教団から貰ったお土産は、みんなで食べた。
「これ、案外美味いな」
「あ、本当だ…美味しい!」
メンバーは、1年、2年、伊地知、七海、家入、小雛、五条。
10人いても食べきれないほどのお土産がテーブルに並べられていた。
量が量だから、それぞれ好きなものを適当に開けて食べる。
「雛、こっちもうめーぞ」
真希がお茶を飲んで口の中をリセットしていた小雛に食べていたお土産の新しい物を差し出す。
それに、五条は『おや』と思う。
朝に会った際には真希達は小雛を『様付け』で呼んでいた。
それが正しいからだ。
だが、真希達の性格や、改まった態度があまり好きではないらしい小雛もあって砕いた対応に落ち着いたらしい。
それを指摘する大人はおらず、むしろ微笑ましく見守る側である。
小雛は真希に勧められたお菓子を受け取り、紙を剥がして口に入れる。
その動作だけでも愛らしく見えるのだから、愛は偉大だ。
ニコニコ顔の五条の視線は、小雛へロックオンされている。
それを大人組は『ロリコンきも』と冷たい目で見ていた。(伊地知はそっと目を逸らした)
「悟様、この真希様から勧めていただいたお菓子、美味しいです」
『どーぞ』と新しいお菓子を差し出す。
いつもなら『ありがとう』と言って差し出されたお菓子を受け取って自分の手で食べたのだが、五条はピーンと閃いた。
「雛、あーん」
その瞬間、周囲が固まった。
小雛も口を開ける五条を見て目を瞬かせて固まったが、すぐにクスリと笑った。
「はい、悟様」
小雛の手で包み紙を解き、小雛の手で開けられている五条の口にお菓子を入れる。
周囲は固まったままだが、2人の周囲はハートが散りばめられていた。
「美味しいですか?」
「美味しいよ!次は雛が選んだのが食べたいなぁ」
文字にすれば、確実に2人の言葉の後ろにはハートが表記されているだろう。
固まっていた周囲も、14歳の少女にこれでもかと恥もなく甘える28歳に呆れた視線を送っていたが、28歳児は気にも留めず小雛が自分のために選んでくれるお菓子をルンルンに楽しみにしていた。
しかし、神はそれを許さない。
―――携帯の着信音が鳴った。
「…………」
この場で、初期に設定されたままの着信音を使用している人は多い。
同じ着信音だった人達が確認するが、自分ではないし周りも同じ反応だった。
行きつく視線の先は―――五条だった。
「…………」
「おい…鳴ってるぞ」
「僕、携帯持ってないんだよね」
「なに番号交換したくない女みたいなこと言ってんのよ…煩いから早く出なさいよ」
「いや…本当…携帯って生まれてこの方持ったことないから」
「さっきチラっと見てましたよね」
『そもそも携帯ってなに?』と無理な言い訳をして電話に出ない五条に誰もが呆れた視線を向ける。
そんな彼らのやり取りを小雛は首を傾げていた。
「出ないのですか?」
「うーん…ぼく、でたくない…」
「でも…悟様にご用事があるからかけているのではないのですか?」
「どうせ大した用じゃないから無視しても大丈夫だよ」
「そうなのですか?」
「そうなのですよ!それよりも!次、何食べさせてくれるの?」
チラっと見たが、相手は次の任務を押し付けようとしているものだった。
仕事が終わったのはつい先ほどで、文字通り飛んで来たというのに、もう次の任務が押し付けられそうになり仕事の速さに五条はげんなりした。
秒刻みで詰まっているスケジュールの中、癒しを求めても罰は当たらないだろう。
小雛の座る後ろに手をついてピトッと小雛にくっ付く五条に、小雛は『いいのだろうか』と思いつつも五条が気にしないのならいいか、と五条にお菓子を食べさせる。
その間も携帯は切れては鳴り、切れては鳴りを繰り返す。
何度もそれを無視していれば、周りももう諦めに入って何も言わなくなった。
しかし、逆に諦めない相手に小雛も流石に無視はできなくなったのか、困ったように五条を見上げた。
「悟様…」
「んー?」
「相手の方が可哀想です…」
自分にもたれて甘えてくれるのは嬉しいが、流石に無視し続けて心配になった。
諦めずにかけ続けるということは、相当な用事があるということだ。
もしかしたら緊急なものかもしれないと小雛は、出る気配すら見せない五条にポツリと言った。
ポツリと言ったのは、はっきり言えないからだ。
相手を心配しているのもあるが、本心は五条の傍にいたいし、傍にいてほしい。
だけど、諦めない相手を思うと心苦しい。
だからはっきり出ろと言えず、ポツリと呟くように言ってしまう。
おずおずと上目遣いで見る小雛の言葉に、五条はニコリと笑みを浮かべ―――
「ごめんねー、手が離せなくて出れなかったんだよ…―――で、用はなに?」
即、出た。
あれほど家入達が言ったのに関わらず、この男は小雛の一言で出やがった。
小雛がいるからか、顔は笑ってはいるし、声も穏やかだ。
だが、目が笑っていない。
マスクで目を覆っているため傍から見たら分からないが、家入達には分かる。
目、笑ってないなコイツ…と。
「……分かった、すぐ行くから車回しておいて」
結局、任務からは逃れられなかった。
いつもなら無駄な足掻きを最後まで行う28歳児は妻(仮)には勝てなかった。
せっかく小雛に癒されていたというのに、邪魔されたせいか、声のトーンも落ちていた。
しょんぼりとさせているのを見ているから落ち込んでいると分かるが、電話では声でしか相手の情報を得る事ができないため落ち込んでいる声を怒っていると思い『ひい!お、怒ってる!?』と怯えているだろう。
伊地知は相手を心配しながらも『今日は私が担当でなくてよかった』と心底思う。
「雛〜!せーっかく仕事を早めに終えたのに次の仕事が来たよ〜!」
うえーん、とわざとらしく泣いて小雛に抱きつく五条に、外野からは『うっざ』『きっも』『うわぁ…28歳児の駄々…』『28歳が14歳に泣きつく図って地獄絵図だったんだな』『はよ行け』やら野次(五条曰く)が飛んだ。
タッパがある28歳の(14歳から見たら)おじさんに抱きつかれたが、28歳児の頭を撫でて慰めてあげる。
「すぐ!すぐ帰ってくるからね!!」
「はい、お待ちしております」
「うぅ…ごめん…嘘……今日は帰れないから…ちゃんと夜更かしせずに寝るんだよ…モーニングコールもするししてね…絶対絶対明日はぜぇっっっっったいに帰ってくるからね!絶対に!!!絶対!!」
「絶対絶対うるせえわ…さっさと行け、補助監督を待たせるな」
すぐ帰ると言うが、時間的に無理だろう。
術式を使えば今日中に帰ることはできるが、生憎その後も仕事が仁王立ちで待っている。
なんだったら繁盛してる店並みに並んでいる。
絶対、と何度も言う五条に小雛は『はい、絶対ですね』と律儀に返すも、周りは面倒くさいと言わんばかりに早く行けとせっつく。
周りから冷たく突き放された五条は、シクシクと鳴きながらお土産が入っていた紙袋を持って小雛に口を開けて差し出す。
「雛…これに雛が選んだお菓子を入れて…」
「雛が選んだお菓子ですか?」
「うん…それを雛だって思って大切にするから…」
紙袋に何個かバラバラになったお菓子を入れてほしいと差し出され、小雛はコテンと首をかしげた。
お菓子でも小雛と思って傍に置いておきたいと言い出した五条に、釘崎達から『おっっもきっっつきっっも』と本気でドン引きを頂き、五条はあまりにドン引きする生徒達に『酷くない???』と零れた。
ただ、大人組は、五条の行動の意味を察したのか何も言わない。
五条は、地下で1人特訓中の兄に妹が選んだお土産を渡してあげようとしているのだ。
ただ、小雛の兄である虎杖は現在死んでいると思われているためそれを伝えることができない。
傍から生徒思いに見えるのだろう。
だが、大人組は本音も入っているのを知っている。
だから何も言わないが、五条を見る目は生徒達と同じ冷たかった。
そんな周囲の温度など気にも留めず、自分が口を開けている紙袋に真剣に1つ1つお土産を選ぶ小雛を『あ゙ー僕のためにお土産を選ぶ雛可愛い〜〜』とデレデレとしていた。
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