろを祖父は『そんなに走ると転ぶぞ』と注意しながら続いた。

いつも訪れる一日だと思っていた。

一年に一度の楽しいイベントだと。

しかし、その日…小雛は行方不明となり…


―――呪術界に小町の復活が伝達された。

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