今日は晴れ。
この日は受験を控えており、多くの中学生が緊張の中迎えただろう。
麗日お茶子は人生で一番緊張していた。
勉強は死に物狂いで頑張った。
麗日が受験する学校は筆記の他にもあり、この日筆記を終えた麗日はテストを書き終えてからも何度も見直したが、時間が立てば立つほど不安が積もっていく。
しかし筆記も大事だが、望んだ科…ヒーロー科として、一番の難問は今受けようとしている『模擬市街地演習』だ。
どんな事をするか分からない緊張と、上手くやれるか分からない緊張で、もう吐きそうだった。
どうやら簡単に言えばポイント争いらしく、その説明にちょっとホッと胸を降ろした。
難しい事だったらどうしようと思ったのだ。
ポイントを持った仮想敵を模したロボットを倒せばいいという簡単な事に安堵した。
ただ、4種類のロボットの内、1種類のロボットには0ポイントという罠があるので、色々気を付けなければなと気合を入れる。
「すみません」
グッと拳を握り締めて自分自身に喝を入れていると後ろから声を掛けられた。
その声は鈴を転がすようなな美しく愛らしい声に麗日は振り返る。
声を掛けられたのだから当然後ろには人がいた。
麗日は後ろにいる人物を見て、思わず…
「び、美少女や!!」
そう叫んでしまった。
頬に手を当てて絶句するように麗日は目を丸くした。
麗日の目の前には見たことのないような美少女が立っていた。
平均的な身長を持つ自分に比べて目の前の美少女は小柄で線が細く華奢。
漆黒のように黒く真っ直ぐ背中まで伸びる髪をハーフアップにしていた。
真ん丸で大きな目には髪と同じ漆黒の綺麗な瞳で麗日を見上げており、どこから見てもお嬢様にしか見えない。
はわわ、と見たことがない美少女を前に慌てふためいているが、そんな麗日を美少女は穏やかな微笑みを浮かべ続けていた。
「あの…入られないのですか?」
中々麗日が退かないのを見て美少女が微笑みを保ちながらポツリと呟いた。
その声すら愛らしくて麗日は、はわわとさせ続けながら慌てる。
「ごっ!ごめん!!邪魔だったね!」
笑ってはいるが、困っているのは分かった。
自分が立ち往生しているせいで美少女が困っている…それは由々しき問題だ!と扉を開けて美少女の入室を手伝う。
美少女は『どうぞ!!』と何故かドアマンのように扉を開けてくれる麗日に『ありがとうございます』と淡々とした反応をして入室した。
その間も彼女の表情は微笑んでいた。
(ひえぇ…残り香すら良い匂い!!すっごい美人やった!うちの学校のマドンナより美人さんや!!)
通り過ぎるとふわりと香る良い匂いに麗日は頬を染めた。
恐らく香水などではないのだろう。
ならば、やはり美人とは内面もまた美しいから美人なのだろう…と謎の感想を述べる。
「ん?」
自分が通っている中学にいた美女と噂されている女の子よりも綺麗だったと感激していると、足元に何か影が見えそちらに視線を向ける。
そこにはネコとウサギのぬいぐるみがぴょこぴょこ跳ねるように歩いていた。
(かっ…可愛い〜〜ッ!ウサギさんとネコさんのぬいぐるみや〜!)
個性が存在している世界では人形が独りでに動いてもホラーではなくなっていた。
個性が存在している世界だからこそ、人形が独りでに動いていても『個性か』で終わる。
むしろホラーというより愛らしいの方が勝つだろう。
思わず叫びそうになり麗日は口を手で覆ったが、その視線はウサギとネコのぬいぐるみに注がれていた。
それは麗日だけではなく、すでに更衣室に入っていた受験生たちも入って来た可愛らしいウサギとネコのぬいぐるみを見つめていた。
二匹のぬいぐるみはぴょこぴょことそのまま美少女の元へと向かっていった。
どうやらぬいぐるみが動く個性の主は美少女だったらしい。
(おお!美少女に可愛いぬいぐるみ個性!やっぱり美少女には美少女に似合う個性がつくものなんやな!両方とも可愛い!可愛い、けど…)
美少女に似合う個性に麗日は興奮していた。
もはやミーハー状態である。
ただ、麗日は周りを見る。
周囲の全員ではないけれど、ほとんどの人はぬいぐるみを従えている美少女を見てクスクス笑っていた。
それに麗日はムッと眉を顰める。
恐らく、人形でどうやって戦うんだと思っているのだろう。
個性とは、本人が望む望まないに限らず生まれながらにあるものだ。
中には無個性という個性自体がない珍しい人もいるが、大体は何かしら個性を持って生まれる。
しかし本人が望む力を持っているとは限らず、力の強弱関係なく望まない人に望まない個性を持って生まれる事もある。
ヒーロー科の受験を受けているという事は美少女もヒーローになりたくて今日まで頑張ってきたはず。
そんな美少女を笑う人たちに麗日は不快に思った。
それは麗日だけではないようで、髪が長く胸の大きい女の子や、耳たぶが長い女の子や、カエルのような女の子達数人も麗日のようにクスクスと隠しもせず嘲笑を浮かべる女の子達を眉を顰め見つめていた。
ただ驚いたのは、嘲笑を向けられている美少女は我関せずと笑みを浮かべながら淡々と着替えをしていた。
脱いだ服をウサギとネコのぬいぐるみが器用に畳んでいるのを見て麗日はハッと我に返りぼうっと突っ立っている場合ではないと自分も指定されているロッカーに向かった。
会場まではバスで向かうようで、演習場Bグループのバスに乗り込んだ。
すると奇跡的な再会を果たす。
「あ、あの…隣、いいかな?」
更衣室で会った美少女がいたのだ。
奇跡とはいいがたいが、同じグループになったのは偶然なので奇跡と言ってもいいだろう。
麗日はゴクリと緊張しながら美少女に声をかけた。
美少女は暇を持てますように膝にいるウサギとネコのぬいぐるみを撫でたりして遊んでいたらしいが、声を掛けられ麗日を見上げた。
「はい」
麗日を見上げて微笑みをそのままに頷いた。
美少女に微笑まれドキリとさせたが、麗日は了承を得てホッと安堵の表情を浮かべる。
そっと静かに座る。
暫くすると全員乗り込んだのかバスがエンジンを掛け、動き出した。
「…………」
「…………」
会話がない。
いや、当然ではあるのだが。
演習も友達同士協力出来ないようにと同校の受験番号は弾かれ他の演習組に散りばめられている。
チラリと麗日は美少女を見る。
美少女は笑みを保ちながら己を主張するネコのぬいぐるみの頭を撫で、その隣にいるウサギの頭も撫でていた。
流石美少女らしく横顔も整い美しかった。
美少女は美しいというより愛らしい部類で、小柄なのも相まって、お人形遊びのような個性に違和感はなかった。
「か、可愛いね」
何となく、声を掛けたくなって声を掛けたが突然すぎたのか、美少女は笑みをそのままに麗日へ振り向きコテンと小首を傾げた。
あまり人付き合いを得意としないタイプなのか、小首を傾げただけの美少女に麗日はハッとさせ慌てる。
「急に話しかけてごめんね!!そのぬいぐるみ可愛いなって思って…!」
突然知りもしない人から『可愛いね』とだけ声を掛けられれば誰だって不思議に思うし怪し気に思う。
美少女は微笑むだけでそうは見えないが、それはただ大切な受験前に事を荒げたくないからかもしれない。
それに気づいて麗日は言い訳のように続けた。
「ウサギちゃんもネコちゃんも可愛い」
自分は怪しくないよ〜、ただ声を掛けたかっただけだよ〜、と空気に乗せながら麗日はニコッと笑って見せた。
美少女は麗日の言葉に目を瞬かせて見つめていたが、ウサギとネコのぬいぐるみを褒められたとやっと認識したのか、にこりと笑顔を深めた。
「ありがとうございます…うれしいです」
美少女が微笑めれば、褒められたぬいぐるみ達もお礼を言うように頭を下げた。
麗日はぬいぐるみ達の愛らしい仕草と、美少女その微笑みに『はうっ!』となぜか心臓を押さえてのけぞった。
麗日の耳にはバキューンと銃声が聞こえた気がした。
(かんっっっわええ!!現代のクレオパトラやぁぁ!!)
テンションが高すぎて某彦〇呂のようなコメントをした。
先ほどまでテンプレな微笑みだったのに人形を褒めた時頬をほんのりと赤らめて目も輝かせ微笑んだ。
それほど美少女にとってこのぬいぐるみ達は特別なのだろう。
美少女が嬉しいと麗日も嬉しくなり、二人はニコニコと笑い合うという奇妙な光景を周囲に見せていた。
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