(48 / 53) 本編 (48)
五条が仕事に向かった後、家入と伊地知はまだ仕事があり、七海は仮眠を取る必要があると言って解散した。
小雛のためにと選ばれたお菓子が不味いわけがなく、お菓子はあっという間に数を減らしていく。
だが、それでも持たされたお土産が多かったためか、夕食に近くなってもまだ残っており、その残ったお菓子も夕食が食べれなくなるという理由でそれぞれ持っていくことにして何とか余ることはなかった。


「次、何見る?」


夕食まで、共用スペースでDVDを見ていた。
小雛に見せるのは、五条検査に通ったDVDだけ。
見てみれば、その全ては子供向けのDVDだった。
シリアス、本格的なミステリー、銃や武器が出て来る作品、グロ、ホラーなどは徹底的に避けており、そのあまりの過保護ぶりに呆れを通り越した。
ただ、子供向けと言っても全てがアニメ系というわけではない。
某人魚姫の実写、某ゲームの映画など大人が見ても楽しめるものもあり、子供向けだと白けていた釘崎達も意外と楽しめた。
次のDVDを手にしたとき、伏黒は時計を見た。
その時間を見た伏黒は、釘崎達とDVDを選んでいる小雛に声をかける。


「小雛様、薬のお時間です」


『これ、見たいです』とDVDに手を伸ばしかけた小雛は、伏黒の『薬』という言葉にピタリと手を止める。
『薬』と聞いた釘崎達は伏黒へ振り向く。


「薬?…雛、どこか体調が悪いのか?」

「いえ、小雛様は幼い時にご病気を患ってしまい一日3回薬を飲ませるよう五条先生から言われているんです」


無理をさせてしまった、と心配したパンダの言葉に伏黒は首を振った。
勿論、病気なんて嘘だ。
小雛は小町のおかげで病気にはならない。
病気は建前で、薬は『小町の食事』の隠語として五条が決めた。
適当に言い訳をしてもいいが、それが毎日では怪しまれる。
ならば、難病設定にしておけば、小町の食事はとりやすい。
何も知らない釘崎達への配慮と、小雛の配慮を合わせた結果である。
差し出された手を、小雛は取って立ち上がり、伏黒と共に部屋を出ようとした。
そんな小雛と伏黒の背に釘崎達が声をかけた。


「ここで待ってる」

「何食べたいか決めるから早く帰ってこいよ」

「早くしないと勝手に決めるからなー」

「高菜!」


その言葉に小雛は振り返る。
振り返れば、こちらに向けて手を振る釘崎や真希達がおり、小雛はニコリと笑って手を振り返した。
小雛は釘崎達を見て息が詰まった気がした。
しかし、グッと唇を噛みしめて気づかないふりをする。


「小雛様」


立ち止まった小雛に気づき、伏黒が声をかけた。
その声掛けのおかげで小雛はいつもの様子に戻ることができた。
『今行きます』と笑顔を浮かべた小雛は、釘崎達に手を振り返して伏黒と共に部屋を出てった。


「雛が戻ってくるまで何食べるか決めましょうよー!」

「そうだな…何が食べたい?」

「支払いはバカが渡したカードから出すんだろ?だったら普段食べないもん頼もうぜ」

「めんたいこ」


楽しそうな彼らの声を聞きながら、小雛と伏黒は指定された部屋へと向かった。
彼らの楽しそうな声が耳に残り、胸あたりがポカポカと温かくなっていた。
その胸に手を当てる小雛は頬が緩んでいた。
あの屋敷にいたころ、小雛はずっと一人で食事をしていた。
小町の食事も、小雛の食事も、小雛はずっとずっと一人だった。
時々五条も同席してくれたが、11年間の中ですぐに数え終えるくらいだ。
五条も同席しても待つのではなく去って行く。
釘崎達のように小雛を待ってくれる人は初めてだった。
――指定された場所は、解剖室の近くだった。
小町の食事は火を使わず、生の肉を運ばなければならない。
病院から血肉が運ばれるので、処理した後すぐに小町に届けられるようどうしても解剖室の傍になってしまう。
部屋に向かえば、家入がすでに準備をしており後は小雛が来て小町の食事を運ぶだけとなっていた。


「…いただきます」


小雛は真っ赤な料理を見下ろし、行儀よく手を合わせる。
小町の食材は人間の血肉なため、人間の肉に抵抗がない人間は限られている。
まだ献血パックだけなら事情を知っている誰でもいいが、肉となると話は別だ。
料理人のように綺麗に切り分ける必要はないが、ある程度小雛が食べることが出来る大きさに切らなければならない。
そのため、家入か五条のどちらかしか調理できなかった。
『この時ばかりは裏梅の料理が恋しい』と小町は愚兄に捕らわれた時に振る舞われていた料理を思い心の中で懐かしむ。


「………」


家入が切ってお皿に乗せただけの小町の料理を小雛は黙々と食べ続ける。
その姿を家入と伏黒も口を閉ざし見つめていた。
相手は小町の器。
畏まった対応を望まず真希達は砕けた対応をしてくれるとはいえ、小雛の立場は変わらない。
2人は元々口数が多いというわけではないのもあり、そして小雛は小町の食事を他人に見られるのに抵抗があると五条や小雛本人から聞いたので、あえて何も言わず見守るのを選んだ。
屋敷で出されている時とは違い、使用している皿や箸も使い捨てなので食器の音すらしない。
そのため、この部屋は痛いほどの沈黙が落ちる。


「ごちそうさまでした」


やっと小町の食事を終えた小雛は手を合わせて食事を終了させる。
テーブルに置いているティッシュで口を拭いた後、小雛は伏黒と共に部屋を出て行った。


「綺麗に食べるものだ」


『ありがとうございます、硝子様…ごちそうさまでした』とお礼を言って伏黒と共に部屋を出て行った小雛を見送った後、家入は血が残る紙皿と箸を回収していく。
食べ方を五条に習った小雛は食べ方は綺麗だ。
滴る血をテーブルに落とさないように気を付けたので、そこまで汚れていない。
よほど汚さなければ家入はどうでもいいが、テーブルに一滴も血を垂らさず食べきったのを見て、流石食べ慣れているなと思う。
同時に、ここまで受け入れるのにどれだけの負担がかかったのだろうかとも小雛に同情を向けた。

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