東京都の郊外にある、宗教系の学校。
東京都立呪術高等専門学校。
表向き宗教系の学校ではあるが、その実、呪術師を育てる学校である。
生徒は、東京と京都姉妹校の1年から4年合わせても、普通の学校の1クラス分にもならない人数しかいない。
そんな学校に一人の少女の野太い悲鳴が響き渡る。
「にぎゃあああああ!!!!」
運動場には5人の男女がいた。
…正確に言うと、4人の男女に、パンダ一匹である。
当然のようにパンダは二足歩行しており、当然のように人の言葉を喋っている。
周囲の男女は当然のようにパンダの存在が当たり前のように触れずにいる。
そこにパンダがいる事への突っ込みをしてくれる者は誰一人いなかった。
(野太い)悲鳴を上げている少女、釘崎は先輩であるパンダに両足を掴まれクルクルと振り回されていた。
しばらく回すとパンダはポーイと後輩である少女を放り投げる。
釘崎は受け身を取ろうとするも失敗してしまう。
「なんで私ばっかり振り回されなきゃいかんのよ!!伏黒!交代だ!!次はお前がパンダ先輩に振り回されろ!!!」
「すまん、今禅院先輩に相手してもらってるから無理だ」
「ふしぐろおおおおおおお!!!」
シラッと仲間を見捨てる伏黒に、釘崎は駆け寄って掴みかかろうとした。
しかしその前にパンダに捕まり、また振り回されてしまう。
「野薔薇はまず受け身を完璧にしてからだな…駄目だぞ〜前衛じゃないからって体術をさぼっちゃ」
「しゃけ」
「ちくしょおお!!ここでか弱き絶世の美少女が仇に!!」
悔しそうな声を上げながら釘崎はまたポーンと投げ飛ばされた。
今度は受け身を取れたが、すぐに崩れてしまう。
これでもう何度目の受け身か数えるのが面倒になるくらいは振り回されては放り投げられている。
はあはあと息を荒くして疲れを全面的に出すが、この先輩達、容赦ない。
「おっ!やってるねぇ」
その声は最強を誇る五条悟だった。
特級術師として忙しい彼が珍しく高専にいるのは珍しいなと思いながら全員がそちらへ視線を向ける。
「雛、あそこにいるのが僕の生徒達だよ…9月に向けて特訓中みたいだ」
『必死で可愛いね』、と強者のみ許される神視線にイラっとする釘崎達だったが、五条の隣にいる少女…小雛は基本五条全肯定botなので『はい』と笑みを浮かべて頷いた。
小雛の笑顔を向けられ、五条も機嫌を良くする。
腐ったミカンどもが関わらない限り、五条の機嫌があからさまに損なわれることはないが、それでもここまでニコニコと偽りのない笑みを浮かべ機嫌がいいのは珍しい。
「なんだあの機嫌の良さ…気色わりぃ…恵、お前知ってるか?」
生徒達の中で伏黒が一番五条との付き合いが長い。
そのせいでよく五条関係で聞かれることがあるが、恩人ではあるもののその軽薄さに素直に尊敬できない人間に対して伏黒はそこまでの興味はわかない。
知っているなら答えるが、ほとんど『知りません』で終わる。
だが、この日は知っている日であった。
伏黒は顔を寄せる真希の問いにチラリと五条の隣にいる小雛を見る。
「五条先生の機嫌がいいのは確実に隣にいらっしゃる方ですね」
伏黒の言葉に全員がそちらへと視線を向ける。
五条は高身長であり顔に似合わずガタイがいいため、どうしても嵩張る。
その存在感は強く、目立つ。
その為、小柄な少女は五条の影に隠れてしまい、伏黒から聞かされなければ気づかなかったくらいだ。
その少女は今時珍しい着物を普段着にしており、それに合わせた髪飾りで髪を上げ、強い日差しを避けるために日傘を差していた。
高身長の五条と対比するように背は低く、見た目で判断すればまだ中学生か、成長が早い高学年の小学生くらいだろうか。
五条を見上げているため、その顔は露になっており、五条には劣るが中々整った顔をしていた。
「誰、あれ」
釘崎は思った事をただ言っただけだろう。
一見、小雛は一般人だ。
この学校は普通の学校とは異なり、関係者以外が学校を訪れることは珍しい。
それだけではなく、まだ高校生になっていないであろう少女が、最強を誇る呪術師の隣にいること自体が珍しいのだ。
興味をそそられるのも、訝しんでしまうのも、当然だ。
事情を知らない伏黒だったら同じ反応を示すだろう。
「あっ!恵様!」
生徒達から伏黒を発見した小雛は小さく手を振った。
五条ならまだしも、小雛は小町の器であり、虎杖の妹である。
虎杖の妹という時点で彼の中に小雛を無視する選択はない。
手を振り返す伏黒に小雛は五条に何か言い、五条が頷いたのを見て畳んだ傘を五条に預けて伏黒に向かって真っすぐ駆け寄ってくる。
姿に気づいたときは気づかなかったが、小雛の足元には黒色の犬とブチ模様の犬がおり、小雛の肩には黄色く小さな鳥が乗っていた。
その姿は動物を偏っていながらも異形で、小雛の素性を知っていなければ伏黒は警戒していただろう。
現に小雛が何者か知らない釘崎達は、五条が一緒だったから構えはしないまでも警戒をしていた。
そんな釘崎達に気づかず、小雛は伏黒の下へとたどり着いた。
「こんにちは、恵様!一週間ぶりでしょうか」
「はい、小雛様は高専にご用事ですか?」
小雛は小町の食事を知っても嫌な顔をせず、更には気遣ってくれた伏黒と七海に好印象を持った。
五条ほどではないにせよ、彼らに小雛は懐いた。
顔合わせから丁度1週間の再会である。
いつも仏頂面を浮かべる伏黒が、見知らぬ少女に穏やかな表情で対応する姿を見て、釘崎達が反応しないわけがない。
「おやおやぁ??伏黒きゅん???」
いやったらしい声を出したのは釘崎だった。
そしてガシリと伏黒の首に腕を回したのは、真希である。
ノリのいいパンダと狗巻もニヤニヤと後輩を見ている。
学生の頃、友人に恋の気配を感じたら揶揄う空気になるのは、高専でも同じらしい。
とはいえ、伏黒だけではないが、彼はクールぶっている(身内視点)ところがあり、そんな人間が恋をしているだなんて弄りがいがある。
絡まれて鬱陶しいと顔にデカデカ書いている伏黒を無視し4人はニヤニヤ顔を止めない。
「あんな可愛い子とどこで出会ったんですかねぇ?」
「めんたいこ!」
「っていうかあんた私より先に恋人作らないでくれる?しかもなにちゃっかり可愛い子を彼女にしてんのよ」
「お前、面食いだったんだな」
予想通りの反応に伏黒は物を言うのも面倒臭くなる。
溜息を返事として返し、真希と釘崎を剥がし小雛の傍に歩み寄って紹介した。
「こちら、小町様の器様の小雛様です」
伏黒の言葉に、全員凍りついたように固まった。
点、点、点、と続く沈黙に、小雛は不思議そうに首を傾げ、伏黒はシラッとした顔で更に爆弾を投下させる。
「ちなみに、五条先生の婚約者でもあります」
そう伏黒の言葉と同時に、小雛の背後に五条が立った。
一同伏黒から小雛へ、小雛から存在感のでかすぎる五条へ視線を向け―――
「嘘でしょ」
「嘘だな」
「おかか…」
「嘘だろ」
明らかに小雛は高校生前の年齢。
そして、五条は28歳児だ。
どう考えても冗談にしかない。
小町が復活したことは田舎にいた釘崎ですら知っていたが、小町がどこにいるのかも、小町の器と五条が婚約したことは一般の呪術師までには届いていない。
「冗談でも嘘でもないんだよな〜!雛は僕の将来のお嫁さんでーす!」
口揃えて信じない生徒に、五条は後ろから小雛を抱き上げ頬と頬をくっつけ頬擦りする。
五条の言葉に一同再び沈黙が落ち…
「………は?」
誰の声だったのか。
分からないが、伏黒と五条以外が同じ感想だった。
まさに『は?』である。
それは全員顔に出ていたのか、にっこりと笑う五条は続ける。
「この子、僕の、可愛い、将来の、奥さん」
そうはっきりと、一字一句間違えず、五条は言った。
その言葉に全員がお互いの顔を見合うと、真希が小雛を指さす。
「年齢は?」
「ピチピチの14歳で〜す☆」
答えたのは小雛ではなく、五条だった。
小雛本人を見れば、五条の言葉を否定せずニコニコ笑っている。
それを見た真希は無言でスマホを取り出し…
「警察ですか?事件です、淫行教師を逮捕してください」
通報した。
しかし場所を知らせる前に、小雛を腕に座らせるような抱き方に変えた五条にスマホを取り上げられてしまい、通報には至らず、真希と釘崎は舌打ちを打つ。
パンダと狗巻も舌打ちこそしなかったが残念そうな表情を浮かべていた。
誰も庇おうとしない生徒達に五条は『ちょっとちょっと〜』と不満顔を作る。
「真希〜!警察の人のお仕事邪魔しちゃ駄目でしょ〜!」
「いや邪魔してねえだろ!どう考えても市民として義務を果たそうとしてんだろ!!」
「っていうかきっも!冗談でも14歳相手に奥さんとか婚約者とか気持ち悪っ!」
『返せや人の携帯!』と真希が取り返そうとするが、身長差で取り返すことが出来なかった。
腹いせに小雛を落とさない程度だが、憎たらしいほど長い五条の足(弁慶の泣き所)を何度も蹴ってやる。
『いだだだ!痛い!真希痛いから!』『うっせぇ!どうせ無限で防いでんだろうが!!』とコントのようなやり取りをする先輩と担任を尻目に、釘崎は自身を抱きしめながら辛辣に全員の言葉を代表として述べ、本気でドン引きしていた。
そんな釘崎の言葉に五条はキョトンとさせる。
「え?冗談じゃないよ?雛は本当に僕の将来のお嫁さんだから」
『ね〜』と抱っこしている小雛に同意を求める。
五条に抱っこされている小雛は真希達の反応にキョトンとしていたが同意を求められ笑みを浮かべて頷いた。
頷いた小雛を五条は嬉しそうな表情を浮かべ、そのまま真希達に『ほら!!!』と自慢するように言った。
ただ、小雛が同意した瞬間、三度目の沈黙に包まれる。
しかし、すぐその沈黙は釘崎と真希によって破られた。
「キモイキモイキモイキモイ!!無理無理無理無理!!マジ無理なんだけど!!!担任がロリコンとかマジほんっっっっっっっと無理なんだけど!!!!!」
「きっっっっしょ!!!やべえ奴だと前から思ってたけどここまで脳が腐ってるとは思いもしなかったわ!!きっも!マジ気持ち悪い!!!金輪際私に近づくじゃねえ!!」
「いやぁ〜呪術師最強がロリコンかぁ〜!……はは…ほんと、やばいな、この業界…どうなってんだよニンゲンってやつはよぉ…」
「おかか…おかか…」
「あはは〜!辛辣ぅ☆」
ひぃぃ、と本気でドン引いてる釘崎、敵認定した真希、遠い目をするパンダ、全否定する狗巻。
可愛い可愛い生徒達に辛辣に否定されたが、五条はどこ吹く風である。
「残念だけど雛にも雛の保護者にも同意貰ってるから捕まることないんだよね〜!残念だったね!」
「でも虎杖の同意は貰っていませんよね」
「まあ、そりゃあね…何が言いたいのかな、恵」
「いえ?俺は一応教師として大人として良識ある行動をしてくれると信じていますから何も…一応」
「一応って二回も言う必要ある??」
「ありますね」
ここで裏切り者が出た。
伏黒である。
五条は静かに伏黒へ視線を向けると、伏黒はシラーっとして五条を見つめ返していた。
確かに、虎杖家の同意は得られていない。
保護者と言っても小町と小雛を軟禁していた家の当主である。
一応、未成年の親代わり(にはなれていないが)だったので、同意されていたことには変わらない。
伏黒は小雛と五条が婚約関係にあることに疑いはしないが、本心で言えば認めていない。
虎杖を目の前で死なせてしまった伏黒は、小雛に責任を感じていた。
責任というよりは、虎杖家強火担と化していた。
小雛からしたら困るだろう。
だから、これは独り善がりとして、伏黒が勝手にやっていることだともう開き直っていた。
『あ?』『お?』と何でもないように見つめ合ってもメンチ切り合っているようにしか見えない二人に、釘崎が怪訝とした声を出した。
「なんで虎杖が出てくるわけ?」
釘崎の言葉で二人は黙り込んだ。
突然こちらを見て口を閉じる二人に、釘崎は思わず『な、なによ』と後ずさる。
伏黒と五条は、釘崎を見た後、お互いを見合った。
小雛が虎杖の妹だと知れば、絶対に釘崎は落ち込む。
泣きはしないだろうが、気まずい空気が流れるのは必須。
それが嫌で『お前が話せ』『いやお前が話せ』となすり合っていると―――
「雛は虎杖悠仁の妹です」
小雛本人が告げてしまった。
その場の空気が凍ったのを小雛以外を感じた。
虎杖が死んでそれほど日が経っているわけではない。
平然としていても、心に負った傷が癒えるのには時間がかかる。
心を育んでいなかった小雛にはそれがどういう意味か分からなかった。
だから、穏やかに続ける事ができる。
「あなたは釘崎野薔薇様ですね…悟様から兄の同級生という方の事は聞いておりました…兄が生前お世話になりました」
釘崎は伏黒に目配せをする。
その意味は『本当にこの少女は虎杖の妹なのか』というものだ。
その意図をくみ取った伏黒が頷くのを見て、釘崎は更に小雛の言葉に何も返答できなかった。
伏黒も、釘崎も、虎杖がどれだけ妹を探し続けたのか知っているからだ。
釘崎も伏黒も、本心は妹はもう生きていないと思っていた。
それが、その妹が生きて、目の前にいる。
言葉をなくすほど驚くとはこのことだろう。
「それで…今日は小雛様を連れて何の用ですか?」
その釘崎の心情を察したのか、伏黒は話を逸らすことにした。
五条も察したのか伏黒に乗ってくれた。
「僕、今日から出張があってね…泊まりだから雛を1人にさせたくなくて高専に泊まらせることにしたんだ」
今日、五条は泊まりの出張がある。
帰ってこれるなら、伏黒か七海を家に呼んで留守番をしてもらえばいいのだが流石に夜を1人にさせるのは心配で仕事にならない。
かといって、2人を小雛と一夜を過ごさせるなんて言語道断!
2人が小雛に気があろうがなかろうが、自分以外と一夜を過ごすなんて嫉妬で狂いそうになる。
なので、女子寮がある高専に連れて行くことにした。
高専には天元の結界もあるため、自宅よりも安全だろう。
これから泊まりの出張の際に預ける事も多くなるだろうから、小雛の顔合わせも兼ねて釘崎達に会わせることにした。
上層部も小町を逃がしたくないというのもあるので、小雛の世話をしている時に2人に任務は与えないだろう。
「じゃあ、改めて紹介するね!この子は小町の器で、悠仁の妹の虎杖小雛!将来僕のお嫁さんになる子だよ!」
「小町様ってあの小町様?」
「どの小町か分からないけどその小町で合ってるよ」
「小町様って田舎にいた時の私でも知ってるんだけど…小町様って厳重に保護されているんでしょ?なんでその小町様がいるわけ?」
「うーん…それは話せば長くなるけど…」
大雑把に説明をすると、真希達は少し前に小町の器が行方不明になりある一族が壊滅したと聞いたのを思い出した。
その時は小町なんて特級呪物に縁があると思わなかったから聞き流していたが、まさかその特級呪物の器が目の前に現れるとは思っていなかった。
「雛もこれから僕のお仕事でここに預ける事が多くなるからみんなと仲良くね」
仲良くと言っても、小雛は小町の器だ。
その中に小町がいる以上誰も小雛を冷遇することはないだろう。
それに小雛が虎杖の妹となれば少なくとも伏黒と釘崎は小雛を無下にはできない。
だから、預け先を高専にしたのも理由の一つだ。
小雛が『分かりました』と頷いたのを見て、小雛を降ろす。
「恵、ちょっといい?」
引き継ぎのためか、小雛の護衛の1人として選ばれた伏黒を手招きをし、残された真希達に『小雛をちょっと預かってて』と言って少し離れた。
五条が離れたのを振り向いて見送った後、小雛は真希達に向き直し軽く頭を下げた。
「改めましてこれからよろしくお願いいたします」
「あっ、ご丁寧にどうも…」
「高菜、めんたいこ」
頭を下げる小雛に、ノリのいいパンダと狗巻が釣られて頭を下げた。
真希はマジマジと小雛を見つめていた。
(しかし…あの小町様の器があんな華奢な少女だったとは…)
小町は、呪術師の家系に生まれた人間なら最低でも一度は耳にした名前だろう。
一般家庭レベルの血筋の呪術師ならば、小町の名前を覚えようが忘れようが問題にはならないが、御三家は小町の名前を憶えておかなければならない。
それが例え呪力がほぼない真希や、微々たる呪力しかない真衣ですら覚えることを強要される。
それは盗まれる前の小町の管理を御三家で行っていたからだ。
そして小町の器となった小雛の婚約も御三家で話し合っていた。
小雛は、五条が最強として覚醒していなければ、三人の人間と婚約を結ぶことになっていただろう。
(バカ目隠しもクズだが…まあ、あのカスよりはマシか)
カス、とは禅院家当主の息子のことである。
もしも、五条が最強でなければ当主候補でもありあの家ではまだ小雛と年が近いあの息子が禅院家から選ばれていただろう。
もしも、小雛がそのカスの婚約者となったら心底同情する。
親しくない今でも分かるくらい小雛は善人側にいる人間だ。
そんな人間の夫がクズやカスどもなんて同情しないわけがない。
御三家は下手に力と富と権力があるため、傲慢がすぎる人間に成長してしまっている。
双子は凶兆だとして蔑み、呪力のない真希を人間とも思っていない家の奴らを見ていると、普段はバカ目隠しだと言ってはいるが五条はまだマシな方だと真希は断言できる。
しかし、それを言うならば、京都校にいる加茂家の嫡男は御三家人間性のヒエラルキートップになる。
あんな父親からどうやったらあんなクソ真面目な息子が育つのか聞きたいくらいだ。
真希は同情も兼ねて、釘崎達と楽し気に話している小雛の頭を撫でてパンダたちを絶句させた。
そんなパンダたちを無視し、突然撫でられ驚いた表情から撫でられて嬉しそうな表情を浮かべる小雛に釣られるように笑った。
「え、なになに…真希がデレてる…明日台風でも来るのかな…出張行きたくないなぁ…」
無言で撫で続ける真希に、撫でられて嬉しいニコニコ顔の小雛。
ニコニコ顔の小雛はとてもとてもとーってもキュートではあるが(五条視点)、誰にでもツンツンな真希が会ったばかりの小雛にデレているのに五条は驚きを通り越して恐怖を感じた。
槍が降らんばかりの言い方に、真希は『フン』と鼻を鳴らす。
「クズと結婚させられる小町様の器に同情してんだよ」
「えっ雛の婚約者は僕なんだけど???他にいるってこと???」
「………」
『は??許さんが???』、と本気でクズが自分を指していると思っていない五条に、真希は『面倒くせぇなコイツ』と半目で見つめた。
むしろ呆れて言葉を失っている。
そんな冷たい視線はスルーし、五条は小雛を抱きしめ最後の別れを惜しむ。
「ごめんね、雛…もう時間が押してるから僕はもう行くよ…後は恵に任せているから何かあってもなくても恵を頼ってね」
小雛にそう伝えながら、五条はグリグリと小雛に頬杖する。
一日も小雛と会えない泊まりの出張なため充電なのだろう。
生徒達からは『きっっっしょ』と言われたが、気にしていたら14歳を相手に婚約者だと生徒に堂々と紹介しないし、生徒を目の前に小雛吸いなんてしない。
小雛の寂しくも温かい視線と、真希達の冷たい視線で見送られ、五条は高専を出て出張へ向かった。
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