Bグループを乗せたバスは会場に到着した。
外壁から見えるビルに、どうやら舞台は街らしい事がうかがえる。
「街じゃん!敷地内にこんなんがいくつもあんのか!」
誰かがそう感想を漏らした。
周りもざわめいでおり、雄英の経済力に圧倒されているようだった。
琴子は大して感動も覚えず、いつも通りただただ微笑みを絶やさず時間がくるのを待ち、その傍を二体のぬいぐるみが寄り添っていた。
「その女子は精神統一を図っているんじゃないか?」
するとはきはきとした声で誰かが誰かにそう言った。
声に導かれるようにそちらに目をやれば眼鏡の男子が癖毛の男子に注意しているのが見えた。
一体どうしたのだろうかと思い見て見れば、どうやら先ほどバスで隣に座っていた女子に癖毛の男子が声をかけようとしたようで、気を散らせようとしている男子を眼鏡の男子が注意しているところだった。
縮こまっている癖毛の男子を見て周りはクスクスと笑っていた。
「あいつ校門前でコケそうになってたやつだよな」
「注意されて委縮しちゃった奴」
「少なくとも一人はライバル減ったんじゃね?」
そう述べる周りの言葉など耳に入れず、琴子は癖毛の男子を微笑んだまま、理由も分かり興味も削がれたのか視線を外し再び時間が車で待つ。
《ハイ!スタートー!!》
癖毛の男子に誰もが気を取られていた時、スピーカーからマイクの声が響き渡った。
その声を聞いた瞬間、琴子は少し遅れたが走り出す。
「お、おい!」
傍にいた男子が会場内に入っていく琴子を引き留めようと手を伸ばした。
しかしその手は琴子に触れることなく、周囲も琴子の突然の行動にポカーンと呆気に取られていた。
『あいつ落ちたな』と誰かが言ったその瞬間、再びマイクの声が全ての会場内に響く。
《どうしたぁ!?実践じゃカウントなんざねんだよ!!走れ走れぇ!!賽は投げられてんぞ!?》
マイクの言葉通り、実践ではスタートという合図すらない。
突然ヴィランが街や人を襲い、突然のハプニングだってある。
そのため、琴子の行動は間違いではなかった。
琴子を入れて他のグループでも合図に行動をしたのは数名。
その他の受験生は油断していたのかマイクのスタートの合図に大幅に遅れて会場へと足を踏み入れる。
「え…えええ!!?で、出遅れた…!!」
癖毛の男子がハッとさせたときにはすでに他の受験生も走り出しており、琴子達に出遅れた受験生よりも更に出遅れてしまう。
――このBグループではいち早く行動を起こした琴子は一着で演習場に足を踏み入れた。
しかし一歩足を踏み入れてもロボットは襲ってこない。
即襲ってくるわけではないのか、と思いながら微笑みを絶やさずそのまま真っ直ぐ進む。
その後ろをピョンピョンとウサギのぬいぐるみが跳ねながら、ネコはタタタと二本足で器用に走って琴子の後に続いていた。
暫くは走ってこじんまりとしたビルに差し掛かろうとした時、そのビルを破壊しながらロボットが登場し琴子の前を塞ぐ。
「3ポイント」
予想外の大きさだが、驚きもせず微笑みを絶やさず、琴子は足を止めないままポツリとロボットのポイントを呟く。
ポイント表示はそれぞれロボットの機体に描かれており、運のいい事に最初から高ポイントがゲットできそうである。
だが琴子は攻撃モーションを構える素振りはない。
その代わり、後ろからウサギのぬいぐるみがピョンと大きく跳ね、琴子を通り越しロボットの方へと向かって飛び――――蹴り一発でロボットを破壊した。
爆発音を上げながら壊れるロボットを踏み台に、ウサギのぬいぐるみは砕け落ちるロボットの横を素通りする琴子の後ろに着地する。
その隣にいるネコのぬいぐるみが嬉しそうにピョンピョン跳ねながら走る。
(出だしは良好)
最初に3ポイントも入手出来た事にスタートから得した気分になる。
暫く走ると1ポイント、2ポイントと着々とポイントを手に入れていく。
とはいえ、他の受験生たちも遅れを取り戻そうと琴子のポイント数に迫ってきているので油断はできない。
流石ヒーローを目指すだけあるということだろうと思いながらチラリと腕時計を見る。
(よし…予想した以上に体力が続いてますね…)
以前ならこの辺りで息切れと同時に体力の限界が来ていたはずだった。
しかし轟家にあるトレーニングマシーンで体力をつけた成果が表れ、息切れはしていたが体力にまだ余裕がありそうだった。
琴子は先に走らせていたウサギのぬいぐるみが組んだ手(と言っても指がないのでくっつけただけ)の上に走る速さを緩まず足を乗せ、思いっきり頭上に飛び跳ねるように上げてもらう。
そのままビルの屋上まで着地すればすでに先にビルの壁を登って到着していたネコのぬいぐるみが嬉しそうに琴子の足元に駆け寄ってきた。
それと同時にピョンと下からウサギのぬいぐるみが先ほどの琴子と同じく飛んで屋上に上がって来て琴子に駆け寄ってくる。
「あっちね」
ネコのぬいぐるみが丸みを帯びている可愛い手である方を指さしている。
言葉にすれば『あっち!あっちにいるよ!!』だろう。
琴子はその指さす方へ目をやり、走り出しビルからビルへと渡っていく。
幸いなのはビルとビルの間が近かったことだろう。
しかしビルとビルの間を飛んで渡っていたが、ついにビル同士の距離が開いてしまう。
琴子は渡るのを諦めたが、しかし、そのままビルを飛び降りてしまった。
琴子に空を飛ぶ個性はない。
そのため重力に従って落ちていく琴子の頭上から影がかかる。
琴子はその頭上にいる影を見もせず、落下しながら手を上げる。
するとその手は何かを掴む。
それは影だった。
琴子の頭上には影の主であるワシのぬいぐるみがいた。
そのぬいぐるみも琴子の個性で、鳥のぬいぐるみなため飛行に長けている。
その大きさは実物大ではあるものの、琴子を運べるほど力持ちである。
琴子がワシのぬいぐるみに運ばれている間、ネコのぬいぐるみだけ琴子を追いかけるように下を走っていた。
「いた」
空中からロボットを探し、琴子はロボットを見つけワシのぬいぐるみに指示を出す。
ワシのぬいぐりみは主人である琴子の指示通りの場所に近づくと降下していき、琴子はある程度地面に近づき手を放して受け身を取りながら地面に落下するが、しかし立ち止まることなく走り出す。
ワシのぬいぐるみは用が済んだと一度天高く飛んだと思えば、琴子の影に向かって急降下し―――影に吸い込まれるように姿を消した。
琴子の個性はぬいぐるみを操る個性。
そのぬいぐるみは影に収納でき、個性で操るぬいぐるみはまるで本物の動物同様の能力を…いや、それ以上の能力を身に着けている。
そのため、綿しか詰まっていないぬいぐるみでもロボットを破壊できたり、琴子を運んで飛べるのだ。
琴子は肉眼でロボットを二体確認していた。
その機体には3と1と描かれており、すでに受験生たち2人が戦っていた。
しかし琴子の声に反応するようにネコとワシと交代するように影から現れたウサギがそれぞれ二体の機体を破壊してしまう。
横取りされた2人は怒るよりもファンシーなぬいぐるみが機械を破壊した事に驚き呆気に取られていた。
そんな2人をよそに琴子は次の獲物を探しに今度はネコにビルまで飛ばしてもらう。
(今は67ポイント…他の方がどの程度ポイントを持っていらっしゃるのか分からないからもっとポイントを稼がなきゃ…)
運動で流した汗が頬を伝って顎へと流れる。
その汗を拭いながら、受験生の結果が見れないため更にポイントを求めてロボットを探す。
しかしその時―――巨大なロボットがビルを破壊しながら現れた。
現れた場所は琴子のいるところとは離れていたが、琴子は迷うことなく足をそちらへと向ける。
(あんな大きなロボットを人のいないところに出すわけがない…なら…)
予想でしかないが人がいるならば助けるべきかと向かう。
だが、決着は案外早かった。
琴子があと少しで着きそうだったその時―――ロボットが一発の衝撃で破壊された。
「…!」
琴子はそれを見て驚きのあまり足を止める。
そして初めて琴子の表情が微笑みから驚きへと変化した。
目を丸くして呆気に取られていると視界に一人の男子が写った。
「あの子…あの時の…」
巨大なロボットを倒したのは…試験開始前に眼鏡の男子に怒られていた癖毛の男の子だった。
琴子はそこで初めて笑顔以外の表情を浮かべた。
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