(11 / 43) その生命に恋う (11)

電車は順調に乗り継ぎを終え、目的地まで運んでくれた。
女は背中を怪我しているため背もたれにもたれて休憩らしい休憩はできなかったが、手を引いている少女が体を休めたのなら本望である。
女はどこまでいっても少女主義であった。


「おいで、ガオガエン」


既に手続きは住んでいるため、ここからワイルドエリアに入り、アローラ行きの飛行機がある街まで歩かなければならない。
本来なら電車で安全な道を進むことは出来るが、今は出来るだけ短時間で進むことを優先としており、安全は二の次だ。
それは女の焦りからくる選択だろう。
次に男達に見つかったら恐らくはそう簡単に逃がしてはくれない。
女は一刻も早く教祖を安全な場所に隠したいと思った。
だから遠回りで安全な道よりも、厳しくとも短時間で向かえる道を選んだのだ。
この時期のワイルドエリアにはトレーナーもいるし、キャンプしている人も多い。
だから普段よりは安全は保障されるだろう。
とはいえ今は言うほど危険ではないものの、だからと言って安全というわけではない。
ワイルドエリアのポケモンはレベルが高く、だからこそ書類というものが存在し、その中で多くの決まりがある。
レベル的にガオガエンで十分だが、気候が安定しない分、雨の場合ガオガエンでは対応できない。
その場合はウォーグルやヌオーがいるし、ポケモンがピカチュウに扮しているため電気系でどうとでもなる。
電気タイプが無効なら、少女のためにポケモンが別のポケモンに扮してくれるだろう。
ただ、問題は女の体力だ。
病院に行けない分、素人治療では限界がある。
今も少女やガオガエン達を不安にさせないように平然を装っているが、痛みと共に、熱も出てきたようである。
市販の痛み止めではこの強すぎる痛みは無効できないらしい。
病院に行けないのは、足止めもそうだが、普通の怪我ではないからだ。


「警戒しながら行きましょう」


ガオガエンを連れて女は少女の手を引き、ワイルドエリアに入る。
広い分、ポケモンとの遭遇は比較的少ないが、中には好戦的な性格のポケモンがいる。
女の体調もあり、備えあれば憂いなしという言葉通り急がず進むことにした。



◇◇◇◇◇◇◇



最悪だ。
女は熱い息を吐きながらそう愚痴る。
ワイルドエリアを順調に進んでいたはずだった。
ポケモンを避けていたし、時々襲ってくるポケモンはガオガエン達が倒してくれたし、面倒くさい相手には一応用心として購入したピッピ人形で対応した。
しかし、油断してしまい気配を消したポケモンに襲われてしまった。
その際に女は少女を庇って背中を打ってしまい、更に運の悪いことに天候が雨に変わり体が濡れて体力を奪われてしまう。


(ど、どこか雨宿りできるところを探さなきゃ…!)


運の悪さは悪化しているようで、雨は土砂降りだった。
大粒の雨が強く体に落ちていく。
雨だから水が弱点のガオガエンはボールに戻し、ヌオーを代わりに出す。
背中に水滴が流れるたびに傷に触れ、まだ傷が塞ぎ切っていないためその度に沁みて痛みがぶり返す。
痛みと体を冷やした事への熱も強くなり、女は少女の手を引きながらも意識はもうろうとしていくのを感じ、焦りばかりが強くなる。


「ピカピカ!」


前も見えないほど土砂降りだった雨でも、救いはあった。
前を走っていたポケモンがどこかを指さした。
その指さした場所へ目を凝らしてみると、一つのテントが張られていた。
一瞬、迷う。
女は世界的に見ても犯罪は犯してはいないものの、男達に追われる身だ。
人のいる場所を避けて進んでいた手前、テントを張った人間に助けを求めてもいいのだろうかと迷った。
しかし、少女と繋いでいる手が熱く感じて女は我に返る。


(何を迷う必要がある!!アキ様の事を思えば多少のリスクがあっても安全な方を選ぶべきだわ!)


迷っていたことを恥じた。
まだ少女は意識もはっきりせず、暇さえあれば体は睡眠を欲している。
普通の人間でさえ雨風に晒されれば病気になるのだ。
か弱い少女の体をこれ以上雨の中に晒すことは出来ない。
女は少女の手をぎゅっと握りしめ、そのテントの元へと急いで駆け寄った。


「すみません!道に迷っていたら雨に降られてしまって自分の帰るテントが見つからなくて…!あの…雨が止むまで雨宿りしてもいいですか!?」


テントの前に立つと、テントは何の変哲もない普通の明るい色をしたテントだった。
しかし、どこかおかしいと女は思う。
そう思いながらも、下手をすれば自分の命さえも危うい状態なため、変な人でないことを祈りながらテント越しに声をかける。
土砂降りの大きな音にかき消されないように声を上げてお願いをするも、帰ってくる声はない。
もう一度声をかけても、人が動く気配すらない。


「すみません!!勝手に入らせていただきます!!」


不躾だと分かっているが、ワイルドエリアに雨宿りする場所は少ない。
こんな土砂降りでは木を雨宿りにするのも無意味だろう。
迷惑をかけてしまっていることは分かっているが、このままでは二人とも病気にかかってしまう。
少女が病気になったら病院に駆け込む覚悟はあるものの、できるだけ公共機関は避けたい。
嫌な顔、嫌味を覚悟して返事がないテントの中に入る。


「空…」


中に入るとテントには誰もいなかった。
テントを処分するためにここに捨てたのか、それともテントの持ち主に何かあって帰ってこれなかったか。
分からないが、どっちにしろこのテントを放棄して時間が経っているところを見るとテントの持ち主が帰ってくることはないだろう。


「…すみません…雨宿りに少し貸してください」


持ち主が放棄したにせよ、帰ってこれなくなったにせよ、人の物には変わらない。
一言断りを入れて利用させてもらうことにした。
幸い放棄されたに関わず穴は空いていなかった。
寝袋やキャンプに必要な物も置いてあった。
流石にガス缶は切れて捨てられていたが、火はガオガエンがいるから心配はないだろう。
少女と自分の着替えを終えた後に少女を中央に寝かせる。
誰かのお古…それも放棄されたテントに入っていた寝袋を少女に使わせるわけもいかず、その寝袋は自分が使うことにして、少女には街で買った新しい寝袋を使ってもらうことにした。
極端な天気ではないが、それでも夜や朝は冷える。
ガオガエンとポケモンに炎タイプに変化してもらい、テントの中の温度を上げる。
少女はすぐに眠りについた。
ここ最近眠る時間も短くなってきているので、順調に薬が抜けてきていると女は安堵していた。
くうくうと眠る少女の横顔を女は横になりながら見つめる。
少女の傍には『ほのおのからだ』を持つヒトモシに変化したポケモンが寄り添っていた。
ガオガエンとヒトモシのお蔭でテントの中は暖かい。
そのせいか、女もうとうとと睡魔に襲われ、抵抗もむなしく眠りについた。

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